EURO2020 決勝 イタリア vs イングランド 戦術マッチレビュー
イタリア・イングランドのスタイル
🇮🇹
🏴
両者の対策
🇮🇹 人を決めたプレッシング
イタリアは、グループステージのどの試合でも相手のビルドアップの陣形に合わせて、自分たちのプレッシングの陣形を決めており、基本的に3トップが前からハメに行くのだが、この試合も例外ではなく、ある程度人を決めたマンツーマンとゾーンの併用で守備を行っていた。
3バックに対して3トップが、2センターに対して2IHが付いてハメに行くようなかたちで、WBに対してはDFがボールサイド側にスライドするかたちのプレッシングを採用した。
(失点後にこのプレッシング方法を修正し、以降は〔イタリアの攻撃・イングランドの守備 ー 🇮🇹のビルドアップ・🏴のプレッシング と、両者の修正 ー 🇮🇹 スライド守備からゾーン守備へ〕に記載されているような守備をするようになった)
🏴より強固な守備と、3トップとWBでライン間と幅を使う攻撃ができる5-2-3のシステムを採用
守備から思考するサウスゲートは、恐らく、ボール保持を得意としているイタリアに対して、ある程度ボールを持たれることを想定してよりブロックを固めるという意図と、可変して前線5枚となるイタリアの攻撃に対して5バックで対応できるようにという意図で5-2-3のシステム採用したのだろう。
また、通常、攻撃時も可変せずに4-1-2-3のままの陣形でビルドアップを行うイングランドは、4バックのままのため後ろ重心且つSBとWGが幅を取るためサイド重心の外回りの攻撃配置となっているのだが、5-2-3のシステムにしたことで可変せずとも内側と外側のエリアに選手が配置されるようになり、幅とライン間を上手く使い分けて良いかたちで攻撃していた。
イタリアの攻撃・イングランドの守備
🇮🇹のビルドアップ・🏴のプレッシング
イタリアは、3-2-4-1の陣形でのビルドアップを採用した。
LSBエメルソンとRWGキエーザで幅を、LWGインシェーニとRIHバレッラでライン間を取るかたちであるので、いつも通り、外側、内側、中央のエリアに各選手の立ち位置が整理され(チームとしての配置)、尚且つ各選手の特性を活かして最適解を導き出す(個人としての配置)ことができており、幅とライン間を上手く使い分けて攻撃していた。
ただ一つ違ったのは、DFラインの背後に走ったり、ポストしたりして普段は深さを作るCFインモービレが、頻繁に相手2センターの間のスペースに降りてボールを引き出す動きも行っていた。
イングランドは、5-2-3の陣形でのミドルプレスを採用した。
基本的にフィリップスがヴェラッティを見て、3トップのうちの1人がジョルジーニョを見ながら牽制する、イタリアの5枚でのビルドアップに対して3トッププラスCHフィリップスの4枚で対応するかたちのプレッシングを行っていた。
🇮🇹のフィニッシュワーク・🏴のブロック
イタリアは、3-2-4-1の陣形のまま、攻撃を行った。
ビルドアップ時同様に幅とライン間を上手く使い分けながら攻撃するができていた。
また、世界最高レベルのパス精度を誇るボヌッチを起点として、そこから高精度のフィードや鋭いくさびの縦パスを送って、相手のブロックを崩し、チャンスを作り出していた。実際、ボヌッチはこの試合で18本のロングパスを送っている。(大会最多のGKサフォノフが1試合平均10本)
イングランドは、5-2-3の陣形のままのブロックを採用した。
基本的に両CBがあまり出ていかないので、5バックにしてはかなり後ろ重心の戦術を行っており、ライン間にポジショニングする選手(インシェーニとバレッラ)には基本的に中盤のライスとフィリップスがマンツーマン気味に付くようにしていた。
(フィリップスが前に出ていくと、ウォーカーがインシェーニを見るようなかたちにはなるが、付いていくようなかたちは取らず、マグワイアはライスがいるので基本的に出ていかない)
このため、2センターの間はかなり開いて中央のスペースは空いてしまうが、縦のラインをコンパクトにしてライン間を狭めることで対処できていた。
展開
イタリアは、試合の入りこそつまづいたものの、直ぐにビルドアップの配置を修正して、ボールを支配できるようになった。〔両者の修正 ー 🇮🇹 ヴェラッティを降ろすことでの改善と新たな問題 に記載〕
また、選手の能力的に他の強豪国と比べると少し劣るものの、戦術と配置が非常に洗礼されているイタリアは、サイドとライン間を使い分けながら、外からのクロスや、内からのパスワークなど、多彩な崩しのパターンから段階的にゴール前に迫ることができていた。
特に、インシェーニとバレッラにマンツーマン気味に付く相手中盤を利用して引き出し、チャンスを作ることができていた。
一方で、イングランドもイタリアの修正に対して、修正を行うも、徐々にボールを持たれる展開になってしまっていた。〔両者の修正 ー 🏴 ライスとウォーカーの役割を変更 に記載〕
しかし、これも恐らく念頭にあった展開で、今までもある程度相手にボールを持たれてもゴール前を固めることで失点を防いできており、この試合は5バックを採用したことでそれがより強固となった。
実際に、個の能力において勝るイングランドは最後のところで上手く対応できていた。
イングランドの攻撃・イタリアの守備
🏴のビルドアップ・🇮🇹のプレッシング
イングランドは、3-4-3の陣形でのビルドアップを採用した。
システムを5-2-3にしたことで可変せずとも内側と外側のエリアに選手が配置されるようになり、幅とライン間を上手く使い分けて良いかたちで攻撃していた。
また、グループステージでは、ある程度中央で構えさせる役割をさせられていたケインに、大会が進むにつれて、中盤まで降りたり、サイドに流れたりして自由にプレーさせる役割を与えたことで、彼の本来の良さが活きるようになってきたのだが、この試合でもテクニックとフィジカルを駆使した高いキープ力を持つケインがフォルス9の動きで降りることで、素早いトランジションと高い連動性でボールサイドに圧縮して激しくボールを奪いにくるイタリアのプレッシングを回避する起点となっていた。
イタリアは、4-1-4-1のミドルプレスと4-1-2-3から左肩上がりのハイプレスの併用を採用した。
通常は前からどんどんプレスをかけるイタリアだが〔両者の対策 ー 🇮🇹 人を決めたプレッシング に記載〕、失点後に4-3-3から4-1-4-1気味にプレッシング方法を変更し、ある程度ミドルサードで構えつつもしっかりとボールホルダーには圧力をかけ、奪いどころで前に出て行くようなハイプレスとミドルプレスの併用をベースとするようになり、GKを含めたビルドアップの時のみ攻撃時同様左肩上がりに可変して前からしっかりとハメに行くハイプレスをかけるようになった。
🏴のフィニッシュワーク・🇮🇹のブロック
イングランドは、3-4-3の陣形のまま、攻撃を行った。
ビルドアップ時同様に幅とライン間を上手く使い分けながら攻撃することができていた。
また、普段よりも3トップがかなり流動的で非常に良いかたちを作れていた。
ケインがフォルス9の役割を行うときは、マウントとスターリングがかなり中央にポジショニングして2トップとなるようなかたちを作り、ケインがCFの役割を行うときは、マウントとスターリングがライン間にポジショニングして2シャドーとなるようなかたちを作るので、どちらのパターンでも深さとライン間を有効的に活用できていた。
イタリアは、4-5-1の陣形のままのブロックを採用した。
基本的に、WGは相手バックラインにプレッシャーをかけつつ、状況に応じて深い位置まで下がって守備をするのだが、この試合は高い位置を取る相手WBを見るかたちで、相手バックラインにはIHが出て行ってしっかりとプレッシャーをかけていた。
展開
イングランドは、開始20分辺りまで、幅とライン間を使い分けられる5-2-3のシステムと、フォルス9のケインと3トップの流動性を活用することによって、試合のペースを握り、実際に得点を奪うことにも成功した。
プレス耐性の高いショーが落ち着いて相手のプレスを交わし、降りてくることでフリーとなっていたケインにパスを送る。フリーのケインは簡単にターンして前を向き、持ち前のとてもFWとは思えないような素晴らしい展開力と高いキック精度を活かして、幅を取っているWBトリッピアーへ展開する。矢印が前に向くと一気に前に出ていけるイングランドは、低い位置にいたケインやショーもゴール前に入り、エリア内に4枚入った。この時、異次元のスプリント力を兼ね備えているウォーカーが得意なプレーである低い位置から猛スピードでのオーバーラップを行って相手を引きつけている。この動きによって、高精度なクロスを送れるトリッピアーが、それほどプレッシャーがかからない状態で余裕を持って大外のショーへクロスを送り込むことができた。ショーのプレス耐性の高さと外からゴール前に入ってく推進力、ケインのフォルス9の動きからの展開、トリッピアーのクロス精度、ウォーカーのオーバーラップ、と各選手の長所を活かした素晴らしいゴールを決めることができた。
その後は、イタリアの修正によってボールを保持できない時間も長かったが、整備された配置と高い個の能力を活かしてチャンスを作り出すことができていた。
両者の修正
🇮🇹 スライド守備からゾーン守備へ
イタリアは、基本的に中央のスペースを消して、ボールを外回りにさせ、ボールをサイドに追い込むと、全体がボールサイドにスライドし、圧縮してボールを奪うような連動性の高い守備を行う。
FWが前から積極的にプレスをかけ、MFが中央のスペースやパスコースを消しながらスライドし、ボールサイドのWGがプレスバックすることで、ボールホルダーを囲い込み、DFラインは逆サイドのSBが大外を捨てて絞り、CBがスライドして、ボールサイドのSBが前に出て行くかたちで3バックを形成する守備方法であり、この試合もキックオフ直後はそのような守備を行っていた。
しかし、サイドに圧縮する守備をしても、非常に個人の能力が高いイングランドの選手たちに剥がされてしまったり、降りてくるケインを起点に逆サイドまで展開されてしまったりする場面が多く、中々思うようにプレスがハマらないどころか大外を使われて、ピンチとなってしまうようなシーンもあり、実際にそこから失点を喫してしまった。
そこでマンチーニは、失点後に4-3-3から4-1-4-1気味にプレッシング方法を変更し、後ろはそこまでスライドせずに4バックを残すかたちに修正した。
ある程度ミドルサードで構えつつもしっかりとボールホルダーには圧力をかけ、奪いどころで前に出て行くようなハイプレスとミドルプレスの併用をベースとするようになり、GKを含めたビルドアップの時のみ攻撃時同様左肩上がりに可変して前からしっかりとハメに行くハイプレスをかけるようになった。
🇮🇹 ヴェラッティを降ろすことでの改善と新たな問題
マンチーニは、ジョルジーニョが負傷したときのブレイク辺りからヴェラッティを明らかにDFラインまで下ろす4-1-4-1の陣形に修正した。(それまでも状況に応じてヴェラッティが降りてビルドアップを助けていたが、基本的に降りて4バックを形成するようにした)
4バックにすることで相手3トップに対して、数的優位の状況を作り、外から攻撃を仕掛けるようにしたのだ。
基本的にイングランドの3トップは内側を締めているので、サイドに開いて幅を取ったキエッリーニとディ・ロレンツォのところを使って、中央から外側へ、外側から内側にボールを送り込んだり、彼らがドリブルで持ち上がったりして、ボールを前進させるようにした。
また、相手WGがサイドにキエッリーニやディ・ロレンツォを気にして外側に開くと、FWラインのゲートが広がるので、DFラインから一気にライン間にポジションを取る選手へ縦パスを送って、ボールを前進させることができるようになるのだ。
イングランドは、CHフィリップスが、プレッシング時はヴェラッティを見ながら前に出て行き、ブロック時になるとライン間にポジショニングするインシェーニ(途中からキエーザ)にマンツーマン気味で付くというように二つの役割を与えていたので、特に、フィリップスを引き出してから彼に戻る時間を与えないように左のハーフスペースへ一発でパスを差し込んで崩すシーンも目立った。
更には、オフェンシブサードに入ると、キエッリーニとディ・ロレンツォも高い位置を取って、カットインのサポートをしたり、クロスを上げたりして攻撃に参加した。
この修正までは、ある程度イングランドにボールを持たれ、完全にペースを掴まれていたイタリアであったが、修正以降は、ボールを保持して自分たちのペースに引き込むことに成功した。(25分までの支配率53% → それ以降90分までの支配率71%)
ただ、この修正にはデメリットもあった。
メリットは、後ろで数的優位を作ってボールを保持し、中を固める相手に外から攻撃を仕掛けられることであったが、逆に言えば、後ろ重心且つサイド重心になってしまい、外回りの攻撃配置となってしまうということでもある。
確かに、3トップのイングランドに対して、4バックで数的優位を作ることは理にかなっているが、ヴェラッティを下ろすということは中盤がジョルジーニョ一枚になるというふうにも捉えられる。
背中で消すとはいえ、3枚(マウント、ケイン、スターリング)で1枚(ジョルジーニョ)抑えるのは容易であるので、かなり3トップの背後のスペースにボールが入りづらくなり、FWラインを越えるのが難しくなってしまった。
また、外側と内側のスペースを使い分けるのがイタリアの強みである一方で、サイド to サイドの揺さぶり(外側から外側のスペースを使うの)はあまり得意では無い。そのため、展開するには中盤を経由していたのだが、ジョルジーニョが消されてしまっているので、イングランドの5バックに対して同サイドでの攻撃が多く、中々崩すことができなかった。(イングランドは3バックに対して、3トップをハメに来ていたわけではなかったので、足元の技術が高い後ろ3枚であれば、パスを繋ぐことは十分可能であっただろうし、プレス耐性が高いヴェラッティとジョルジーニョであればFWラインの背後で引き出してボールを捌くことは可能であるはず。)実際にヴェラッティが降りずに3バックになっていたときはCHフィリップスにマークの迷いを与え、チェックを後手にさせたことで、段階的に崩すことにも成功している。
フィニッシュワークよりもまずはビルドアップに重点を置いた采配であったが、ボールを保持することで、イングランドの攻撃を抑え、セットプレーからゴールを奪って結果的に同点にすることに成功した。
(ここからは推測に過ぎないが、あくまでまず、ボールを保持して自分たちのペースを掴むことに専念し、更に深い時間帯になってもゴールが奪えなかった場合は、より攻撃的にシフトしたはずだろう。)
🏴 ライスとウォーカーの役割を変更
プレッシング時は、ライスも前に出て相手2センターをフィリップスと共に抑えに行っていたのだが、ヴェラッティがDFラインに降りるようになったことで、ライスはバレッラに付いて、ウォーカーが少し前に出てインシェーニを見るように役割が修正された。(ウォーカーはインシェーニに対してマンツーマンではなく、あくまで見てるかたち)
🇮🇹 よりライン間を活かすため0トップを採用
点を取らなければならないイタリアのマンチーニは、55分と割と早い時間にエースのインモービレとバレッラを下げて、ベラルディとクリスタンテを投入し、インシェーニをSTとした。
このマンチーニの交代の意図は、自由に動きながらフォルス9の役割で相手2センター間のスペースを有効に使いつつ、ダイアゴナルに走り込んだり、二列目から飛び出したりするオーソドックスな0トップ戦術でゴールに迫ることである。
そのため、前半に不慣れなフォルス9の役割もこなしていたインモービレとマンツーマン気味のマークに苦しんでいたバレッラを下げて、サイドでは幅を取りつつもダイアゴナルに走り込むのがベラルディとより前に飛び出していけるクリスタンテを投入し、ライン間でボールを引き出すのが得意なインシェーニを0トップとして起用したのだ。
この作戦によってインシェーニは、フリーでボールを受けてそこから仕掛けたり、パスを出したりすることができるようになり、イングランドがそれを嫌がれば、中々引き出すことのできなかった3バックを釣り出すことができるようになるのである。
ボールこそ保持するものの、中々エリア内で決定機を作ることができていなかったイタリアは、この修正によって、押し込んだ状況からより深いエリアまで侵入してチャンスを作れるようになった。
🏴 攻撃的なシステムへの変更とそれに伴った守備面の改善
ボールこそ保持されていたものの、最後のところでは守れていたイングランドだが、67分にCKから失点を喫してしまった。
そこでサウスゲートは、失点直後にサカとヘンダーソンを投入し、通常のシステムである4-1-2-3に陣形を変更して、より攻めに出てゴールを奪いに行く姿勢を見せた。
ただ、普段の4-1-2-3とは異なり、WGは5-2-3の名残りを残したままシャドーのように内側にポジションを取り、ヘンダーソンとフィリップスがサポートする4-1-2-3のようなかたちのビルドアップと、フィリップスと2CBでバランスを取って、SBがWB時のように前に出て幅を取り、内側をIHとWGで使う2-1-4-3のようなかたちのフィニッシュワークの陣形にしたことで、引き続き、幅とライン間を使って良いかたちで攻撃することができていた。
その後、更にグリーリッシュを投入し、サカをIHとする4-1-2-3にしたことで、より攻撃的となり、チャンスを作り出した。
ビルドアップのかたちこそ、整理されていなかったのだが、ポジショニングが適切でオフザボールの能力が高いIHのサカとヘンダーソンが降りたり、WGが相手SBピン留めをしている手前のスペースに流れたりしてビルドアップをサポートすることで、再びボールを保持して試合のペースを掴めるようになった。
一方で、守備面では、通常4-1-2-3気味の陣形で守るイングランドは相手にある程度ボールを持たせるミドルプレスが基本であるので、FW、MF、DFの各ラインが若干間延びして、3枚のFWラインと2枚のIHラインをすり抜けて中盤の脇や間のスペースにポジションを取る選手へ縦パスを差し込まれてしまったり、奪いどころを決めた連動性の高い守備ができずにズルズル下がってしまったりすることが多かった。(それでもゴール前をしっかりと固めて数をかけたり、個の能力が高いのでマンパワーで対応したりして、守り切っていた)
しかし、この試合は、システム変更後に4-1-2-3の陣形での守備にするのではなく、4-1-4-1の陣形での守備をするように修正した。
この陣形でも、4枚のMFラインをすり抜けて中盤の脇や間のスペースにポジションを取る選手へ縦パスを差し込まれてしまう危険はあるのだが、両IHが出て行くことでそれを防いだ。
どういうことかというと、IHが出て行くのでイタリアの4バックに対して4枚となり、マークが明確となることでプレスがハマり、それほど相手に自由を与えないことに成功したのだが、この相手自由を与えないことと、IHが出て行ってパスコースを遮断することで、そもそも縦パスを差し込ませないようにして、簡単にボールを前進させない状況を作ったのである。
🇮🇹 イングランドの変更に対するイタリアの修正
勿論、名将マンチーニがこのまま黙っていたわけでは無い。
まずは、プレッシング方法を直ぐに改善した。
マンチーニは、4バックに対して4-4-2気味の陣形で前からハメに行くハイプレスと、4-3-3の陣形のまま相手中盤をマンツーマン気味に捕まえに行くミドルプレスを併用するように修正し、これによってイタリアは積極的にボールを奪いに行くようになった。
また、延長戦直前にベロッティ、直後にロカテッリを投入し、攻撃面にも修正を図った。
システムを変更したわけでは無く、同じポジションの選手同士の交代であったが、この交代は非常に大きな効果をもたらした。
ロカテッリをヴェラッティのようにDFラインまで下げさせず、3-2-4-1の陣形を保ったままのかたちにしたのである。
そのため、ライン間にポジションを取るベルナルデスキとクリスタンテが空いてくるようになり、そこへどんどん縦パスが入るようになった。このとき、1トップにはフォルス9タイプのインシェーニやベルナルデスキよりも、DFを引っ張ったりストライカーの仕事をしたりできるCFタイプのベロッティの方が向いているのは当然であり、彼によってよりライン間のベルナルデスキとクリスタンテが活きるようになる。
イングランドとしては、両IHはロカテッリとジョルジーニョを見ることになるので、3枚のFWラインと2枚のIHラインをすり抜けて中盤の脇や間のスペースにポジションを取る選手へ縦パスを差し込まれるようになってしまい、イングランドの良くない守備ブロックの穴を突かれるような状況を作られてしまったことで、最後はかなり崩される場面もあったが、なんとかPK戦まで持ち込んだ。
まとめ
今大会も様々な波乱やドラマがあった中で、伝統的な守備スタイルと新たな攻撃スタイルの融合に成功したイタリアと、守備を重視して攻撃は前線の個人の能力に利用したイングランドが決勝に進出し、PK戦の末、イタリアの優勝で EURO2020 は幕を閉じた。
あまり戦術的な采配が見られず、サウスゲートへの批判もあった中で、決勝戦ではシステムの変更や試合中の修正など見事な采配をとったが、あと一歩及ばなかった。
一方で、クラブチームレベルに落とし込まれた戦術とチーム完成度の高さを誇ったイタリアは、53年ぶりに欧州制覇をすることができた。
このイタリアの優勝は、今まで代表クラブではあまり取り入れられてこなかった戦術というものを、導入する今後のトレンドの始まりであるのかもしれない。
若くタレントが揃ったイングランドと、戦術レベルの高いイタリアを中心に、来年に控えたW杯に向けて、各チームが一年間かけてどのような進化をしていくのかますます楽しみである。
2021/07/15