PL24節 アーセナル vs リーズ・ユナイテッド 戦術レビュー 〜アルテタの準備とビエルサの修正〜
スミス ロウをトップ下に抜擢して以降、5勝1分けと一時期の不調は抜け出したものの、直近3試合は1分2敗と思うように結果がついてこずに苦戦しているアーセナルと、5勝6敗と成績が安定せずにマンチェスター・Uに2−6で大敗したかと思えば、WBAには5−0で大勝と波がやや激しいリーズの一戦。
アーセナルが3点を取り、勝負を決めたかに思えた前半。
なぜこのような展開になったのかを解説していく。
答えは、リーズに対するアルテタの準備だ。
どういうことなのか?
これを紐解く前に、まず、リーズの守備戦術を知っておく必要がある。
通常のリーズのプレッシング
リーズは、基本的に圧倒的な運動量の下で全員が徹底的なマンマークを主体とする守備を行う。
これはリーズの代名詞であり、すっかりおなじみの戦術となっているが、単に全員がマンマークで守備をするわけではないというのがポイントである。
図1
基本的にはリーズは全員がマンマークであるが、違う点が二箇所ある。
CFとCBだ。[図1参照]
マンマークというのは、一人が外されるとマークが全員ずれることになり、一気にピンチを迎えることになるので、最低限のリスク管理としてCBを一枚余らせるようにしている。
そのため、一枚足りないところが生じるのだが、それはゴールから最も遠いCFである。
つまり、CFだけは相手のCB二枚を一人で相手にしなければならない。
このとき、CFのバンフォードには、重要な決まり事がある。
それは、ボールホルダーではないほうのCBへのパスコースを切りながらボールホルダーにプレスをかけるということだ。[図1参照]
バンフォードは二人を相手にするので、コースを片方に限定しなければ、守ることは難しいなるからである。
ここまでがリーズの守備の大前提である。
図2
バンフォードがこのように横のコースをきるプレスを行うが、相手の中盤の選手が縦のコースを空けると、スペースが生まれてCBがドリブルで持ち運ぶことが可能になる場合がときどきある。
このときは、WGの選手はより自陣ゴールから遠い自分のマークである相手SBを捨てて、自分でボールホルダーにプレスをかけにいくか、それが間に合わないときは、IHがWGにマークを受け渡して、IHがボールホルダーにプレスをかけにいく。[図2参照]
自分のマークが逆サイドまで流れると、それに連動してついていくように徹底したマンマークであるが、当然細かいところではマークの受け渡しも行われているということだ。
これが、リーズのプレッシングの全容である。
通常のアーセナルのビルドアップ
では、これをアーセナルに置き換えてみる。
図3
図4
通常の場合、システムは4-2-3-1である[図3参照]が、DMFの選手(主にジャカ)が降りて3バックのかたちでビルドアップを行うのが基本である。[図4参照]
だが、この試合ジャカがDFラインまで降りることはほとんどなかった。
なぜなのか?
これがリーズ用に用意したアルテタの対策なのである。
アルテタの対策
図5
具体的に説明すると、アーセナルのDMFの二人のポジションは、広がりつつDFラインに降りるどころか、かなり中央に寄っていたのだ。[図5参照]
こうなると、ジャカやセバージョスへのパスは出しにくくなるように見えるのだが、リーズはマンマークであるため中盤のダラスとクリヒは勿論付いていく。[図5参照]
また、SBのベジェリンとティアニーは、後ろ3枚のビルドアップの時のままのように高い位置を取る。
[図5参照]
図5
すると、CBのルイスとマガリャインスの前に広大なスペースができる。[図5参照]
これこそがアルテタの狙いなのだ。
アーセナルの両CB、特にルイスはドリブルで持ち運ぶのがとても得意な選手である。
GKを含めてビルドアップすることでバンフォードのコースカットを簡単に回避し、敢えて作っておいたスペースにドリブルで持ち運ぶことで、リーズのマンマークプレスの弱点を突いたのだ。
図6
フルタイムで見た人は、このように何度もルイスが持ち運んでいたことを覚えているだろう。[図6参照]
ただ、リーズの守備は、このようなCBの持ち運びを回避するために受け渡しのルールがあったはずである。
なぜ機能しなかったのか?
図2
リーズには、CBが持ち運んだときは、WGの選手はより自陣ゴールから遠い自分のマークである相手SBを捨てて、自分でボールホルダーにプレスをかけにいくか、それが間に合わないときは、IHがWGにマークを受け渡して、IHがボールホルダーにプレスをかけにいくというプレッシングの決まり事があったはずだ。[図2参照]
図7
ただ、WGの選手が自分のマークを捨てるのは、自分のマークが自陣ゴールから遠く、脅威になり得ない場合である。
しかし、アーセナルのSBが高い位置を取っており、頭越しのパスを送られると簡単に回避されてしまうので、WGのハリソンやラフィーニャが自分のマークを捨てて、自らボールホルダーにプレスに行くことはリスクが高くなる。
また、アーセナルのDMFがかなり中央によったポジショニングを取っているので、WGのハリソン、ラフィーニャとIHのクリヒ、ダラスの距離は、かなり遠くマークを受け渡すことはとても難しい。[図7参照]
このようにして、リーズの選手たちは、持ち運ぶCBに対して誰が行くのか曖昧となり、誰も行かなければどんどん持ち上がられてしまうというどうすれば良いのかわからない状況となり、プレッシングは完全に無効化されたのだ。
ビエルサの修正
ハーフタイムにメンバーを2人入れ替え、徐々に修正しようとしてたであろうリーズであるが、後半開始直後にダメ押しとなる4点目を取られてしまった。
そこでビエルサは、53分に早くも3枚目の交代カードを使うのだが、この交代が巻き返しの狼煙となる。
コーナーキックから1点返したこともあって流れはリーズに傾き、リースがボールを保持する展開になっていたのだが、アーセナルにボールが渡り、後ろからビルドアップするときのリーズのプレッシングも明らかに修正されていた。
アルテタの対策によって、前半はCBの持ち上がりを止めることが出来なかったリーズであるが、そのCBに対してプレスに行く選手を明確にしたのだ。
図8
ビエルサは、ハリソンの交代によって左に回ったWGのラフィーニャにCBへプレスをかけるように明確に指示をし、その後ろを左SBとなったダラス、DMFのストライク、左CBのクーパーがお互いで2人の相手選手を見る若干ゾーンのような守備にしたのだ。
これは逆の右サイドのときも同じである。
リーズは、リスク管理としてCBを余らせていたが、そこを少し削ってスライドさせたことで、かえってリスクを減らせるようになったのだ。
WGのラフィーニャが自分のマークを捨ててアーセナルのCBへプレスに行く。
それによって、リーズのSBダラスがアーセナルのSBにマークをスライドさせ、連動してリーズのCBクーパーがアーセナルのWGにスライドする。
そのため、アーセナルのCFに対してリーズはCBが余っていないことがわかる。
このようにして、ゲーム終盤はアーセナルのビルドアップを攻略しつつあったものの、流石に4点の差を縮めることはできず、4-2で試合終了となった。
まとめ
中盤の選手であるジャカとセバージョスがかなり中央にポジショニングすることとともにSBのティアニーとベジェリンが高い位置を取ることでリーズのマンマークを引きつけ、マガリャインスやルイスのドリブルスペースを空ける。
誰が持ち運ぶCBに対してプレスに行くのかはっきりしないリーズ。
誰も行かないとルイスにどんどん持ち運ばれてゴール前までドリブルされる。
中盤のジャカ、セバージョスが中央にポジショニングし、SBのティアニーとベジェリンが高い位置を取っているので、IHとマークの受け渡しができず、リーズのWGがスライドしてルイスにプレスをかけると、簡単にSBに逃げられてしまう。
後半、選手交代とともにアーセナルのCBへのプレッシングを明確化し、後ろは若干ゾーン気味で守りつつも、ボールが出たら、リーズはCBを余らせずに全員がスライドして対応。
リーズ用にしっかりと対策をしたアルテタとそれに対して修正できたビエルサの高度な戦術の戦いであり、点数以上にとても見応えのある試合であった。
2/20