PL 16節・17節 マンチェスター・シティvsウルブズ・リーズ 戦術レビュー 〜 2-3-5だけじゃない!! シティの配置とビルドアップ方法 〜
シティの現状と通常のビルドアップ
直近のライプツィヒ戦こそ敗れたものの、リーグ戦は現在五連勝で首位を走るシティ。
ここでは戦術に大きく変化があったウルブズ戦、リーズ戦の2試合をビルドアップをメインに分析していく。
※ 今シーズンのシティのビルドアップ戦術
ウルブズ戦
ウルブズの守備 後ろを同数にして中央を封鎖する5-3-2
5-2-3のシステムをベースとするウルブズは、シティ対策のためだったのかこの試合は中盤を増やして3センターにした5-3-2のシステムを採用。
サイドにはWBのみで、8人の選手で中央を封鎖するミドルプレスとリトリートの併用であり、非保持をベースとしつつ、奪ってから前線の個の能力を活かしたカウンターを狙いとするスタイルであった。
相手ACを2トップで消し、内側に入った相手SBにはIHの縦スライドと残り2枚の横スライドで中央のスペースを消しサイドへ誘導する。
また、5トップ気味となるシティに対しては、同数の5バックで内側のレーン(ハーフスペース)も埋めつつ、マークがはっきりしているのでライン間で受ける選手にも後ろから出て行って対応することが可能である。
シティの対策 2トップで相手CBをピン留めしてライン間を空ける4-2-2-2
ウルブズの守備に対して、より内側からの組み立てを狙うような4-2-2-2の陣形でのビルドアップを試行。
IHギュンドアンがライン間から降りてロドリと2センターを形成し、LIHが使うハーフスペースにはグリーリッシュが降りてベルナルドと共にライン間にポジショニング。通常は幅を取る両WGが内側に入って2トップとなる配置に変更した。
この配置にしたグアルディオラの意図は、2トップで相手両ワイドCBをピン留めしてその手前のスペースを空けつつ、背後へ走ってライン間をより拡張させることである。
こうすることで、5バックによって閉じられた内側のレーン(ハーフスペース)をグリーリッシュとベルナルドで使うことが可能となる。
フィニッシュワーク時も同様で、ジェズスやスターリングが裏を狙ってボールを引き出したり、その動きに引っ張られた相手CBの手前のスペースをグリーリッシュやベルナルドで使うような崩しを基本としつつ、ベルナルドで相手CBをピン留めしてその内側をスターリングがダイアゴナルに走ることで背後のスペースを使う攻撃や、スライドしてボールサイドに圧縮する3センターの脇のスペースを内側に入ったカンセロが使う攻撃でゴールに迫った。
ただし、このシステムには配置上誰も幅を取る人がいないという決定的な弱点がある。
押し込んだ状態でこそ、SBが前に出たり、IHやWGが流れたりして瞬間的に高い位置で幅を取ることがあるものの、基本的に人がいないことが多い。
中央では配置的優位性を作ることに成功しているものの、ポジショナルプレーにおける幅を取る選手の必要性を一番重視している監督でもあるグアルディオラにしては珍しく、整理されていない配置での攻撃となってしまっていた。
そのため、CBからの局面を変える大きな展開ができなかったり、SBがボールを持ったときの外側へのパスコースが無かったりとポゼッションをする中での弊害が出てしまい、ピッチ幅を使って相手ブロックを揺さぶるような攻撃はできず。
PL16節 シティvsウルブズ DAZNハイライト
リーズ戦
リーズの守備 オールコートマンツーマンの4-1-4-1
圧倒的な運動量の高さを誇るリーズは、いつも通り4-1-4-1のシステムから相手の陣形に合わせて各選手が担当を決めた徹底的なマンツーマン守備のスタイルを採用した。
ただ、ここでポイントとなるのは、単に全員がマンマークで守備をするわけではないということである。
まず、第一としてCFとCBのところだけは、相手と人数を変えてマンツーマンにならないようにしている。
オールコートマンツーマンは、積極的でハイリスクな守備スタイルであるため、最低限のリスク管理としてCBを一枚余らせる。
よって、CFだけは相手のCB二枚を一人で相手にしなければならない。
このCFの役割は非常に重要で、ボールホルダーではないCBへのパスコースを切りながらボールホルダーにスプリントして圧力をかけつつ、持ち運びに対してはプレスバックも行うというように、賢い守備と献身的な守備が求められる。(この役割をこなすのに適任であるバンフォードが不在であったが、彼以上のスプリント力を兼ね備え、PL屈指レベルでハードワークできるジェームズは、守備においては代役として適任であった)
それでも、相手CBにドリブルで持ち運ばれたり、瞬間的に剥がさせるなどしてマークがズレてしまう場合もある。
このときは、WGかIHが対応することになる。
担当のマークへのパスをカバーシャドーで消しながらプレスをかけに出て行くパターンと、時間を稼ぎつつCFがプレスバックすると彼にマークを受け渡して自分がプレスをかけに出て行くパターンがオーソドックスなかたちである。
徹底したマンツーマン守備であるが、局面局面ではカバーシャドーやマークの受け渡しを行い、常にパスコースがない状況を作り出す。
シティの対策 配置から逆算する完璧なレイオフを多用した4-1-5
リーズの守備に対して、4-1の配置でのビルドアップを試行。
両IHベルナルドとデ ブライネが前に出てFW気味にポジショニング。通常は内側に入ってパスコースを増やす両SBが、ワイドに開いて低い位置で幅を取るような配置に変更した。
この配置だとSBとWGが縦関係になったり、ライン間に人がいなかったりとポジショナルプレーを徹底するシティとしては最悪の陣形となってしまう。
それでも敢えてこの配置にしたグアルディオラの意図は、マンツーマン守備の相手に対して、SBが開くこととIHが前に出ることによって中央のスペースを最大化することである。
恣意的に空けた中央のスペースへベルナルド、デ ブライネ、フォーデンがそれぞれ不規則且つ瞬間的に降りてレイオフを使うこと、そして必ずどこかで浮いているフリーの一人にパスを通すことを徹底。
リーズにおける基本のプレス(2CB vs CF)の場合、ビルドアップ法は大きく分けて二通り。
相手CFがCBへのコースを消しながらスプリントしてくるので、基本的にCBからCBへパスを送ることは困難となる。
そこで、マンマークで付かれていてもダイレクトプレーでの展開であれば可能であり(動きをつけて降りればより簡単に捌ける)、3人目の選手がフリー且つ前向きでボールを受けることができるレイオフを多用。
最大化したスペースにIHやCFが瞬間的に降りてレイオフを使う組み立てと、PAから出てパスコースを作るGKエデルソンを使う組み立てで、相手CFのコース限定したプレスを無効化し、逆のCBまで難なくボールを送ることに成功させた。
他のプレスの場合も、根本的な理論は同じで、レイオフを使ってフリーの選手へボールを送ることを一貫して行った。
WGが出てくるプレスの場合も、瞬間的に降りるIHやCFを経由するレイオフを使うことで、カバーシャドーで消されていたSBへボールを送る。
また、中盤が出てくるプレスの場合も、瞬間的に降りるIHやCFを経由するレイオフを使うことで、カバーシャドーで消されていたACへボールを送る。(この時、背中で消されているロドリがDFラインまで降りないため組み立てをサポートできなくなってしまうが、敢えて前に出て行ってその後レイオフを使って受けることでプレスを回避)
相手IHのカバーシャドーが甘いときは、ロドリが背後からずれて直接ボールを受け、ドリブルで持ち運ぶ
このようなビルドアップを再三成功させており、それが得点まで繋がったのが一点目と三点目。
大きな展開によってCFジェームズのプレスにズレを作る → CFジェームズが追いつかないため、IHロバーツがロドリを背中で消しながら出て行き、ラポルテを牽制 → ロドリは相手のカバーシャドーを回避するように背後からずれ、恣意的に空けた中央のスペースにフォーデンが降りてボールを引き出す → フォーデンが引き出したタイミングでロドリが前に出てボールを受ける → メリエに阻まれるがセカンドボールをフォーデンが押し込む
流れ上、ワイドに開いたラポルテまでCFジェームズが追うも回避 → IHロバーツがロドリを背中で消しながら出て行き、ディアスを牽制 → 恣意的に空けた中央のスペースにフォーデンが降りてボールを引き出しダイレクトで落とすレイオフで簡単にロドリへ → CBエーリングがフォーデンのフォルス9の動きにマンツーマンで付いて行ったため、そこの空いたスペースへデ ブライネが瞬間的にスプリント → その動きを見逃さずロドリがスルーパス → 走力に優れたデ ブライネはスピードで相手を置き去りにし、そのまま落ち着いてシュート
更には、高い位置を取るIHやCFが低い位置にポジションを取ることで相手を釣り出し、レイオフや背後へのダイアゴナルなランニングを使って、一気にフィニッシュワークへ持ち込むことも。
また、高い個人の能力も兼ね備えているデ ブライネやグリーリッシュがドリブルで瞬間的にマークを剥がして回避したり、シュートで違いを見せつけたりするなど、リーズのマンツーマン守備に対して、一対一の局面でも上回っていた。
このように、空いたスペースと浮いた選手を瞬時に見つけて常にそこを使うことを徹底したポゼッションで、リーズのマンツーマン守備の効力を完全に無くしただけでなく、それを逆手に取って段階的にゴールへ迫る配置的優位性と、局面で個人の能力の高さを活かしてゴールへ迫る質的優位性のどちらでも圧倒することに成功した。
PL17節 シティvsリーズ DAZNハイライト
まとめ
相手に退場者が出たこともあって後半は通常のビルドアップへ戻し、何とか勝利を収めたウルブズ戦と、大量得点で勝利したリーズ戦。
どちらの試合も相手の陣形と戦術から逆算した段階的な攻撃を試みており、個人的にも非常に興味深い内容であったが、結果は対照的に。
昨シーズンのチェルシー戦でも、2トップで相手ワイドCBをピン留めする戦術を用いて5バックの攻略を試みた結果、良点と課題どちらも浮かび上がったが、ウルブズ戦でもその最適解には至らず。
https://sato-yu99.hatenablog.com/entry/2021/05/28/233316#チェルシーのプレッシングシティのビルドアップ
https://sato-yu99.hatenablog.com/entry/2021/06/06/183735#シティのビルドアップ
一方で昨シーズン1分1敗と苦戦したリーズには、レイオフのお手本のようなビルドアップでマンツーマン守備を完全攻略した。
特に今シーズンはボールを保持して殴り続けることでゴールをこじ開けるような試合も多かったシティだが、やはりグアルディオラはグアルディオラ。これらの試合のように合理的且つ段階的にゴールへ迫る多角的なアプローチも当然可能である。
個人の能力が高く質的優位性を作られてしまうような相手だけでなく、配置から逆算して合理的且つ段階的に崩すライプツィヒのような相手にも完敗してしまったシティは、今後PLやCLの制覇を目指す上で、この二試合のような配置で優位性を作るような攻撃をより求められるはずである。
グアルディオラは、5バックに対して相手CBをピン留めする戦術の最適解を見出せるのか、そして相手から逆算して配置で上回る新たな戦術を見せてくれるのか、今後のシティに注目である。
2021/12/17