21/22シーズンの戦い方はこうだ!! プレミアBIG6戦術ガイド 〜チェルシー編〜
チェルシーの現状
負傷者が多く出てしまったこともあって、直近のPLとCLで二連敗を喫してしまったものの、その強さは相変わらずで、PLでは選手をかなりローテーションしつつも首位をキープしている。
チェルシーのスタイル
チェルシーは、基本に忠実でその基本を徹底的に落とし込んだ戦術とそれを相手のやり方によって柔軟に使い分けることができる(配置的優位)だけでなく、プラスアルファとして、ルカクの加入もあってますます個の能力でも打開できる(質的優位)ようになった。更に、俯瞰で試合を分析し、課題をすぐにできるトュヘル(修正力)とそれを忠実にピッチ上で再現できる選手(実行力)が揃ってる。
このように、攻守共に配置的優位性をベースとするが、それに質的優位性も伴っており、合理的且つ段階的なプレーとポジショニングを武器とするチームである。
攻撃
- 3バック
→ 2センターを経由して繋ぎつつ、ロングボールやドリブルで局面を変える
- 2センター
→ 相手FWラインの背後でパスコースの角度を増やし、ボールを引き出す
- WB
→ 高い位置で幅を取る
- WG : シャドー化して自由に動く
→ 内側に入ってライン間でボールを引き出す
- CF
→ 背後へのランニングで深さを作りつつ、相手を背負ってポストしたり、流れて起点を作ったりする
守備
- FW(3トップ) : カバーシャドーを使いつつ、ボールホルダーへ圧力 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消しながら奪いに行く → サイドへ誘導
- MF(2センター) : 相手中盤選手を牽制 (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 中央のスペースを消す → スライドしてボールサイドに圧縮
- DF(5バック) : それぞれが相手前線選手に付く (ゾーンとマンツーマンの併用)
→ 対人守備
ビルドアップ / 3-2-4-1
チェルシーのビルドアップの陣形は、3-2-4-1である。
3バックと2センターで組み立てて、WBで幅、シャドーがライン間、CFが深さを取る配置となり、2センターを経由しながら、幅も使って、相手守備ラインの間、間でパスを繋ぐスタイルである。
・ミドルプレスを採用する相手の場合
前述したように、基本的には2センターを経由しながらビルドアップを行うが、2センターが相手によって消されている状況では、ロングパス(特にチアゴ・シウバ)とドリブル(特にリュディガー)が得意である3バックが、ロングボールを使った大きな展開と相手FWラインの脇のスペースへドリブルでの持ち運びを組み合わせてボールを前進させる。
CBから幅を取るWB(時には深さを作るシャドーやCF)へロングボールを使った大きな展開をすることで、相手の陣形を揺さぶってスライドの遅れからブロックにギャップを作ることができ(サイドからの侵入)、相手FWラインの脇のスペースをCBがドリブルで持ち運ぶことによって、相手MFラインの判断やポジショニングを迷わすことができる(中央からの侵入)。
CBがロングボールを使って展開することで、スライドする相手のブロックを揺さぶって、ズレを作ってパスを通したり、大外や相手DFライン背後のスペースまで一気にボールを送ったりしてフィニッシュワークへ繋げる。(→人を意識した守備により有効)
CBがドリブルで持ち運ぶことで、相手選手(特に対峙するWG or SH)の動きによって、シャドーを使った内経由(CB→内→外)のビルドアップと、WBを使った外経由(CB→外→内)のビルドアップを臨機応変に使い分けてフィニッシュワークへ繋げる。(→スペースを意識した守備により有効)
このときボールサイド圧縮する相手には、もう一度振り直して相手ブロックを拡張させ、ライン間にくさびのパスを差し込んだり、敢えて狭まっているゲートを通して相手ブロックを収縮させ、大外へパスを振ったりして自らスペースを作り、ボールを前進させる。
・ハイプレスを採用する相手の場合
メンディーを含めた3バック又は4バックの配置(右肩上がりになることが多い)となるが、基本的にはチェルシーのビルドアップの原則のもと整理された配置でプレス回避し、ボールを前進させる。
ハイプレスを採用する相手は中央を封鎖していることが殆どのため、GKを使って数的優位の状況を作り、外(WB)が起点となってシャドー(WG)を活かす組み立てが多い。
メンディーが頭越しのパスで直接WBへ送ったり(GK→WB)、メンディーからマークに付かれているがワンタッチでなら経由可能なCHを使ってWBへ送ったり(GK→CH→WB)して、外から相手のプレスを回避する。
・応用
このようなビルドアップが基本パターンだが、一見すると配置が悪くなったように見えるような敢えてWBやCHがポジショニングを変える応用パターンも持ち合わせている。
相手SBがジャンプしてWBを捕まえにくる場合、WBが敢えて低い位置を取ることでプレスがハマったかたちとなるが、相手SBを釣り出してその裏のスペースにシャドーが流れることで疑似カウンターへ繋げることに成功。
また、敢えて高い位置を取ることでWBへのパスコースは無くなるかたちとなるが、WBで相手SBをピン留めでき、空いているスペースにシャドーが降りることで中央でフリーを作ることに成功。
相手がカバーシャドーを使って中盤を消しにくる場合、背中で消されている選手はDFラインまで降りずに敢えて前に出て行くことで組み立てをサポートできなくなってしまうが、その後レイオフを使って受けることでプレスを回避してフリーで前を向ける状態を作ることに成功。
相手が中盤をマンマーク気味で消しにくる場合、中盤の選手が敢えて広がることでCBからのパスコースはなくなってしまうが、相手中盤を釣り出すことができ、中盤を省略してCF(ルカク)へパスを通すことに成功。
サイドで幅を取るタイプのWGを起用された場合、配置としては変わらないものの、WGが幅を取って、WBが外から内側に入ってくる普段とは逆のポジショニングとなるので、相手マークを惑わせたり、突破力のあるWGが外から仕掛けたりすることができるようになる。
チェルシーは、このように相手へ常に選択を迫るような先手を打ち、相手の対応の仕方に応じて更にその上をいく二手目を打つ。
特に顕著に現れるのは、前述したような相手がハイプレスの場合やミラーシステムの場合など、マンツーマン気味になりやすいときである。例えば、相手CBが出て来たら脅威となるCF(ルカク or ヴェルナー)が広大なスペースで一対一の状況を作れ、相手CBが出てこなければシャドーがフリーで持ち運ぶことができる、後ろ重心の相手には低いエリアでの優位性(2トップに対して3バック)を活かし、前重心の相手には高いエリアでの優位性(前線は広いスペース中で五対五の状況)を活かすなど、どちらを選択されてもその弱点を突いて優位性を作るという基本的なことを監督と選手が瞬時に判断し、プレーで実行する。
・例外(5-3-2)
ときに、5-3-2のシステムを採用している場合は、3-2-4-1の陣形ではなく、3-1-4-2の陣形となり、3バックとアンカーで組み立てて、WBで幅、2トップで深さを取る配置となる。
状況に応じてDFラインに降りてビルドアップをサポートしたり、ハーフスペースへ出て行って攻撃参加したりする2IHと、パワーにスピードと破壊力抜群の2トップ(特にカウンター時)の役割が重要となるかたちであるので、3-2-4-1と比べると配置的に悪くなる場合もあるが、その分自由度が高く、選手個人の能力をより活かす陣形である。
フィニッシュワーク / 3-2-5
チェルシーのフィニッシュワークは、ビルドアップ時同様に選手配置を整理して内(ライン間)、外(幅)、中央(深さ)を上手く使い、合理的且つ段階的に崩すスタイルである。
基本的に、WBで外、シャドーで内、CFで中央にポジショニングする配置で、縦横ピッチを広く使って攻撃する。
横は、ボールを外から内、内から外に出し入れすることで相手ブロックを揺さぶって、相手陣形を狭めさせて幅を使い、相手陣形を広げさせてゲート間を使うことを徹底する。
縦は、FW3枚(WBを含めた5枚)が手前のスペースへ降りる動き、背後のスペースへ抜ける動きをすることで相手最終ラインを混乱させて、相手陣形を狭めさせて背後を使い、相手陣形を広げさせてライン間を使うことを徹底する。
このように横幅を使ったゲートの収縮、拡張と縦幅を使ったライン間の収縮、拡張で相手ブロックに綻びを作り出し、そこを逃さずに突いてゴールに迫る。
また、最後はWBが大外から入ってきてエリア内の枚数に厚みを持たせるので、クロスからの得点パターンも多い。(アロンソ、チルウェル、アスピリクエタはクロスに合わせるのも非常に得意)、(ルカクが加わったことで枚数が足りなくても彼が相手を引きつけたり、彼へシンプルに放り込んだりできるように)
更には、崩しきれなくても、リーグ最多得点を誇るセットプレーで最終的にゴールをこじ開けることができるのも強さの要因の一つである。(キッカー : マウント、ジェームズ、チルウェル、アロンソ、ツィエフなど ヘッダー : チアゴシウバ、リュディガー、ハヴァーツ、ルカク、ロフタスチークなど)
ただ、常に相手陣内深くでボール保持して攻撃し続けるというよりは、デザインされたビルドアップの流れからそのままゴールへ迫ることも多い。実際データで見ても、オフェンシブサードでのアクション割合はリーグ20チーム中16位の26%と、首位のクラブとしては低い割合となっている。
※PLのデータ(10/2時点)
プレッシング / 5-3-2 or 5-2-3 or 5-2-1-2
チェルシーのプレッシングは、ハイプレスとミドルプレスの併用であり、相手のビルドアップ陣形に合わせて、三通りのスタイルを変幻自在に変えることができる。
どの陣形でも基本的には、中を締めつつ後ろから人を捕まえ、ボールサイドに圧縮するスタイルである。
・5-3-2 (相手に応じて5-1-2-2)
マウント or ツィエフがIH化、それに連動してジョルジーニョがAC化して3センターとなる陣形である。両IHが相手中盤をそれぞれ捕まえるかたちと2トップがカバーシャドーで相手ACを消するかたちで中を締め、2トップがボールホルダーの相手CBを牽制する。
このようにしてボールをサイドに誘導。2トップが相手ACをカバーシャドーで消しながらプレスをかけられる場合は、そのままどちらかが出て行き、2トップが出て行けない場合は、IHが自分のマークをカバーシャドーで消しながら前に出て行き、それに連動してACが出て行くような中盤が縦スライドするかたちでボールサイドに圧縮する。
・5-2-3
攻撃時と同じそのままの陣形である。2センターが相手中盤をそれぞれ捕まえるかたちと、3トップがカバーシャドーで背後のスペースを消すかたちで中を締め、3トップがボールホルダーの相手CBを牽制する。
このようにしてボールをサイドに誘導。3トップがカバーシャドーでライン間のスペースを消しつつ、CBが出て行って見るかたちでボールサイドに圧縮する。
・5-2-1-2
マウント or ツィエフがトップ下化し、中盤が三角形となる陣形である。中盤3枚が三角形となり、逆三角形の相手中盤をそれぞれ捕まえるかたちで中を締め、2トップがボールホルダーの相手CBにプレスをかける。
このようにしてボールをサイドに誘導。2トップがどちらかのサイドへ限定しながらプレスをかけ、WBが相手SBまでジャンプして出て行くかたちでボールサイドに圧縮する。
チェルシーは、このように後ろから各選手が人を捕まえつつ、時にはカバーシャドーも使って、サイドへ誘導し、近くの選手を消してボールサイドに圧縮することに非常に優れている。また、DFからFWまでが連動して縦スライドと横スライドを徹底することで、相手の揺さぶりや持ち運びに対しても上手く対応することができる。
ブロック/ 5-3-2 or 5-4-1
チェルシーのブロックの陣形は、大きく分けて二通りある。
WGがIH化し、縦スライドと横スライドを連動させた5-3-2、両WGが下がって中盤化し、リトリート気味となる5-4-1(状況に応じて5-2-3)のどちらの陣形でも、プレッシング時同様に中を締めつつ後ろから人を捕まえつつ、スペースも意識するマンツーマンとゾーンの併用でボールサイドに圧縮するスタイルである。
人を意識するため持ち場のスペースを離れて積極的に出て行くこともある(特に両ワイドCB)が、その分はMFライン(3センター又は中盤4枚)とDFライン(5バック)が縦横にスライドしてカバーすることで、スペースを消し、ゴールを守る。
チェルシーの特徴
ストロングポイント
- 基本に忠実だが、落とし込まれた戦術
→ 攻撃と守備の原則や戦術のディティールがはっきりしている
- 配置的優位と質的優位
→ 3バックと2センター中心の組み立て、幅、ライン間、深さを取れた陣形とそれぞれの役割に適した選手配置となっている
→ 身体能力に優れた選手や技術に優れた選手が瞬間的な個人の能力によって状況を打開することができる
- 修正力と実行力
→ 順調でない状況(プレスがハマらない、ビルドアップが上手くできないなど)となると、選手交代だけでなく、システム変更、選手の細かな立ち位置の変更、スタイルの変更などでも迅速に修正
→ トュヘルが行った修正に対して
- 相手に合わせた対応力
→ 後ろ重心のプレスには低いエリアでの優位性(2トップの相手に対して3バックなど)、前重心のプレスには高いエリアでの優位性(前線の広いスペース中で五対五の状況など)といった具合に相手の出方に応じて変化させられる
- 攻守のバランス
→ ボール保持と非保持どちらでも非常に高いクオリティを兼ね備えているので、相手や時間帯によってスタイルを変えることが可能
ウィークポイント
強いて挙げるとするならばというポイント(主だったウィークポイントは特に無い)
- 瞬間的に剥がされたときの対応
→ 後ろも人を余らせずに同数で守ったり、CBが積極的に出て行ったりと前がかりな守備を行うので、瞬間的な入れ替わりで剥がされてしまうと、一気に不利な状況となってしまう(基本的にこのような状況にはならず、なってしまったとしても不利な状況下で上手く対応できている)
→ ジョルジーニョを余らせてカバーリングをさせるかたちもあるが、相手中盤選手をマンツーマンで捕まえに行った状況や対人守備となる状況で、瞬間的に剥がされる
→ 一瞬のスプリントや空中戦で劣勢になる(二人とも非常に賢い選手なので、弱みを出さないようなポジショニングで対応している)
課題
主だった課題は特に無し
まとめ
徹底された戦術と能力の高い選手を兼ね備え、相手によって柔軟にスタイルを変えることができるチェルシーは他クラブより頭ひとつ抜けていたのだが、そこへ移籍で新加入選手が加わったことで今シーズンはまた一段と磐石な体制を築いている。
5節のアストンヴィラのように、今後はますます欧州王者相手に対策を施してくるチームも増えるだろうが、それに対して修正と実行で合理的且つ段階的に崩すことも、個人の能力で瞬間的に崩すこともできるので、やはりチェルシーが一枚上手のように思える。
また、スカッドも厚いので負傷者が出てしまったとしても、変わって入った選手が穴を埋めるどころか1stチョイスの選手以上の働きをすることもあるので、現状、弱点や課題が見当たらないが、果たしてこの抜けのないチェルシーを止めるクラブが現れるのか、はたまた全てのコンペティションがチェルシー中心で回っていくのか、今後もチェルシーから目が離せなそうだ。
9/26