PL 21節 チェルシー vs リヴァプール 戦術マッチレビュー 〜段階的 vs 瞬間的な攻防と戦術を凌駕する最高峰の試合強度〜
- 両者の現状
- チェルシーの守備、リヴァプールの攻撃
- リヴァプールの守備、チェルシーの攻撃
- 前半 蹴り合い上等のリヴァプールが自らトランジションの状況を作り出すことで、試合を支配する展開
- 後半 修正を加えたチェルシーに対して、選手の能力でカバーするリヴァプールという展開に
- まとめ
両者の現状
現在世界最高峰であることに議論の余地は無く、全ての面で遥かに水準を超えている両クラブ。
勿論他クラブと比べれば、チェルシーは各選手の個の能力が高く、リヴァプールは配置を整理した段階的な戦術を用いることもあるが、特に合理的且つ段階的な戦術で配置的優位性を保つという点で世界一であるチェルシーと瞬間的な個人の能力で質的優位性を保つという点で世界一であるリヴァプールという構図の対戦となった。
※チェルシーの戦術
※リヴァプールの戦術
※PL21節 チェルシーvsリヴァプール DAZNハイライト
チェルシーの守備、リヴァプールの攻撃
⭐︎全体が左肩上がりに可変する4-4-2のプレスからボールサイドへ圧縮
常に相手の陣形に噛み合わせてプレスをかけるチェルシーは、リュディガーがLSB化、アロンソがLSH化して、プリシッチが2トップの一角となる4-4-2(相手GKまで出るときは4-2-4)のハイプレスを採用。(ユナイテッド戦やユベントス戦のように個人の能力が高い相手に対しては、2トップのところが数的不利となるが、4バックにして後ろの人数を余らせる)
4-3-3の陣形のままビルドアップするリヴァプールに対して、2センターで相手IH、両SHで相手SBを見つつ、2トップがカバーシャドーで相手ACを消すように中を切りながら圧力をかける。
このようにしてボールをサイドへ誘導。全体がスライドしつつ、近くの相手を捕まえてボールサイドに圧縮する。
⭐︎個の能力で優位性を活かしつつトランジションの局面を生成
個々の選手の能力が非常に優れているリヴァプールは、可変して陣形を噛み合わせてくるチェルシーに対して、正確なロングパスやテクニックとスピードを駆使したドリブル、瞬間的なコンビネーションなど質的優位性を活かしたアドリブ的な攻撃を行っていた。また、トランジションも非常に早く、圧力をかけてボールを奪うと両WGが直線的に走ることで最短距離でゴールに迫るような鋭いカウンターでも再三チャンスを作った。
また、ジョタがフィルミーノ同様フォルス9動きで中盤まで降りることによって、同数で捕まえられていた状況から一時的に数的優位を作り出してボールを前進させており、1点目もこのかたちからゴールを奪うことに成功した。4-4-2でサイドへ誘導し、近くの選手を捕まえてボールサイドに圧縮するプレスで完全にハメられてしまったが、前に出たコバチッチのスペースにジョタが降りてボールを引き出すことでプレス回避。すかさず空いたスペースへマネがダイアゴナルに走ることで相手のミスを誘った。
リヴァプールの守備、チェルシーの攻撃
⭐︎4-3-3ベースから各ラインの連動したスライドでボールサイドへ圧縮
攻撃時同様に確固たるスタイルのもとで、かっちりと形を決めずに臨機応変に対応するリヴァプール。この試合は4-3-3の陣形からFWライン、MFライン、DFラインそれぞれが巧みに連動して縦スライドと横スライドするハイプレスを採用しており、主にファビーニョが中央で余る通常のかたちとミルナーが脇で余るかたちの二通りで対応していた。
ファビーニョが余るかたちではSB(ツィミカス)がジャンプして前に出るスライド3バックでボールサイドへ圧縮する。
一方でミルナーが余るかたちではミルナーがそのまま出て行き、連動して中盤が横スライドすることでボールサイドへ圧縮する。
⭐︎外経由でのプレス回避と相手DFラインの背後
配置で優位性を作ることに圧倒的に優れているチェルシーは、中央を封鎖するリヴァプールに対して、幅を取って浮いてるWBを経由してプレス回避するだけでなく、そのまま前進して素早くフィニッシュワークまで持ち込むことを一貫して行っていた。
本来のチェルシーは、ボールを外から内、内から外に出し入れすることで相手ブロックを揺さぶって、相手陣形を狭めさせて幅を使い、広げさせてゲート間を使う攻撃と、FW3枚(WBを含めた5枚)が手前のスペースへ降りる動き、背後のスペースへ抜ける動きをすることで相手最終ラインを混乱させて、相手陣形を狭めさせて背後を使い、広げさせてライン間を使う攻撃を徹底している。
しかし、この試合では超ハイラインを少人数で対応するリヴァプールの守備の背後を狙うため、前線の選手の全員の矢印が前向きとなって裏を狙う直線的なランニングをすることと、WBがその背後のスペースへボールを送ることを徹底して縦に早い攻撃を行っていた。
前半 蹴り合い上等のリヴァプールが自らトランジションの状況を作り出すことで、試合を支配する展開
序盤からトランジションの早さとインテンシティの高さが尋常ではなく、目まぐるしくハイスピードに局面が変わるため、ボールが落ち着く状況が中々できず。
強度で上回るリヴァプールが合理的且つ段階的に攻撃するチェルシーにゲームをコントロールさせず、瞬間的な崩しから再三ゴールへ迫って2得点を奪うことに成功する。
⭐︎サラーが内側に入る配置やスライド3バックなど配置的な欠点と、その論理すら超越する個人能力の高さ
配置を整理してポゼッションを行うのであれば、個人的には左肩上がりの3-2-4-1又は3-1-5-1の陣形が最適解であると考えている。(配置を整理しないのであれば、一昨季のように可変せず4-1-2-3でも可)
端的に述べると、パス能力の高いアーノルドを含めた3バックを形成できる(フィニッシュワーク時は攻撃参加できる)点、突破力の高いサラーをアイソレイトさせられる点、ライン間でのプレーと判断が優れているマネとヘンダーソンを内側に配置できる点などの理由がある。
実際、基本的に左肩上がりの3-2-4-1の陣形に可変することが多いが、ビルドアップの配置を明確には決めていないため、強豪相手や完全にリトリートしてブロックを固める相手には配置が崩れてしまうことも。
※個人的に最適解と考える理由の詳細
https://sato-yu99.hatenablog.com/entry/2021/10/28/235328#フィニッシュワーク-3-2-4-1-or-3-1-5-1-or-2-2-5-1
https://sato-yu99.hatenablog.com/entry/2021/04/14/183921#最適解とは離れた選手の配置
この試合でも3-2-4-1の陣形を作らないことが多く、ライン間に人がいない現象やヘンダーソン、アーノルドが幅を取る現象など最適解から離れた配置となってしまうことが。(上記にあるようにそもそも配置に囚われない瞬間的な攻撃がリヴァプールの特徴でもあるのだが)
ただ、一時的に整った配置で攻撃をすることもあり、そのかたちで得点を奪えたのが2点目のシーン。
①内側に入って3バックの一角になっているアーノルドへボールが渡る。(このときアーノルドにはライン間へ走るヘンダーソンと幅を取るサラー、バックパスのコースを作るコナテなどサイドに開いてるときに比べて複数のパスコースがある) ②アーノルドには当然相手SHが寄せてくるため、アイソレイトさせることができたサラーへボールを送る。③サラーの得意な一対一の状況を作り出すことができただけでなく、ヘンダーソンが内側を走って選択肢を増加させる。④相手DFの対応が素晴らしかったこともあってサラーは仕掛けずに一度中央へパス。⑤ヘンダーソンの走りとサラーへの対応で相手のブロック陣形にズレができる。⑥ブロックにズレができている中で一瞬ボールウォッチャーになった相手に対して、サラーの十八番である幅を取ったところからダイアゴナルな走りと内側に入ったアーノルドの十八番であるピンポイントなパスで完璧に崩すことに成功。
守備時も同様に配置が最適解ではないことも。
チェルシーはWBが高い位置を取れば5トップ気味となるので、4バックに対して常に数的不利の状況を作られてしまう。
各駅停車のショートパスでの繋ぎであれば持ち前の連動性の早さを活かしたスライドが可能であるが、CB→WB→FWとロングパスを2本使われたり、CB→CH→WB→FWと中盤経由でレイオフされたりしてしまうと、どうしてもスライドは間に合わなくなり、後手、後手の対応をせざる得なくなってしまう。
このとき、ゾーンを意識した守備を行っているので、外経由で回避されるので中盤、特に中央で余っているファビーニョが無効化されてしまっていた。
一方で、ファビーニョが縦スライドしてミルナーが余るかたちだと、ツィミカスがジャンプして釣り出されたり、相手WGとWBに二対一の状況を作られることはなくなる。(ツィミカスが釣り出されたとしてもミルナーが内側をカバー)
しかし、後者の方を明確に設定することはなく、あくまで状況によっての対応に委ねていた。
後半 修正を加えたチェルシーに対して、選手の能力でカバーするリヴァプールという展開に
⭐︎直線的な背後への走りを加えてフォルス9+二列目からの飛び出しによる攻撃
流れを無視したセットプレーからコバチッチのスーパーゴールと相手の狙いであるトランジションでの勝利からのショートカウンターで立て続けに得点し、前半で何とか同点に追いついたチェルシー。
リヴァプールのハイラインを少人数で対応する守備に対して、本来であれば外経由の回避から直線的な裏抜けでゴールを奪うことが可能であるはずだが、4バック(特にCB)の個人能力の高さと連動性の早さで解決されてしまうこともあり、思うような結果にはならず。
そのため、トュヘルは前5枚全員が相手DFの背後を狙う縦に早い攻撃のかたちを残しつつ、フォルス9の動きで降りたり、三列目から出て行ったりしてチェルシーらしくライン間でボールを引き出す動きも行うように修正。
手前のスペースへ降りる動き、背後のスペースへ抜ける動きが同時に行われることでライン間を拡張させ、より相手を混乱させるように。
5-3-2へシステム変更した後は、2トップがサイドの空いたスペースに流れてオーバーロードさせることでボールサイドで瞬間的に数的優位を作る攻撃でゴールへ迫った。
⭐︎中盤を捕まえる5-3-2にシステム変更し、より中を締めるような守備
左肩上がりの4-4-2のプレスもかなり効いていたものの、マークをつけずにカバーシャドーで消しているAC経由から時折回避されてしまっていたため、トュヘルはプレス陣形も修正。
相手の陣形同様中盤を3枚にしてそれぞれが相手を捕まえ、2トップで圧力ををかけるより中央封鎖したプレスに。
その分後ろは3バックとなるので相手と同数となってしまうが、ボールサイドのWBがジャンプして前に出ると逆サイドのWBが絞るようなスライド4バックで人数を担保してボールを回収するように。
⭐︎前半同様、個人能力の高さで解決
攻守共に修正したチェルシーによって、徐々に試合は相手のペースへ。
守備において、より段階的に崩されるようになってしまったが、最後のところやギリギリの局面で引き続き個人の能力の高さで何とか対応。
また、よりプレスがはまるようになってしまったが、ハマった状態をフリックやワンツー、レイオフ、スルーなどを用いた瞬間的なコンビネーションで回避し、逆に疑似カウンターからチャンスを作れるように。
まとめ
年明け早々のビッグマッチとなったこのカードは、スピード、インテンシティ、そしてパッションが最高に高く、早くも2022年最高の試合では?という声も上がるようなまさに世界トップの戦いの内容であった。
このような試合だと、戦術レベルもさることながら各選手のアスリート能力やテクニックレベルも頂点である。そのため、多くのチャンスシーンを見てもわかるように、配置やデザインの概念を超えて個人の能力で瞬間的に局面を制圧できるかが鍵となった。(勿論、高いレベルでの戦術の攻防や修正があっての話である)
ただ、このような世界最高峰の試合を行った両チームが様々な問題があってリーグ首位に立てていない現状がある。
11月に入ってから更に離脱者が増えてしまい、ベンチにフィールドプレーヤーが殆どいないような試合があったこともあってリーグ戦3勝6分1敗とここ2ヶ月はかなり足踏みをしてしまっているチェルシー。
直近3試合が勝ち切れていない中で、アフリカネーションズカップが開幕して多くの主力を起用できなくなるリヴァプール。
過密日程と離脱者の関係でここからより厳しい状況となる両チームが今後どのように勝利していくのか、注目である。
2022/1/4