EURO2020 10分でわかるイタリア🇮🇹の簡単戦術 〜伝統的な守備スタイルと現代的な攻撃スタイルの融合〜
イタリアの現状
アッズーリは、グループAを三戦全勝の無傷で首位で突破しており、ラウンド16ではオーストリアとの対戦を控えている。
他の強豪国のスカッドと比べると、選手の能力や知名度に若干見劣りを感じるかもしれないが、名将マンチーニの下で非常に洗礼された戦術を使いこなし、個人的にチーム完成度の高さは出場24カ国の中でもずば抜けていて、クラブチームレベルに落として込まれていると考えている。
実際に、ウェールズに勝利したことで、同代表記録の30試合連続無敗に並んでいる。
イタリアのスタイル
イタリアといえば、伝統的なカテナチオをベースに堅守なスタイルのイメージを持つ人も多いだろうが、マンチーニが就任以降は、ポジショナルプレーを取り入れたことで、選手の特性を活かしつつも配置が整理された非常に攻撃的なスタイルのサッカーを行っている。
しかし、決して守備が脆くなったということではなく、グループステージ3試合を含め、直近10試合連続無失点と、堅守にも定評がある。(グループステージ全試合無失点は、イングランドとイタリアのみ)
つまり、アッズーリは、伝統的な守備スタイルと、新たな攻撃スタイルの融合に成功したチームといえる。
イタリアの戦術
システムは、基本的に4-3-3を採用している。
イタリアのスタイルにおける最大の特徴は、選手を適材適所に配置した攻撃と、ボールを失っても即時奪回をする非常に早いトランジションとそれに連動したスライド守備である。
配置
イタリアは、システム可変によって、外側、内側、そして中央のエリアを整理して選手を配置するチームとしての配置と、システム可変によって各選手の特性(外側で張ってプレーすることが得意な選手、内側でプレーすることが得意な選手、中央でプレーすることが得意な選手など)を活かして最適解を導き出す個人としての配置のバランスが非常に良い。(→選手を適材適所に配置した攻撃)
チームとしての配置
- 3-2-4-1の陣形を形成
→ 外側(幅)、内側(ライン間)、中央(深さ)のどれもを取れる配置となる。
個人としての配置
- 外側でプレーする選手 : スピナッツォーラ・ベラルディ
→ 幅を取ったところからドリブル突破してクロスを上げることができたり、カットインシュートを打てたりする
- 内側でプレーする選手 : インシェーニ・バレッラ
→ オフザボールが非常に優れ、ライン間で上手くボールを引き出してからドリブル、パス、シュート全てを高いレベルでこなせる
- 中央でプレーする選手 : インモービレ
→ 裏を狙ったり、ポストしたりするプレーで深さを作りつつ、優れたシュートテクニックで当然ストライカーの仕事もこなすことができる
ビルドアップ
ビルドアップ時は、左肩上がりに可変して3-2-4-1のかたちとなるのが基本である。
左サイドは、LSBスピナッツォーラが前に出て高い位置で幅を取り、LWGインシェーニが内側に入ってライン間にポジションを取るかたちとなる。
一方で、右サイドは、RSBフロレンツィが下がって3バックの一角となり、RWGベラルディが幅を取り、RIHバレッラ少し前に出てライン間にポジションを取るかたちとなる。
(ライン間にポジションを取るインシェーニとバレッラは、割と自由に動いてボールを引き出す。)
そして、サイドのスペースに流れるプレーも得意なインモービレが、代表チームではある程度中央に構えて、ゴールゲッターとしての役割を行いつつ、DFラインの背後を狙うような走りをみせる。
また、ロカテッリが、その時の状況に応じてポジションを変えて、ビルドアップをサポートする。
例えば、3バックに対して相手が3トップで前からプレスをかける場合は、DFラインまで降りて4バックにすることで数的優位を作ったりもするし、3バックに対して相手が強くプレスに来ない場合は、少し前に出てライン間に入り、前線に厚みを持たせたりもする。
グループステージでは、常にハイプレスを続けるチームがいなかったので、ミドルサードやオフェンシブサードでのボール保持が殆どで、ディフェンシブサードでGKを含めたビルドアップはあまり見られなかったが、同様にキエッリーニがサイドに出てスピナッツォーラが高い位置を取る左肩上がりの陣形となる。
また、状況に応じて、IHが瞬間的にACジョルジーニョの脇まで降りてサポートする。
フィニッシュワーク
フィニッシュワーク時も同様に、左肩上がりに可変して3-2-4-1のかたちとなるのが基本である。
配置が整っているので、サイドとライン間を使い分けながら、外からのクロスや、内からのパスワークなど、崩す選択肢がとても多彩である。
キエッリーニとボヌッチは、CBにおける攻撃センスが抜群であり、鋭い縦パスや正確なロングフィード、ドリブルでの持ち運びなどで、後ろから組み立てるイタリアの攻撃を支えているが、それだけではなく、オフェンシブサードでは3バックの一角が前に出ていくようにチームとしてのデザインされている。
こうすることで、ボールホルダーに対して横や斜め前にポジショニングすることができ、攻撃の選択肢を増やす役割を果たしている。
(中央を閉じられていて中々ライン間にボールを差し込めなくても、3バックの一角が出て行って、角度作ることで、パスコースができるようになる。パスだけではなく、右のフロレンツィの場合は、そこから本職であるSBとしてオーバーラップしてクロスを上げたり、ベラルディのカットインをサポートしたりできるし、左のキエッリーニの場合は、より深い位置まで相手を押し込むために更にドリブルで持ち運んだりする。)
特にキエッリーニは、この役割を非常に上手くこなせているのだが、キエッリーニほどではないにしても控えのアチェルビやバストーニ、トロイが出場したときにもこの役割を行っていたので、このかたちをしっかりチームとしてデザインし、それを落とし込めていることが窺える。
ただし、イタリアの得点パターンは、これだけではない。
狭いスペースでもコンビネーションや意外性の高いパスワークや、早いトランジションからのショートカウンター、後ろからどんどん選手が追い越していくロングカウンター、一発でDFラインの背後にボールを送り込めるロングフィード、インシェーニやバレッラ、ロカテッリなどが得意とするボックス外からのミドルシュート、トーナメントにおいて重要となるセットプレーなど、多彩な得点パターンを持つのもイタリアの強みである。
このようなかたちを駆使しても中々崩さないときは、ベラルディ(キエーザ)が、逆サイドからダイアゴナルに走り込んで、ボールサイドまで流れたり、ロカテッリが高い位置まで出て行ったりして、左サイドにに人数をかけて、厚みのある攻撃も行うことがある。
何度も述べているようにイタリアは、基本的に攻撃時はチームとしての配置が3-2-4-1の陣形と決まっている。そんな中で、ある程度各ポジションの同じ役割をできる選手が揃っているので、システムや配置を変更せずに個人としての配置も最適解になることも強みの一つである。
プレッシング
プレッシングは、ハイプレスを採用しており、相手のビルドアップの陣形に応じて守備の配置を変えるが、大まかに分けると3トップの陣形のままのプレスと、IHのロカテッリかバレッラが前に出て2トップの陣形となるプレスが基本である。
ただ、どの陣形でも相手中盤の選手には若干マンツーマン気味で人を捕まえるように付いて、中央を経由させないようにするということは変わらない。
同様に中央を締めるためにWGも内側に絞って中盤脇のスペースを背中で消しながらプレスをかける。
また、DFラインは割と高く設定することで、MFラインとの距離が開いて間延びすることがないようにしている。
このように、中央のスペースを消して、ボールを外回りにさせ、サイドに追い込んでボールを奪う連動性の高い守備を行うのが非常に上手である。(グループステージ無失点の原動)
ミドルサードでもオフェンシブサードと同様に、中央のスペースを消しながら前から積極的にプレスをかける。
そして、ボールをサイドに追い込むと、全体がボールサイドにスライドし、圧縮してボールを奪う。
DFラインは、逆サイドのSBが大外を捨てて絞り、CBがスライドして、ボールサイドのSBが前に出て行くかたちで3バックを形成する。
MFが中央のスペースやパスコースを消しながらスライドし、ボールサイドのWGがプレスバックすることで、ボールホルダーを囲い込む守備を行う。
ブロック
ブロック時は、4-5-1又は4-1-4-1のブロックを形成するのが基本である。
プレッシング時同様に中央のスペースを消すので、幅をコンパクトにして守り、状況に応じてWGも深い位置まで下がって守備を行う。
また、スイス戦のように5トップになる相手に対して、トロイを投入して5バックに変更して、少し早い段階から試合を締めるような采配も行う。
しかし、同時に快速のキエーザを投入して守備を固めつつもカウンターを狙う姿勢を見せたことで、殴られ続けられずにさらに追加点を奪うことにも成功している。
イタリアの弱点・課題
弱点
※ 代表チームとは思えないくらいチーム完成度が高いこともあって、基本的に大きな弱点は見当たらないので、強いていうならという点を二つ挙げることに
- 守備時において、空いてしまうスペースへの対応
イタリアの守備は、DFラインを高く設定し、大外を捨ててボールサイドに圧縮するかたちの守備を行う。
(詳細は上記の〔イタリアの戦術 ー プレッシング〕に記載)
そのため、逆サイドの大外のスペースや、ハイラインの裏のスペースはどうしても空いてしまう。
ボールサイドへの囲い込みや展開された時のスライドが非常に早く、選手の連動性も高いので、基本的にはそのスペースを使わせないような守備ができているのだが、それでもスイス戦では5トップの大外のWBからチャンスを作られてしまった場面も見られた。(その後、5バックに修正して対処)
イタリアは、CB陣に非常に優れた選手を揃えているが、スピードがある選手は殆どいないので、ハイラインの裏の広大なスペースでの対人守備や、抜け出された時のカバーリングのスプリント力のところは、(グループステージでこのような状況は殆ど無かったが、対戦相手のレベルが上がったときにどうなるのか)多少不安である。
また、クロスに対して中には4、5枚揃っているように、オフェンシブサードではボックス内にも多くの人数かけ、CBも高い位置まで出ていくかたちの攻撃を行う。
(詳細は上記の〔イタリアの戦術 ー フィニッシュワーク〕に記載)
そのため、後ろの人数はとても少ない。
そもそも中途半端なボールの失い方はあまりしないが、ボールロストしてもプレスバックなどのネガティブトランジションが早いので、基本的にはボールをすぐに奪い返したり、攻撃を遅らせたりできるのだが、それでもトルコ戦はロングカウンターからチャンスを作られてしまった場面も見られた。(DFやGKが最後のところでしっかり対応)
- マンパワーの欠如
前述したように、他の強豪国のスカッドと比べると、選手の能力には若干見劣りを感じてしまうのが現状であり、個人の能力でブロックを打開できる選手は、ベラルディとキエーザくらいである。
ウェールズ戦のように、ある程度リトリートし、5バックのブロックを形成しつつもしっかりと連動して守られてしまうと、配置やデザインだけで崩すのは簡単ではない。
このような状況で、外からのドリブルで1、2枚剥してブロックを打開するような仕掛けがあまり見られなかったので、チャンスは作るものの、中々決定機までには至らなかった。(ベラルディは温存のため、出場していない)
課題
- トランジションが非常に早く、インテンシティの高いスタイルを保ち続けられるか
何度も記述しているようにイタリアは、トランジションが非常に早く、インテンシティの高いサッカーを行う。
(停滞する状況が多かったウェールズ戦を除く2試合の走行距離平均は約112kmであり、出場24カ国でチェコに次ぐ2番目の距離を誇る)
このハイテンションなスタイルで負傷者を出さずに勝ち進めるのか、大会後半になった時でも強度を保てるのかが課題である。
- GKを含めたビルドアップをスムーズにできるか
〔イタリアの戦術 ー ビルドアップ〕のところではあまり触れなかったが、ディフェンシブサードでのGKを含めたビルドアップはあまり行わない。
あまり後方からのビルドアップに自信がないからなのか、危険を冒さずにリスク管理をしたいからなのか、ドンナルンマまでボールが下がると、割とアバウトに前方へフィードするシーンが目立つ。
大会が進むにつれて、レベルが上がり、より前からハイプレスをかけるような相手との対戦となった時にどうなるのかが課題である。
改善策 〜個人的な見解〜
ただ、中央を消してボールを外に追い込み、全体がボールサイドにスライドし、圧縮してボールを奪う守備をすると、大外や背後のスペースが空いてしまうのを防ぐことは難しい。
また、このハイテンションなスタイルを続けられるかという疑問もある。
しかし、戦術というのは一長一短であり、裏を返せばトルコ戦、スイス戦のように、前からのハイプレスで奪って得点を取れているように非常に上手くいっているので、私はこのやり方を変える必要は無いと考えている。
その他のマンパワーの欠如や、GKを含めたビルドアップに関しては、個人の能力の問題であり、メンバーが決まっている以上、戦術で今から大幅に改善してどうにかできるものではないので、私はそこを改善するのは中々難しいのではないかと考えている。
しかし、マンパワーの欠如や、スムーズにできないGKを含めたビルドアップの問題は、チームにとって決して致命的な問題ではないので、大きな懸念材料ではないはずである。
2021/06/25