20/21 CL決勝 チェルシー vs マンチェスター・シティ 戦術マッチレビュー
※訂正 誤 RWGマウント → 正 LWGマウント
チェルシー・シティのスタイル
チェルシー、シティの基本戦術
シティの細かな戦術
両者のポイント、狙い
チェルシー
チェルシーのポイントは、2対1の状況で数的優位を作り出せるGKメンディー、CBシウバのところと、両WBチルウェル、ジェームズ、両WGマウント、ハヴァーツのところをいかに上手く利用できるかである。
チェルシーの狙いとしては、シティWGが前からくることを逆手に取って、幅を取るWBでシティSBを引き出し、降りてくるorサイドに流れるシャドーを使ってゴールに迫ることである。
https://twitter.com/sato_yu99/status/1398584877767819267?s=21
シティ
シティのポイントは、ハーフスペースにポジションを取るジンチェンコとベルナルド、深さを取るデ ブライネとフォーデンのところをいかに上手く利用できるかである。
シティの狙いとしては、WGで両サイドをピン留めしつつ、ハーフスペースにポジションを取る選手、フォルス9の動きで降りる選手、DFラインの裏を狙う選手で相手CBを混乱させて、ゴールに迫ることである。
https://twitter.com/sato_yu99/status/1398584884399022087?s=21
チェルシーの守備、シティの攻撃
チェルシーのプレッシング
チェルシーは、5-2-3の陣形を保ったままのミドルプレスを採用した。
CFヴェルナーがACギュンドアンをマンツーマン気味に見て、2センターの脇のスペースを両WGが背中で消しつつ、両CBが出て行って対応するようデザインされており、5-2-3システムの弱点となる中盤脇のスペースを前からと後ろからの両方でカバーすることができていた。
また、ボールがサイドに展開されたときは、FWとMF間のスライド、MFとDF間のスライドが連動していて、非常に良かった。
WGの縦スライドとCHの横スライドを見事に連動させ、ボールサイドのWGが戻るかたちと、ボールサイドではないWGが戻るかたちを併用し、更に、降りた選手に対してはしっかりと後ろから人を捕まえに行くような縦スライドのかたちを用いて、とても上手く対応できていた。
シティのビルドアップ
シティは、可変して3-1-2-4の陣形でのビルドアップを採用した。
この攻撃時の陣形は、選手と可変の仕方こそ違うものの、途中までとても上手く試合を進められていたPL35節と同じようなかたちであり、サイドで相手WBをピン留めし、2トップで相手3バックと駆け引き、そこで空いてくるハーフスペースにポジションを取る選手を上手く使うことを狙いとした戦術であった。
また、ハーフスペースにポジションを取る選手に相手CBが食いつくと、2トップのデ ブライネやフォーデンがその裏へ走って、背後のスペースでボールを引き出すことで、手前のスペースばかりではなく、深さも使ってビルドアップも行えていたものの、CFの選手がいないので、やはりその頻度は少なく、攻撃の厚みには欠けてしまい、"両者のポイント、狙い"のところで前述したようには機能しなかった。
チェルシーのブロック
チェルシーは、プレッシング時同様に5-2-3のまま陣形でのブロックの形成を採用した。
5バックであるが、DFラインを下げすぎずにFWラインとの縦の深さをコンパクトに保ち、中央を閉め、ボールを外回りにさせて上手くサイドに追い込み、ボールサイドに圧縮できていた。
そして、幅を取っている相手WGに対しては、対人守備が得意なWBのチルウェルとジェームズで、まずは前を向かせないようタイトに付き、前を向かれてからの一対一でも優位に立ち、全くドリブル突破を許さなかった。
シティのフィニッシュワーク
シティは、立ち位置を変えてより最適で攻撃的な布陣にしたものの、チェルシーの守備が非常に素晴らしかったこともあって、中々効果的にボールを内側に差し込むことができず、外回りでボール保持する展開になってしまっていた。
外回りの攻撃の中、両WGのスターリングとマフレズも対人で劣勢となってドリブル突破もできず、攻撃が停滞してしまっていたのだが、オフザボールも得意であるスターリングは、動き出しの面で相手WBに対して優位性を保つことができており、そこからゴールに迫ることができていた。
また、素早いトランジションやカウンターなどでチェルシーの陣形が整う前に攻撃を仕掛け何度か良いかたちを作り出すことができていた。
対策
トュヘルがシティ相手に行った守備の対策は、プレッシングの陣形の変更とそれと連動したスライドの徹底、そしてプレッシング方法の変更である。
トュヘルチェルシーは、全員が後ろから相手選手を抑えるように、FWを1枚下げ、中盤を3センターにする5-3-2の陣形でのプレッシングを基本としている。
しかし、今回の相手であるシティは、ハーフスペースを上手く使って攻撃するので、中盤がスライドしつつ、WGとCBでしっかりハーフスペースを消すことができる5-2-3のプレッシングを採用した。
この陣形のプレッシングは、FW3枚が背後のスペースを埋めるために中央に絞るので、その脇のスペースを使われがちであり、実際にPL35節でもそこを使われて失点してしまったのだが、そのことを踏まえて、FW3枚がかなりハードワークしてスライドし、時にはWGのマウントやハヴァーツ自陣深くまで戻って守備対応を行っており、シティに良いかたちでビルドアップをさせなかった。
WGのマウントやハヴァーツだけでなく、DFラインまで降りた選手に対しては、CHジョルジーニョやカンテが前に出て行って牽制し、シティのビルドアップを阻んだ。
また、普段は前からボールを奪いに行くハイプレスをベースとしているが、この試合は牽制で圧力をかける程度のミドルプレスを採用した。
これは、縦のラインをコンパクトに保ち、中央のスペースをコンパクトにして、間延びをさせないことと、シティが得意としているGKを含めたプラス1枚のビルドアップをさせないことが理由であり、どちらも上手く機能していた。
グアルディオラがチェルシー相手に行った攻撃の対策は、深さと幅を取ることができる陣形とジンチェンコの起用法である。
今シーズンのシティは、偽サイドバック戦術を用いて可変する3-2-5の陣形や、ダブル0トップ戦術を用いて守備を重視した4-2-2-2の陣形でのビルドアップを基本としている。
※通常のシティ
3-2-5の陣形は、CFで深さを取ることができるが、CFに起用されるジェズスやデ ブライネ、ベルナルドは、ポストプレーや裏へ抜け出す動きで、深さを作る役割を担うタイプの選手ではなく、WGにも中へダイアゴナルに走り込める選手がいないので、あまり効果的に深さを取ることができていなかった。(フォーデンとスターリングは、空いてるスペースへダイアゴナルに走り込んだり、後ろから飛び出す動きをすることができるが、起用法を見るとこのような使われ方をされないことも多い。)
4-2-2-2の陣形は、CFがフォルス9番の役割となるので最初から深さを取る選手がおらず、同様にWGで中へダイアゴナルに走り込める選手もいないので、全く深さを取ることができていない。
このように、深さを取らないような守備を踏まえた攻撃でもボールを保持して攻撃を繰り返すことで、個の能力の違いからリーグ戦では勝ち点を積み上げてきたのだが、ビッククラブ相手にはやはり苦戦を強いられ、中でもトュヘルチェルシーには2連敗を喫してしまっていた。
しかし、今回の相手であるチェルシーにそのような攻撃で得点を取ることは、とても難しい。
シティのスカッドに純粋なCFがアグエロしかいないということと、チェルシーが3バックであるということを踏まえて、グアルディオラは、1人が降りても1人が裏を狙って深さを取ることができる2トップを選択したのだ。
LIHのフォーデンが2トップの一角に入るので、元々中盤の選手であるジンチェンコが内側に入って、左のハーフスペースにポジションを取るようにした。(いわゆるカンセロロールをジンチェンコに行わせたかたち)
また、PL35節ではメンディーとカンセロに幅を取る役割をさせていたが、今回はより攻撃力に優れたスターリングとマフレズに幅を取る役割をさせるように変更した。
修正
チェルシーは、ヴェルナーやマウントなどかなりハードワークしていた選手を代えてたものの、プレッシング方法やスタンスは変えずに最後まで貫いた。
また、ブロックに関しても、終盤になって、守り切るために5-4-1気味で守備を固めたが、大幅に陣形を変えるはせず、最後までラインを下げないでFWとMFがスライドを徹底し、DFがギリギリのところで身体を張って守り、無失点に抑えた。
シティは、ハーフタイムで、ビルドアップのかたちを4-1-2-3のような陣形に修正した。
SBが内側に入らず、外で幅を取り、代わりにWGが内側に入って、相手両CBをピン留めし、デ ブライネが左のハーフスペースに降りるかたちを作るようになった。
右サイドは、中でプレーすることを苦手とするRWGマフレズも内側に入ることになるので、より彼が活きにくいかたちとなるが、ウォーカーが攻撃参加して外からの崩しも狙うようになった。
一方左サイドは、スターリングがアスピリクエタを引っ張り、そのスペースにデ ブライネが降りることで上手くボールを引き出せるようになったが、この試合は彼のコンディションが良くなかったのかプレー精度に少し欠けていたことと、カンテの素晴らしい守備対応によって、殆ど良いかたちを作ることができていなかった。
そんな中で、デ ブライネが負傷交代となり、FWジェズスを投入し、更にベルナルドに変わってACフェルナンジーニョを投入したことで、ギュンドアンが前に出てSTとなる左右非対称の4-2-4のような陣形に変更した。
フォルス9の動きができるジェズスと、的確なポジショニングを取ってボールを捌いたりくさびのパスを入れたりできるフェルナンジーニョの投入によって、レイオフを多用しながら中を経由してボールが回せるようになった。
しかし、中に入ったマフレズは相変わらず、あまり違いを出せておらず、また、2トップのため、WGがサイドに開くとSBと縦関係になってしまったり、ギュンドアンとジェズスの役割や使うスペースが重なってしまうというような現象も起こるようになった。
点を取らなければならないシティは、最後に動き出しでDFと駆け引きできるCFアグエロを投入して、更に攻撃的な布陣に変更した。
シティの守備、チェルシーの攻撃
シティのプレッシング
シティは、4-1-2-3の陣形でのハイプレスを採用した。
3トップが相手3バックに、2IHが相手2センターに付くマンツーマンのようなかたちで、チェルシーの得意な後ろからのビルドアップをある程度抑えることができていた。
サイドにボールが展開された時には、ボールサイドのSBが出て行き、逆サイドのSBが外を捨てて絞り、3バックとなってマンツーマンで対応していた。
チェルシーのビルドアップ
チェルシーは、シティのハイプレスに恐れず、WBが幅を取りつつある程度高さも取る3-4-3の陣形でのビルドアップを採用した。
シティの前からの守備に対して、GKメンディー、CBシウバのところと、両WBチルウェル、ジェームズ、両WGマウント、ハヴァーツのところで上手く数的優位を作って、プレスを回避するだけでなく、そこから素早い疑似カウンターに繋げることができており、"両者のポイント、狙い"のところで前述したようなかたちを上手く作り出せていた。
このビルドアップは、足元の技術が高いDFが揃うチェルシーだからこそ、行えるものであり、後方がマンツーマンでハメられている状況下で、敢えて後ろから繋ぐことで相手を引き込み、前線のマンツーマンの状況を活かすことができていた。
そして、このかたちから得点も奪うことができたのだ。
シティのブロック
シティは、オフェンシブサード、ミドルサードでは4-1-2-3の陣形でプレッシングを行なっていたが、ディフェンシブサードでは可変してオーソドックスな4-4-2のブロックの形成を採用した。
攻撃時同様にフォーデンが一列前に出て、デ ブライネと2トップを組んで牽制し、WGが状況に応じて深い位置まで下がって対応していた。
ボールがサイドに展開されると、陣形のかたちを維持しつつ、しっかりとスライドして、ボールサイドに圧縮して対応していた。
チェルシーのフィニッシュワーク
チェルシーは、ビルドアップからのロングパスや疑似カウンターなど速攻で、フィニッシュまで直結させることが多かった。
遅攻の場合、オフェンシブサードでのプレーが、普段と比べてより柔軟になり、細かな戦術的なデザインを重視するといったよりは、前線の選手が自由に動いて空いたスペースにカンテや両WBが入っていくといったように若干アドリブ的な攻撃でチャンスを作り出していた。(但し、CFヴェルナーは常に相手DFを引っ張るように裏へ抜け出していた。)
対策
グアルディオラがチェルシー相手に行った守備の対策は、マンツーマン気味の超ハイプレスとそれと連動した後ろのスライドである。
相手GKとCBにある程度余裕を持ってボールを持たせ、WGが相手SBへのパスコースを切りながらボールホルダーを牽制するような後ろに守備の人数を残したプレッシングを主流にしていたシティだが(CLでは主に4-4-2の陣形でのハイプレス)、この試合では、ゾーンでは無く、かなり前から相手に人を当てて合わせるマンツーマン気味のハイプレスを採用した。それと連動してスライドし、後ろは3バックで完全にマンツーマンで対応していた。
これは、チェルシー相手に少し下がってミドルプレスに変更したところ、ボールを支配されてかなり試合のペースを掴まれてしまい、結果2失点をして敗北を喫したPL第35節を踏まえて、前から積極的にボールを奪いに行き、試合のペースを握ることを狙いとしており、結果、自分たちがボールを支配することに成功した。
(チェルシーは、PL第35節で支配率52%だったが、この試合は支配率39%にとどまった。)
トュヘルがシティ相手に行った攻撃の対策は、後ろから繋ぐビルドアップの継続とヴェルナーのプレーエリアの変更である。
何度も言ってるようにチェルシーは、後ろから繋ぎ、ハイプレスを引き込んでの疑似カウンターを狙っているので、ハイプレス相手であろうと、終始CBからボールを繋ぎ、空いているスペースへボールを送ることができていた。
また、ヴェルナーは、CF起用でも左サイドに流れてプレーをしていたが、この試合では、主に右サイドへ流れてプレーしていた。
ヴェルナーのシーズン通してのヒートマップ(上)と、この試合のヒートマップ(下)
これは、恐らく、RSBに世界トップのスピードとフィジカルを兼ね備えるウォーカーを起用するシティに対して、左サイドだとヴェルナーのスピードが活きにくいと考えたからであろう。
結果、ヴェルナーは主に右サイドの裏へ抜け出してボールを引き出したり、相手DFを引っ張ったりして、チャンスを作り出せていた。
修正
シティは、前半半ばから後半スタートまでの間にフォーデンとデ ブライネが守備の立ち位置を変えていたものの、前からマンツーマン気味のハイプレスの守備スタイルを最後までやり通し、チェルシーに圧力をかけ続けた。
チェルシーは、カンテが、マンツーマン気味のハイプレスでかなり前からくるシティ相手に対して、自分が前に出て行って前線に厚みを持たせることで、優位性を作ろうと考えて、前半半ばから高い位置にポジションを取るようになった。
しかし、カンテが前に出ていくことで、シティの選手がマンツーマンでついて行き、結果として前線のスペースを埋めることとなってしまっており、敢えて後ろから繋ぐことで相手を引き込み、前線のマンツーマンの状況を活かすというチームの狙いを妨げるようなかたちになってしまっていた。
また、シティの選手がマンツーマンで付いていかないと、チェルシーWBに対して、シティWGで対応できるようになり、チェルシーはサイドで数的優位を作れず、ハイプレスにハマるようになってしまっていた。
そのため、トュヘルはすぐにカンテを下がってビルドアップに参加させるように修正し、その後、その采配もあって得点を奪うことができた。
最後に
攻撃も守備も、ポゼッションもカウンターもでき、日が経つにつれて、攻守のデザインや戦術のディテールが成長していったチェルシーと、守備を第一として、後ろ重心の攻撃も厭わなかったが、決勝で原点回帰して攻撃的なスタイルを取り戻したシティの欧州最高峰の一戦は、1-0という結果以上にチェルシーの完勝で幕を閉じた。
※Xgのデータ
https://twitter.com/betweentheposts/status/1398886758100701184?s=21
あくまでデータなので参考程度だが、このような数値も出ていた。
そのため、グアルディオラの采配に対して、批判的な意見も出てきているくらいだが、他のやり方はあったにせよ、現状のシティにおいて、私は、彼の采配は合理的であったと考えている。
- 2トップのシステムについて
チェルシーは3バックを用いている
→1人が降りても1人が裏を狙うなど2枚で深さを作る
- ジンチェンコの起用、起用法について
逆サイドのSBが絞って3バックになることなど守備のことを考慮すれば、守備が軽率であるカンセロやメンディーではなく、当然ジンチェンコを起用
LIHフォーデンが2トップの一角となるので、左のハーフスペースが空く
→元々中盤の選手で、リーズ戦のIH起用も非常に良かったジンチェンコがそこにポジションを取る
- スターリングの起用について
ジンチェンコが内側に入るので、左の幅はWGが取ることになる
→不調とはいえ、他の選手と比べても明らかに突破力があり、ダイアゴナルな走り込みもできるスターリングを起用
- プレッシング守備について
PL第35節のチェルシー戦で、後半から少し下がってミドルプレスに変更したところ、ボールを支配されてかなり試合のペースを掴まれてしまい、結果2失点をして敗北を喫する
→前から圧力をかけて、自分たちの時間を長くするためのハイプレス
→ハイプレスで前に人数をかけるため、後ろはマンツーマンになる
ただ、一つ疑問が残ったのは、アンカーにフェルナンジーニョやロドリではなく、ギュンドアンを起用したことだ。
恐らく、チェルシーの堅い守備に対して、アンカーの選手も出て行って、ゴール前などで攻撃に絡ませたいという攻撃的な思いからギュンドアンを起用したのであろうが、結果的に守備の面でかなり苦労することとなる。
アンカーを余らせて、それ以外のところはマンツーマンになる気味になるシティの守備では、アンカーのポジショニングや予測力、対人能力などのフィルターの役割が非常に重要である。
勿論、ギュンドアンは、昨シーズンなどアンカーで起用される試合も多々あったが、フィルターの役割というよりかはゲームメーカーの役割として起用されていた。
そのため、マンツーマン守備のリスク管理として余らせていたギュンドアンは、フィルターになることができず、チェルシーの攻撃を食い止めることができなかったのだが、このようになることは事前に予測できたはずである。
一方で、ギュンドアンは、得意なゲームメーカーの役割も上手くこなすことができていなかった。
それは、ヴェルナーが背中で抑えながらマンツーマン気味に付いていたからである。
しかし、前半終了までギュンドアンのポジションは改善されず、終始ヴェルナーに消されるかたちになってしまっていた。
そのため、前半半ば辺りから、ベルナルドやフォーデンがDFラインまで降りてビルドアップを補助するようになり、数的有利を作ることで、外から攻撃を仕掛けられるようになった一方で、余計にライン間にボールが入らなくなってしまっていた。
このとき、IHの選手ではなく、アンカーのギュンドアンを落としていれば、上手くボールを前進されることができたのかもしれない。
実際、PL第35節では、アンカーのロドリを落として4バックを形成することでチェルシーの3トップに対して優位性を作り、そのかたちから先制点を奪うことに成功している。
とはいえ、ギュンドアンのところ以外の、配置と選手起用、それに伴った戦術は、素晴らしく、理にかなった采配であった。
だが、それ以上に洗礼されたチェルシーの守備が良かったので、このような結果となってしまったのだ。
仮に、シティに足りなかったものはと考えると、ダイナミックな展開、ストライカー、そしてウインガーと、根本的な問題であろう。
今シーズンから戦術を大幅に変更したことで、CBやSBからWGへのダイナミックな展開が明らかに減少し、この試合でも全くそのようなロングパスは見受けられなかった。このようなダイナミックな展開を多用できていたら、もしかすると、チェルシーのスライド守備が間に合わなくなり、そこから崩すことができたかもしれない。
また、アグエロが不在となって、DFラインの裏へ抜け出したり、クロスに対して少ない人数でも動き出しでマークを外して点を取れるようなオフザボールと得点力に優れたストライカーがいなくなってしまった。彼が昨シーズンのような調子を維持できていたら、もしかすると、動き出しで違いを出せて、自分でゴールを奪ったり、それにDFが釣られて味方を活かすことができたかもしれない。
更に、スターリングの不調とサネの移籍によって、WGの突破力が明らかに低下してしまった。昨シーズンのようなWGであれば、もしかすると、チェルシーWBとの一対一で優位性を保てて、そこから崩すことができたかもしれない。(勿論、フォーデンは素晴らしい選手であるが、WGのポジションが最適解でないはず、トーレスやマフレズもドリブルは得意だが、サネやスターリングと比べると、圧倒的に突破力に欠けてしまう。)
詳細は、「プレミアリーグ前半戦総括(1-19節) 〜マンチェスターシティ〜」の"今シーズンからの変化"に記載
これらの考察は、あくまで想像に過ぎず、サッカーにおいてたらればを言い始めたらキリが無いのだが、シティのサッカーが、超攻撃スタイル(19/20シーズンまで)から守備重視のスタイル(20/21シーズン終盤まで)へ、そして、また新たに攻撃的なスタイルへと変化していっているのは確かである。
一方でチェルシーも、トュヘル就任以降は、5バックを採用してクリーンシート記録を樹立するなど安定した守備と、ポゼッションやカウンターを使い分ける多彩な攻撃、そして、対戦相手によって変化する細かい戦術を機能させて大きな躍進を遂げてきた。
欧州王者となり、オフとキャンプを挟んで、トュヘルがシーズン頭から指揮を取るチェルシーと、守備と攻撃のバランスを変化させている過渡期にある中で絶えずビッグネーム獲得の噂が上がるシティの2チームが、PL、更にはCLでどのようなフットボールを見せてくれるのか、早くも来シーズンに期待を膨らませながら、開幕を待つことになりそうだ。
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