SaTo_yu99’s blog

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21/22シーズンの戦い方はこうだ!! プレミアBIG6戦術ガイド 〜スールシャールユナイテッド編〜

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ユナイテッドの現状

今シーズンこそタイトル奪還を狙うために、世界最高峰の選手であるロナウドの12年振りとなる復帰や、近年は毎シーズン獲得候補に挙がっていたヴァラン、サンチョの念願の加入など充実した戦力にラストピースを加えたユナイテッドだったが、直近PL7試合は1勝1分5敗とかなり低迷してしまい、遂にはスールシャール監督が解任となる事態になってしまった。

 

ユナイテッドのスタイル

ユナイテッドは、スールシャール監督の下、最高のタレントを揃えて世界でもトップクラスの戦力を誇るチームを作り、瞬間的なコンビネーションによる崩し、各選手のスーパーな技術と創造性による攻撃や、カバー範囲の広さ、インテンシティの高さ、対人の強さを活かした守備など攻守共に個人のクオリティーの高さ(質的優位性)での解決をベースとした選手の個性の色が強いチームである。

 

ただ、今季はロナウドが加入したことも影響してなのか、シーズン途中で大きく陣形を変更している。そのため、ここでは時期ごとに戦術を分析していく。

  • 昨季からヴィラ戦まで(ユナイテッドのベース) : I期
  • ヴィラに敗戦後のビジャレアル戦以降 : II期
  • リヴァプールに敗戦後のスパーズ戦以降 : Ⅲ期

 

ビルドアップ 

・ベース / 4-2-3-1

ユナイテッドのビルドアップの陣形は、基本的に可変せず4-2-3-1のままである。

f:id:SaTo_yu99:20211206213749p:plain4バックで組み立てつつ、判断力とそれに伴うプレー選択などのオフザボールが極めて良いブルーノが各所に顔を出してボールを引き出すことで前線と後方を繋ぎ、ボールを前進させるスタイルである。

f:id:SaTo_yu99:20211206213808j:plain可変しないため、2CBと2センターがスクエアの形状となったり、SBとWGの両方がサイドに開くことで縦関係になるなど配置を全く整理せず、相手のプレッシングにとてもハマりやすい陣形である。(マクトミネイやマティッチが瞬間的に降りて3バックを形成することはあるが、SBは低い位置で、WGは高い位置で幅を取ったままでことが多く、ポジショナルプレーとはほど遠い)

ただ、これがユナイテッドのビルドアップの特徴でもある。どういうことかと言うとプレスにハマっているところさえさえ剥がすことができれば、手薄な逆サイドに展開したり、疑似カウンターに繋げたりすることができるため、状況は好転することが多い。

とても難しくリスクも高いが、個の能力が非常に高い選手が揃うユナイテッドは瞬間的なコンビネーションとドリブルでこれを可能にさせる。

f:id:SaTo_yu99:20211206213848j:plain二手、三手先が見えるビジョン、状況によって最適なプレーを選択できる判断力、相手に捕まらず瞬間的に現れてボールを引き出すオフザボール、長短織り交ぜた正確なパスや狭いスペースでも奪われないテクニックなどのオンザボールを兼ね備えたブルーノとカバーニ(ロナウド)が中央から流れてライン間でボールを引き出しつつ、それに合わせてSB、DH、WGが動くことで、フリックやワンツー、レイオフ、スルーなどを用いたコンビネーションでボールを前進させる。

f:id:SaTo_yu99:20211206213953j:plainまた、SBが低い位置で開いているため、基本的にそこがプレスのハマりどころ(相手の奪いどころ)となるが、推進力が高くて内外どちらにも運べるショーとワン ビサカだけでなく、後ろを向いた状態でも強引に剥がして前を向けるマクトミネイやポグバ、サイドで囲まれた状況でもテクニックとスピードを駆使して前進できるラッシュフォードやグリーンウッドなどのドリブルでプレス回避することも可能である。

 

・II期 / 2-3-2-3 or 2-4-1-3

II期では、大幅に可変はしないもののSBが内側に入る2-3-2-3もしくは2-4-1-3の陣形となるように。(基本システムは4-1-2-3)

f:id:SaTo_yu99:20211206214050p:plainf:id:SaTo_yu99:20211206214102p:plain2CBと両SB含めた3センターで組み立てて、WGが幅、IHがライン間、CFが深さを取るようになったことで配置を整理することには成功した。

f:id:SaTo_yu99:20211206214200j:plain今まで個の能力に頼った瞬間的なビルドアップが多かったユナイテッドが、このような配置の整理によって、パスで相手のラインを超えて段階的にボールを前進させたり、WGのダイアゴナルな走りとCBのロングパス(特にリンデロフ → ラッシュフォード)で背後を取って一気にゴールに迫れるようになった。

f:id:SaTo_yu99:20211206214230p:plainまた、SBとWGと縦関係にならないようになり、SBがボールを持ったときにもサイドと中央にパスコースの角度がつくのでボールを配給しやすくなった。

 

・Ⅲ期 / 3-4-1-2 or 3-4-3

Ⅲ期では、陣形を大幅に変更して5-3-2のシステムに。

f:id:SaTo_yu99:20211210193716p:plain可変しなくとも整理されやすい配置となるシステムではあるが、CBが開いてパスコースを作ったり、WBが高い位置で幅を取ったりすることはなく、ライン間にも人がいないなど決して良くはない配置であり、ボールを繋ぐ原則やビルドアップにおける戦術のデザインも曖昧である。

 

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ただ、ベース期同様に整理されていない状況から瞬間的なコンビネーションとドリブルを使ったり、ブルーノ、ロナウドカバーニを中心に彼らが状況に応じて適切なポジショニングをすることでパスコースを作ったりしてボールを前進させる。

 

フィニッシュワーク

・ベース / 2-2-5-1

ユナイテッドのフィニッシュワークは、ビルドアップ時同様、流動的なポジションの入れ替わりや内側でのコンビネーションなど自由な配置の下で各選手の個人の能力の高さを活かし、瞬間的に崩すスタイルである。

f:id:SaTo_yu99:20211206214300p:plain基本的には、SBが前に出て高い位置で幅を取り、連動してWGが内側に入るような配置となる。

f:id:SaTo_yu99:20211206214326j:plainただ、それはあくまで最初の配置であり、流れの中でポジショニングはどんどん変化する。

f:id:SaTo_yu99:20211206214421j:plain2CB以外は役割が固定されておらず、SBやDH、CFがライン間を取ることもあれば、WGやCF、ブルーノが幅を取ることもあるし、WGやブルーノで深さを作ることもある。

そのため、パスコースが確保できていないことや幅を取れていないこと、ライン間に人が立っていないことなど配置が整理されていないシーンも多い。

従って、立ち位置でズレを作って合理的に崩したり、揺さぶることで綻びを作って段階的に崩したりするような攻撃はあまり見受けられないが、整理されていない配置によって相手に混乱を生み、能力の高い選手たちが状況に応じたアドリブ的なプレーや動きをすることでチャンスを作る。

f:id:SaTo_yu99:20211206214500j:plainこのようにして、フリックやワンツー、レイオフ、スルー、二列目(三列目)からの飛び出し、3人目の動きなどをダイレクトプレーを使った瞬間瞬間のテンポの良いコンビネーションでゴールに迫る。

 

・II期 / 2-3-2-3

f:id:SaTo_yu99:20211206214552p:plainSBが内側に入ることで個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のあるWGに幅を取らせた配置となる。(幅を取った状態からの仕掛けを得意とするタイプのWGが多いユナイテッドのスカッドを考慮した陣形ともいえる。)

f:id:SaTo_yu99:20211206214621j:plainこのようにして、WGをアイソレイトさせ、彼らのドリブルとSBやIHのランニングによってゴールに迫る。

f:id:SaTo_yu99:20211206214654j:plainまた、ビルドアップ時同様、戦術の原理やデザインなどボール繋ぐ原則こそ無いものの、ベース期の配置とは違って各エリアに選手が立っているので、展開して揺さぶることができると、内側で浮いたSBの持ち運びやライン間から顔を出したIHのスルーパスを使った攻撃も行えるように。

 

・Ⅲ期 / 3-5-2

基本的に幅はWBが取るかたちとなるが、それ以外はベース期同様に、流動的なポジションの入れ替わりや内側でのコンビネーションなど自由な配置の下で各選手の個人の能力の高さを活かし、瞬間的に崩すスタイルである。

 

プレッシング

・ベース / 4-2-3-1 or 4-4-2

ユナイテッドのプレッシングは、守備時も個人の能力の高さをベースとした強度の高いハイプレスとミドルプレスの併用であり、主に三通りのかたちを状況に応じて使い分ける。

カバーニとブルーノが縦関係となるか、ブルーノが前に出て2トップとなるのだが、彼らは全速力でスプリントしてボールを奪いに行き、回避されてもプレスバックや二度追い、三度追いをするなど非常に献身的でハードワークできる能力と、カバーシャドーを使って1人で相手2人を消したり、パスコースを限定して同サイドに追い込んだりする賢い守備のどちらも行うことができる。

フレッジとマクトミネイの2センターも同様に、無尽蔵のスタミナを武器にピッチを縦横無尽に走り回れるカバーエリアの広さと、フィフティのボールやセカンドボールなどを回収したり、対人守備や球際などで負けないインテンシティの高さを兼ね備えている。

一方で、WGは前からのプレスは積極的に行うものの、プレスバックなどはあまりせずにカウンター備えて前残り気味となることが多い。

ショーとワン ビサカはどちらもCBの背中やDFラインの背後などスペースを絞って守ったり、カバーしたりする守備は得意でないものの、スピード、パワーに優れ、圧倒的な対人能力の高さを持つ。

一方で、マグワイアとリンデロフのCBはスピードやパワーに劣りがあり、対人守備を苦手としているものの、予測力やポジショニング、カバーリングには長けており、自ら苦手状況を作らせないことができる。

このような特性を持つスカッドにおいて、2トップ、2センターとWG、SBとCBの補完性は非常に良く、彼らの能力を活かして質的優位性を作った守備(プレッシングだけでなく、ブロック時も)を行う。

プレッシング方法は大きく分けて3パターンある。

f:id:SaTo_yu99:20211206214753j:plain一つ目はWGがかなり内側に絞るかたち。CFが内側のコースを切りながらプレスをかけてサイドへ誘導。(カバーニがコースを限定してから二度追いすることで1人でGK含めて3枚を相手にすることを可能としている。)逆サイドのWGとトップ下が相手中盤をそれぞれ捕まえ、ボールサイドのWGがボールホルダーに内側を消しながら圧力をかけることでボールサイドに圧縮する。

f:id:SaTo_yu99:20211206214835j:plain二つ目はWGが前に出てCFと2トップを組むかたち。カバーニ(状況によってはブルーノ)が自分が見ている相手選手へのパスコースを消しながらボールホルダーへプレスをかけてボールを奪う。ビルドアップ能力が高い相手の場合はGKを使ってWG(グリーンウッド)の頭越しのパスで相手SB(左)へボールを送らてしまうこともあるが、ボールの移動中にSB(ワン ビサカ)がジャンプして出て行ってプレスをはめ、後ろはスライド3バックになることでボールサイドに圧縮する。

f:id:SaTo_yu99:20211206214901j:plain三つ目はブルーノが前に出てCFと2トップを組むかたち。CFが内側のコースを切りながらプレスをかけてサイドへ誘導。(カバーニとブルーノがコースを限定しながらスプリントすることで2人で相手3人を見ることを可能としている。)DHやCBがスライドして空いてる相手選手を見つつ、WGが中切りのプレスをかけることでボールサイドに圧縮する。

 

また、ロングボールなどを使われてもCBが跳ね返して強度の高い2センターで回収したり、突破力の高いWG相手にも対人の強いSBが対応したりすることで、局面で相手に質的優位性も作らせない。

 

・II期 / 4-2-3 or 4-2-3-1 or 4-2-4 

コンディション調整が上手くいかず(特に今季はEL決勝の後にユーロもあったため)にシーズン頭はロースタートになることが多いユナイテッドは、インテンシティや連動性が低いこともあってミドルプレスを採用。シーズン中盤にかけてインテンシティと連動性を上げ、ハイプレスに戻すのが従来の流れだが、カバーニではなくロナウドが起用されることでドルプレスとリトリートの併用に。

f:id:SaTo_yu99:20211206214936p:plainf:id:SaTo_yu99:20211206214959p:plainベース期と陣形自体は変わらないものの、奪いどころを設定して圧力をかけるようなことはせず、基本的にはボールホルダーには牽制程度でミドルサードで構えるかたち。

しばしば相手CB(右)を見る役割を行うことがあるものの基本的にロナウドは守備免除されているので、ボール奪取方法としては前線の選手が出て行ってプレッシャーをかけるか(ミドルプレス)、中を絞めたブロックを形成することで相手のミスを狙うか(リトリート)のどちらかである。

f:id:SaTo_yu99:20211206215557j:plainミドルプレスの場合は、ブルーノがカバーシャドーを使って相手中盤選手を消しながら出て行く又はRWGが出て行くことでボールホルダーに圧力をかける。

f:id:SaTo_yu99:20211206215618j:plainリトリートの場合は、ボールがサイドに送られると、WGが出て行って牽制し、SBが縦スライド、2センターが横スライドしてボールを前進させない。

f:id:SaTo_yu99:20211206215422j:plainボールがサイドに送られると、SBがジャンプして前に出るスライド3バックとなる守備と、全体が下がることでスペースを埋めてその間にブルーノ又はWGがプレスバックする守備を状況に応じて使い分ける。

このように、フレッジとマクトミネイ、そしてブルーノの3人にはかなり負担がかかる守備スタイルとなるが、ずば抜けた運動量を武器に攻守においてハードワークできることで2人分、3人分と広いエリアをカバーする。

 

・Ⅲ期 / 5-3-1 or 5-2-3

Ⅲ期では、II期同様にミドルプレスとリトリートの併用である。

f:id:SaTo_yu99:20211210193413p:plainWB以外中央に配置される5-3-2のシステムによって、より中を締めて牽制できるように。

f:id:SaTo_yu99:20211210193451j:plainボールがサイドに送られると、3センターがスライドしてボールサイドのIHが中切りのプレスをしたり、カバーニが二度追い、三度追いしてコースを限定し、それをスイッチにIHが出て行き、それに連動してWBも出て行ってボールサイドに圧縮したりして相手を牽制する。

 

ブロック

・ベース、II期 / 4-4-1 or 4-4

ブロックのスタイルはベース期と大幅には変わらず、基本的には同じスタイルを継続。

CFがブロックに加わらない4-4-1又はどちらかWGもカウンターに備えて前に残りブルーノが下がる4-4の陣形のブロックとなる。

f:id:SaTo_yu99:20211207192609j:imagef:id:SaTo_yu99:20211207192611j:imageプレッシング時同様、個人の能力の高さをベースとしたブロックを組むスタイルである。

f:id:SaTo_yu99:20211206215306j:plain前述したように両SB共にリーグ屈指の対人能力を兼ね備えているので、相手に質的優位性を作られることは殆どない。そのため、WGがプレスバックをしなくとも守ることが可能となる。

そして、空いてるスペースはブルーノや2センターが縦スライドしてカバーする。

f:id:SaTo_yu99:20211206215402j:plain更に2センターは最終ラインに吸収される縦スライドだけでなく、SBが出ていけないときにはカバー範囲の広さを生かしてサイドまで出て行く横スライドで対応する。

 

・Ⅲ期 / 5-3-1 or 5-4 or 5-3

Ⅲ期では、カバーニがプレスバックする5-3-1、5-4又はカバーニが起用されないときは5-3の陣形のブロックとなる。

f:id:SaTo_yu99:20211210193223p:plain3センター+カバーニがスライドしながら中を締めつつ、後ろ5枚でしっかりと各レーンを埋めてゴールを守る。

 

ユナイテッドの特徴

ストロングポイント

  • 個の能力のレベルの高さ

→ 全ポジションで攻守共に質的優位性を作ることが可能である

  • コンビネーションや突破などの瞬間的な攻撃

→ プレスが全部ハマっていても回避し、完璧にブロックを作っていても崩してしまう理不尽さを持つ

  • 対人能力や強度の高さを活かした守備

→ 各エリアどこでも基本的に一対一の守備には強いので質的優位性を作らせず、仮にそこを突破されても4バックと2センターのシュートブロック、更にはデ ヘアの神がかったセーブでゴールを割らせない

 

ウィークポイント

  • コンビネーションや突破などの瞬間的な攻撃

→ 配置を整理して合理的、段階的に攻撃することがないので、選手のパフォーマンスレベルに左右されがちであり、相手に対して局面で質的優位性を作れないと攻めあぐねてしまう(特に強度の高いプレスで前進させてもらえないときや引いてブロックを固められたときなど)

  • 対人能力や強度の高さを活かした守備

→ 細かなデザインや決まり事がないので、相手に質的優位性を作られてしまうと一気に崩れてしまう(広大なエリアをカバーする2センターが剥がさる or スライドが遅れることで中央のスペースが空いて大きく間延びしてしまう、SBの対人守備を突破されることでCBが釣り出されてしまったり、簡単にクロスを上げられて大外が空いてしまう、大きな展開から相手に内側走られることで釣り出されてワンツーで崩されるなど)

 

スールシャール政権で課題だったポイント

  • 攻撃の配置と原則やデザインの未設定 (全期通して)

再三述べているように、攻撃戦術についてのディティールは曖昧で、選手の瞬間的な判断と技術に任せがちであった。

f:id:SaTo_yu99:20211210192842p:plain特に4-2-3-1のまま陣形でのビルドアップは、選手が縦関係になりやすい配置であるため、カバーシャドーを用いたりボールサイドへの圧縮を行ったりするプレスに対してはかなり不利な状況となる。(極端ではあるがこの場合、相手は4人でユナイテッド8人を消すことが可能となる。こうなると相手は後ろに人を多く余らせることができ、いくらブルーノとはいえ、ボールを引き出すことが困難になる。)

またこれに連動して、ライン間に人がいないという状況も多く、ボールは保持していても中々ゴールへ迫れないことも。(フィニッシュワーク時、WGが内側に入ってライン間にポジショニングする配置となるが、基本的にポグバ以外はサイドで幅を取って仕掛ける選手なので、内側に立っていてもボールを上手く引き出せないことが多い)

 

  • ブロック時の守備原則の未設定 (全期通して)

守備戦術についてもディティールは曖昧で、少ない人数でも選手の瞬間的な判断と技術ベースで守るスタイルであった。

基本的にWGのプレスバックが甘い(カウンターに備えて前残りしている)ので、サイドにはSBやDHが積極的に出て行って対応することも多いのが特徴であったが、今シーズンはその守備の強度や練度も低下。(PL 20チームにおいて、一試合平均タックル数20位、インターセプト数と空中戦勝率数は19位)

f:id:SaTo_yu99:20211210200957j:plainf:id:SaTo_yu99:20211210201000j:plainそのため、SBのインナーラップを使ったワンツーやWGのドリブル突破で瞬間的に剥がされてしまうと、少ない人数で守っているので対応は難しくなる。SBだけスライドするとCB、SB間のスペース、SBとボールサイドのCB一枚だけスライドすると2CB間のスペース、全体がスライドすると大外(SB裏)のスペースが空いてしまうようにボックス内にも関わらず、フリーでシュートに持ち込まれてしまうシーンが目立った。

f:id:SaTo_yu99:20211210201004j:plain同様に、ブルーノと2センターもボールサイドまでスライドして守備を行うことも多く、彼らが釣り出されて2センター脇のスペースを使われてしまう場面も目立った。(後述にあるように、CBが出て行って対応するようなことはせず)

守備貢献度の非常に高いカバーニやジェームズがいないため、プレッシング時と同じくより2センターとブルーノに負担がかかるように。

 

  • 配置を整理したことによる弊害 (II期)

流動的なポジションの入れ替わりや内側でのコンビネーションなど自由な配置の下で各選手の個人の能力の高さを活かし、瞬間的に崩すスタイルを継続してきたユナイテッドは、質的優位性だけでなく、システムとスタイルの変更によって配置的優位性を作ることを試みた。

しかし、立ち位置を設定して配置を整理したことで自由なポジションチェンジや瞬間的なコンビネーションなど流動性の高い攻撃が大幅に減少

f:id:SaTo_yu99:20211210201101p:plainビルドアップにおける戦術の原理やデザインなどボール繋ぐ原則が無く、配置を整理しただけであったため、CBからWGへのパスコースの確保、アイソレイトさせたWGの内側(ハーフスペース)へのIHの走り込み、SBの攻撃参加のタイミング、各選手の距離間などディティールの甘さが目立った。

また、ライン間で駆け引きをして中継役となるブルーノがどちらかのサイドに固定されることで、ボールが出入りしにくくなったり、ロナウドやリンガードなど内側に入ってプレーする選手がWGに起用されることで、誰も幅を取っていなかったりするなど新たな問題も発生するようになった。

※ビルドアップにおける戦術の原理やデザインなどボール繋ぐ原則とは

同じ配置のシティを例に挙げると、SBが内側に入ることによってパスコースの選択肢の増加幅を取るWGの孤立を狙いとしていることが明確。これを根底として、より両SBが絡んだ崩し、流動性の高さを活かしたポジショニング、内側にパスコースが増加、相手1stラインをパスで突破、ネガティブトランジション時のフィルター、可変せずGKを含めたビルドアップへの移行など細かなデザインがある。

 

  • スタイルの変更とプレス方法の未変更 (ロナウド加入以降)

[プレッシング]で記載しているように、ユナイテッドのイプレスは2トップのハードワークによって成り立っていたため、ロナウドの加入によってミドルプレスとリトリートの併用に変更した。(PL20チーム中、Team pressures において16位、Successful pressures において19位、Pressure in final 3rd において17位)、(ロナウド個人における一試合辺りのプレス数は全選手の中で最下位というデータもあるが、ロナウドが悪いというよりかは、彼を起用するのであればそれに則したプレス方法の設定をしなかったことが問題)

プレスのスタイルを変更したにも関わらず、プレス方法は変更せず。

f:id:SaTo_yu99:20211210193005j:plain全く圧力がかかっていないボールホルダーに、WG(グリーンウッド、ラッシュフォード)がコースが限定できていない外切りのプレスをかける。

そのため、相手としてはCBから難なくSBへパスを通すことができる

コースが限定できてないプレスによって相手SBが余裕を持ってボールを受けられるということと、リトリートした状態なのでそもそもスライド3バックをするにはプレスエリアが低すぎるということが相まって、SB(ワン ビサカ、ダロト)は中途半端にジャンプして前に出るかたちに。

そのため、相手としては遅れて出てくるSBに対して、余裕を持って幾つかのパスコースを探すことができる

f:id:SaTo_yu99:20211210193008j:plain常に後手に回るプレスをかけた結果、後ろで割を食うことに。逆サイドのショーはマグワイアの背中を守るために上手く絞っているが、更にその背後の大外が完全に空いてフリーとなり、ピンチとなるシーンが目立った。

 

  • スカッドの組み合わせによっては、3センターへの負担と下がるDFラインが露呈 (Ⅲ期)

システムを5-3-2へ変更して以降、スプリントして二度追い、三度追いしたり、プレスバックで縦スライドして中盤のスペースを埋めたりできるカバーニがいるといないとではより違いが出るようになった。

f:id:SaTo_yu99:20211210193157j:plain2トップ脇のスペースには3センターの横スライドと縦スライドで対応するプレス方法を取るユナイテッドにおいて、よりフレッジ、マクトミネイ、ブルーノへの負担が大きくなるように。3人ともPLトップレベルでハードワークできるとはいえ、物理的にスライドし続けることは不可能であり、ロングパスを使って大きく展開されるとどうしても3センター脇のスペースが空いてしまい、ボールを差し込まれるシーンが目立った。

f:id:SaTo_yu99:20211213223256p:plainまた、4バック時にもあったCBが縦スライドせずに出ていかない問題が、後ろの人数が増えた5バックになっても解決されず。

3CBが出て行って人を捕まえたり潰したりしないので、かなり後ろ重心の守備となってしまい、簡単にライン間にボールをつけられてから相手選手に前を向かせてしまうシーンも目立った。

 

  • セットプレーにおけるデザインや決まり事の欠如(全期通して)

長身でヘディングが強い選手とキック精度に優れた選手のどちらもリーグ屈指のレベルにあるユナイテッドだが、攻撃、守備共にセットプレーを得意としていない。(キッカー : ブルーノ、ショー、テレス、サンチョ、マタなど ヘッダー : ロナウドマグワイア、ポグバ、マクトミネイ、ヴァラン、カバーニ、ラッシュフォードなど)

攻撃においては、PLで未だ唯一セットプレーから得点を奪っていないチームであり、守備においては、昨シーズンの総失点の三分の一がセットプレーからの失点となってしまっている。

 

https://www.whoscored.com/Teams/32/Show/England-Manchester-United

https://www.sofascore.com/team/football/manchester-united/35

https://www.skysports.com/football/news/11095/12478473/ralf-rangnick-to-man-utd-how-former-hoffenheim-and-rb-leipzig-manager-helped-revolutionise-german-football

 

まとめ

選手の能力の高さとスカッドの厚さにおいて世界屈指のレベルにあり、昨シーズンはPL2位、EL決勝進出とスールシャール政権三年目となって着実に進化していたユナイテッドであったが、ここに来て内容だけでなく、結果にも恵まれなくなったことも相まって監督の求心力も低下。

それまでも何度も解任の噂はあったものの、上層部やOBから厚い信頼を得ていたこともあってスールシャールで長期政権を築くかに思われていたが、遂に解任される事態になってしまった。

(後任はアシスタントを務めていたキャリックが一時的に監督となり、その後ラングニックが暫定監督となることが発表。中を締めた4-2-2-2から10秒以内に攻めきる戦術や、25歳以下の選手しか獲得しない方針など確固たる哲学を持つ彼が、それらを豊富なタレントたちに落とし込めるのか、今後のユナイテッドに注目である。

→ ラングニックユナイテッドの考察については後日更新)

 

 

 

さとゆう (@SaTo_yu99) | Twitter

2021/11/23