21/22シーズンの戦い方はこうだ!! プレミアBIG6戦術ガイド 〜アーセナル編〜
アーセナルの現状
開幕3試合で全敗の無得点でPL最下位と最悪のスタートを切ってしまい、一時はアルテタ解任報道までも出ていたが、その後は負傷離脱した選手たちの復帰と200億以上投じた補強によって公式戦10試合無敗を継続し、現在PL5位と徐々に順位を上げてきている。
アーセナルのスタイル
アーセナルは、アルテタ就任当初プレッシングなど守備を整備し、素早いトランジションからのカウンターをベースとしていたが、その後様々な試行錯誤を繰り返して選手の特性を活かした適材適所の組み合わせによる最適解のシステムと可変した配置を見出し、配置的優位性を保ちながらボールを保持できるようになっている。
このように、準備力が高いアルテタが相手に応じて対策したプレッシングをデザインすることで、インテリジェンスと献身性が高い選手たちのハイプレスとその後のトランジションでボールを奪い、可変して整理された配置のもとでボールを保持することを武器とするチームである。
攻撃
3バック : 冨安が内側に入って3バック
→ 3バックが縦へのくさびを狙いつつ、逆サイドのWGへのロングパスとドリブルでの持ち運びで状況を打開する
2センター
→ 相手FWラインの背後でパスコースの角度を増やし、ボールを引き出す
トップ下 : 右に流れてライン間を取る
→ 降りてライン間でボールを引き出しつつ、狭いスペースでコンビネーションする
WG
(左) → 内側に入ってライン間でボールを引き出しつつ、狭いスペースでコンビネーションする
(右) → 幅を取ってドリブル突破 or ダイアゴナルに走って深さを作る
CF
→ ゴールゲッターとしての役割だけでなく、降りたり流れたりしてビルドアップをサポートしたり、背後へのランニングで深さを作ったりする
守備
FW(2トップ) : トップ下が前に出てボールホルダーへ前から積極的に圧力 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消し、中を切りながら奪いに行く → サイドへ誘導
FW(WG) : 内側に絞って中を切りながら圧力(ゾーン)
→ 中央のスペースを消しながら奪いに行く → サイドへ誘導 → スライドしてボールサイドへ圧縮
MF(2センター) : 相手中盤選手を牽制(ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消す → スライドしてボールサイドに圧縮
DF(4バック) :それぞれ相手前線選手に付く (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 縦横に出て行くとそれに応じてスライド
ビルドアップ / 3-2-4-1 or 4-2-3-1
・3-2-4-1
基本的にはRSB冨安が低い位置を取って3バックを形成し、LSBティアニーとRWGサカが幅、LWGスミス ロウとOMFウーデゴール(又はラカゼット)がライン間を取る左肩上がりの配置となり、選手がそれぞれ各エリアに整理された陣形のもとで、3バックと2センターで安定して組み立てるスタイルである。
このようにしてボールを繋ぐときに重要な役割を果たすのが、ライン間にポジショニングするスミス ロウとラカゼットである。
若くてポテンシャルの高い選手が揃うが、個人の能力で質的優位を作れるような選手が他の上位チームと比べると少ないアーセナルにおいて、彼らのライン間で絶妙な動きやポジショニングでボール引き出すプレーにより、アーセナルの攻撃を活性化させる。(シャドーのような役割)
二人ともライン間でボールを受けても、フリックやワンツー、レイオフなどダイレクトプレーを用いたワンタッチのコンビネーションで狭いスペースを掻い潜ることに非常に長けているだけでなく、スミス ロウはそこから反転して相手と入れ替わると一気にギアを上げたドリブルでゴールに迫るようなプレー、ラカゼットはキープして時間を作ったりフリーの味方に落としたりするようなポストプレーも得意である。このようなプレーができることで相手から捕まらないため、内側を使ったテンポの良い攻撃を可能にしている。
中を締めるような相手の守備などでは、幅を取る両サイドの選手(ティアニー、サカ)が敢えて高い位置を取り、相手SBをピン留め。ピン留めした手前のスペースに彼らが流れることで外回りでボールを前進させるなど、状況に応じた判断も優れている。
また、パス精度だけでなく、ドリブルの持ち運びにも定評がある両CB(特にホワイト)が、相手FWの脇のスペースや2センターが広がることでできた中央のスペースを持ち運ぶことで、相手陣形を狭めさせて幅を使ったり、そのまま相手ブロックのゲートを越えたりしてボールを前進させることもある。
・4-2-3-1
時折、可変せずにWGが幅、トップ下がライン間を取るそのままの配置となることもある。
4バックと2センターで組み立てるが、SBとWGが縦関係になっていたり、2CBと2センターがスクエアの形になっていたりとビルドアップの配置的には良くない陣形である。
ただ、パス精度の高い両CBから巧みなポジショニングを取るスミス ロウへのくさびのパスや、外回りのパス回しのなかでのWGのドリブル突破など瞬間的なプレーでボールを前進させることもある。
また、相手がサイドに人を置かずに中を締めているときは、両SBとも内側に入って偽SBのような役割を行うこともある。
内側に入ったSBが相手FWの脇のスペースをドリブルで持ち運ぶことで、相手1stラインを突破することができ、そこから内外両方に角度がついたパスや更に内側への持ち上がり(推進力のあるタバレス)によってボールを前進させる。
このときにボールサイドに圧縮されると、SBからSBへミドルパスで展開してそのまま相手陣内深くまで持ち運ぶことも。
・ハイプレスを採用する相手の場合(GKを含めた組み立て)
ラムズデールを含めた3バックを形成することで、GKを使って数的優位を作り、2センターを経由しながら冷静にボールを繋ぐ。
WGもサイドに張ることで相手SBをピン留めし、トップ下やSBをフリーにさせる。パス精度の高い3バック(特にラムズデール)はここで浮いたトップ下やSBに正確なミドルパスを送るだけでなく、瞬間的に降りたCFやハイラインの裏を狙って走ったWGへもロングフィードを送ることができる。
相手が更に前がかりになれば自陣に引き込んで前線と後方を分断させ、疑似カウンターで一気に相手ゴールまで迫ることも可能である。
・例外
LSBを含めたかたち(ティアニー、タバレス)や中盤が落ちたかたち(ロコンガ、ジャカ)で3バックを形成する場合、RSB冨安が内側に入って偽SBの役割を行うこともある。
偽SBとしてはまだ足元の技術に不安があるものの、相手FWライン背後でボールを引き出して前へボールを繋いだり、そのまま内側のスペースを走ってボールを受けたりするなど器用にポジショニングすることで、右サイドの3枚のポジションチェンジから相手陣形を崩す起点となることも。
ウーデゴールやロコンガのように降りてきすぎてしまう選手が多いと、中盤が空洞化してライン間に選手がいなくなるため、ボールは保持しているものの外回りのポゼッションとなり、上手くボールを前進させてチャンスを作ることが難しくなってしまう。
フィニッシュワーク / 3-2-4-1 or 2-2-5-1
アーセナルのフィニッシュワークは、幅とライン間にそれぞれ選手を配置した整理された陣形を基盤にそこからワンタッチのコンビネーションを用いた瞬間的な連携で崩すスタイルである。
基本的には、ビルドアップ時同様にチームの配置やスタイルは変わらないが、両サイドともに幅とライン間を取る選手にプラスして後ろでサポートする選手の3枚でトライアングルを組むようなかたちとなる。
アーセナルは、内からの崩しも外からの崩しもそれぞれ得意のパターンを持っている。
内からの崩しにについては、フィニッシュワーク時もライン間にポジショニングするスミス ロウとラカゼットが起点となる。フリックやワンツー、レイオフなどダイレクトプレーを用いたワンタッチのコンビネーションを使うことで、相手ブロックを間から崩してゴールへ迫る。
外からの崩しでは、左サイドは突破力が高くて相手DFを剥がすことに長けているティアニーとスミス ロウの連携とドリブルで、右サイドはカットインも縦突破もできるサカとそれを内外走り分けてサポートする冨安と絶妙なポジショニングを取るラカゼットの連携でチャンスを作り出す。
また、パス精度に長けた3バックが、幅を取る選手(ティアニー、サカ)への大きな展開や瞬間的な駆け引きから相手DFの裏を取る動き出しに合わせたロングパスなどで局面を変え、チャンスを作り出す。(ビルドアップ時同様に、WGが内側に入ることでピン留めした相手SBを引っ張り、スミス ロウやラカゼットが流れてボールを引き出すことも)
このようにしてサイドを攻略し、クロスを上げる。
クロスに対して、SBもボックス内まで入って4枚或いは5枚と中の枚数に人数をかけ、尚且つCFオーバメヤンがファーサイドに流れて空いたスペースにスミス ロウやラカゼットが後ろから走り込むなどボックス内の動きに変化をつけることで、相手守備を混乱させてゴールへ迫る。
また、前述したようにフィニッシュワークではなく、瞬間的な崩しからの得点も多い。
GKから繋いで相手を引き込み、ビルドアップの流れからそのまま一気にシュートまで持ち込む疑似カウンターやボール奪取した後のトランジションの早さを活かしたショートカウンター、くさびのパスを差し込んでそこからのコンビネーションによる瞬間的な崩しのほか、リーグ最多得点を誇るセットプレーでゴールをこじ開けることもできる。
プレッシング / 4-4-2ベース
アーセナルのプレッシングは、ハイプレスであり、相手のビルドアップ陣形やその時の状況に合わせてスライドして可変させるためプレスの種類を多く持ち合わせているが、基本的に完全に人を捕まえずに中を締めたゾーンで対応し、各選手が2人で相手3人若しくは3人で相手4人を見る4-4-2ベースからボールの移動によって全体がスライドして圧力をかけ続けるスタイルである。
トップ下が前に出てCFと2トップを組むかたちとなる。この2トップは牽制する程度のアリバイ守備をするのではなく、ボールホルダーに向かって全速力でスプリントしてボールを奪いに行き、回避されてもプレスバックや二度追い、三度追いをするなど非常に献身的でハードワークすることを怠らない。
中盤4枚は基本的に完全に人を捕まえずに中を締めたゾーンで対応し、ボールの移動によってスライドできるように各選手が2人で相手3人若しくは3人で相手4人を見るかたちとなる。
DF4枚もSBの縦スライドとそれに応じて横スライドするスライド3バックや降りていく相手CFにも付いて行き自由にさせないような対応など積極的な前がかりの守備を行う。
このような超ハイプレスでボールをサイドに誘導し、全体がスライドしてボールサイドに圧縮することでボールを奪う方式が徹底されている。
また、このプレッシングを終始続けることは困難であるため、試合状況や時間帯などによってリトリートしてブロックを組む。
・相手GKまで圧力をかけるプレス
GKを含めたビルドアップに対するプレッシングは主に二通りある。
WGとDHの2人で相手2枚を見つつ、2トップがカバーシャドーで相手中盤選手を消しながらボールホルダーへプレスをかけて、ボールをサイドへ誘導。
その間に中盤がスライドしてそれぞれが近くの相手選手を捕まえてボールサイドに圧縮し、2トップの一角が内側を消しながらボールホルダーにスプリントしてプレスをかける。(この場合は逆サイドのWGがかなり内側まで絞って相手中盤を牽制し、ボールサイドのWGとDHがそれぞれ相手SBと相手中盤を捕まえるかたちとなる)
CFとトップ下が縦関係となることでトップ下が相手ACをマンツーマンで捕まえ、CFがどちらかコースに限定(主に右サイドを消して左サイドへ誘導)するようなスプリントを行って、ボールをサイドへ誘導。
その間に中盤がスライドしてそれぞれが近くの相手選手を捕まえ、LWG(サカ)が相手SBへのパスコースを消しながらボールホルダーへプレスをかける。
ビルドアップ能力が高い相手の場合はGKを使ってWG(サカ)の頭越しのパスで相手SB(左)へボールを送られた場合は、ボールの移動中にSB(冨安)がジャンプして出て行ってプレスをハメる。このとき逆サイドのWGが絞って中央のスペースを埋め、後ろはスライド3バックを形成してカバー、ボールサイドのWG(サカ)がプレスバックしてボールホルダーを囲い込む、といったようにアーセナルの守備原則である全体のスライドを徹底してボールサイドに圧縮する。
・4-4-2 → 4-4-2、3-1-4-2、4-1-4-1など
相手SBを含む3バックの場合はそのサイドのWG(相手CHを含む3バックの場合はDH)が見つつ出て行くようなシステム上マッチアップする相手を意識した4-4-2のかたち。
CF若しくはOMFがボールホルダーへスプリントしてプレスをかけて、ボールサイドへ誘導。
これをスイッチに中盤(更にはDF)がスライドしてそれぞれの選手がマンツーマンとカバーシャドーを使い分けて近くの相手選手を捕まえてボールサイドに圧縮し、状況に応じて2トップ若しくはWGがボールホルダーへプレスをかける。
フィードやロングパスなど飛ばしのパスで局面を展開された場合は、後ろがスライド3バックになってSBがジャンプするパターンとWGがプレスバックするパターンを臨機応変に使い分けて対応する。
・4-4-2 → 4-3-3
中を締めてよりゾーンを意識した4-4-2のかたち。
2トップがカバーシャドーで相手中盤選手を消しながらボールホルダーに近い方の一枚がプレスをかけて、ボールをサイドへ誘導。
ボールがサイドへ送られると、その間に中盤がスライド(特に逆サイドWGが絞って中盤化)してそれぞれが近くの相手選手を捕まえてボールサイドに圧縮し、WGが中からアプローチをかけつつ、二度追いしてプレスバックするFWとボールホルダーを挟み込む。
・4-4-2 → 4-2-3-1
CFとトップ下が縦関係となり、両WGが前に出て行く4-4-2のかたち。
トップ下が相手ACをマンツーマンで捕まえ、相手3バックに対して3トップと同数でハメるプレスをかける。
その間に中盤がスライドしてそれぞれが近くの相手選手を捕まえ、WGがボールホルダーに外切りのプレスをかける。
ブロック / 4-4-2
アーセナルのブロックの陣形は、トップ下が前に出て2トップとなる4-4-2である。
プレッシング時同様に、中を締めるスタイルだが、基本的に2トップは前に出て行ってボールホルダーに対して献身的なプレスをかけずに相手中盤選手を消し、その分(2トップに連動して縦スライドする必要がないため)2センターが低い位置にポジションを取るかたちとなる。
SBが出ていかずにWGが戻るパターンやSBが出て行ってWGが内側をケアするパターン、SBが出て行くがWGも戻り中盤全体が横スライドすることでDHが最終ラインに入るパターン、SBが出て行きそれに連動してDFラインが横スライドしトップ下が縦スライドすることでDHが最終ラインに入るパターンなど、状況に応じてこれらを使い分ける。
また、降りる相手FWに対してはCB(基本的にマガリャンイス)が出て行って自由にさせないことも多いが、その分の空いたスペースをSBやDHがスライドしてカバーすることでスペースを消し、ゴールを守る。
また、リードしている状況などでは、どちらかのWGが下がって最終ラインに入り、ハードワークできるOMF(ウーデゴール、ラカゼット、スミス ロウ)が2トップと中盤を兼任するような5-4-1のブロックを組むこともある。
アーセナルの特徴
ストロングポイント
- ハードワークを厭わないハイプレス
→ 前線の選手のプレスバックだけでなく、二度追い、三度追いできる2トップや最終ラインをケアする縦スライドや中盤をケアする横スライドもこなせる両WGなどの献身性(特にウーデゴールと直近のオーバメヤンは常にフルスプリントでプレスをかけ続けることが可能)とデザインされた連動性を兼ね備えたプレッシングを行う
→ 準備力が高いアルテタがそのときの相手チームに応じて対策したプレッシングを行う
- コンビネーションなど瞬間的な連携による崩し
→ 前述の[フィニッシュワーク]に記載されている通り
- フレキシブルで多くの役割を果たせる選手が豊富
→ サイドで幅を取った状態からドリブルで仕掛けたり、ライン間でボールを引き出してコンビネーションできるサカとスミス ロウは勿論のこと、内外走り分けられるティアニー、タバレス、冨安、ナイルズのようなSBも多い
- 攻守におけるセットプレー
→ アルテタ就任以降アーセナルはセットプレーに力を入れており、昨シーズンにユベントスやアトレティコ、ブレントフォードから専門コーチを招聘し、今シーズンはシティからもコーチが加わったことで、6得点(リーグ1位)2失点(リーグ4位)とセットプレーで強さを発揮している
ウィークポイント
- ハードワークを厭わないハイプレス
→ 運動力が高く守備貢献できる選手が揃っているとはいえ、フルタイムでスプリントしてプレスをかけ続けることは不可能であるため、リトリートしてブロックを組むこともある
→ 超前がかりのプレッシングのため、連動の遅れや対人守備のところで瞬間的に剥がされると一気にピンチになることもある(トーマスやジャカと比べると、ロコンガは2センターからの縦スライドの連動ができていないシーンも見受けられる)
- フレキシブルで多くの役割を果たせる選手が豊富
→ サカのようにどの役割も高いレベルでこなせる選手が最適解の起用をされない(サカがRWG起用でワイドでプレーすることはスカッド上他の選択肢を考えずらいが、本来彼は幅を取る役割よりもライン間でのプレーが最適解であるはず)
→ インテリジェンスと献身性が高い選手たちが揃う一方で、圧倒的な個の能力で打開できる選手やフィジカル的に優れたアスリート能力の選手など個人で質的優位性を作れる選手が少ない(特にホワイトやホールディングは身体的な能力のところで剥がされてしまうことも多い)
課題
- 試合中におけるアルテタの修正力と守備を重視した試合運び
→ 前半に得点し、後半に失点するように相手のペースに合わせてしまう試合が多い(前述の[ウィークポイント]に記載したように、体力的な部分を含めリトリートして主導権を手放してしまうこともありがちである)
→ やや抽象的になってしまうが、選手交代や攻撃時の配置変更など試合途中で中々上手く修正できない
→ ポゼッションスタイルを確立しつつあるようにみえるが、格下相手にボールを保持され続けるような展開もしばしば見受けられる(意外にもポゼッション率は半数以下の47%でリーグ14位)
- 各選手のコンビネーションなど瞬間的な連携による崩し
→ フリックやワンツー、レイオフなどダイレクトプレーを用いたワンタッチのコンビネーションは見事であるが、選手のパフォーマンスや相手の守備完成度によって左右されてしまうこともある
- アルテタの攻撃プラン
→ 試行錯誤の末にビルドアップでも配置的優位性を作れるようになったものの、時折、細かな立ち位置によってパスコースが無くなってしまったり、前述の[ビルドアップ]で記載したように降りてくる選手が多すぎて陣形のバランスが崩れてしまったりすることもある
→ 直近の試合では改善されているものの、選手の組み合わせとそれに伴った役割が適材適所ではなくなってしまうことがある(ベジェリン - ライン間 : ウィリアン - 幅、チェンバース - 幅 : ぺぺ - ライン間、ティアニー - 幅 : ぺぺ - 幅 などSBとWGの関係性が悪いときも)
※ PLのデータ(11/11の時点)
まとめ
ポンテシャルの高い若い選手たち(リーグ最年少の平均年齢24才)と監督でトライアンドエラーを繰り返しながら少しずつ進化しているアーセナルは、ここに来てようやく結果も伴うようになってきている。
攻撃プランや試合運びなどまだまだ課題はあるものの、新戦力の加入に付随した配置的優位性を活かしたビルドアップや相手チームに応じて対策したプレッシングなど大きな武器も備わりつつあるアーセナル。
課題を克服して5年ぶりにCLの舞台に返り咲くことができるのか、それとも昨シーズン同様に一年通してチームのパフォーマンスが安定せず26年ぶりに不出場となった欧州の大会に今シーズンも参加することができなくなってしまうのか、今後のアーセナルに注目である。
2021/11/11
21/22シーズンの戦い方はこうだ!! プレミアBIG6戦術ガイド 〜リヴァプール編〜
リヴァプールの現状
CLはグループステージ三連勝、PLは唯一無敗継続で21/22シーズン公式戦全13試合中10勝3分と強さを取り戻したリヴァプールは、1試合平均得点3点と圧倒的な攻撃力を強みに、好調のスタートを切っている。
リヴァプールのスタイル
リヴァプールは、攻守においてトランジションに重きをおき、運動量をベースとしたインテンシティの高いプレッシングとダイナミックな攻撃をベースにしつつ、プラスアルファで昨シーズンの試行錯誤を経てポジショナルプレーを導入してボールを保持することにも取り組み始めている。
このように、高いアスリートスキルや卓越した技術など個の能力で打開できる質的優位性に加えて、攻撃時は可変をして配置的優位性も伴うようになり、破壊力抜群の攻撃と連動性の高い守備の局面のリンクを武器とするチームである。
※昨季のリヴァプール
不調のリバプールは今後どうなる!? 〜直近の試合を戦術的に考察してみた〜
攻撃
- 3バック : アーノルドが内側に入って3バック
→ 足元の技術とパス精度が高い3バックが縦へのくさびを狙いつつ、逆サイドのWGへのロングパスとドリブルでの持ち運びで状況を打開する
- 1アンカー
→ 相手FWラインの背後でパスコースの角度を増やし、ボールを引き出す
- IH : 前に出てライン間を取る
→ ライン間でボールを引き出しつつ、内外走り分けてサポートする
- WG
(左) → 内側に入ってライン間でボールを引き出す or ダイアゴナルに走って深さを作る
(右) → 幅を取ってドリブル突破 or ダイアゴナルに走って深さを作る
- CF : フォルス9
→ 降りてビルドアップをサポートする
守備
- FW(3トップ) : SBを意識しつつもボールホルダーへ前から積極的に圧力 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消しつつ、外を切りながら奪いに行く
- MF(3センター) : 相手中盤選手を牽制 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消す → スライドしてボールサイドに圧縮
- DF(4バック) : スライド3バック (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ SBがジャンプして前に出て行く(縦スライド) → 逆サイドが絞って3バック化(横スライド)
ビルドアップ / 3-1-5-1 or 4-1-2-3
リヴァプールのビルドアップの陣形は、起用された選手や相手チーム、試合状況によって変わるが、主にニ通りある。
恐らくボールを繋ぐ細かな原則は無いのだろうが、個人個人の圧倒的なクオリティーの高さでそれを感じさせないような組み立てを行う。
特にそれを象徴しているのが、絶妙に偽9番の役割をこなすCFフィルミーノと足元の技術やパス精度などビルドアップ能力の高さを兼ね備えるCBファン ダイク、マティプのコンビであり、可変せずに配置的優位性を作らないとも質的優位性でボールを前進させることを可能とさせている。
CFフィルミーノがフォルス9の動きで中盤まで下がったり、ライン間にポジショニングしたりと低い位置に降りてきてボールを引き出すことによって、ボールを前進させることができる。
卓越した足元の技術力と冷静な判断力を兼ね備えたファン ダイクとマティプが相手FWライン脇のスペースを中心にドリブルで持ち運ぶことで、相手陣形を狭めさせて幅を使ったり、そのまま相手ブロックのゲートを越えたりしてボールを前進させることができる。
更には、サイドチェンジのフィードやライン間への縦パス、相手DF裏へのロングボールなど多彩且つ高精度でパスを送れ、前線にいる選手の動きを見逃さない視野の広さも兼ね備えているDF陣が正確な対角のサイド to サイドのボールを使う。このようにして、相手陣形を広げさせてライン間を使ったり、敢えてアイソレイトさせた幅を取る選手の突破力を活かしたりして、組み立てだけでなく、バックラインからそのままゴールに迫ることもできる。
このような彼らの高い能力は0トップ戦術との補完性も抜群にさせる。
フィルミーノが降りることで深さを作る選手がいなくなってしまうが、この動きに対して相手CBが食いつくと、釣り出したスペースにWGがダイアゴナルに走り込んだり、IHが二列目から飛び出したりすることで一気にゴールへ向かうことができる。
このように、どのような陣形でも各選手の能力を軸としてビルドアップを行う。
・3-1-5-1 (状況に応じて3-2-4-1)
RSBアーノルドが低い位置を取って3バックを形成し、LSBロバートソンとRWGサラーが幅、LWGマネとRIHがライン間を取る左肩上がりの配置となり、ビルドアップ能力に長けた3バックがACを経由しながらパスを繋ぎ、ピッチの幅を広く使ったダイナミックな展開を用いてボールを前進させるスタイルである。(中央にポジショニングするLIHとフィルミーノが流れたり、降りたりして組み立てをサポート)
エリオットが負傷離脱する以前は3-1-5-1の陣形を中心としていたが、ヘンダーソンが右に回って左にチアゴやミルナー、ケイタ、ジョーンズが起用されるとLIH(特にチアゴ)が下がってACファビーニョと2センター化する整理された配置となり、3バックと2センターで安定して組み立ててボールを前進させることもある。
個人個人の圧倒的なクオリティーの高さを活かした質的優位性をベースにボールを前進させるリヴァプールだが、今シーズンからは質的優位性にプラスアルファしてこのように可変して配置的優位性も作ってビルドアップを行う。
そして、このとき核となるのは右サイドのトライアングルの回転である。
RSB、RIH、RWGで三角形を形成。流動性が高くそれぞれの配置のタスクをこなすことができる3枚が、連動してフレキシブルに入れ替わりながらトライアングルを回転させる攻撃を行う。
一方で、左サイドはLIHやCF(特にジョタ)が流れてサポートすることがあるものの、基本的にはより万能な技術を持つロバートソンとマネの2枚が、個の能力やポジショニング能力の高さを活かして瞬間的な攻撃を行う。
・4-1-2-3
可変せずにWGが幅、IHがライン間を取るCLやPLを制覇した一昨シーズン以前の配置で、CBのビルドアップ能力を活かして基本的に2バックの配球からボールを前進させる。
個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある両WG共に幅を取ることで、相手SBとの一対一で優位性を保つことが可能となる。
このとき、SBも幅を取るため相手のプレスの奪いどころとなってしまうが、右サイドは高いパス精度を武器とするアーノルドが3バック時のように少し内側に入り、幅とライン間の両方へパスコースの角度を作ることでプレスの奪いどころとさせず。一方で、左サイドのロバートソンは幅を取ることが多く、幅とライン間へのパスコースが無いこともあるが、中への推進力を持ったドリブルができることでプレスの奪いどころにさせない。
2CBを中心に組み立てるため、そこまで低い位置を取らないSBはオーバーラップとインナーラップを使い分けて積極的に攻撃参加し、サイド攻撃に厚みを持たせる。
高い位置を取るIHも同様で、ネガティブトランジション時に密集を作って囲い込むゲーゲンプレスの起点となるだけではなく、内外走り分けることでWGの突破をサポートする。
・ハイプレスを採用する相手の場合(GKを含めた組み立て)
アリソンを含めた3バックを形成し、彼らで11対10の状況を活かして冷静にパスを回す。(Accurate shot passes per gameにおいて、対象28選手中ケレハーが1位の34回、アリソンが5位の22.1回)
そして、正確なキック精度を持つ彼らがSBや瞬間的に降りたフィルミーノのなどフリーの選手へミドルパスを送ったり、アバウトにロングボールを送って得意なトランジションの局面を作り出しボールを回収したりしてプレスを回避する。
・例外 4-1-5
昨シーズンのように、IHが降りて3バック若しくは4バックを形成することで、両SBが前に出て高い位置で幅を取り、連動して両WGが内側に入る配置となるが、このような陣形が今シーズンもまれに見受けられる。(特にシーズン開幕直後の1節や2節で見受けられた)
※PL1節ノリッジ戦
https://twitter.com/sato_yu99/status/1426595438774259714?s=21
IH(特にジョーンズやケイタ)が常に降りると、中盤が空洞化してライン間に選手がいなくなるため、ボールは保持しているものの外回りのポゼッションとなり、上手くボールを前進させてチャンスを作ることが難しくなってしまう。
それでも得点力の高いマネとサラーがよりゴールに近いエリアでプレーすることで、瞬間的な個の能力から得点を取ることもできるが、段階的な崩しができないので得点を奪えずに勝ち点を落とすことも多くなってしまう。(これが恐らく昨シーズンの不調の最大の要因)
フィニッシュワーク / 3-2-4-1 or 3-1-5-1 or 2-2-5-1
リヴァプールのフィニッシュワークは、選手の個の能力を活かしつつ、幅を使ってダイナミックに崩すスタイルである。
また、トランジションが非常に早く、常にゴールから逆算したスタイルを用いている(ビルドアップとフィニッシュワーク、プレッシングとフィニッシュワーク、ブロックとフィニッシュワークが直結している)ので、フィニッシュワークのかたちやパターンを作る前に、一続きとなっている流れの中でゴールに迫る。
実際リヴァプールの得点内訳を見てみると、PL全27ゴール中、ショートとロング含めたカウンターから6点、クロスから9点、セットプレーの流れから6点と、段階的な崩しというよりもデザインされた中での瞬間的な崩しが多い。(他6点もサラーのスーパーな突破からのシュートやジョーンズのミドルシュートなど瞬間的な個の能力を活かしたゴールが多い)
基本的には、ビルドアップ時同様のチームの配置やスタイルは変わらないが、CF(特にフィルミーノ)が一列降りていた場合はヘンダーソンが高い位置を取って深さを作ったり、CF(特にジョタ)がサイドに流れていた場合はマネが1トップ気味となったりと流動的にポジションが入れ替わる。
2CBとACを中心に安定してボールを回しつつ、ロングパスで大きく展開して相手の陣形を揺さぶり、破壊力が高いサイド攻撃を活かす。(ドリブル突破からクロスやシュートができるロバートソンとサラーが幅を取る)
前述したように右のトライアングルの回転が強みであるリヴァプールは、右サイドのから攻撃(ピッチを縦に三分割したときの攻撃割合)がリーグトップの42%と、やはりこのかたちをフィニッシュワークの核としている。
まず前提として、個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある(オフザボール、オンザボール共に格別で、足元でも背後のスペースでもプレーできる)サラーが幅を取っていることで相手SBに対して常に質的優位性を作っている。
ただでさえサラーでの質的優位に加えて、相手MFライン背後にポジショニングしているヘンダーソン(エリオット)と後ろにポジショニングしているアーノルドがランニングすることで、更に攻撃に厚みを出すことができている。
特にヘンダーソンとエリオットはポジショニングと判断が非常に優れており、彼らが瞬時に内外を走り分けることで、ボールを引き出してクロスを上げるだけでなく、相手DFを引っ張りサラーのドリブルを活かしてゴールへ迫るような多彩な攻撃パターンを生み出す。
また、このときに絡むアーノルドからのクロスも言うまでもなくリヴァプールの強みの一つである。
速い弾道の低いクロスやピンポイントの浮き球のクロスなど様々な球種を使い分けることで、相手がブロックを整えていても防ぐことを困難にするが、特に効果的なクロスは低い位置からのアーリークロスである。単純にクロスの精度が高い上にパスを低い位置のアーノルドに戻すことで、相手DFとしては一回目線をずらされ、尚且つ後ろ向き(ゴール方向へ)の体勢となっている中で後ろから動きをつけて走り込んでこられるため、対応することがとても難しくなる。
実際、一試合辺りのクロス本数(Crosses per game)において、対象164選手中ロバートソンは34位の0.8本、アーノルドは2位の2.9本、ツィミカスは4位の2.2本、ミルナーは15位の1.5本とSBからのクロスも一つの攻撃のかたちとなっている。
相手を押し込んだ状態では、得点力も高い両WGのマネとサラーがクロスに備えて内側に入り、よりゴールに近いエリアでプレーすることもあり、状況に応じてSBロバートソンも大外まで入ってくる。このように、ボックス内の厚みと高精度のクロスが相乗することで得点の量産を可能にしている。
更には、奪ってからの素早いショートカウンターや、持ち前の運動量から一気に前に人が出ていくロングカウンターからゴールを奪うことも得意である。
後述の[プレッシング]に記載されているように、前線3枚がカバーシャドーを使った外切りのプレスをかける。これによって、ボール奪取したときに相手のマークよりも内側且つ前にいるポジショニングとなるので、より脅威となる直線的にゴールへ向かうカウンターを仕掛けることができる。
そのうえ、崩しきれなくてもリーグ最多得点を誇るセットプレーで最終的にゴールをこじ開けることができるのも強さの要因の一つである。(キッカー : アーノルド、ロバートソン、サラー、ヘンダーソン、ツィミカスなど ヘッダー : ファン ダイク、マティプ、フィルミーノ、マネ、ジョタ、コナテなど)
プレッシング / 4-1-2-3 (相手に応じて4-2-1-3) or 4-1-4-1
リヴァプールのプレッシングは、ハイプレスであり、相手のビルドアップ陣形や完成度、その時の状況に合わせて臨機応変に使い分ける。
・4-1-2-3 (相手に応じて4-2-3-1)
基本的に、3トップで相手DFにプレスをかけ、中央で低い位置を取る相手選手を捕まえる又はカバーシャドーで消すかたちだが、完全に人を捕まえるわけではなくボールの移動によってはスライドできるように各選手が2人で相手3人若しくは3人で相手4人を見るかたちとなる。
一見かなり難しいようにみえるが、各選手の素早いスライドが徹底されているので、FWライン、MFライン、DFラインそれぞれの縦スライドと横スライドを巧みに連動させることで、囲い込むことを可能にさせている。
このように、アスリート能力に優れた選手たちのトランジションの早さ、インテンシティの高さ、連動性の高さをベースに、中央やサイドに関係なく激しく連続したプレスをかけてボールを奪うのが、ゲーゲンプレスと言われるリヴァプールのスタイルである。
ビルドアップ能力が高い相手の場合はGKを使ってWGの頭越しのパスで相手SBへボールを送られてしまうこともあるが、ボールの移動中に全体がスライドして相手SBへプレスをかけつつ、近くの選手を捕まえてボールサイドへ圧縮する。(RWGサラーがスイッチとなるので右サイドからプレスをかけることが多い)
また、ボールホルダーに自由を与えずにアバウトに蹴らせて、素早いスライドとプレスバックで密集を作るように囲い込んだり、空中戦の強さを活かしたりしてボールを回収する。
GKを含めないビルドアップに対してもプレッシングのスタイルは変わらない。基本的に、WGが相手SBへのパスコースを、CFが相手中盤へのパスコースを消しながらボールホルダーへプレスをかける。(同様に右サイドからのプレスが多い)
このとき、最終ラインは非常に高く保って縦幅をコンパクトにすることで、囲い込むようなプレスをより行いやすくさせている。
・4-1-4-1
リードしている試合終盤など状況によっては、WGが二列目に下がって全体で中を締めるミドルプレスを採用することもある。
相手CBにはある程度ボールを持たせるが、CFを含めて中央のスペースを消すスタイルとなる。
このようにしてボールをサイドへ誘導。WGが中切りでプレスをかけ、それに連動して全体がスライドすることでボールを前進させず、機を見てボールを奪いにいく。
ブロック / 4-5-1
リヴァプールのブロックの陣形は、WGが下がってMFラインに入る(サラーが前残りしてカウンターに備えることもある)4-5-1である。
WGが下がって中央を封鎖した状態から全体がスライドしてボールサイドに圧縮するスタイルであるが、ハイラインの守備や各ラインの縦スライドと横スライドの連動など基本的にはプレッシング時の原則と同様である。
最終ラインのSBやCBも相手選手の動きに応じてサイドまで出て行き、その分をDFライン全体の横スライドとWGの献身的な縦スライド(基本的にマネやジョタのLWG)や中盤がCB化する縦スライドでカバーする。
また、かなり高いライン設定のためハイラインの裏のスペースを使われることも多いが、パワーとスピードを兼ね備えて対人守備にもカバーリング守備にも優れたファン ダイクとマティプを中心に上手くラインをコントロールしながら冷静に対処する。(Offside won per gameにおいて、対象104選手中マティプが1位の1.9回、ファンダイクが2位の1.4回)
また、守備範囲の広いGKアリソンがタイミング良く飛び出してハイラインの裏をカバーする場面も目立つ。
リヴァプールの特徴
ストロングポイント
- 各選手それぞれの個の能力の高さ
→ 各ポジション(特にCBとWG)に世界最高クラスの選手が揃っているので、各々で質的優位性を作ることができる
- デザインされた瞬間的な崩しとそれをより活かす配置
→ ファン ダイクとマティプからのロングパスを使った揺さぶりとドリブルでの持ち運びとビルドアップをサポートするフィルミーノのフォルス9の能力がベースとしてある
→ 可変することによって、突破力のあるサラーとロバートソンに幅を、アーリークロスなどキック精度が高いアーノルドに低い位置を取らせ、運動量の豊富なIHに内側を走らせたりクロスに対して中の枚数に厚みを持たせたりさせるなど、適材適所の配置と役割を与える
→ 右のトライアングルの回転や外切りのプレッシングなどの型を上手く機能させるため、連動性が徹底的に落とし込まれている
- 圧倒的な攻撃力とボール回収力
→ 可変して整理された配置のもとボール保持をしながら公式戦全13試合で41ゴールと圧倒的な得点力を武器にゴールへ迫り、ボールをロストするとゲーゲンプレスで再びボールを回収することでゲームを支配する
(Shot per gameはリーグトップで脅威の20.6本、個人でもサラーが1位でマネが4位、また一試合辺りの平均ポゼッション率も61%で2位となっている)
- 右サイドのトライアングルの回転による崩し
→ 前述の[フィニッシュワーク]に記載されている通り
ウィークポイント
- ハイライン守備のケア
→ 一般的なチームであれば不可能に近い超前がかりでハイラインの守備の構造をファン ダイクとマティプによって可能していたが、長期離脱からの復帰ということもあって完全な調子まで戻っておらず、時折、広大なスペースを使われたカウンターからピンチとなる場面がある
- アーノルドの守備対応
→ 相手選手との一対一や空中戦などの対人守備となる状況だと質的優位性を作られてしまう(スライドの連動や絞ってCBの背中をカバーする守備は徐々に向上している)
- 左サイドからの崩し
→ 配置上、ロバートソンとマネのみの関係となることが多くなってしまい、左サイドからの攻撃(ピッチを縦に三分割したときの攻撃割合)がリーグワーストの31%となってしまっている(それでも個の能力が高い2人を中心に瞬間的な崩しでチャンスを作ることも)
課題
- スカッドの中におけるクオリティの違い
→ 各ポジション常時1stチョイスの選手の能力が高すぎるがゆえに変わりの選手とはどうしても違いが出てしまう(特にローテーションが頻繁である中盤において、ライン間でのポジショニングやそこから内外の走り分けとそのタイミングなどIHでヘンダーソンとエリオットのクオリティを出せる選手がいない、また同様にACでファビーニョのバックアッパーもいない)
- 終始押し込める状況のときの最適解から離れた配置
→ 相手チームが完全にリトリートしてブロックを組み、リヴァプールが終始オフェンシブサードでボールを保持できる場合などでは、IHが降りて3バックを形成し、立ち位置が無くなったアーノルドが幅を取り、連動してサラーが常に中央にポジショニングするようなるなど適材適所ではなくなり、攻めあぐねてしまう (ヘンダーソンが幅を取ったり、ファビーニョが前に出て行ったりと、賢い2人がチーム全体の配置を考えたポジショニングをして、割りを食うことに)
※PLのデータ(10/26の時点)
まとめ
昨シーズンの不調から一転して、今シーズンは公式戦未だ負け無しと再びらしい強さが戻ってきたリヴァプール。このような復調を実現させたのは、主力CB陣の負傷からの復活、主力選手のコンディションの回復、アンフィールドへのサポーターの返り咲きなど様々な要因が重なったからであるが、なんと言っても最大の要因は、高いアスリートスキルや卓越した技術など個の能力で打開できる質的優位性をベースとしたスタイルに、ポゼッションとポジショナルプレーも導入して配置的優位性を取り入れ、それらの融合に成功したことであろう。
一方で、技術だけでなくRIHとして抜群のポジショニングと判断を持ち味としてリヴァプールの攻撃に変化をもたらしたエリオットの長期離脱だけでなく、ファビーニョ、チアゴ、ミルナー、ケイタと多くの負傷者が出てしまっており、中盤のスカッドが危機的状態となってしまっている。
18/19シーズンに勝るとも劣らない新生リヴァプールがCL、PLを含めた三連覇を狙って順調に勝ち進めていくのか、それとも昨シーズンのように負傷者に悩まされしまい低迷してしまうのか、今後のリヴァプールに注目である。
10/25
21/22シーズンの戦い方はこうだ!! プレミアBIG6戦術ガイド 〜シティ編〜
シティの現状
コミュニティーシールド決勝から新たなビルドアップ(2-3-2-3システム)を取り入れたことやエースデ ブライネの離脱もあってチームとしての完成度が不安定だったものの、徐々に全体のパフォーマンスが向上し、PL3位まで浮上している。
シティのスタイル
シティは、圧倒的なポゼッションを軸としているため、守備は素早いトランジションをベースとしたハイプレスでボールを奪取してなるべくボールを保持し、攻撃ではそのときの陣形に関わらず、攻守において洗礼された原則や戦術、配置を下にそれを実行できるポリバレントな選手たちが状況に応じて流動的に入れ替わりながらゴールへ迫るチームである。
攻撃
- 2バック
→ 足元の技術とパス精度が高いCBのため、2枚でも可能
→ 常に縦へのくさびのパスを狙いつつ、パスコースが繋がっている同サイドのWGへのショートパスや、逆サイドのWGへのロングパスで状況を展開する
- 1アンカー
→ 相手FWラインの背後でこまめにポジションを調整してボールを引き出したり、前に出てレイオフを貰いに行ったりする
- SB : 内側に入ってアンカー脇にポジショニング
→ 内側に入ることでWGを孤立、CBからWGへのパスコースを作る
→ 内側でパスコースの角度を増やし、ボールを引き出す
- IH : 前に出てライン間を取る
→ ライン間でボールを引き出す
→ 相手CB、SB間へランニングしてポケットへ侵入する
→ 降りてビルドアップサポートする
- WG : 高い位置で幅を取る
→ ドリブル突破 or 相手SBをピン留めする
- CF : フォルス9
→ 降りてビルドアップをサポートする
守備
- FW (2トップ) : カバーシャドーで背後の相手選手を消しつつ、ボールホルダーへ圧力(ゾーン)
→ 中央のスペースを消しながら奪いに行く → サイドへ誘導
- FW(WG) : 内側に絞って中を切りながら圧力(ゾーン)
→ 中央のスペースを消しながら奪いに行く → サイドへ誘導 → スライドしてボールサイドへ圧縮
- MF(2センター) : 相手中盤選手を牽制 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消す → スライドしてボールサイドに圧縮
- DF(4バック) : それぞれ相手前線選手に付く (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 縦横に出て行くとそれに応じてスライド
ビルドアップ / 2-3-2-3 or 4-1-2-3 or 3-2-4-1
シティのビルドアップの陣形は、起用された選手や相手チーム、試合状況によって変わるが、主に三通りある。
どの陣形でも突破力のあるWGが幅を取って、内側のスペースを使うことに長けたIHがライン間を取る配置となり、全員が瞬間的に顔を出すことで常にパスコースを作りつつ、幅も使ってボールを回しながら瞬間的に空く内側のスペースに差し込んでボールを前進させるスタイルである。
グアルディオラは、昨シーズンの3-2-4-1の陣形ではなく、今シーズンから挑戦している2-3-2-3の陣形を主軸にしていきたいよう。
一見すると3-2-4-1と2-3-2-3では全く別のスタイルに見えるが、双方ともにビルドアップにおける戦術の原理は同じでSBが内側に入ることによるパスコースの選択肢の増加と幅を取るWGの孤立が狙いである。
・2-3-2-3
そこで新たな戦術として取り入れられたのが3-2-4-1よりも攻撃力が上がる2-3-2-3のシステムである。
2CBと両SB含めた3センターで組み立てて、WGが幅、IHがライン間を取る配置となる。
基本的にこの陣形が主軸になっている。基本スタイルは上記の通り。ビルドアップにおける戦術の原理を残しつつ、両SBが一列前に入ることでより攻撃的となることが特徴である。
相手WG(SH)が出てこずにカバーシャドーでIHを消している場合、SBはほぼ自由に余裕を持ってボールを保持できるので、状況に応じた最適な選択をする。
瞬間的に出てきてライン間でボールを引き出すことに長けている前線の選手たちが不規則に顔を出したところへ縦パスを差し込んだり(勿論、外のWGを使ったり)、SBが自ら持ち運んだりしてボールを前進させる。また、内→外→内でのパスやレイオフを使って相手のカバーシャドーを外し、前向きでボールを受けた選手から展開するかたちでプレス回避からチャンスへ繋げるパスワークも得意である。
相手WG(SH)が出てSBを捕まえにくる場合、SBを経由することは難しい(ワンタッチなら可)が、SBへの食いつきを活かした選択をする。
ボール近くの選手は捕まえられているため、CFがフォルス9の動きで降りて顔を出したところに縦パスを差し込んだり、WGで相手SBをピン留めした手前のスペースに流れたIHへパスを送ったりしてボールを前進させる。また、相手のボールサイドに圧縮する守備に対して大外のWGまで大きく展開したり、孤立させたWGが相手SBをドリブルで突破したりしてボールを前進させることも得意である。
・4-1-2-3
4バックとアンカーで組み立てて、WGが幅、IHがライン間を取る配置となる。
3トップのプレスをする相手に対して数的優位を作るために用いられることが多い。基本スタイルは上記の通り。可変しないことによってトランジション時に穴ができにくく守備のリスク管理もできることと、SBがサイドに開きすぎずにWGとIH両方へのパスコースの角度を作れる位置にポジショニングしていることが特徴である。
・3-2-4-1
3バックと2センターで組み立てて、WGが幅、IHがライン間を取る配置となる。
昨シーズン半ば以前は主軸だった陣形だが、今シーズンは流れの中で状況によって用いられることが多い。基本スタイルは状況の通り。各エリアにそれぞれ整理されて選手が配置され、3バックと2センターで安定して組み立てられることが特徴である。
・GK含めた3-1-4-3
エデルソンを含めた3バック又は4バックの配置となるが、基本的にはシティのビルドアップの原則のもと整理された配置でプレス回避し、ボールを前進させる。
足元の能力とパス精度が異常に優れているエデルソンが開いたSBへ相手WGの頭越しに蹴り分けるだけでなく、DF、MFを一気に省略して相手最終ラインの背後へ正確にパスを送り、疑似カウンターに繋げることも可能である。
また、GKまでプレスをかける相手に対しても11対10の状況を活かして冷静にパスを回すことで、瞬間的にフリーになった選手を使ってプレス回避し、ボールを前進させる。
なぜ2-3-2-3なのか? (3-2-4-1との違い)
※可変と偽サイドバックの原則
ポジショナルプレーという言葉に代表されるように現代フットボールにおいて、配置と選手の適性が非常に重要であるということは周知の事実だ。そこで攻撃時と守備時でシステムが変わる可変という戦術が生まれたのであり、この概念を世界中に広めたのがグアルディオラである。ここでは可変についての細かな説明は省略するが、現在では可変戦術が進化して3バックが徐々に浸透していっている。これは3バックにすることによって、4バック時によく見受けられるCBとCHやWGとSBが縦関係にならないのでパスコースの角度が無く、選択肢を少ないという現象と、SBが低い位置で幅を取るのでプレー選択肢が狭くなり、そこを奪いどころとされてしまうという現象を作らないようにするためである。このときダウンスリー(ACが2CBの間に入る3バック)、IH落ち(IHがCBの脇に降りる3バック)、左肩上がりor右肩上がり(片方のSBを含めた3バック)など3バックを作るにあたって、基本的にはSBが押し上げられて高い位置で幅を取るようになる。当然、高い位置で幅を取る選手の役割としてはサイドでの突破力など攻撃性の高さであるが、SBでそのような能力を持つ選手は中々いない。そこでグアルディオラは元々突破力のあるWGに幅を取らせ、そのためにSBを内側に入れる偽サイドバックという戦術を考えたのだ。
⭐︎ 偽サイドバック戦術 - SBが内側にポジションを取り、中盤の選手の一角としてビルドアップする戦術
現代サッカーではSBがワイドに開いて幅を取ることが基本的であるが、SBが中盤化してWGが幅を取ることで、WGと相手SBを孤立させ、そこの対人を活かすための戦術である。
これはグアルディオラがバイエルン時代に編み出した戦術であり、実に画期的であったが、選手に求められる能力が多いため、彼が編み出したダウンスリーや0トップなどと比べても偽サイドバックを戦術として採用しているチームは殆ど見当たらない。
SB : SBとしては勿論のこと中盤としてもプレーでき、視野の広さと冷静さ(SBは視野が180度で良いが、中盤は360度必要なる)、捌いたりくさびを入れたりできるパス能力、プレスを回避できるテクニック、とマルチタスクをこなせる選手
WG : 個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある選手
※シティの状況
偽サイドバックを用いて敢えてWGを孤立させる3-2-4-1のシステムによって圧倒的なボール支配の下で爆発的な攻撃力を誇ったシティ。
個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のあるサネとスターリング、そこをランニングやポジショニング、パスでサポートしつつ自らもゴールへに絡むシルバとデ ブライネ、前線に高さがない中でも動き出しやポジショニングでマークを外し得点に結びつけるアグエロらの活躍にゴールを量産していた。ただ、サネの退団とスターリングの不調によって個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力を持つWGが不在に。また、孤立させたWGの内側のスペースを絶妙に使うシルバや、相手DFとの駆け引きが巧妙で得点力の高いアグエロも退団し、現在シティは転換期に差し掛かっている。
可変と偽サイドバックの原則とシティの状況を踏まえて過去のチーム(PLニ連覇、カラバオ三連覇した17/18シーズンなど)と総じて比べると、選手層の厚さや連動性、全体的な守備力は上がったように感じるものの、前線の個人能力で打開できる能力が下がった(サネ、アグエロ、スターリング→ フォーデン、フェラン、マフレズなど)ように感じるシティ。つまり、(瞬間的なドリブルやシュートがずば抜けている選手たちからユーティリティ性が高く多くの役割がこなせる選手たちへ)選手の特性(キャラクター)が代わったということである。
そうなると当然、今までできていた攻撃は難しくなる。(数的不利な状況でも幅を取るWGが独力で突破する、CFが動き出しで違いを作るなど)
グアルディオラはこのような選手の変化に応じて、システムも変化させたのだ。
3-2-4-1から2-3-2-3へ変わったことで考えられるメリットは以下の通り。
1.WGの突破に頼らないフィニッシュワーク
・より両SBが絡んだ崩し
・流動性の高さを活かしたポジショニング
2.DFの能力の高さを活かしたビルドアップ
・内側にパスコースが増加
・相手1stラインをパスで突破
3.可変しないことによる利点
・ネガティブトランジション時のフィルター
・GKを含めたビルドアップ
1 わかりやすい一対一での突破や絶対的な決定力などの質が下がったシティは、WGの質ではなく、SBの攻撃参加と選手の流動性で優位性を作るようにした。
3-2-4-1ではWGの質とIHのクオリティだけで崩すことが可能であったので両SBは3バックの一角と2センターの一角でバランスを取っていたが、2-3-2-3にしたことで両SBともより高い位置で距離の近いトライアングルを形成して攻撃に絡めるようになった。
3-2-4-1では3バックの一角が攻撃参加しようとすると、トライアングルの距離が遠いためスーパーなスプリント力を持った選手(シティではウォーカーのみ)でないと追い越すのに時間を要すことになってしまったり、配置上CBがオーバーラップすることになってしまったするが、2-3-2-3にしたことで両サイド共にSBが内外走り分けられるようになった。
また、流動性の高さを活かして陣形は変化させずに各選手のポジショニングだけをフレキシブルにすることで、相手がマークに付くことを難しくさせ、連動したパスワークでゴールに迫れるようになった。
2 CBの足元の技術やパス精度が非常に高いシティは、3枚ではなく2枚でも十分にパスを回すことが可能である。更に両SBは360度のエリアでも高いクオリティでプレーできる技術を兼ね備えている。
そのため、単純に後ろではなく前にパスコースの選択肢が多くあった方が得策である。
また、3-2-4-1では相手FWラインの脇のスペースをワイドCBのドリブルでの持ち運びによって突破していたが、2-3-2-3ではよりボールの移動時間が短いパスで越えられるようになった。
3 シティに限ったことではないが、可変しないことの最大の利点は常に適切なポジションに適切な人がいるということである。
そのため、ネガティブトランジション時に3-2-4-1では攻守の陣形の違いからマークする選手にズレが生じてショートカウンターからピンチとなることもあるが、2-3-2-3では基本の4-3-3から大幅にポジションが変化していないのでマークする選手にズレが生じず、尚且つ少し前目にポジショニングしていることで状況によってはフィルターとなることも可能である。
また、GKを含めたビルドアップの度にいちいち陣形を変えず、そのままの配置で組み立てることができる。
フィニッシュワーク / 3-2-5 or 2-2-6 or 2-1-4-3 or 2-3-2-3
シティのフィニッシュワークは、陣形を崩さずに各選手が入れ替わりつつ大外と内側のレーン(幅とライン間)を上手く使い、攻撃し続けて綻びを生み出しそこを突いて崩すスタイルである。
基本的には、どの陣形でもビルドアップ時同様のチームの原則やスタイルは変わらない。
ボールを外から内、内から外に出し入れすることで相手ブロックを揺さぶって、相手陣形を狭めさせて幅を使い、相手陣形を広げさせてハーフスペースを使うことを徹底する。
このときシティには世界最高レベルのIHとビルドアップ能力に非常に長けたCBの選手が揃っている。そのため、普通なら通さないようなパスを難なく送れる出し手と密集したスペースでも難なくプレーできる受け手によって、原則や立ち位置など配置的優位性だけではなく、瞬間的な個人の能力による質的優位性も作ってよりハイレベルなポゼッションを実現させている。
WGが幅、IHがライン間にポジショニングする配置をメインとして外からのドリブルと内側のランニングのかたちでゴールに迫るが、この陣形自体は変化させずに技術力、判断力、戦術理解力が優れた各選手が流れの中でのポジションチェンジや流動的な入れ替わりをする。そのため、何パターンかの陣形はあるものの、選手の役割が固定されている決まった配置は存在しない。
ただし、傾向としてはより攻撃力の高いLSBカンセロが高い位置を取り、守備力の高いRSBウォーカーが低い位置でバランスを取るような陣形が多く、左サイドからの崩しが多い。(実際、左サイドからの平均攻撃割合はPL3位の41%)
そのため、基本的な原則やスタイルは変わらないものの、両サイドで攻撃のパターンは若干異なる。
左サイドは高い位置を取るSBとドリブルが得意なWG(グリーリッシュ、フォーデン)がいるので右サイドよりも厚みが生まれ、尚且つより流動的な崩しを行う。
LWGが内側に入って相手SBをピン留めすることでカンセロがフリーとなり、そこからポケットへ走り込むIHや大外のRWGへパスを送るパターンがある。
一方で右サイドはSBが内側に入って低い位置でバランスを取ることが多いため、瞬間的な個の質での崩しもある。
RWGが内側に入ることで相手SBをピン留めし、その間にIHが空いたスペースへ流れることでフリーでクロスをあげるパターンや、RWG(ジェズス)の瞬間的な駆け引きから裏を取ってポケットへ侵入してクロスをあげるパターンがある。
このようにシティの原則や戦術の下でボールを保持しつつ、状況に応じて各選手が流動的に入れ替わりながらゴールへ迫るが、昨シーズンからはプラスしてデ ブライネの瞬間的な個人の能力の質に頼った攻撃やシンプルに外からのクロス攻撃、奪ってから素早いカウンター、セットプレーなど新たな得点パターンも身につけ始めている。
プレッシング / 4-2-4 (4-4-2)
シティのプレッシングは、基本的に中を締めた状態から全体がスライドしてボールサイドへ圧縮するハイプレスであるが、そのとき起用されている選手や相手によってはスタイルを変更する。
・4-2-4 (4-4-2)
今シーズンはこの4-2-4の超ハイプレスが基本スタイルとなっている。
基本的に、IHの一枚が前に出て4トップを形成。 中央の2枚でボールホルダーへ圧力をかけつつ、カバーシャドーを使って内側に絞ったWGと中央のスペースを消す。
このようにしてボールをサイドに誘導。4トップ(特に逆サイドのWG)、2センター、4バックがそれぞれスライドすることでチーム全体でボールサイドに圧縮する。
・4-2-4 → 右肩上がりの4-3-3気味
状況によってはWG(主に右WGジェズスorマフレズ)が相手SB(左)を切りながら前に出ることで相手3枚に対して3トップ気味で圧力をかけることもある。
逆サイドのWGは内側に絞らずに相手SB(右)をマークすることで、ボールの出しどころを封鎖。
ビルドアップ能力が高い相手の場合はGKを使ってWG(ジェズス)の頭越しのパスで相手SB(左)へボールを送られてしまうこともあるが、ここを狙いどころとしていたかのようにボールの移動中にSB(ウォーカー)がジャンプして出て行ってプレスをハメる。このとき、逆サイドのWGが絞って中央のスペースを埋め、後ろはスライド3バックを形成してカバー、ボールサイドのWGがプレスバックしてボールホルダーを囲い込む、といったようにシティの守備原則の全体がスライドしてボールサイドへ圧縮を徹底することでボールを奪う。
また、SB(ウォーカー)が相手WGによってピン留めされているときはボールの移動中に2センターの1枚が出て行ってプレスをハメる。
・状況によって4-3-1-2 (状況に応じて4-2-2-2)
前から圧力はかけるものの、ある程度後ろに枚数を残したい場合(相手前線に強力な選手がいる、リードしている状況など)、中央は人を捕まえる外切りのミドルプレスを採用することもある。
相手中盤を捕まえるかたちで組み立ての起点を封鎖する前3枚or4枚、後7枚or6枚と中央に人が寄った陣形である。(相手がACの場合はCF、相手が2センターの場合はCFと前に出たIHで捕まえる)
牽制はするものの、相手CB(GK)にはある程度ボールを持たせ、機を見て奪いどころでWGが カバーシャドーで相手SBを消しながらボールホルダーへ圧力をかける。
このようにしてボールを中央に誘導。相手の縦パスに対して、素早いスライドとプレスバックで密集を作るように囲い込んでボールを奪取する。
また、ロングボールを使って回避されても、後ろに人数を残しているのでセカンドボールを回収できる可能性が高い。
・例外 4-2-3-1
5-2-3のシステムで幅、ライン間、深さを上手く使うチームが相手の場合などでは、デ ブライネが一列前に出てトップ下気味になる陣形となる。
CFが内側のコースを切りながらプレスをかけてサイドへ誘導。逆サイドのWGとトップ下が相手2センターをそれぞれ捕まえ、ボールサイドのWGがボールホルダーにプレスをかける。このとき後ろも同様に、逆サイドのSBが絞ってボールサイドのSBが相手WBまでジャンプするスライド3バックとなる。
このように全体(特に二列目と最終ライン)が大幅にスライドしてかなりボールサイドに圧縮するかたちも持ち合わせている。
ブロック / 4-5-1 or 4-4-2
シティのブロックの陣形は、大きく分けて二通りある。
プレッシング時からIHが元のポジションに戻った4-5-1とIHが前に出たままの4-4-2のどちらの陣形でも、プレッシング時同様に中を締めた状態から全体がスライドしてボールサイドへ圧縮するスタイルである。
基本的に全体をコンパクトにしたハイラインのブロックを形成しているが、特に4バックの横幅は狭くして中央を固め、その分、MFが大きくスライドしてカバーすることでスペースを消し、ゴールを守る。
ただ、試合を通してこのようにブロックを組む時間は少なく、基本的に相手がバックパスなどでボールを下げるとボールホルダへのプレスをスイッチとして全体が一気に押し上げてプレッシングに移行する。
シティの特徴
ストロングポイント
- 各選手のフレキシブルさ
→ 技術力と判断力の高い選手たちに、ボールを繋ぐ原則とその時のポジショニングが徹底的に落とし込んでいるので、状況に応じてどの役割でもできるような選手が揃っている(システムを保ったまま各選手は流れの中でどんどん入れ替わるので、パターンは無限大)
→ 前線の選手 : ライン間を取る役割、幅を取る役割、偽9番の役割、中盤でボールを捌く役割などが可能
→ 後方の選手(SB) : 偽SBの役割、3バックの一角の役割、2-3の3の役割、攻撃時オーバーラップする役割、攻撃時インナーラップする役割などが可能
- 確立された戦術とスタイルの変革
→ 攻撃と守備の原則や戦術のディティールがはっきりしている
→ 相手に応じてスタイル(特にプレッシング)を変化させる試合も増えてきていて、圧倒的ボール保持なスタイルから非保持のスタイルになることもある(今シーズンのポゼッション率のデータは、CLでは32チーム中15位の52%、PLでは20チーム中1位の64%)(直近4シーズンのPL平均ポゼッション率のデータは、17/18シーズンが72%、18/19シーズンが68%、19/20シーズンが67%だったことに対して、20/21シーズンが63%、今シーズンが64%)
- ポゼッションに特化したDF陣
→ DF(特にCB)陣の足元の技術とパス精度が圧倒的に高いため、後ろから安定してボールを配給できる
- 得点パターンの増加
→ 意外にもセットプレーからの得意が増えている(PL 20チーム中4位の3点、CL32チーム中1位の2点)
ウィークポイント
- 各選手のフレキシブルさ
→ 多様なポジションやそれに応じた役割をこなせる選手が揃う一方で、その役割に特化したような選手(特に幅を取った状態から個の能力だけで相手を圧倒して突破する役割に特化した選手)が不足しつつある
- 確立された戦術とスタイルの変革
→ 原則や戦術を貫きすぎるがゆえに、配置上の噛み合わせや相手の弱点を突いた戦い方ができずに苦戦することがある
- ポゼッションに特化したDF陣
→ 非カウンター時、広大なスペースを少ない人数(数的不利や数的同数)の状況で守らなければならないが、対人守備に強い選手が殆どいない(基本的にウォーカーとアケのみ)
課題
- 純粋なストライカーの不足
→ 相手DFとの駆け引きに勝ってクロスに合わせたり、相手DFラインの背後へ裏抜けしてボールを受けたりする(ボールが出なくても相手DFラインを下げることでライン間が広がる)ような中央で深さを作りつつ、ゴールを奪えるような選手がいない
- 幅を取る役割における突破力の不足と0トップにおける補完性
→ 前述したように幅を取るWGに個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある選手がいないため、敢えてWGを孤立させているがそこで優位性を発揮できないことが多い
→ 2-3-2-3の陣形にしたことでより0トップが活きるようになったが、CFがフォルス9の動きで降りたときに、WGがダイアゴナルに走ってCFが空けたスペースを使うような深さを作る動きが少ない(現状、この動きが得意なスターリングが不調且つ0トップで起用されることもあるため、成長過程のフォーデンと二列目から飛び出せるIHのギュンドアンしか深さを作れる選手がおらず)
- 守備が安定している左サイドバックの不足
→ 現状のスカッドだと基本的にはカンセロ、ジンチェンコのどちらかが起用されることとなるが、どちらの選手も守備に不安があるので左サイドが穴となることもある
- 個人の能力で打開できる相手へ苦手意識
→ 個の能力の質が高い相手に、一対一若しくは二対一を剥がさせれてしまったり、対人守備を崩しきれなかったりすることがある
- 瞬間的ではあるが、ボールホルダーへ行けずに全体(特にDFライン)が下がってしまうシュチュエーション
→ 攻め込んで中途半端に失った後や、ハイプレスを回避された後にロングカウンターを受けると一気に運ばれてピンチとなる
→ ボールホルダへプレスがかけきれていないときのMFラインは意外にも脆く、ゲートをすり抜けてライン間にボールを付けられてしまうと、そこから運ばれてピンチとなる
まとめ
シーズン開幕当初は、新たな戦術の試行錯誤とデ ブライネなど主力の離脱によって思うような結果が出ていなかったシティだが、今では戦術の浸透と主力の復活によって徐々にパフォーマンスを上げてきいる。
スカッドが大幅に変わったこともあって、配置的優位性を作らずにデ ブライネの瞬間的な個人の能力に頼った攻撃で完結させる守備的な昨シーズン半ばのスタイルと、新たな戦術の下で再び配置的優位と圧倒的ボール支配の攻撃的な元来のスタイルが合わさりつつあるシティ。
確立された自分たちのスタイルを貫くだけでなく、相手によってはスタイルを変化させることで今シーズンは悲願のCL制覇を達成することができるのか、それとも新たな戦術と選手の特性から最適解を導き出せずに黄金期に幕が閉じられてしまうのか、今後のシティに注目である。
2021/10/10
21/22シーズンの戦い方はこうだ!! プレミアBIG6戦術ガイド 〜スパーズ編〜
スパーズの現状
新監督就任で新たなチームとなったスパーズはいきなり開幕三連勝と好調のスタートを切ったが、その後は三連敗と波が激しかった中で、直近の試合で勝利して何とか勝ち越してPL8位とまずまずの滑り出しとなっている。
スパーズのスタイル
スパーズは、ボール非保持ベースとするため、守備のデザインを重視し、攻撃においてはカウンターなどに表れているように能力の高い選手が個の質を主軸にプレーする。
このように、守備には細かな決まり事を作り、攻撃では個人の能力を自由に発揮するチームである。
攻撃
- 3バック : スキップ or ホイビュアーが降りて3バック
→ 3枚にしてパスコースの角度を増やす
- 1アンカー
→ 相手FWラインの背後でボールを引き出す
- SB
→ 高い位置で幅を取る
- WG
→ 内側に入ってライン間でボールを引き出す
- CF
→ 深さを作りつつ、降りて行ってビルドアップをサポートする
守備
- FW(3トップ) : カバーシャドーで中央封鎖 (ゾーン)
→ 中央のスペースを消す → カウンターに備えて前残り
- MF(3センター) : 相手中盤選手を牽制 (ゾーン)
→ 中央のスペースを消す → スライドしてボールサイドに圧縮
- DF(4バック) : それぞれが相手前線選手に付く (マンツーマン気味)
→ 対人守備
ビルドアップ / 3-1-5-1 or 3-1-4-2
スパーズのビルドアップの陣形は、大きく分けて、ニ通りある。
どちらの陣形でも、スキップかホイビュアーのどちらかが降りて3バックを形成し、もう片方が相手FWラインの背後にポジショニングする。これに応じて、両SBが前に出て高い位置で幅を取る配置となる。
3-1-5-1の場合は、前に出るSBに連動して両WGが内側に入ってライン間にポジショニングし、LIHアリがトップ下のようなポジショニングを取る配置となり、3-1-4-2の場合は、アリとソンがライン間にポジショニングし、ベルフワインとケインの2トップ気味の配置となる。(中盤の選手降りて3バック、相手FWラインの背後、幅、ライン間、トップという陣形自体は変化しないのだが、アリ、ベルフワイン、ソン、ケインの4枚は自由にポジションを変更しつつ、降りてボールを引き出したり、DFラインの背後を狙ったりするので、選手の配置はその時に応じてフレキシブルに入れ替わる。)
時折、3トップの選手が瞬間的に降りることで中盤で数的優位を作ったり、相手CBを釣り出して広大なスペースでソンの破壊力を活かすような組み立ても見受けられる。
また、ハイプレスの相手に対して、基本的にはディフェンシブサードでGKを含めた組み立ては行わず、アバウトにロングボールを蹴ることが多い。
ただ、状況に応じて、GKを含めてビルドアップする場合は、ロリスを含めた3バックとスキップとホイビュアーの2センターとなる配置でビルドアップを行う。
フィニッシュワーク / 2-2-5-1
スパーズのフィニッシュワークのスタイルは、自由度の高い崩しである。
基本的には、ビルドアップ時の3バックから中盤が前に戻ってスキップとホイビュアーで2センターとなるような配置となる。
ドリブルやパスなど個人の能力の質で違いを生み出す攻撃がメインだが、右サイドは、WGとSBの関係に加えて三列目からホイビュアーの飛び出し、左サイドは、ベルフワイン、アリ、レギロンが頻繁にポジションチェンジが攻撃のアクセントとなる。
また、直近ではモウラが低い位置まで降りてきてボールを受け、そこからドリブルで仕掛けて相手ブロックを打開するような崩しも見られる。
特に、速攻の切れ味は非常に鋭く、ここまでショートカウンターやロングカウンターから数多くのチャンスを作っている。
プレッシング / 4-3-3
スパーズのプレッシングのスタイルは、中央を封鎖したミドルプレスである。
基本的に、3トップと3センターは中を締めるためにかなり内側に絞った配置で、3トップのカバーシャドーと3センターの後ろから出て行って人を捕まえるかたちで完全に中央のスペースを消すスタイルである。
そして、ボールがサイドへ送られると、WGはカウンターに備えてある程度前残りし、SBは相手WGにマンマーク気味に付いて抑えるので、基本的にはWGやSBでは無く、IHが出て行って、ACスキップがスライドするかたちで、ボールサイドに圧縮する。(運動量の高いホイビュアーだけでなく、アリもハードワークして上手くスライドできている。)
相手のビルドアップ時の陣形が1アンカーと4バックなど後ろでも幅を取るときは、中央を封鎖したミドルプレスということに変わりはないのだが、スペースというよりかは人を意識した守備となる。
3トップと3センターで完全に中央のスペースを消すというより、CFケインが相手ACを見て、IHがライン間にポジショニングする相手選手を捕まえるような中央の人を消すかたちとなる。
ボールがサイドに送られると、状況に応じて、そのままWGが追うかたち、IHがライン間の相手選手を背中で消しながら出て行くかたちで、ボールサイドに圧縮する。
ブロック / 4-3 or 4-3-3
スパーズのブロックの陣形は、大きく分けて二通りある。
3トップが加わらないブロックと加わるブロックがあるが、どちらの陣形でも、プレッシング時同様にDFが人を意識しつつ、MFがスライドしてスペースを埋めて、中央を封鎖するスタイルである。
基本的に、SBは相手WG、CBは相手CFに付いて相手の前線を抑え、その時の状況に応じてWGのプレスバック(特にモウラ)か3センターのスライドで、ボールホルダーに牽制をかける。
4バックは相手選手に合わせたポジショニングをするため、必ずしもコンパクトになるとは限らないが、CB、SB間のスペースに入ってくる相手中盤選手にはボールホルダーへの牽制のケースに即して、IH又はACが付いて対応する。
深い位置でも同様で、エリア内のスペースをしっかり封鎖しつつ、その時の状況に応じて、WGかIHの戻りでスペースをケアする。
また、勝っている状況での試合終盤などは、守り切るためにWGを深い位置まで下げた4-5-1や4-4-2のブロックを形成することもある。
スパーズの特徴
ストロングポイント
- サイドにIHが出て行く守備
→ 強力な3トップが前残りできて、カウンターへ備えられる(内側にいるので直線的な攻撃に)
→ 基本的に、3トップはスライドしないので、外に広げても中央のゲートは中々開かない
- DF陣のある程度人を決めた守備
→ マークの受け渡しのズレが生まれず、DF陣の対人の強さ(特にタンガンガ、サンチェス、ロメロなど)を活かせる
- 自由で瞬間的な能力による攻撃
→ ソン、ケイン、モウラ、ベルフワイン、アリのように攻撃能力の高い選手が揃っているため、型にはめないことによって、瞬間的なドリブル突破やパスの連携で崩せる(一試合辺りのドリブル数はリーグ4位の11回)
ウィークポイント
- サイドにIHが出て行く守備
→ パスで揺さぶられたり、ドリブルで抜かれたりしてスライド二枚の圧縮を剥がされると、中盤に大きなスペースができてしまう
→ スライドした中盤もペナルティエリア深くまで戻るので、バイタルエリアをケアできないケースが生じる
- DF陣のある程度人を決めた守備
→ 対人守備が強いとはいえ、そこの部分で相手に上回られて剥がされてしまうと、DFラインの脆さが出やすい
- 自由で瞬間的な能力による攻撃
→ ビルドアップの原則やフィニッシュワークの型が無いので、前線の選手による瞬間的な崩しができないと攻撃が停滞する(得点数はリーグ14位の7試合6得点)
課題
- 攻撃デザインの欠如
→ 配置自体は悪く無いが、人が立っているだけで、ビルドアップやフィニッシュワークの原則が無い
→ 基本的に非保持ベースなので、攻撃の細かいデザインは無く、パスやドリブルなど瞬間的な個の能力に頼りがちになってしまっている
→ 遅攻時は、突破力のあるWGが内側でライン間を取り、ドリブル突破を武器としないSB(特にタンガンガ)が幅を取るため、しっかりとブロックを組んだ相手に対して、サイドで優位性を作りにくい(その割には右サイドでの攻撃割合はリーグ2位の41%)
実際、平均ポゼッション率はリーグ12位の47%、一試合辺りのシュート本数(Shots per game)はリーグ17位の10.4本のみ(前節までは最下位)、一試合辺りのクロス本数はリーグ最下位の13本、相手サードでのアクション割合はリーグ17位の26%、エリア外からのシュート割合はリーグ3位の44%、と攻撃面での問題はデータから見ても明らかである。
※PLのデータ
まとめ
シーズン開幕前にSDとして新たにパラティッチを招聘したものの、監督人事の難航やケイン退団説などかなりチームとして準備が進まなかったこともあり、方針が定まっていなかったスパーズは現在も戦術的なデザインに乏しく、良くも悪くもその時の選手(特に前線3枚)の出来次第となってしまっている。
一方で新戦力として徐々にフィットしているエメルソンやロメロ、ヒルや調子を取り戻しつつあるエンドンベレが起用され始め、人員が整理されてより戦力に厚みがでてきている。
ビルドアップやフィニッシュワークの原則や戦術のディティールをはっきりさせてポチェッティーノ期のようにプレミア屈指のクラブに戻れるのか、それとも戦術的なデザインができずに中継ぎの監督としてヌーノは解任されてまうのか、今後のスパーズに注目である。
9/28
21/22シーズンの戦い方はこうだ!! プレミアBIG6戦術ガイド 〜チェルシー編〜
チェルシーの現状
負傷者が多く出てしまったこともあって、直近のPLとCLで二連敗を喫してしまったものの、その強さは相変わらずで、PLでは選手をかなりローテーションしつつも首位をキープしている。
チェルシーのスタイル
チェルシーは、基本に忠実でその基本を徹底的に落とし込んだ戦術とそれを相手のやり方によって柔軟に使い分けることができる(配置的優位)だけでなく、プラスアルファとして、ルカクの加入もあってますます個の能力でも打開できる(質的優位)ようになった。更に、俯瞰で試合を分析し、課題をすぐにできるトュヘル(修正力)とそれを忠実にピッチ上で再現できる選手(実行力)が揃ってる。
このように、攻守共に配置的優位性をベースとするが、それに質的優位性も伴っており、合理的且つ段階的なプレーとポジショニングを武器とするチームである。
攻撃
- 3バック
→ 2センターを経由して繋ぎつつ、ロングボールやドリブルで局面を変える
- 2センター
→ 相手FWラインの背後でパスコースの角度を増やし、ボールを引き出す
- WB
→ 高い位置で幅を取る
- WG : シャドー化して自由に動く
→ 内側に入ってライン間でボールを引き出す
- CF
→ 背後へのランニングで深さを作りつつ、相手を背負ってポストしたり、流れて起点を作ったりする
守備
- FW(3トップ) : カバーシャドーを使いつつ、ボールホルダーへ圧力 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消しながら奪いに行く → サイドへ誘導
- MF(2センター) : 相手中盤選手を牽制 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消す → スライドしてボールサイドに圧縮
- DF(5バック) : それぞれが相手前線選手に付く (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 対人守備
ビルドアップ / 3-2-4-1
チェルシーのビルドアップの陣形は、3-2-4-1である。
3バックと2センターで組み立てて、WBで幅、シャドーがライン間、CFが深さを取る配置となり、2センターを経由しながら、幅も使って、相手守備ラインの間、間でパスを繋ぐスタイルである。
・ミドルプレスを採用する相手の場合
前述したように、基本的には2センターを経由しながらビルドアップを行うが、2センターが相手によって消されている状況では、ロングパス(特にチアゴ・シウバ)とドリブル(特にリュディガー)が得意である3バックが、ロングボールを使った大きな展開と相手FWラインの脇のスペースへドリブルでの持ち運びを組み合わせてボールを前進させる。
CBから幅を取るWB(時には深さを作るシャドーやCF)へロングボールを使った大きな展開をすることで、相手の陣形を揺さぶってスライドの遅れからブロックにギャップを作ることができ(サイドからの侵入)、相手FWラインの脇のスペースをCBがドリブルで持ち運ぶことによって、相手MFラインの判断やポジショニングを迷わすことができる(中央からの侵入)。
CBがロングボールを使って展開することで、スライドする相手のブロックを揺さぶって、ズレを作ってパスを通したり、大外や相手DFライン背後のスペースまで一気にボールを送ったりしてフィニッシュワークへ繋げる。(→人を意識した守備により有効)
CBがドリブルで持ち運ぶことで、相手選手(特に対峙するWG or SH)の動きによって、シャドーを使った内経由(CB→内→外)のビルドアップと、WBを使った外経由(CB→外→内)のビルドアップを臨機応変に使い分けてフィニッシュワークへ繋げる。(→スペースを意識した守備により有効)
このときボールサイド圧縮する相手には、もう一度振り直して相手ブロックを拡張させ、ライン間にくさびのパスを差し込んだり、敢えて狭まっているゲートを通して相手ブロックを収縮させ、大外へパスを振ったりして自らスペースを作り、ボールを前進させる。
・ハイプレスを採用する相手の場合
メンディーを含めた3バック又は4バックの配置(右肩上がりになることが多い)となるが、基本的にはチェルシーのビルドアップの原則のもと整理された配置でプレス回避し、ボールを前進させる。
ハイプレスを採用する相手は中央を封鎖していることが殆どのため、GKを使って数的優位の状況を作り、外(WB)が起点となってシャドー(WG)を活かす組み立てが多い。
メンディーが頭越しのパスで直接WBへ送ったり(GK→WB)、メンディーからマークに付かれているがワンタッチでなら経由可能なCHを使ってWBへ送ったり(GK→CH→WB)して、外から相手のプレスを回避する。
・応用
このようなビルドアップが基本パターンだが、一見すると配置が悪くなったように見えるような敢えてWBやCHがポジショニングを変える応用パターンも持ち合わせている。
相手SBがジャンプしてWBを捕まえにくる場合、WBが敢えて低い位置を取ることでプレスがハマったかたちとなるが、相手SBを釣り出してその裏のスペースにシャドーが流れることで疑似カウンターへ繋げることに成功。
また、敢えて高い位置を取ることでWBへのパスコースは無くなるかたちとなるが、WBで相手SBをピン留めでき、空いているスペースにシャドーが降りることで中央でフリーを作ることに成功。
相手がカバーシャドーを使って中盤を消しにくる場合、背中で消されている選手はDFラインまで降りずに敢えて前に出て行くことで組み立てをサポートできなくなってしまうが、その後レイオフを使って受けることでプレスを回避してフリーで前を向ける状態を作ることに成功。
相手が中盤をマンマーク気味で消しにくる場合、中盤の選手が敢えて広がることでCBからのパスコースはなくなってしまうが、相手中盤を釣り出すことができ、中盤を省略してCF(ルカク)へパスを通すことに成功。
サイドで幅を取るタイプのWGを起用された場合、配置としては変わらないものの、WGが幅を取って、WBが外から内側に入ってくる普段とは逆のポジショニングとなるので、相手マークを惑わせたり、突破力のあるWGが外から仕掛けたりすることができるようになる。
チェルシーは、このように相手へ常に選択を迫るような先手を打ち、相手の対応の仕方に応じて更にその上をいく二手目を打つ。
特に顕著に現れるのは、前述したような相手がハイプレスの場合やミラーシステムの場合など、マンツーマン気味になりやすいときである。例えば、相手CBが出て来たら脅威となるCF(ルカク or ヴェルナー)が広大なスペースで一対一の状況を作れ、相手CBが出てこなければシャドーがフリーで持ち運ぶことができる、後ろ重心の相手には低いエリアでの優位性(2トップに対して3バック)を活かし、前重心の相手には高いエリアでの優位性(前線は広いスペース中で五対五の状況)を活かすなど、どちらを選択されてもその弱点を突いて優位性を作るという基本的なことを監督と選手が瞬時に判断し、プレーで実行する。
・例外(5-3-2)
ときに、5-3-2のシステムを採用している場合は、3-2-4-1の陣形ではなく、3-1-4-2の陣形となり、3バックとアンカーで組み立てて、WBで幅、2トップで深さを取る配置となる。
状況に応じてDFラインに降りてビルドアップをサポートしたり、ハーフスペースへ出て行って攻撃参加したりする2IHと、パワーにスピードと破壊力抜群の2トップ(特にカウンター時)の役割が重要となるかたちであるので、3-2-4-1と比べると配置的に悪くなる場合もあるが、その分自由度が高く、選手個人の能力をより活かす陣形である。
フィニッシュワーク / 3-2-5
チェルシーのフィニッシュワークは、ビルドアップ時同様に選手配置を整理して内(ライン間)、外(幅)、中央(深さ)を上手く使い、合理的且つ段階的に崩すスタイルである。
基本的に、WBで外、シャドーで内、CFで中央にポジショニングする配置で、縦横ピッチを広く使って攻撃する。
横は、ボールを外から内、内から外に出し入れすることで相手ブロックを揺さぶって、相手陣形を狭めさせて幅を使い、相手陣形を広げさせてゲート間を使うことを徹底する。
縦は、FW3枚(WBを含めた5枚)が手前のスペースへ降りる動き、背後のスペースへ抜ける動きをすることで相手最終ラインを混乱させて、相手陣形を狭めさせて背後を使い、相手陣形を広げさせてライン間を使うことを徹底する。
このように横幅を使ったゲートの収縮、拡張と縦幅を使ったライン間の収縮、拡張で相手ブロックに綻びを作り出し、そこを逃さずに突いてゴールに迫る。
また、最後はWBが大外から入ってきてエリア内の枚数に厚みを持たせるので、クロスからの得点パターンも多い。(アロンソ、チルウェル、アスピリクエタはクロスに合わせるのも非常に得意)、(ルカクが加わったことで枚数が足りなくても彼が相手を引きつけたり、彼へシンプルに放り込んだりできるように)
更には、崩しきれなくても、リーグ最多得点を誇るセットプレーで最終的にゴールをこじ開けることができるのも強さの要因の一つである。(キッカー : マウント、ジェームズ、チルウェル、アロンソ、ツィエフなど ヘッダー : チアゴシウバ、リュディガー、ハヴァーツ、ルカク、ロフタスチークなど)
ただ、常に相手陣内深くでボール保持して攻撃し続けるというよりは、デザインされたビルドアップの流れからそのままゴールへ迫ることも多い。実際データで見ても、オフェンシブサードでのアクション割合はリーグ20チーム中16位の26%と、首位のクラブとしては低い割合となっている。
※PLのデータ(10/2時点)
プレッシング / 5-3-2 or 5-2-3 or 5-2-1-2
チェルシーのプレッシングは、ハイプレスとミドルプレスの併用であり、相手のビルドアップ陣形に合わせて、三通りのスタイルを変幻自在に変えることができる。
どの陣形でも基本的には、中を締めつつ後ろから人を捕まえ、ボールサイドに圧縮するスタイルである。
・5-3-2 (相手に応じて5-1-2-2)
マウント or ツィエフがIH化、それに連動してジョルジーニョがAC化して3センターとなる陣形である。両IHが相手中盤をそれぞれ捕まえるかたちと2トップがカバーシャドーで相手ACを消するかたちで中を締め、2トップがボールホルダーの相手CBを牽制する。
このようにしてボールをサイドに誘導。2トップが相手ACをカバーシャドーで消しながらプレスをかけられる場合は、そのままどちらかが出て行き、2トップが出て行けない場合は、IHが自分のマークをカバーシャドーで消しながら前に出て行き、それに連動してACが出て行くような中盤が縦スライドするかたちでボールサイドに圧縮する。
・5-2-3
攻撃時と同じそのままの陣形である。2センターが相手中盤をそれぞれ捕まえるかたちと、3トップがカバーシャドーで背後のスペースを消すかたちで中を締め、3トップがボールホルダーの相手CBを牽制する。
このようにしてボールをサイドに誘導。3トップがカバーシャドーでライン間のスペースを消しつつ、CBが出て行って見るかたちでボールサイドに圧縮する。
・5-2-1-2
マウント or ツィエフがトップ下化し、中盤が三角形となる陣形である。中盤3枚が三角形となり、逆三角形の相手中盤をそれぞれ捕まえるかたちで中を締め、2トップがボールホルダーの相手CBにプレスをかける。
このようにしてボールをサイドに誘導。2トップがどちらかのサイドへ限定しながらプレスをかけ、WBが相手SBまでジャンプして出て行くかたちでボールサイドに圧縮する。
チェルシーは、このように後ろから各選手が人を捕まえつつ、時にはカバーシャドーも使って、サイドへ誘導し、近くの選手を消してボールサイドに圧縮することに非常に優れている。また、DFからFWまでが連動して縦スライドと横スライドを徹底することで、相手の揺さぶりや持ち運びに対しても上手く対応することができる。
ブロック/ 5-3-2 or 5-4-1
チェルシーのブロックの陣形は、大きく分けて二通りある。
WGがIH化し、縦スライドと横スライドを連動させた5-3-2、両WGが下がって中盤化し、リトリート気味となる5-4-1(状況に応じて5-2-3)のどちらの陣形でも、プレッシング時同様に中を締めつつ後ろから人を捕まえつつ、スペースも意識するマンツーマンとゾーンの併用でボールサイドに圧縮するスタイルである。
人を意識するため持ち場のスペースを離れて積極的に出て行くこともある(特に両ワイドCB)が、その分はMFライン(3センター又は中盤4枚)とDFライン(5バック)が縦横にスライドしてカバーすることで、スペースを消し、ゴールを守る。
チェルシーの特徴
ストロングポイント
- 基本に忠実だが、落とし込まれた戦術
→ 攻撃と守備の原則や戦術のディティールがはっきりしている
- 配置的優位と質的優位
→ 3バックと2センター中心の組み立て、幅、ライン間、深さを取れた陣形とそれぞれの役割に適した選手配置となっている
→ 身体能力に優れた選手や技術に優れた選手が瞬間的な個人の能力によって状況を打開することができる
- 修正力と実行力
→ 順調でない状況(プレスがハマらない、ビルドアップが上手くできないなど)となると、選手交代だけでなく、システム変更、選手の細かな立ち位置の変更、スタイルの変更などでも迅速に修正
→ トュヘルが行った修正に対して
- 相手に合わせた対応力
→ 後ろ重心のプレスには低いエリアでの優位性(2トップの相手に対して3バックなど)、前重心のプレスには高いエリアでの優位性(前線の広いスペース中で五対五の状況など)といった具合に相手の出方に応じて変化させられる
- 攻守のバランス
→ ボール保持と非保持どちらでも非常に高いクオリティを兼ね備えているので、相手や時間帯によってスタイルを変えることが可能
ウィークポイント
強いて挙げるとするならばというポイント(主だったウィークポイントは特に無い)
- 瞬間的に剥がされたときの対応
→ 後ろも人を余らせずに同数で守ったり、CBが積極的に出て行ったりと前がかりな守備を行うので、瞬間的な入れ替わりで剥がされてしまうと、一気に不利な状況となってしまう(基本的にこのような状況にはならず、なってしまったとしても不利な状況下で上手く対応できている)
→ ジョルジーニョを余らせてカバーリングをさせるかたちもあるが、相手中盤選手をマンツーマンで捕まえに行った状況や対人守備となる状況で、瞬間的に剥がされる
→ 一瞬のスプリントや空中戦で劣勢になる(二人とも非常に賢い選手なので、弱みを出さないようなポジショニングで対応している)
課題
主だった課題は特に無し
まとめ
徹底された戦術と能力の高い選手を兼ね備え、相手によって柔軟にスタイルを変えることができるチェルシーは他クラブより頭ひとつ抜けていたのだが、そこへ移籍で新加入選手が加わったことで今シーズンはまた一段と磐石な体制を築いている。
5節のアストンヴィラのように、今後はますます欧州王者相手に対策を施してくるチームも増えるだろうが、それに対して修正と実行で合理的且つ段階的に崩すことも、個人の能力で瞬間的に崩すこともできるので、やはりチェルシーが一枚上手のように思える。
また、スカッドも厚いので負傷者が出てしまったとしても、変わって入った選手が穴を埋めるどころか1stチョイスの選手以上の働きをすることもあるので、現状、弱点や課題が見当たらないが、果たしてこの抜けのないチェルシーを止めるクラブが現れるのか、はたまた全てのコンペティションがチェルシー中心で回っていくのか、今後もチェルシーから目が離せなそうだ。
9/26
PL4節 チェルシー vs アストン・ヴィラ 戦術レビュー 〜欧州王者を追い詰めたヴィラの対策とそれを上回ったチェルシーの修正力と個の能力の高さ〜
両者の現状
代表ウィーク明けで両者共に戦力が万全ではない中、前節退場者を出しつつもリヴァプール相手に最後まで凌ぎきり、未だ無敗の欧州王者チェルシーのホームに乗り込んだアストン・ヴィラは、普段とはシステムを大幅に変更して5-3-2で試合に望んだ。
https://www.whoscored.com/Matches/1549571/Live/England-Premier-League-2021-2022-Chelsea-Aston-Villa
まずは、前提として、チェルシーのスタイルを確認する。
チェルシーは、整理された配置をもとに非常に優れたビルドアップを行う。
基本的に3バックと2センターで組み立てて、前は幅、ライン間、深さを取る5トップのようなかたちとなるのが特徴で、この陣形から相手のプレッシング方法によって変幻自在にビルドアップのスタイルをを変えることができる。
中を締める守備を行う相手には、左右に展開して揺さぶりつつ、両CBが相手2トップの脇を持ち運び、自由に動くシャドーを使ってプレスを回避する。
3バック2センターに対して、人を捕まえるような相手には、ダイレクトプレーを使ってCHを経由した内から外への展開や、頭越しのフィードを用いた大きな展開、シャドーが降りてサポートするなどでプレス回避する。
このように、後ろ重心の相手には低いエリアでの優位性(2トップに対して3バック)を活かし、前重心の相手には高いエリアでの優位性(前線は広いスペース中で五対五の状況)を活かすという基本的な事を、監督と選手が瞬時に判断し、プレーで実行することができる。
一方で、プレッシングもビルドアップ同様に、相手の陣形に合わせて、変幻自在にスタイルを変えることができる。
相手が3バック(今回のヴィラ)の場合、2センターがそれぞれ相手中盤を捕まえ、3トップで中を締めてスライドしながら積極的にプレスをかけるかたちが基本である。
中盤脇のスペースは、FWのカバーシャドーを使いながら、CBが前に出て行くことで、完全に封鎖する。
更には、無尽蔵のスタミナを持つDFのスペシャリストであるカンテのカバーリングで蓋をするため、中盤のスペースを自由に使われることはほぼ不可能となる。
また、3トップの一枚(基本的にマウントやツィエフ)を削り、相手中盤に対して数的同数を作ってマンツーマン気味に捕まえ、2トップでスライドしながら積極的にプレスをかけるかたちもあるが、ヴェルナーやプリシッチのようにかなりハードワークできる選手の起用がないと厳しいだろう。
このように、後ろから前に出て行く守備、カバーシャドー、マンツーマンを用いて、まずは中央のスペースを消してボールをサイドへ誘導し、そこから全体がスライドしてボールサイドに圧縮することでボールを奪取するスタイルである。
ディーン・スミスの対策
守備 前線でのビルドアップ遮断と後方における数的優位
ヴィラは、配置が整理されたビルドアップを行える相手に対して、2トップが開いて構えて、両IHでそれぞれ相手2センターを捕まえ、相手3トップに対しては3バックプラスドウグラス・ルイスで対応するミドルプレスのスタイルを採用した。
プレッシングは、大きく分けて二通りある。
2トップのどちらかが外側の相手CBへのパスコースを消しながら出て行くプレスと、IHのどちらかがカバーシャドーで自分のマークを消しながら出て行くプレスである。
このプレスによって、外側の相手CBからドリブルでの持ち運びを防ぎ、同時に相手2センターをそれぞれマンツーマン気味に捕まえることで、3バック2センターの組み立てを遮断。尚且つ、後ろは3トップに対して3バックプラスACの4枚で数的優位を作ることで、降りてサポートする相手シャドーにも牽制。
また、マークが剥がされたり、ズレたりしてもどんどん縦スライドして出て行く積極的な守備で対応し、相手に自由を与えなかった。
このようにして、チェルシーのビルドアップを低いエリア、高いエリア共に制圧することに成功した。
更に、それだけではなく、前から牽制してボールを奪い切れると、相手CBよりも内側にいるCFが直線的にゴールへ向かえ、GKとの一対一の状況を演出できた。
攻撃 中盤での数的優位と前線における2トップの存在感
ヴィラは、組織されたプレッシングを行える相手に対して、3バックが開き、相手2センターに対して3センターで数的優位を作るビルドアップのスタイルを採用した。
瞬間的に顔を出してボールを引き出す中盤の選手を使って、テンポ良くボールを繋ぎ、レイオフなどを用いてフリーの選手へボールを送ることで、プレス回避することに成功した。
それでも、相手が3トップなのに対して3バックなので、中盤を経由できずにハイプレスにハマってしまう状況も多々あったが、その時はターゲットとなるワトキンス目掛けてロングボールを蹴って、彼が収めたり、落としたりすることで、プレス回避できていた。
中盤で数的優位を作ることで、フリーの選手を使ってプレス回避をするだけでなく、そのままドリブルで持ち運んでゴールに迫るシーンも目立った。
これは、3バックが開くことで、相手FWラインにカバーシャドーさせず、相手に脅威を与えられるワトキンスとイングスの2トップがそれぞれ相手ワイドCBをピン留めすることで、前に出て行く守備をさせずに裏へ走ってスペースを作ったからである。
このようにして、再三ゴールに迫り、幾度となく、決定機を演出を作ったが、メンディーのファインセーブや決定力の問題もあってネットを揺らすことはできなかった。
※ゴール期待値のデータでは、3得点を奪ったチェルシーを上回っている
https://twitter.com/xgphilosophy/status/1436757387021623302?s=21
トュヘルの修正
守備 システム変更による中盤での数的同数
プレス耐性が非常に高いコバチッチが個人の能力で相手マーカーとそのサポートの二枚を剥がして見事なスルーパスを出し、ルカクが冷静に決めるというように瞬間的な個の質で違いを作って先制ゴールを奪った。
しかし、試合内容で思うようにいかなかったチェルシーは、後半頭からジョルジーニョを投入し、中盤の枚数を増やすため、ツィエフとコバチッチをIHとした5-3-2(3-1-4-2)にシステムを変更した。
このトュヘルの修正の意図は、前半、中盤二枚のチェルシーに対して、中盤三枚ヴィラに数的優位作られ、そこを起点に攻め込まれていたため、中盤を三枚にして、ツィエフが前に出てドウグラス・ルイス、コバチッチがマッギン、ジョルジーニョがラムジーをそれぞれ捕まえることで、数的同数を作り、中盤を経由したビルドアップをさせないようにすることである。
まず、中央のスペースを消してボールをサイドへ誘導し、そこから全体がスライドしてボールサイドに圧縮することでボールを奪取するチェルシーのプレッシングスタイルのところの中央のスペースを消すという部分を強化したのだ。
ただ、前述したように、2トップでスライドしながら積極的にプレスをかけるスタイルは、ヴェルナーやプリシッチのようにかなりハードワークできるFWでないと厳しい。この試合はハヴァーツ(ハドソン・オドイ)とルカクの2トップなので、基本的に中央を切りながら外へ誘導する役割は行うものの、スライドしてボールホルダーまでプラスにいけないときは、中盤が自分のマークをカバーシャドーで消しながら相手ワイドCBまで出て行くかたちで対応した。
元々ヴィラは、ビルドアップをとても得意としているチームではなく、マルティネス不在のため一度下げてGKを含めた組み立ても殆ど行わなかったこともあって、このチェルシーのプレッシングはかなりハマった。このようにして、パスコースの選択肢を無くしてアバウトに蹴らせられるようになっただけでなく、高い位置でボール奪取してそのままショーカウンターに繋げることでチャンスを作れるようなり、ヴィラの後方からのビルドアップを制圧した。
その結果、実際にプレッシングから相手のミスを誘って追加点を奪うことにも成功した。
攻撃 ショートカウンター、レイオフ、ロングボールの使い分けと個の能力の違い
5-3-2(3-1-4-2)へのシステム変更は、守備だけでなく、攻撃においても違いをもたらした。
トュヘルの修正の意図は、前半、IH二枚がCHにマンツーマン気味に付いて中盤に自由を与えず、ACを残すことで後方で数的優位を作るかたちを取っていたヴィラに対して、中盤を三枚にすることでそれぞれ誰が付くのか迷いを生じさせることである。
IHとなったツィエフに対して、ACが出て行くのかCBが出て行くのかを曖昧にさせるようにした。
CBの一枚が前に出ていけば(後半序盤)、相手2CBに対して破壊力のある2トップが広いスペースで数的同数を作ってプレス回避し、中盤に対してそれぞれ三枚がマンツーマン気味につけば(ベイリーを投入してトップを置く5-2-1-2に変更して以降)、CBがドリブルで持ち運びつつも空いている中央のスペースを使ってダイレクトプレーでテンポよく繋ぎ、マンツーマンを剥がしてプレス回避できるようになった。
映像を見てもわかるように、やはりMF(特に代わって入ったジョルジーニョ)の動きとそれに合わせたDFとFWの連携は絶妙で、カバーシャドーを使う相手に対して、降りてボールを引き出すのではなく、敢えて前に出てレイオフを使ってボールを受けることで、テンポ良くパスを繋いでいとも簡単にヴィラのプレッシングを剥がすことに成功し、そのままチャンスへと繋がることができていた。
CBを釣り出してからサイドへ展開し、その間のスライドのズレを活かして、2トップ vs 2CBの状況を作り、トドメの三点目を奪うことに成功した。
まとめ
結果として、3-0とチェルシーの完勝で幕を閉じた試合であったが、特に前半のヴィラは、合理的且つ段階的にチェルシーのビルドアップとプレッシングを封じ、決定機を作ることに成功していた。(個人的には、トュヘル就任以降、合理的且つ段階的にチェルシーのゴールへ迫ったのは、20/21シーズンPL35節のシティ以来、二チーム目のように思えたくらいのクオリティの高さだった。)
〔詳細は、20/21 CL決勝 チェルシー vs マンチェスター・シティ 戦術マッチプレビュー PL第35節 戦術レビュー に記載〕
それでも、流石は欧州王者チェルシー。
基本に忠実でそれを徹底的に落とし込んだ戦術とそれを相手のやり方によって柔軟に使い分けることができるだけでなく、プラスアルファとして、ルカク加入で益々個の能力の質で違いを作れるようになり、尚且つ、俯瞰で試合を分析し、課題をすぐに修正できるトュヘルとそれを忠実に再現できる選手が揃ったチェルシーは、今シーズンも他クラブより頭ひとつ抜けて非常に磐石な体制を築いている。
今シーズンも、CL、PLを含めて充分に三冠を狙えるクオリティのあるチームだが、果たして、全ての大会がチェルシー中心となって回っていくのか、それともどこか他のクラブがストップをかけるのか、今後もチェルシーから目が離せない。
9/15
EURO2020 決勝 イタリア vs イングランド 戦術マッチレビュー
イタリア・イングランドのスタイル
🇮🇹
🏴
両者の対策
🇮🇹 人を決めたプレッシング
イタリアは、グループステージのどの試合でも相手のビルドアップの陣形に合わせて、自分たちのプレッシングの陣形を決めており、基本的に3トップが前からハメに行くのだが、この試合も例外ではなく、ある程度人を決めたマンツーマンとゾーンの併用で守備を行っていた。
3バックに対して3トップが、2センターに対して2IHが付いてハメに行くようなかたちで、WBに対してはDFがボールサイド側にスライドするかたちのプレッシングを採用した。
(失点後にこのプレッシング方法を修正し、以降は〔イタリアの攻撃・イングランドの守備 ー 🇮🇹のビルドアップ・🏴のプレッシング と、両者の修正 ー 🇮🇹 スライド守備からゾーン守備へ〕に記載されているような守備をするようになった)
🏴より強固な守備と、3トップとWBでライン間と幅を使う攻撃ができる5-2-3のシステムを採用
守備から思考するサウスゲートは、恐らく、ボール保持を得意としているイタリアに対して、ある程度ボールを持たれることを想定してよりブロックを固めるという意図と、可変して前線5枚となるイタリアの攻撃に対して5バックで対応できるようにという意図で5-2-3のシステム採用したのだろう。
また、通常、攻撃時も可変せずに4-1-2-3のままの陣形でビルドアップを行うイングランドは、4バックのままのため後ろ重心且つSBとWGが幅を取るためサイド重心の外回りの攻撃配置となっているのだが、5-2-3のシステムにしたことで可変せずとも内側と外側のエリアに選手が配置されるようになり、幅とライン間を上手く使い分けて良いかたちで攻撃していた。
イタリアの攻撃・イングランドの守備
🇮🇹のビルドアップ・🏴のプレッシング
イタリアは、3-2-4-1の陣形でのビルドアップを採用した。
LSBエメルソンとRWGキエーザで幅を、LWGインシェーニとRIHバレッラでライン間を取るかたちであるので、いつも通り、外側、内側、中央のエリアに各選手の立ち位置が整理され(チームとしての配置)、尚且つ各選手の特性を活かして最適解を導き出す(個人としての配置)ことができており、幅とライン間を上手く使い分けて攻撃していた。
ただ一つ違ったのは、DFラインの背後に走ったり、ポストしたりして普段は深さを作るCFインモービレが、頻繁に相手2センターの間のスペースに降りてボールを引き出す動きも行っていた。
イングランドは、5-2-3の陣形でのミドルプレスを採用した。
基本的にフィリップスがヴェラッティを見て、3トップのうちの1人がジョルジーニョを見ながら牽制する、イタリアの5枚でのビルドアップに対して3トッププラスCHフィリップスの4枚で対応するかたちのプレッシングを行っていた。
🇮🇹のフィニッシュワーク・🏴のブロック
イタリアは、3-2-4-1の陣形のまま、攻撃を行った。
ビルドアップ時同様に幅とライン間を上手く使い分けながら攻撃するができていた。
また、世界最高レベルのパス精度を誇るボヌッチを起点として、そこから高精度のフィードや鋭いくさびの縦パスを送って、相手のブロックを崩し、チャンスを作り出していた。実際、ボヌッチはこの試合で18本のロングパスを送っている。(大会最多のGKサフォノフが1試合平均10本)
イングランドは、5-2-3の陣形のままのブロックを採用した。
基本的に両CBがあまり出ていかないので、5バックにしてはかなり後ろ重心の戦術を行っており、ライン間にポジショニングする選手(インシェーニとバレッラ)には基本的に中盤のライスとフィリップスがマンツーマン気味に付くようにしていた。
(フィリップスが前に出ていくと、ウォーカーがインシェーニを見るようなかたちにはなるが、付いていくようなかたちは取らず、マグワイアはライスがいるので基本的に出ていかない)
このため、2センターの間はかなり開いて中央のスペースは空いてしまうが、縦のラインをコンパクトにしてライン間を狭めることで対処できていた。
展開
イタリアは、試合の入りこそつまづいたものの、直ぐにビルドアップの配置を修正して、ボールを支配できるようになった。〔両者の修正 ー 🇮🇹 ヴェラッティを降ろすことでの改善と新たな問題 に記載〕
また、選手の能力的に他の強豪国と比べると少し劣るものの、戦術と配置が非常に洗礼されているイタリアは、サイドとライン間を使い分けながら、外からのクロスや、内からのパスワークなど、多彩な崩しのパターンから段階的にゴール前に迫ることができていた。
特に、インシェーニとバレッラにマンツーマン気味に付く相手中盤を利用して引き出し、チャンスを作ることができていた。
一方で、イングランドもイタリアの修正に対して、修正を行うも、徐々にボールを持たれる展開になってしまっていた。〔両者の修正 ー 🏴 ライスとウォーカーの役割を変更 に記載〕
しかし、これも恐らく念頭にあった展開で、今までもある程度相手にボールを持たれてもゴール前を固めることで失点を防いできており、この試合は5バックを採用したことでそれがより強固となった。
実際に、個の能力において勝るイングランドは最後のところで上手く対応できていた。
イングランドの攻撃・イタリアの守備
🏴のビルドアップ・🇮🇹のプレッシング
イングランドは、3-4-3の陣形でのビルドアップを採用した。
システムを5-2-3にしたことで可変せずとも内側と外側のエリアに選手が配置されるようになり、幅とライン間を上手く使い分けて良いかたちで攻撃していた。
また、グループステージでは、ある程度中央で構えさせる役割をさせられていたケインに、大会が進むにつれて、中盤まで降りたり、サイドに流れたりして自由にプレーさせる役割を与えたことで、彼の本来の良さが活きるようになってきたのだが、この試合でもテクニックとフィジカルを駆使した高いキープ力を持つケインがフォルス9の動きで降りることで、素早いトランジションと高い連動性でボールサイドに圧縮して激しくボールを奪いにくるイタリアのプレッシングを回避する起点となっていた。
イタリアは、4-1-4-1のミドルプレスと4-1-2-3から左肩上がりのハイプレスの併用を採用した。
通常は前からどんどんプレスをかけるイタリアだが〔両者の対策 ー 🇮🇹 人を決めたプレッシング に記載〕、失点後に4-3-3から4-1-4-1気味にプレッシング方法を変更し、ある程度ミドルサードで構えつつもしっかりとボールホルダーには圧力をかけ、奪いどころで前に出て行くようなハイプレスとミドルプレスの併用をベースとするようになり、GKを含めたビルドアップの時のみ攻撃時同様左肩上がりに可変して前からしっかりとハメに行くハイプレスをかけるようになった。
🏴のフィニッシュワーク・🇮🇹のブロック
イングランドは、3-4-3の陣形のまま、攻撃を行った。
ビルドアップ時同様に幅とライン間を上手く使い分けながら攻撃することができていた。
また、普段よりも3トップがかなり流動的で非常に良いかたちを作れていた。
ケインがフォルス9の役割を行うときは、マウントとスターリングがかなり中央にポジショニングして2トップとなるようなかたちを作り、ケインがCFの役割を行うときは、マウントとスターリングがライン間にポジショニングして2シャドーとなるようなかたちを作るので、どちらのパターンでも深さとライン間を有効的に活用できていた。
イタリアは、4-5-1の陣形のままのブロックを採用した。
基本的に、WGは相手バックラインにプレッシャーをかけつつ、状況に応じて深い位置まで下がって守備をするのだが、この試合は高い位置を取る相手WBを見るかたちで、相手バックラインにはIHが出て行ってしっかりとプレッシャーをかけていた。
展開
イングランドは、開始20分辺りまで、幅とライン間を使い分けられる5-2-3のシステムと、フォルス9のケインと3トップの流動性を活用することによって、試合のペースを握り、実際に得点を奪うことにも成功した。
プレス耐性の高いショーが落ち着いて相手のプレスを交わし、降りてくることでフリーとなっていたケインにパスを送る。フリーのケインは簡単にターンして前を向き、持ち前のとてもFWとは思えないような素晴らしい展開力と高いキック精度を活かして、幅を取っているWBトリッピアーへ展開する。矢印が前に向くと一気に前に出ていけるイングランドは、低い位置にいたケインやショーもゴール前に入り、エリア内に4枚入った。この時、異次元のスプリント力を兼ね備えているウォーカーが得意なプレーである低い位置から猛スピードでのオーバーラップを行って相手を引きつけている。この動きによって、高精度なクロスを送れるトリッピアーが、それほどプレッシャーがかからない状態で余裕を持って大外のショーへクロスを送り込むことができた。ショーのプレス耐性の高さと外からゴール前に入ってく推進力、ケインのフォルス9の動きからの展開、トリッピアーのクロス精度、ウォーカーのオーバーラップ、と各選手の長所を活かした素晴らしいゴールを決めることができた。
その後は、イタリアの修正によってボールを保持できない時間も長かったが、整備された配置と高い個の能力を活かしてチャンスを作り出すことができていた。
両者の修正
🇮🇹 スライド守備からゾーン守備へ
イタリアは、基本的に中央のスペースを消して、ボールを外回りにさせ、ボールをサイドに追い込むと、全体がボールサイドにスライドし、圧縮してボールを奪うような連動性の高い守備を行う。
FWが前から積極的にプレスをかけ、MFが中央のスペースやパスコースを消しながらスライドし、ボールサイドのWGがプレスバックすることで、ボールホルダーを囲い込み、DFラインは逆サイドのSBが大外を捨てて絞り、CBがスライドして、ボールサイドのSBが前に出て行くかたちで3バックを形成する守備方法であり、この試合もキックオフ直後はそのような守備を行っていた。
しかし、サイドに圧縮する守備をしても、非常に個人の能力が高いイングランドの選手たちに剥がされてしまったり、降りてくるケインを起点に逆サイドまで展開されてしまったりする場面が多く、中々思うようにプレスがハマらないどころか大外を使われて、ピンチとなってしまうようなシーンもあり、実際にそこから失点を喫してしまった。
そこでマンチーニは、失点後に4-3-3から4-1-4-1気味にプレッシング方法を変更し、後ろはそこまでスライドせずに4バックを残すかたちに修正した。
ある程度ミドルサードで構えつつもしっかりとボールホルダーには圧力をかけ、奪いどころで前に出て行くようなハイプレスとミドルプレスの併用をベースとするようになり、GKを含めたビルドアップの時のみ攻撃時同様左肩上がりに可変して前からしっかりとハメに行くハイプレスをかけるようになった。
🇮🇹 ヴェラッティを降ろすことでの改善と新たな問題
マンチーニは、ジョルジーニョが負傷したときのブレイク辺りからヴェラッティを明らかにDFラインまで下ろす4-1-4-1の陣形に修正した。(それまでも状況に応じてヴェラッティが降りてビルドアップを助けていたが、基本的に降りて4バックを形成するようにした)
4バックにすることで相手3トップに対して、数的優位の状況を作り、外から攻撃を仕掛けるようにしたのだ。
基本的にイングランドの3トップは内側を締めているので、サイドに開いて幅を取ったキエッリーニとディ・ロレンツォのところを使って、中央から外側へ、外側から内側にボールを送り込んだり、彼らがドリブルで持ち上がったりして、ボールを前進させるようにした。
また、相手WGがサイドにキエッリーニやディ・ロレンツォを気にして外側に開くと、FWラインのゲートが広がるので、DFラインから一気にライン間にポジションを取る選手へ縦パスを送って、ボールを前進させることができるようになるのだ。
イングランドは、CHフィリップスが、プレッシング時はヴェラッティを見ながら前に出て行き、ブロック時になるとライン間にポジショニングするインシェーニ(途中からキエーザ)にマンツーマン気味で付くというように二つの役割を与えていたので、特に、フィリップスを引き出してから彼に戻る時間を与えないように左のハーフスペースへ一発でパスを差し込んで崩すシーンも目立った。
更には、オフェンシブサードに入ると、キエッリーニとディ・ロレンツォも高い位置を取って、カットインのサポートをしたり、クロスを上げたりして攻撃に参加した。
この修正までは、ある程度イングランドにボールを持たれ、完全にペースを掴まれていたイタリアであったが、修正以降は、ボールを保持して自分たちのペースに引き込むことに成功した。(25分までの支配率53% → それ以降90分までの支配率71%)
ただ、この修正にはデメリットもあった。
メリットは、後ろで数的優位を作ってボールを保持し、中を固める相手に外から攻撃を仕掛けられることであったが、逆に言えば、後ろ重心且つサイド重心になってしまい、外回りの攻撃配置となってしまうということでもある。
確かに、3トップのイングランドに対して、4バックで数的優位を作ることは理にかなっているが、ヴェラッティを下ろすということは中盤がジョルジーニョ一枚になるというふうにも捉えられる。
背中で消すとはいえ、3枚(マウント、ケイン、スターリング)で1枚(ジョルジーニョ)抑えるのは容易であるので、かなり3トップの背後のスペースにボールが入りづらくなり、FWラインを越えるのが難しくなってしまった。
また、外側と内側のスペースを使い分けるのがイタリアの強みである一方で、サイド to サイドの揺さぶり(外側から外側のスペースを使うの)はあまり得意では無い。そのため、展開するには中盤を経由していたのだが、ジョルジーニョが消されてしまっているので、イングランドの5バックに対して同サイドでの攻撃が多く、中々崩すことができなかった。(イングランドは3バックに対して、3トップをハメに来ていたわけではなかったので、足元の技術が高い後ろ3枚であれば、パスを繋ぐことは十分可能であっただろうし、プレス耐性が高いヴェラッティとジョルジーニョであればFWラインの背後で引き出してボールを捌くことは可能であるはず。)実際にヴェラッティが降りずに3バックになっていたときはCHフィリップスにマークの迷いを与え、チェックを後手にさせたことで、段階的に崩すことにも成功している。
フィニッシュワークよりもまずはビルドアップに重点を置いた采配であったが、ボールを保持することで、イングランドの攻撃を抑え、セットプレーからゴールを奪って結果的に同点にすることに成功した。
(ここからは推測に過ぎないが、あくまでまず、ボールを保持して自分たちのペースを掴むことに専念し、更に深い時間帯になってもゴールが奪えなかった場合は、より攻撃的にシフトしたはずだろう。)
🏴 ライスとウォーカーの役割を変更
プレッシング時は、ライスも前に出て相手2センターをフィリップスと共に抑えに行っていたのだが、ヴェラッティがDFラインに降りるようになったことで、ライスはバレッラに付いて、ウォーカーが少し前に出てインシェーニを見るように役割が修正された。(ウォーカーはインシェーニに対してマンツーマンではなく、あくまで見てるかたち)
🇮🇹 よりライン間を活かすため0トップを採用
点を取らなければならないイタリアのマンチーニは、55分と割と早い時間にエースのインモービレとバレッラを下げて、ベラルディとクリスタンテを投入し、インシェーニをSTとした。
このマンチーニの交代の意図は、自由に動きながらフォルス9の役割で相手2センター間のスペースを有効に使いつつ、ダイアゴナルに走り込んだり、二列目から飛び出したりするオーソドックスな0トップ戦術でゴールに迫ることである。
そのため、前半に不慣れなフォルス9の役割もこなしていたインモービレとマンツーマン気味のマークに苦しんでいたバレッラを下げて、サイドでは幅を取りつつもダイアゴナルに走り込むのがベラルディとより前に飛び出していけるクリスタンテを投入し、ライン間でボールを引き出すのが得意なインシェーニを0トップとして起用したのだ。
この作戦によってインシェーニは、フリーでボールを受けてそこから仕掛けたり、パスを出したりすることができるようになり、イングランドがそれを嫌がれば、中々引き出すことのできなかった3バックを釣り出すことができるようになるのである。
ボールこそ保持するものの、中々エリア内で決定機を作ることができていなかったイタリアは、この修正によって、押し込んだ状況からより深いエリアまで侵入してチャンスを作れるようになった。
🏴 攻撃的なシステムへの変更とそれに伴った守備面の改善
ボールこそ保持されていたものの、最後のところでは守れていたイングランドだが、67分にCKから失点を喫してしまった。
そこでサウスゲートは、失点直後にサカとヘンダーソンを投入し、通常のシステムである4-1-2-3に陣形を変更して、より攻めに出てゴールを奪いに行く姿勢を見せた。
ただ、普段の4-1-2-3とは異なり、WGは5-2-3の名残りを残したままシャドーのように内側にポジションを取り、ヘンダーソンとフィリップスがサポートする4-1-2-3のようなかたちのビルドアップと、フィリップスと2CBでバランスを取って、SBがWB時のように前に出て幅を取り、内側をIHとWGで使う2-1-4-3のようなかたちのフィニッシュワークの陣形にしたことで、引き続き、幅とライン間を使って良いかたちで攻撃することができていた。
その後、更にグリーリッシュを投入し、サカをIHとする4-1-2-3にしたことで、より攻撃的となり、チャンスを作り出した。
ビルドアップのかたちこそ、整理されていなかったのだが、ポジショニングが適切でオフザボールの能力が高いIHのサカとヘンダーソンが降りたり、WGが相手SBピン留めをしている手前のスペースに流れたりしてビルドアップをサポートすることで、再びボールを保持して試合のペースを掴めるようになった。
一方で、守備面では、通常4-1-2-3気味の陣形で守るイングランドは相手にある程度ボールを持たせるミドルプレスが基本であるので、FW、MF、DFの各ラインが若干間延びして、3枚のFWラインと2枚のIHラインをすり抜けて中盤の脇や間のスペースにポジションを取る選手へ縦パスを差し込まれてしまったり、奪いどころを決めた連動性の高い守備ができずにズルズル下がってしまったりすることが多かった。(それでもゴール前をしっかりと固めて数をかけたり、個の能力が高いのでマンパワーで対応したりして、守り切っていた)
しかし、この試合は、システム変更後に4-1-2-3の陣形での守備にするのではなく、4-1-4-1の陣形での守備をするように修正した。
この陣形でも、4枚のMFラインをすり抜けて中盤の脇や間のスペースにポジションを取る選手へ縦パスを差し込まれてしまう危険はあるのだが、両IHが出て行くことでそれを防いだ。
どういうことかというと、IHが出て行くのでイタリアの4バックに対して4枚となり、マークが明確となることでプレスがハマり、それほど相手に自由を与えないことに成功したのだが、この相手自由を与えないことと、IHが出て行ってパスコースを遮断することで、そもそも縦パスを差し込ませないようにして、簡単にボールを前進させない状況を作ったのである。
🇮🇹 イングランドの変更に対するイタリアの修正
勿論、名将マンチーニがこのまま黙っていたわけでは無い。
まずは、プレッシング方法を直ぐに改善した。
マンチーニは、4バックに対して4-4-2気味の陣形で前からハメに行くハイプレスと、4-3-3の陣形のまま相手中盤をマンツーマン気味に捕まえに行くミドルプレスを併用するように修正し、これによってイタリアは積極的にボールを奪いに行くようになった。
また、延長戦直前にベロッティ、直後にロカテッリを投入し、攻撃面にも修正を図った。
システムを変更したわけでは無く、同じポジションの選手同士の交代であったが、この交代は非常に大きな効果をもたらした。
ロカテッリをヴェラッティのようにDFラインまで下げさせず、3-2-4-1の陣形を保ったままのかたちにしたのである。
そのため、ライン間にポジションを取るベルナルデスキとクリスタンテが空いてくるようになり、そこへどんどん縦パスが入るようになった。このとき、1トップにはフォルス9タイプのインシェーニやベルナルデスキよりも、DFを引っ張ったりストライカーの仕事をしたりできるCFタイプのベロッティの方が向いているのは当然であり、彼によってよりライン間のベルナルデスキとクリスタンテが活きるようになる。
イングランドとしては、両IHはロカテッリとジョルジーニョを見ることになるので、3枚のFWラインと2枚のIHラインをすり抜けて中盤の脇や間のスペースにポジションを取る選手へ縦パスを差し込まれるようになってしまい、イングランドの良くない守備ブロックの穴を突かれるような状況を作られてしまったことで、最後はかなり崩される場面もあったが、なんとかPK戦まで持ち込んだ。
まとめ
今大会も様々な波乱やドラマがあった中で、伝統的な守備スタイルと新たな攻撃スタイルの融合に成功したイタリアと、守備を重視して攻撃は前線の個人の能力に利用したイングランドが決勝に進出し、PK戦の末、イタリアの優勝で EURO2020 は幕を閉じた。
あまり戦術的な采配が見られず、サウスゲートへの批判もあった中で、決勝戦ではシステムの変更や試合中の修正など見事な采配をとったが、あと一歩及ばなかった。
一方で、クラブチームレベルに落とし込まれた戦術とチーム完成度の高さを誇ったイタリアは、53年ぶりに欧州制覇をすることができた。
このイタリアの優勝は、今まで代表クラブではあまり取り入れられてこなかった戦術というものを、導入する今後のトレンドの始まりであるのかもしれない。
若くタレントが揃ったイングランドと、戦術レベルの高いイタリアを中心に、来年に控えたW杯に向けて、各チームが一年間かけてどのような進化をしていくのかますます楽しみである。
2021/07/15