プレミアリーグ前半戦総括(1-19節) 〜マンチェスターシティ〜
目次
シティの現在の状況
序盤は、一時プレミアリーグ(PL)13位まで順位を落としてしまったものの、徐々に巻き返し、直近では公式戦18試合無敗が続いている。
アストン ヴィラ戦でエースのデ ブライネが4週間から6週間の怪我を負い、攻撃力低下が懸念されたものの、直近のWBA戦では見事に大勝し、拮抗している中でリーグ首位に躍り出た。
シティの戦術
近年のシティは、11人全員が高い能力でパスを繋ぎ、その中でも長短のパスを織り交ぜながらボールを保持して試合を支配する超ポゼッションの元で圧倒的な攻撃力を特徴とするサッカーを行なっている。
そもそもシティは長らくプレミア中堅もしくは下位のチームであったが、アブダビグループの買収によって、巨額な資金力を得て、のし上がってきたチームであり、2016年にジョゼップ グアルディオラが就任して以降、彼が得意とするポゼッションスタイルを中心に、いわゆるダウンスリーや偽サイドバック、0トップなど彼が普及させた様々な戦術が持ち込まれ、チームに浸透していった。
そして、17-18シーズンからPL2連覇達成、リーグカップ(カラバオ)も3連覇と、PL屈指の強豪となり、間違いなくシティの歴史上で最強のチームとなった。
そんなシティのサッカーが徐々に変化している。
攻撃戦術
・ビルドアップ
図1 △フェルナンド=フェルナンジーニョ
元シティ現セビージャのフェルナンドではない
最初に、シティのビルドアップにおける前提として
全員に高い足元の能力が備わっており、特にビルドアップに大きく関わるGKとCBは、安定したショートパスと、味方の足元へ超正確なロングパスを送ることができる選手を揃えている。また、アンカーも含めた彼らは、展開力も抜群であり、相手がボールサイドに圧縮してプレスをかけてくれば一気にスペースのある逆のサイドに展開してプレスを回避することができる。
シティは、この大小の三角形をベースとしてパスを繋ぐということを緻密にデザインしており、どのような状況でも基本は三角形を中心としてパスを繋ぐ。[図1参照]
シティは、相手や試合の状況に応じて様々な形のビルドアップを使い分けるゆえに、何パターンものビルドアップを持ち合わせており、全てを解説することはできない。
そこで、大きく3つに分けて紹介していく。
図2
相手がハイプレスで前から来る場合は、両CBはGKのエデルソンの脇にポジショニングし、この3枚を中心にパスを繋ぐ。(アンカーのフェルナンジーニョもサポートする。)
相手が食いついてきたり、圧縮したプレスを行なってきたり、マークをずらしてボールにプレッシングしたりして、味方にフリーの選手が生まれるとそこは正確なロングパスを送り、一気にチャンスを作り出す。(エデルソンは、両SBやアンカーの選手にパスをつけるだけでなく、中盤でライン間にポジショニングした選手であったり、最終ラインの裏を狙っているWGの選手にも超高精度なパスを送る。)[図2参照]
図3 △:レロイ サネ R-✖️→L-○
相手がミドルプレスで牽制しかしてこない場合は、RSBのウォーカーが降りて3バック化し、LSBのジンチェンコやデルフが内側に入って中盤にポジションを取るいわゆる偽サイドバック化してパスを繋ぐ。[図3参照]
シティのLSBはサイドライン際をアップダウンで駆け抜けるタイプではなく、パスを受けて捌く中盤のようなタイプが多い。(現にジンチェンコとデルフはシティ加入以前は、中盤の選手としてプレーしていた。)
ここでの要点は、SBが内側に入ることでそのマークが混乱する事だ。
相手WGが内側に引っ張られれば、WGへのパスコースができると共に相手SBとWGの一対一の状況となる。シティはWGに、一対一のドリブルが得意な選手を起用しているので、このような展開はとても有利な状況である。
相手WGが外側を警戒すれば、偽サイドバック化したSBやIHへくさびのパスを通すことができ、ボールを前進させ、チャンスとなる。
※シティの偽サイドバックの変遷
(クリシー、サニャ → デルフ、ジンチェンコ → カンセロ)
偽サイドバック戦術 - SBが内側にポジションを取り、中盤の選手の一角としてビルドアップする戦術。
現代サッカーでは、SBがワイドに開いて幅を取ることが基本的であるが、SBが中盤化し、WGが幅を取ることで、WGと相手SBを孤立させるWGの突破力を活かすための戦術。
これはグアルディオラがバイエルン時代に編み出した戦術であり、実に画期的であったが、選手に求められる能力が多いため、ダウンスリーや0トップなどと比べても偽サイドバックを戦術として採用しているチームは殆ど見当たらない。
SB : SBとしては勿論のこと中盤としてもプレーできる選手。視野の広さと冷静さ(SBは視野が180度で良いが、中盤は360度必要なる)、捌いたりくさびを入れたりできるパス能力、プレスを回避できるテクニック、とマルチタスクをこなさなければならない。
(例 - ラーム、アラバ、ラフィーニャ、キミッヒなど)
WG : 個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある選手。
クリシー、サニャ
アンカーが両CBの間に落ちて(ダウンスリー)、両SBのクリシーとサニャが共に内側に入る。
デルフ、ジンチェンコ
左SBのデルフやジンチェンコが内側に入り、突出した走力を持っているが中盤としてパスを捌くのが得意でない右SBのウォーカーを3バックの一角とする。攻撃時はウォーカーが3バックの位置から持ち前の走力を活かして攻撃参加し、守備時は対人の強さと抜きん出たスピードで広範囲をカバーする。
カンセロ
上記とは逆に右SBのカンセロが内側に入り、左SBが3バックの一角となる。
しかし、今までの偽サイドバックとは違い、中盤に入った状態からIHのように前に出ていき、ハーフスペースを上手く使ったり、サイドに流れてクロスを送り込んだりする。
カンセロ ドリブル成功率 → チーム3位
チャンスクリエイト率 → チーム2位
(後述にあるデ ブライネ依存の改善策として、カンセロにシティのIHの役割をさせ、デ ブライネの負担を軽減させる。
ロドリを除いた中盤3枚は、流動的で、低い位置でのゲームメイクが得意なギュンドアンや、デ ブライネが3列目に降りはこともあれば、カンセロがライン間にポジションを取ることもある。)
→バルセロナ時代のダニエウ・アウヴェスの役割とバイエルン時代のアラバの役割の融合
つまり、シティでは、バルセロナ時代とバイエルン時代を組み合わせた偽サイドバックを育て上げようとしているのだ。
他にもフェルナンジーニョがCB、ラポルテがLSBに起用されていたときは、フェルナンジーニョが前に出てDMFの位置にポジションを取り、両SBが絞ることで後ろ3枚の形を作る偽センターバックのような型のビルドアップを使っていたこともあった。
ではなぜ、元々4バックであるフォーメーションを変化させて3バックにするのか。
一番の理由は、2トップで守備をする相手に対して1枚多い人数でビルドアップできるからであろう。シンプルに数的有利にたてると言うことだ。
しかし、それだけではない。
DF3枚とDMF2枚という陣形は、三角形を作るのに非常に適しているからだ。
図4
相手がプレスに来ていたり、牽制したりしている状況では、受け手が角度をつけてボールを引き出すことが非常に重要だ。[図4参照]
なぜなら、受け手がプレスに行く相手選手とボールホルダーの直線上にいると当然ボールは出すことはできず、相手は一人で二人の選手を抑えることができてしまうからだ。
※1トップや3トップでのプレスの場合
1トップ、一人では、コースを消す又はプレスに行くのどちらが精一杯であるプレスをはめるのは不可能であり、牽制するのも難しい。
シティのCBは持ち上がることもできるのでコースを消されれば持ち上がるし、プレスにきたらパスを出すだけで簡単に回避できる。
3トップ、
2CBが広がり、GKエデルソンが前に出ることで後ろ3枚の形を作る。この時、2枚のDMFは距離を狭め、四角形ではなく、角度をつけて台形の形となる。それでもパスコースがない場合は、IHのシルバがバランスを見て、サイドに流れてパスコースを作る。
この、2枚のDMFと3枚のCBで三角形をデザインしてボールを回し、WGやIHに縦パスを入れてボールを前進させる型[図4参照]は、ビルドアップに限らず、シティのパス回しにおける全ての場面で使われている。
勿論、LSBの選手や相手の守備の状況によって偽サイドバック化せず、図5のようなビルドアップするケース(特に、相手がアンカーを消しながらのプレスをできていないとき)もある。
図5
相手がリトリートし、ブロックを作る場合は、ライン間でのボールの引き出しが絶妙なIHのシルバやデ ブライネへのくさびのパスであったり、やはりワイドに開いているSBやWGへの正確なロングパスで組み立てを行う。[図5参照]
大きく分けるとビルドアップに対する守備はこの3パターンになり、メンバーは少々変化しているものの今シーズンも引き続きこれらのビルドアップの型を適用している。
※何故シティのようにGKを含めたビルドアップが流行となっているのか。
近年、GKからの繋ぎがトレンドになっており足元やフィードに長けたGKが重宝されることによって、図1のようなビルドアップは度々見受けられるようになった。それは、プレスが進化してより組織されて行われるようになった事と、すぐにラフなロングボールを蹴らずにしっかりと後ろから繋ぐようになった事が大きな理由であろう。
GKを含めたビルドアップの最大の利点は、必ず一枚多い人数でボールを回すことができる点である。なぜなら、仮に相手が全員にマンマークで守備をするとしても相手GKが誰か選手をマークをすることはないからだ。
だから、GKがビルドアップに参加できれば、十対十一となり攻撃側が必ず有利となる。
これがGKを含めたビルドアップがトレンドとなっている要因である。
そんな中でも、相手のハイプレス下でシティのビルドアップ程落ち着いて淡々とボールを回せるシティは、GKを含めたビルドアップという点においてはやはり頭ひとつ抜けている。寧ろ、プレスをよりかけさせて、引きつけてから展開して回避する場面すら見られるくらいだ。
図3、4ようにエリア外まで出ていき、時折CBの高さまでGKが前に出て行うビルドアップは殆ど見受けられない。それは、いうまでもなくリスキーすぎるからだ。セービングは置いておいて、足元の技術やフィード力で考えると間違いなく世界最高であるエデルソンだからこそできるビルドアップと言って良いだろう。
・崩し
グアルディオラのサッカーのスタイルとしてポゼッションというのは、誰もが最初に思い浮かぶ特徴であろうが、それを可能にする大きな存在はWGである。
※グアルディオラが率いた過去のチームのWG
バルセロナ時代には、メッシを0トップし、メッシが下がったところに走り込むことができるダイアゴナルな走りが得意なビジャやペドロ、サンチェスを起用していた。
バイエルン時代には、ロッベンとリベリ、控えにコマンやドウグラス コスタとサイドに張り、圧倒的なスピードを持ち合わせたドリブル突破やそのドリブルからカットインシュートを得意とする個で打開できる選手を起用していた。
シティでは、バルセロナ時代とバイエルン時代を組み合わせたWGを育て上げ、起用している。
オンザボーラーであるサネとスターリングにオフザボールを教え、ドリブルだけでなく裏抜けや中に入ってコンビネーションもできる選手へと成長させた。
これによりグアルディオラの戦術の幅は大きく広がった。
シティの攻撃は、選手間の距離が近く、テンポ良くパスを回す。そして、中盤の3枚を中心にライン間に差し込む鋭いくさびのパスやラポルテやフェルナンジーニョを中心に距離を変える大きな展開のロングパスを送ったのをスイッチに一気にギアを上げて攻撃が加速する。
また、中央にボールを入れたら外のWGへ、WGに展開したら中央のCFやIHへという具合に外と中の使い方が非常に巧みである。
そんなシティの攻撃を語る上で欠かせないスペースがある。
図6
その重要なスペースとは、CBとSB間のポケットのところいわゆるハーフスペースである。[図6参照]
※ハーフスペースの重要性について
そもそもハーフスペースとは、ピッチ基準で考えるとフィールドを縦に五分割したときの外からの2番目のエリアのことであり、人基準で考えると4バックのCB、SB間のスペースのことである。
このスペースの重要性は、簡単に分けると3つある。
1、パスコースと視野の確保がしやすい。
中央にいるよりも角度をつけることでパスコースが確保できる。
そして、仮に中央でボールを引き出しても背負った状態であり、視野の確保が難しいが、角度をつけて半身でボールを受けることでボールとDF、そしてゴールを全て視野に入れることができる。
2、シュートやパスの選択肢が多様になる。
パスコースと視野の確保という点においては一番外のエリアもでも同じことが言える。しかし、一番外のエリアでは、横がタッチラインであるためプレーが限られており、またゴールからも離れているのでDFは余裕を持って対応できる。シュートも難しく、ゴール前へのパスはクロスがメインとなってしまう。
一方でハーフスペースでボールを受けると、プレーエリアが360度に広がるため、プレーに多様性が生まれ、ゴールからの距離も近いのでミドルシュートやスルーパスも出せるようになる。
3、DFがマーク曖昧になる。
現在、多くのチームは4バックを取り入れているが、その場合、ハーフスペースでボールを受けると、MFなのかSBなのかCBなのか誰がボールに対して守備に行くのか非常に曖昧になるので、フリーになりやすかったり、逆にシュートやパスを出されてしまうので相手を一気に引きつけたりしやすい。
シティはこのスペースを突く上手さは世界最高レベルだ。
サイドにボールが入ると、基本的にWG、IH、SBが三角形を作ってボールを回すが、ここからの崩しに多種多様なパターンを持っている。[図6参照]
図7
まず、シンプルにハーフスペースに人が走り込む型だ。
デ ブライネが内側をインナーラップするように走り、クロスを送り込むパターンはとてもよく見られるシティの十八番である。
また、ウォーカーが持ち前のスプリント力で後ろからオーバーラップして、クロスを送り込むパターンもある。[図7参照]
図8
次にボールホルダーが自ら使う型だ。
ドリブルで縦に突破してシンプルにクロスを送り込むパターンやワンツーで抜け出してクロスを送り込むパターンがある。[図8参照]
スターリングやベルナルドも勿論このようなプレーをするのだが、なんといってもこれを得意としていたのはサネであろう。
左利きで左サイドに置かれていたサネは、勿論縦への突破が武器になりそこからのクロスだけでなく、シュートにまで持ち込むこともできた。また、シルバとのコンビは抜群で彼からのスルーパスやワンツーで抜け出すシーンも目立っていた。
図9
また、WGはドリブルが得意な選手ばかりであるので、カットインする型もある。
スターリングやサネなんかは、スピードがあり、独力でカットインすることも可能であるが、より脅威となるのは、IHやSBが走り込みである。
これにより相手DFがつられて、スペースが生まれ、よりカットインしやすくなり、プレーの幅も広がることとなる。[図9参照]
これらの型[図7、8、9]は得意分野はあるものの、両サイド共通で行われている。
図10
最後に、デ ブライネが少し下がり目でボールを受け、高精度のアーリークロスを送り込む型がある。
これは、殆ど右サイドでしか見られないものの、よくある型ではある。[図10参照]
理由は簡単で、彼ほどの高精度なアーリークロスはデ ブライネにしかできないからだ。
シティは、このようにハーフスペースを使う型を幾つも用意しており、その場の状況に応じて使い分けるのだが、更に驚くべき事がある。
それは、この三角関係の特徴として、三角形が回転するように3人の配置が移動し、彼らはどの配置でもクオリティーを落とさずにプレーすることが可能であるということだ。
つまりどういうことかというと、外に張ったSBのウォーカーが内側に入ったWGのベルナルドとワンツーで抜け出したり、後ろにポジションを取ったデ ブライネへリターンしてデ ブライネがアーリークロスをあげる事もあれば、SBのウォーカーがインナーラップしたり、デ ブライネがオーバーラップのように外側を走ってクロスを送り込む事もあるということである。
これだけ崩しの型を持ってるので、例えば、相手DFが飛び込んできたらワンツーで抜け出したり[図7参照]、味方の走り込みに相手DFが付いていたらカットインをし[図8参照]、ドリブルを恐れて中央を固めたら味方にパスを出したり[図6参照]、と相手DFの動きに合わせてプレーをすることができる。
そのため、これらの洗練された攻撃を90分間守り抜くのは、至難の業であるが、これだけではない。
図11
ビルドアップで説明したように、アンカーと両CB、特にラポルテとフェルナンジーニョは展開力があり、ロングパス精度が非常に高く、ウォーカーもサイドチェンジは得意である。
様々な崩しの型を有しているとはいえ、それでも攻撃が停滞したり、ボールサイドに人を圧縮して守られたりすると、一度、アンカーやCBを経由して一気にサイドを変える。
当然、逆サイドでも同じクオリティーの崩しを行えるので、守る側にとっては的を絞ることもできず、揺さぶられ続けることで守備のスライドも遅れ、結果的にはブロックを崩されてしまう。[図11参照]
図12
これらを恐れて、相手がブロックを下げすぎてしまったり、プレッシャーをかけなかったりして、ボールホルダーに自由を与えてしまうと、シルバやデ ブライネ、フェルナンジーニョなど中盤の選手からDFとGKの間に落とすようなボールや裏へのスルーパスだったり、ライン間に差し込む鋭いくさびのパスを送り込まれてしまったり、ミドルシュートを打たれたりしてしまう。[図12参照]
このようにシティは、何段階もフィニッシュまでの型を持っており、相手の出方や試合の状況に応じて最適なプレーを選択し、実行できるので、得点を量産することができるのだ。
ここで一つの疑問が生じる。
ポゼッションを中心としたスタイルのシティであるが、前述した崩しの型を踏まえると、最後のフィニッシュはクロスからというシーンが多いのではないか。
この問いへの答えは、データで見れば一目瞭然である。
PL18/19シーズンのクロス本数ランキング
PL19/20シーズンのクロス本数ランキング
https://www.premierleague.com/stats/top/clubs/total_cross?se=210
データからもわかる通り、リーグトップのクロス数を誇るシティであるが、だとすると、ヘディングを武器としない3トップを揃えるシティは、どのようにしてゴールネットを揺らしているのか。
シティがハーフスペースを突いて中にクロスを送り込む殆どの場合は、鋭いグラウンダーのクロスを利用する。
このクロスに対して入り方が2つあるが、シティはこれを徹底している。
図13
図14
1つ目は、CFのアグエロがクロスに対してマイナスで止まり、大外のWGがゴール前に飛び込んで合わせる得点パターンだ。
勿論、マイナスにクロスを送ってアグエロが得点するパターンもある。
カウンター時や最終ラインを下げきらない相手などゴール前にスペースがある場合に使われやすい。[図13参照]
2つ目は、WGがクロスに対してマイナスで止まり、CFのアグエロが相手DFとの絶妙な駆け引きからDFの前に入り合わせる得点パターンだ。
勿論、マイナスにクロスを送ってWGが得点するパターンもある。
最終ラインがPA内深くまで下がる相手などゴール前にスペースがない場合に使われやすい。[図14参照]
これらのパターンを見てわかる通り、シティはクロスに対してあまり人数をかけず、殆どの場合、CFとWGで完結してしまう。
プレーとポジショニングをしっかりデザインしておくことで人数をかけなくとも点が取れてしまうのだ。
そして、ゴール前に人数をかけない分、エリアの外に選手を固める。
そうすることで例えクロスが跳ね返されてもすぐにボールを回収し、二次攻撃、三次攻撃へと繋ぐことができるのだ。
他にも、
デ ブライネの推進力のあるドリブルからや快速のスターリング、サネからの早いカウンターでの得点パターンやデ ブライネを中心にフィールドプレーヤー殆どが打てるミドルシュートでの得点パターンなどもあるが、
これらがシティの攻撃戦術の全容である。
今シーズンからの変化
今シーズンからの変化は大きく分けて5つある。
図15
1つ目のポイントは、CBとアンカーを経由して一気に展開することが減少したことだ。[図15①参照]
これは、昨シーズンから少し気になっていたことだが、一気にロングパスで展開というよりも足元で繋いで展開するシーンが目立つ印象だ。
フェルナンジーニョやラポルテほどではないとしても、ロドリやディアスも精度の高いパスを出すことはできるし、勿論試合でも見受けられるのだが、やはりCBやSBを省略する飛ばしのパスは、2連覇のシーズンと比べると減少してるように感じる。(それでも他チームと比べると圧倒的にロングパスでの展開頻度は高い)
ロングパスで一気に展開することのメリットは、相手を揺さぶることで、スライドの遅れからズレを作り、守備ブロックに綻びを生じさせることができるという点であるが、一方で、距離があり、浮き球のパスになる分難しくなり、ボールを失う場面も増えることもある。
逆に、ショートパスを繋いで展開するメリットは、ボールを確実に繋ぎ、ロストの危険を減らすことができるという点であるが、一方で、相手を揺さぶることが難しく、スライドが間に合ってしまう。
どちらの展開も一長一短であり、勿論グアルディオラには色々な思考があるのだと思うが、私はシティほど精度の高いロングパスを送れる選手が後ろに揃っているのであれば、前者の方が得策のように思える。
2つ目のポイントは、WGの変化とそれによる突破力の低下である。[図15②参照]
上記のように、偽サイドバックは、あえてWGを孤立させる役割があり、WGの個人での突破がありきの戦術である。
しかし、その突破力は、明らかに低下している。
今シーズン、世界でもトップクラスの突破力を持つサネが退団した一方で、後述にもあるが、スターリングはサイドで張らずに、内側でプレーする機会が増えたり、そもそも0トップとして起用されたりするようになった。
代わりとなるWGのフォーデン、マフレズ、トーレスは素晴らしい選手であるが、前者の2人に比べると明らかに突破力は劣る。
勿論、彼らはドリブルも上手であり、特にフォーデンやトーレスは若いので今後そのような選手になっていく可能性もなくはないが、現在はサネやスターリングのように、個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある選手ではない。
実際、サネとスターリングは、試合数あたりのドリブル成功数が2〜3回と非常に多いが、20/21シーズンのフォーデンは1.3回、マフレズが1.5回、トーレスが0.8回、と彼らの半数以下であることがデータから見てもわかる。
このWGの突破力の低下が、結果的に、シティの攻撃停滞の要因の一つにもなっている。
3つ目のポイントは、圧倒的なデ ブライネへの依存である。[図15③参照]
シルバが衰えてきたことによって、昨シーズン半ばからシルバのポジションである左のIHにギュンドアンの出場機会が増加していき、昨シーズン終わりにシルバが退団したことで、今シーズンからギュンドアンがレギュラーメンバーとして起用されるようになった。
しかし、シルバとギュンドアンのプレースタイルは全く異なる。
シルバは、ライン間でボールを受けて捌いたり、スルーパスを送り込んだり、自ら走り込んだり、ドリブルで侵入したりとシティの肝であるハーフスペースの使い方が非常に上手である。
一方、ギュンドアンは、シルバよりもどちらかといえばゲームメーカーの要素が強く、シルバより一つ後ろでバランスをとりながらリズムを作り、機を見てくさびのパスを入れるのが得意な選手である。
両サイドどちらからも同じクオリティーで崩すことができたシティであったが、シルバの退団によって、デ ブライネがいないと攻撃が活性化されないという事態に陥っているのだ。
図16
この問題は、1つ目のポイントともリンクしてくるのだが、右サイドでデ ブライネが絡んで攻撃の形を作り、その後展開しても、左IHのギュンドアンはデ ブライネやシルバのような特性の選手ではないので、デ ブライネが流れることとなるのだが、展開されるたび、両サイドに流れることは不可能である。すると、デ ブライネがいないので左サイドの攻撃は活性化しない。
そのため、結局デ ブライネがボールサイドに流れるのだが、当然、ボールと同じ速さで移動できるわけないので、デ ブライネが流れてくるまで、攻撃が停滞してしまう。[図16参照]
更に、左右に走り回らなければならないデ ブライネへの負担はとても増している。
デ ブライネのプレーエリア
実際、このようにシーズン毎のヒートマップを見れば、右サイドでのプレーがメインであったデ ブライネが今シーズンは左右満遍なくプレーしていることが際立ってわかる。
ではこのとき、左IHのギュンドアンはどうしているのか?
彼のポジショニングは2つのパターンに分かれる。
図17
1つは、ロドリと並び、2枚のDMFのような形を取るポジショニングに入る配置だ。[図17参照]
バランスを取りながらリズムを作るのが得意なギュンドアンを最も活かせている配置といえる。
またこのとき、デ ブライネは、右シャドーのようなポジショニングをベースとしているが、後ろにギュンドアンとロドリがいるので、トップ下のように比較的自由に動くことができる。
それでも依然として、彼の負担は大きいものの、崩しやフィニッシュの面に比重をかけられるので、多少は守備面が軽減されるはずである。
しかし、ギュンドアンが中盤にポジショニングする分、LSBが高い位置を取らなければならず、連動してLWGが内側に入らなければならない。
LSBのカンセロは、ドリブルで一枚剥がしてクロスを上げるプレーを武器としておらず、縦に突破したとしても利き足でない左足でクロスを上げることとなってしまう。
一方で、メンディーがLSBで起用される場合、彼は、縦へのドリブルからクロスを上げることが得意であるが、前述したようにそもそもシティの前線の選手には高さがないため、ハーフスペースの深い位置か、グラウンダーのクロスによる得点パターンが主流であり、外からのクロスをヘディングで合わせての得点パターンはあまり期待できない。
また、2つ目のポイントとも繋がってくるのだが、ボールを持った状態からのドリブルを武器としている選手のスターリングが内側にポジションを取っているのでドリブルが仕掛けづらい状況になっている。[図17参照]
つまり、ギュンドアンこそ活きるものの、他の選手のポジションが最適とはいえない配置となってしまうのだ。
図18
もう1つは、ギュンドアンが一番前で高さを取り、CFと2トップになるような配置だ。[図18参照]
このとき、他の選手の配置は、WGがワイドに開くことでカンセロとロドリで2枚の中盤となったり、昨シーズンまでどっしりと中盤の底で構えていたアンカーが降りていわゆるダウンスリーの形を取ったり、と様々であり、それなりに選手の特性を活かして適材適所に配置されている。
しかし、バランスを取りながらリズムを作るのが得意なギュンドアンをFWの位置に置くことを、最適というのは無理がある。
また、デ ブライネがビルドアップにも顔を出してリズムを作らなければならないので、彼への負担が非常に増加する。
これらのことから、ギュンドアンは良い選手ではあるものの、シティがIHに求める特性と少し違うがわかるのだが、シティの中盤のラインナップを見ると、ピッチでギュンドアン以上のクオリティーを出せる選手はおらず、彼を使うしかないのが現状である。
4つ目のポイントは、CF、特にアグエロの不在であり、これが今シーズン思うように勝ち点を取れていない最大の理由である。[図16④参照]
今シーズン、アグエロは怪我が多くあまり試合に出場できず、出場してもパフォーマンスが上がっていなくて思うようなプレーができていない。
いうまでもなく、アグエロは世界屈指のストライカーであり、彼の代わりを務めることができる選手は殆ど存在しないが、とはいえシティの前線の層は厚く、ジェズスが控えにいるくらいだ。
CFの控えがおらず、ユース上がりの選手なんかを使わなければならない事態になっているのならともかく、ブラジル代表でもプレーするジェズスがいるのに、何故、アグエロ不在がシティが勝ち点を取れない一番の理由なのか?
どういうことか?
ストライカーにおいて最も重要なのは、ボールのないところでのDFとの駆け引きである。
勿論、シュートやドリブルの上手さやスピードなんかも重要であるが、スペースがないPAでいかにして相手のマークを剥がしてシュートコースを作り、シュートを打つことができるかが、得点を量産できるかの鍵となる。実際、世界で得点を重ねている選手(レバンドフスキ、ロナウド、スアレス、ケイン、アグエロ、ベンゼマ、メッシ等)でメッシを除いた全員がオンザボールからより寧ろオフザボールからの得点が多いのは明らかである。(勿論、世界最高レベルの選手たちなので、オンザボールも一流な選手ばかりであるが、)
当然、アグエロもエリア内で相手のマークを外してフィニッシュに持ち込むのが非常に得意だ。
元々オフザボールも得意であったが、どちらかといえば、ドリブルなどの個人技を活かした選手であったのをシティに移籍してきて、グアルディオラの指導のもとで、オフザボールを武器とする選手に成長していったのだ。
一方、ジェズスはドリブルを武器とする選手であり、エリア内など狭いスペースでも失わないどころかシュートまで持ち込めるような技術がある。オフザボールはというと、下がってビルドアップの補助をしたり、ライン間でボールを引き出したりするのはアグエロと同等かそれ以上の能力があるものの、DFラインとの駆け引きからの裏抜けや、エリア内で相手のマークを外してフィニッシュに持ち込むのは、まだ未熟の選手である。
ここで思い出して欲しいのは、シティのフィニッシュの型がクロスであるということだ。
図13
図14
前述したように、アグエロは、相手DFの前に入るために駆け引きからニアへ飛び込むのが絶妙に上手い。
いくらPA内を固めていてもここに走り込まれて合わせられたら1人で得点されてしまう。
もし、クロスが入らなくてもアグエロが動けば、DFは釣られる。
すると、ファーにいる選手が空いてくる。[図14参照]
ファーの選手がゴール前に走り込んだら、アグエロは止まってマイナスへの折り返しやこぼれ球に備える。[図13参照]
前線に高さがないシティにおいて、このアグエロの動きは、得点に繋がるかどうかの生命線であるのだ。
ジェズスは、クロスに対して、ただ待っていることが多く、ニアへの走り込みが殆どない。
高さもないので当然、クロスは彼の前で相手DFに跳ね返されてしまうし、動きがなければ相手DFも釣られることなく、対処できてしまうので、PA内に入った他の選手も活きてこないというのが現状である。
更に、拍車をかけるように、シーズン途中にジェズスも怪我で離脱してしまい、WGが主戦場のマフレズやトーレス、スターリング、ベルナルド、フォーデン等が0トップとして起用せざるを得ない状況となってしまった。
※0トップとは、
0トップとは、バルセロナ時代メッシを活かす戦術としてグアルディオラが浸透させたCFが下がってゲームメイクに参加する戦術のことであり、その特性からフォルス9や偽9番とも呼ばれる。
CFが降りることでマークが混乱し、フリーになりやすいのが特徴だ。
フリーにさせまいとCBが寄せてきたらスペースが生まれ、そこにWGがダイアゴナルに走ることで得点チャンスとなる。
偽9番のCF:タイミング良く降り、ボールを捌ける能力。当然、DFを背負ってのプレーが多くなるので、背負ってもプレーできるフィジカルや背負っても失わないテクニックも必要。
(例-グアルディオラ時代のメッシ、リバプールのフィルミーノ、マドリーのベンゼマ、今シーズンのスパーズのケイン)
偽9番のときのWG:CFが空けたスペースにダイアゴナルに走り込めるオフザボールの技術。IHが二列目から飛び出すパターンもあるが、基本はWGができるのが好ましい。
(例-グアルディオラ時代のペドロ、サンチェス、ビジャ、リバプールのマネ、サラー、マドリー時のロナウド、今シーズンのスパーズのソン)
0トップに起用された彼らが偽9番のようなタイプでないことがわかる。(唯一ベルナルドは、タイミング良く降りてボールを上手く捌いたり、背負っても失わないテクニックを兼ね備えているので、彼は適正ではあるが。)
そして、何より彼らは偽9番のWGに不向きである。
全員がオンザボーラーであり、ダイアゴナルに走り込める選手はスターリングくらいしか見当たらない。
このように、アグエロの離脱によってクロスからの得点が期待されにくくなり、更には、ジェズスが離脱したことでシティの前線は、最適解とは程遠い役割をこなすこととなってしまった。その結果、圧倒的な破壊力を持った攻撃陣の得点が激減している。
5つ目のポイントは、圧倒的な攻撃力を特徴とし、大差をつける試合も多かったシティが今シーズンは、非常に現実的で守備的な戦い方をしてるところだ。
先制しても2点目、3点目とどんどん取りにいくスタイルのシティであったが、どうもそのような姿勢が見られない。
大量得点のイメージが強いシティであるが、今シーズン2点差以上で勝利した試合は、バーンリー戦とパレス戦のみであり、パレス戦も崩しての得点ではなく、全ての得点がセットプレーからであった。
近年のシティの得点数を振り返るとわかるように、
17/18シーズン-総得点106→1試合平均2.8点
18/19シーズン-総得点95→1試合平均2.5点
19/20シーズン-総得点102→1試合平均2.7点
と驚異的な得点力を見せつけてきた。
しかし、今シーズンのシティは、
20/21シーズン-前半戦得点36→1試合平均1.8点
と大幅に得点が減少している。
単純に倍にしてもシーズン終了時点で近年の総得点の三分の一も得点が減少していることになる。
(今シーズンのPLの1試合平均得点は過去90年で見ても最多記録であるほどのゴールラッシュのシーズンであるので、ほとんどのクラブは増加している。)
また、ボール支配率でみても
17/18シーズン-平均支配率72%
18/19シーズン-平均支配率68%
19/20シーズン-平均支配率67%
と圧倒的なボール支配を見せていたものの、
20/21シーズン-平均支配率63%
と減少している。
勿論、2つ目のポイントのシルバ退団によるデ ブライネへの依存や3つ目のポイントのアグエロの不在が関係しているのは、確かなのだが、敢えて守備的な戦い方をしているようにも見える。
PLのリバプール戦やユナイテッド戦は、後半途中くらいから勝ち点1取れれば良い、みたい感じにも見受けられたし、前半の割と早いうちに先制点を取りって勝利はしたもののフラム戦やシェフィールドU戦なんかも更に3点目4点目なんかを取りにいくような姿勢にはあまり見えなかった。
何故なのか?守備戦術を紐解いていくと答えが見えてくる。
守備戦術
・プレッシング
シティのサッカーは、何度も述べてきたようにボールを保持して試合を支配する超ポゼッションの元での圧倒的な攻撃力を武器としている。
それゆえ、相手にボールを持たせず、なるべく自分たちがボールを保持できるように、前からハイプレスをかけるのが特徴である。[図19参照]
図20
図21
シティのプレスは、IHのシルバが一列前に出るのと連動してアンカーのフェルナンジーニョもプレスに参加する4-2-4となる陣形を取り、DF陣以外はほぼマンマークのような形で守備を行うのが基本である。
マンマークであるため、誰にプレスに行くのかがはっきりしており、自分のマーカーにボールが渡るとスプリントしてボールを奪いに行き、相手チームに少しでもボールを保持させないようにする。[図20参照]
GKにボールが戻されたときのみ、シルバかアグエロが自分のマークを外して、自分のマーカーのパスコースを切りながらボールを奪いに行く。
特に、SBにボールが入ったときを奪いどころとし、一気に陣形を圧縮する形でボールを回収しに行く。この時、逆サイドのWGは自分のマーカーを捨てて内側に絞ることでマークが受け渡され、アンカーのフェルナンジーニョがフィルターとしてボールを回収できるようなポジショニングを取る。[図21参照]
このようなハイプレスを剥がすのは、DF陣の足元の技術に相当自信がないと後ろからショートパスで繋ぐビルドアップは困難である。
プレスによる圧力からのボールロストにより、そのまま失点に直結しかねないからだ。
現にシティが、このハイプレスからボールを奪取してそのまま得点を取るというシーンももしばしば見受けられる。
また、攻撃時も近い距離でパスを繋いでいる[図6参照]ため、ボールをロストしてもすぐに囲い込み、再びボールを回収しやすいのだ。
ボールを保持することで守備をすること自体を減らす、つまり攻撃は最大の防御という言葉を体現しているのが、シティといえる。
しかし、このような前からのマンマークのようなハイプレスには当然、弱点もある。
それは、プレスをパスワークで綺麗に剥がされた場合や、綺麗に剥がされなくとも一対一の対人守備で抜かれてしまったり、セカンドボールが回収できなかったりして、マンマークが1人剥がされてしまった場合である。
1枚剥がされてしまうと他の選手がカバーリングに入るので、どんどんマークがずれていき、疑似カウンターのようなって一気にピンチを迎えてしまう。
また、シティのDF陣に、広大なスペースがある中で相手がスピードに乗ってドリブルを仕掛けてくるような対人守備を得意としている選手はウォーカーしかいない。(今シーズンは夏に加入したアケもいるものの、怪我に苦しみなかなか出場できていない。)
なぜなら、シティは基本的に自分たちのボール保持を前提おり、ボールを保持することは守備をしないことである、という概念が根幹にあるので、対人守備の強い選手よりも足元の技術に長けており、パスの精度が高い選手を揃えているからだ。
しかし、前述したように今シーズンのシティは、このような概念を持ちつつも、守備的な意識もあるようなサッカーを行なっている。
それは些細であるが、プレッシングから垣間見ることができる。
図22
今シーズンのシティのプレスは、CFのジェズスが中盤に下がり、デ ブライネと相手の中盤の選手をマークする4-4-2となる陣形を取り、相手CBとGKに敢えてボールを持たせるようにする。
両WGがボールホルダーに対して、SBのパスコースを切りながら牽制するだけで、積極的にボールを奪いにはいかない。[図22参照]
このプレスは、ボールを積極的に奪いに行くプレスとは違い、その分プレスが剥がされやすくなるが、後ろに枚数を残しているため、広大なスペースが空いて一気にピンチとなることは避けることができる。
つまり、一気にピンチとなる恐れはあるものの、前でのプレスでボールを奪いきり、常に相手の陣内で戦うスタイルから、
ある程度リスクを管理しながらプレスをかけ、その分剥がされても大きなピンチとはならずに済むより現実的なスタイルへと変化していったということだ。
・ブロック
図23
続いて、シティのブロックの形成のあり方についてだが、基本的に、WGは相手SBに付いていくので相手SBが高い位置を取れば、深いところまで戻り、4-1-4-1のようなブロックを形成するか、どちらかのIHが前に出て4-4-2のブロックを形成する。
また、ブロックとは若干離れるものの、シティらしからぬ3列目に守備的な中盤の選手を2人並べるいわゆるバスを停めるような陣形や、相手の攻撃に合わせたフォーメーション、1人の選手をマンマークするような采配も見られる。
フェルナンジーニョとロドリを並べたバスを停める戦術は、レスター戦やユナイテッド戦で采配された。
※バスを停めるとは
4バックの前に守備的な3列目な選手を2人置く事で、バイタルエリアとハーフスペースを埋め、ゴール前のスペースを消すことや、カウンターのフィルターとなることを主な目的とした戦術のことである。
ブロックを形成し、リトリートして守るのに適した超守備的な戦術であり、守備戦術のスペシャリストであるモウリーニョが好んで用いている。
どちらの試合も余り機能していなかったものの、恐らく、ブロックを固め、カウンターの得意とする2チームに対しての対策であろう。
今までは、このような相手に対して圧倒的な攻撃力で攻め続け、相手に攻撃をさせずに点を取りにいく姿勢であったシティが、行うはずのない戦術である。
相手に合わせた戦術は、特にアーセナル戦で采配された。
※アーセナル戦の戦術とは
アーセナルの前からくるハイプレスと中盤が2枚と少ない事を逆手に取り、CBをディアスの一枚にする大胆な戦術を取った。
シティの後ろ3枚に対して、アーセナルは前線3枚がサイドを切りながらプレスに行くので噛み合った形となり、シティが不利となっている状況に見える。
しかし、グアルディオラはアーセナルの中盤2枚に対してシティは中盤を3枚にし、ベルナルドが自由に降りて行けるようにデザインした。アーセナルは中盤が2枚のため1人がベルナルドに付いていくともう1人が広大なスペースをカバーする状況となってしまうため、安易に付いて行くことはできず、ベルナルドがフリーでボールを受けて、そのまま前に運べる状況を作り出したのだ。
これにより、アーセナルの前線のプレスは完全に無効化された。
また、カンセロが微妙な位置を取ることでアーセナルのLWBが付かなければならないこととなり、マフレズが外に張ることで相手のLCBを引き出すことで、アーセナルのDFラインは完全にバラバラとなった。
更にドリブルの得意なマフレズが広大なスペースが前にある中で一対一を仕掛けられる状況を作り出すこともでき、バラバラのラインの裏をアグエロやスターリングが狙うことでアーセナルにとっては大変厳しい戦いとなってしまった。
守備時は、そのままカンセロがマンマーク気味に付くことで、アーセナルの攻撃の肝であるLWBのサカを完全に封じることに成功した。
今までは圧倒的な攻撃力で自分たちのサッカーを行なっていたグアルディオラがこのように相手チームに合わせた戦術を取るのは非常に珍しく、前述したシティが現実的で守備的な戦い方をしていることにリンクしていると言える。
シティの要点
ストロングポイント
リスク管理をより整備したことで守備がとても安定している。
また、あまりセットプレーを得意としていないシティであったが、今シーズンはセットプレーからのゴールが全体の得点の3割近くを占める。
昨シーズンのように大量得点での勝利を目指すサッカーよりも、今シーズンの毎試合確実に勝ち点3を獲得するという堅実なサッカーは、今後も続く厳しい日程のことや一発勝負のトーナメントのことを考えるとより効果的と言えるだろう。
ウィークポイント
前述したようにシティのDF陣は、対人守備に強い選手が殆どおらず(ウォーカー、アケを除く)、今シーズンも昨シーズン同様にカウンターをベースとし、個人技で打開してくるチームや選手にやられがちである。(今のところ直接失点に絡む場面はなく、実際リーグ最少失点のコンビであるが、ディアスやストーンズらCBは、前述したようにサイドに釣り出された状態での対人守備を得意としてない。)
また、今シーズンから相手にブロックを形成された状態での遅攻も破壊力落ちてる。
ここで更に、アストンヴィラ戦で負傷したデ ブライネがしばらく戦線離脱することとなり、少し厳しい状況になってきている。
選手
MVP
ケヴィン・デ ブライネ
上記で述べた通り、攻撃時の圧倒的な存在感。
印象的な選手
上記で述べたように、シティの求めるIHの特性とは少し異なるものの、積極的にボックス付近に顔を出し7ゴールと前半戦のシティで最多得点を挙げている。
今後、課題となっているデ ブライネ依存を軽減できるような左IHの選手となれるのか、それとも現在のようによりゴール付近でボールに絡んでゴールを取れる左IHの選手となるのか、どちらにせよ、ギュンドアンの活躍が今後のシティの鍵となる。
注目選手
リアム・デラップ
シティには、珍しく大柄なポストプレイヤータイプのCFで、アグエロやジェズスが負傷したということも相まって今シーズン17歳ながらもトップチームデビューを果たした。
恵まれた体格を活かすのは勿論のこと、その身体の使い方も非常に上手く、前線で孤立していても起点となってボールをキープすることができるだけでなく、降りてきてライン間でボールを引き出す能力にも長けている。
ボールを引き出した後も、時間を作るキープや前を向いてからのドリブルなど豊富な選択肢を持っている。
また、クロスに対して高さで勝負できるので、前線にヘディングを武器とする選手がいないシティに新たな選択肢を作ることができる選手である。
一方、身体能力で勝負できる選手にありがちなクロスに対しての入り方や、ドリブルが得意であるが故の球離れの悪さは、まだまだ未熟であり、シュート精度にも若干ムラがあるので、今後シティで活躍していくためにはこれらの成長が鍵となる。
今後の展望
昨年末新たに、2年契約を延長したものの、恐らくグアルディオラは長期政権を築くような監督ではない。(23年まで続ければ7年でそこそこの長期政権になるが。)
グアルディオラがバルセロナ時代とバイエルン時代で確立した戦術を組み合わせた戦術の集大成を築き、自身の圧倒的ポゼッションという信念を変えた今、残された2年で、未だに結果を残せていないCLを全力で取りに行くだろう。
より守備的となったシティが、最も重視しているであろうCL(CLはトーナメントなのでより現実的で守備的な戦い方も必要となる)を取りに行きつつ、リーグ戦と同時並行できるかが鍵となる。
ギュンドアン起用の最適解を見つけ出し、アグエロの穴をどう埋めるかが今後のシティの見どころであり、これらの問題が解決されたとき、攻撃と守備が両立した新たなシティが見られるだろう。
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