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PL24節 アーセナル vs リーズ・ユナイテッド 戦術レビュー 〜アルテタの準備とビエルサの修正〜

 

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スミス ロウをトップ下に抜擢して以降、5勝1分けと一時期の不調は抜け出したものの、直近3試合は1分2敗と思うように結果がついてこずに苦戦しているアーセナルと、5勝6敗と成績が安定せずにマンチェスター・Uに2−6で大敗したかと思えば、WBAには5−0で大勝と波がやや激しいリーズの一戦。

 

 

アーセナルが3点を取り、勝負を決めたかに思えた前半。

 

なぜこのような展開になったのかを解説していく。

 

答えは、リーズに対するアルテタの準備だ。

 

どういうことなのか?

 

これを紐解く前に、まず、リーズの守備戦術を知っておく必要がある。

 

通常のリーズのプレッシング

 

リーズは、基本的に圧倒的な運動量の下で全員が徹底的なマンマークを主体とする守備を行う。

これはリーズの代名詞であり、すっかりおなじみの戦術となっているが、単に全員がマンマークで守備をするわけではないというのがポイントである。

 

f:id:SaTo_yu99:20210223213153j:image 図1   

 

基本的にはリーズは全員がマンマークであるが、違う点が二箇所ある。

CFとCBだ。[図1参照]

マンマークというのは、一人が外されるとマークが全員ずれることになり、一気にピンチを迎えることになるので、最低限のリスク管理としてCBを一枚余らせるようにしている。

そのため、一枚足りないところが生じるのだが、それはゴールから最も遠いCFである。

つまり、CFだけは相手のCB二枚を一人で相手にしなければならない。

 

このとき、CFのバンフォードには、重要な決まり事がある。

それは、ボールホルダーではないほうのCBへのパスコースを切りながらボールホルダーにプレスをかけるということだ。[図1参照]

バンフォードは二人を相手にするので、コースを片方に限定しなければ、守ることは難しいなるからである。

 

ここまでがリーズの守備の大前提である。

 

f:id:SaTo_yu99:20210223213200j:image 図2

 

バンフォードがこのように横のコースをきるプレスを行うが、相手の中盤の選手が縦のコースを空けると、スペースが生まれてCBがドリブルで持ち運ぶことが可能になる場合がときどきある。

 

このときは、WGの選手はより自陣ゴールから遠い自分のマークである相手SBを捨てて、自分でボールホルダーにプレスをかけにいくか、それが間に合わないときは、IHがWGにマークを受け渡して、IHがボールホルダーにプレスをかけにいく。[図2参照]

 

自分のマークが逆サイドまで流れると、それに連動してついていくように徹底したマンマークであるが、当然細かいところではマークの受け渡しも行われているということだ。

 

これが、リーズのプレッシングの全容である。

 

通常のアーセナルのビルドアップ

 

では、これをアーセナルに置き換えてみる。

 

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f:id:SaTo_yu99:20210223221142j:image 図4

 

通常の場合、システムは4-2-3-1である[図3参照]が、DMFの選手(主にジャカ)が降りて3バックのかたちでビルドアップを行うのが基本である。[図4参照]

 

だが、この試合ジャカがDFラインまで降りることはほとんどなかった。

なぜなのか?

 

これがリーズ用に用意したアルテタの対策なのである。

 

アルテタの対策

 

f:id:SaTo_yu99:20210223222452j:image 図5

 

具体的に説明すると、アーセナルのDMFの二人のポジションは、広がりつつDFラインに降りるどころか、かなり中央に寄っていたのだ。[図5参照]

 

こうなると、ジャカやセバージョスへのパスは出しにくくなるように見えるのだが、リーズはマンマークであるため中盤のダラスとクリヒは勿論付いていく。[図5参照]

 

また、SBのベジェリンとティアニーは、後ろ3枚のビルドアップの時のままのように高い位置を取る。

[図5参照]

 

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f:id:SaTo_yu99:20210223223647j:image 図5

 

すると、CBのルイスとマガリャインスの前に広大なスペースができる。[図5参照]

 

これこそがアルテタの狙いなのだ。

 

アーセナルの両CB、特にルイスはドリブルで持ち運ぶのがとても得意な選手である。

GKを含めてビルドアップすることでバンフォードのコースカットを簡単に回避し、敢えて作っておいたスペースにドリブルで持ち運ぶことで、リーズのマンマークプレスの弱点を突いたのだ。

 

f:id:SaTo_yu99:20210223224132j:image 図6

 

フルタイムで見た人は、このように何度もルイスが持ち運んでいたことを覚えているだろう。[図6参照]

 

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ただ、リーズの守備は、このようなCBの持ち運びを回避するために受け渡しのルールがあったはずである。

なぜ機能しなかったのか?

 

f:id:SaTo_yu99:20210223230343j:image 図2

 

リーズには、CBが持ち運んだときは、WGの選手はより自陣ゴールから遠い自分のマークである相手SBを捨てて、自分でボールホルダーにプレスをかけにいくか、それが間に合わないときは、IHがWGにマークを受け渡して、IHがボールホルダーにプレスをかけにいくというプレッシングの決まり事があったはずだ。[図2参照]

 

f:id:SaTo_yu99:20210223225751j:image 図7

 

ただ、WGの選手が自分のマークを捨てるのは、自分のマークが自陣ゴールから遠く、脅威になり得ない場合である。

 

しかし、アーセナルのSBが高い位置を取っており、頭越しのパスを送られると簡単に回避されてしまうのでWGのハリソンやラフィーニャが自分のマークを捨てて、自らボールホルダーにプレスに行くことはリスクが高くなる。

また、アーセナルのDMFがかなり中央によったポジショニングを取っているので、WGのハリソン、ラフィーニャとIHのクリヒ、ダラスの距離は、かなり遠くマークを受け渡すことはとても難しい。[図7参照]

 

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このようにして、リーズの選手たちは、持ち運ぶCBに対して誰が行くのか曖昧となり、誰も行かなければどんどん持ち上がられてしまうというどうすれば良いのかわからない状況となり、プレッシングは完全に無効化されたのだ。

 

 

ビエルサの修正

 

ハーフタイムにメンバーを2人入れ替え、徐々に修正しようとしてたであろうリーズであるが、後半開始直後にダメ押しとなる4点目を取られてしまった。

 

そこでビエルサは、53分に早くも3枚目の交代カードを使うのだが、この交代が巻き返しの狼煙となる。

 

コーナーキックから1点返したこともあって流れはリーズに傾き、リースがボールを保持する展開になっていたのだが、アーセナルにボールが渡り、後ろからビルドアップするときのリーズのプレッシングも明らかに修正されていた。

 

 

アルテタの対策によって、前半はCBの持ち上がりを止めることが出来なかったリーズであるが、そのCBに対してプレスに行く選手を明確にしたのだ。

 

f:id:SaTo_yu99:20210223235024j:image 図8

 

ビエルサは、ハリソンの交代によって左に回ったWGのラフィーニャにCBへプレスをかけるように明確に指示をし、その後ろを左SBとなったダラス、DMFのストライク、左CBのクーパーがお互いで2人の相手選手を見る若干ゾーンのような守備にしたのだ。

これは逆の右サイドのときも同じである。

 

リーズは、リスク管理としてCBを余らせていたが、そこを少し削ってスライドさせたことで、かえってリスクを減らせるようになったのだ。

 

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WGのラフィーニャが自分のマークを捨ててアーセナルのCBへプレスに行く。

それによって、リーズのSBダラスがアーセナルのSBにマークをスライドさせ、連動してリーズのCBクーパーがアーセナルのWGにスライドする。

そのため、アーセナルのCFに対してリーズはCBが余っていないことがわかる。

 

このようにして、ゲーム終盤はアーセナルのビルドアップを攻略しつつあったものの、流石に4点の差を縮めることはできず、4-2で試合終了となった。

 

まとめ

 

中盤の選手であるジャカとセバージョスがかなり中央にポジショニングすることとともにSBのティアニーとベジェリンが高い位置を取ることでリーズのマンマークを引きつけ、マガリャインスやルイスのドリブルスペースを空ける。

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誰が持ち運ぶCBに対してプレスに行くのかはっきりしないリーズ。

誰も行かないとルイスにどんどん持ち運ばれてゴール前までドリブルされる。
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中盤のジャカ、セバージョスが中央にポジショニングし、SBのティアニーとベジェリンが高い位置を取っているので、IHとマークの受け渡しができず、リーズのWGがスライドしてルイスにプレスをかけると、簡単にSBに逃げられてしまう。
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後半、選手交代とともにアーセナルのCBへのプレッシングを明確化し、後ろは若干ゾーン気味で守りつつも、ボールが出たら、リーズはCBを余らせずに全員がスライドして対応。
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リーズ用にしっかりと対策をしたアルテタとそれに対して修正できたビエルサの高度な戦術の戦いであり、点数以上にとても見応えのある試合であった。

 

 

 

 

2/20

プレミアリーグ前半戦総括(1-19節) 〜アーセナル〜


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目次

 

アーセナルの現在の状況
 

アーセナルはアルテタが就任して最初のシーズンであったものの、負けが重なり一時は15位まで沈んでいた。しかし、システムを変更しスミス ロウを起用したことで復調し、直近リーグ戦5試合無敗が続いている。

 

 

アーセナルの戦術
 

近年のアーセナルは、22年間指揮を務めたヴェンゲルが退任する間際から不安定な順位が続き、インビンシブルズと言われ、プレミアリーグ(PL)を代表する屈指の強豪クラブに相応しくない結果に留まっていた。

 

そんな中で、2019年のシーズン途中からシティのグアルディオラの下でアシスタントコーチを務めていたアルテタが監督として就任し、クラブは現在転換期を迎えている。

 

そのアルテタ擁するアーセナルは、5バックを採用すると共に前線でのプレスの改善など守備を整備し、トランジションの早いサッカーを理想としている。

 

f:id:SaTo_yu99:20210124151724j:image 図1

f:id:SaTo_yu99:20210124151728j:image 図2

 

まず前提として、アーセナルのフォーメーションは、攻撃時と守備時で変わるのが特色であるということを知っておかならねばならない。

ダウンスリーや偽サイドバック、フォルス9のようにその場面や状況に応じて選手が配置を変え、一時的にシステムが変化するチームはいくつも存在するが、攻撃時と守備時ではっきりフォーメーションが変化するチームは、殆ど無く、アルテタ色が強く出ている戦術である。

守備時に5-2-3のフォーメーション[図1参照]が、攻撃時は、左肩上がりとなり、サカをIHとする4-3-3又は、サカをトップ下とする4-2-3-1のようなフォーメーション[図2参照]となる。

(サカ→ナイルズ、エルネニー→セバージョス・トーマス、ウィリアン→ぺぺ・サカ、マガリャインス・ホールディング→ルイス・ムスタフィ等、負傷者や相手に合わせて、スカッドが変わるため、これといって決まったスタメンはない。)

 

個人的な予想であるが、恐らくアルテタは5バックをあまり好んで採用したくはなかったはずだ。

しかし、ルイスやホールディングは釣り出されたときの対人守備があまり得意ではなく、アーセナルは守備が不安定であった。

そのため、5バックにして後ろの枚数を増やしつつ、攻撃時は可変して4バックにすることで前に人数をかけられるようにしたのだ。

 

 

この形を基本として、アーセナルは、シーズンを通してどんどん変化している。

単に好不調の波があるように見えるがそうではなく、アルテタなりに試行と修正を繰り返している成長期であり、結果が伴わない試合もあるので、サポーターとしては辛抱の期間のはずだ。

 

今シーズンの中だけでアーセナルは転換期が多くあり、3つに分けることができる。

昨シーズン終盤から5節シティ戦まで(ここでは『I期』とする)、

6節レスター戦から14節エバートン戦まで(ここでは『II期』とする)、

そして15節チェルシー戦から現在19節ニューカッスル戦まで(ここでは『Ⅲ期』とする)、である。

 

アーセナルの波

I期:アルテタ戦術が浸透し始めて好調に

II期:アルテタ戦術の変化と相手による攻略で不調に

Ⅲ期:II期での試行と失敗の繰り返しから見事に修正して好調に

 

この3つの期間の観点からアーセナルの戦術とその変化を説明していく。

 

 

 

攻撃戦術

・ビルドアップ

 

アーセナルは、DF陣やGKが特段優れた足元の技術やキック精度を兼ね備えているわけでは無いのだが、ディフェンシブサードでも恐れずにパスを繋いでビルドアップする。

特にハイプレスを仕掛けてくるチームに対しては、かなり積極的に後ろで回して相手を引き込み、プレスを回避するのがとても上手い。

 

何故、そのような選手で、後ろからショートパスでのビルドアップが可能なのだろうか?

 

f:id:SaTo_yu99:20210124151545j:image 図3

 

それは、ゴールキックコーナーキックフリーキックのようにかなりデザインされているからである。

 

ビルドアップの配置は、両CBをGKのレノの脇まで降ろし、両SBのティアニーとベジェリンに高い位置を取らせ、Wを2つ並べたような陣形を作る。[図3参照]

 

後ろを3枚にすることで2枚に比べて選手間の距離が近くなり、中盤の2枚が後ろの3枚の間にポジションを取ることでパスコースの角度ができる。

そして、両SBが高い位置を取ることで、更にパスコースの角度ができる。

このようにビルドアップにおいて、受け手が角度をつけてボールを引き出すことが非常に重要だ。

なぜなら、受け手がプレスに行く相手選手とボールホルダーの直線上にいると当然ボールは出すことはできず、相手は一人で二人の選手を抑えることができてしまうからだ。

 

アーセナルのビルドアップの距離と配置 

後ろを両CBの2枚でビルドアップすると、中盤の2枚の選手とスクエアの形になってしまい、ボールホルダーと受け手がプレスにいく相手選手と直線上になってしまい、パスが出せなくなる。

後ろの選手と中盤の選手距離が遠いと、パスコースの角度が深くなりすぎてパスを出しづらくなるとともに、後ろからインターセプトを狙われやすくなる。逆に距離がこれ以上近いと、そもそもパスが回すことが難しくなり、相当高い技術が必要となってしまう。

また中盤を1枚にすると、GKやCBがボールホルダーのときに相手のCFやWGの選手が中盤へのパスコースを限定しやくなり、縦へのパスが入らなくなってしまう。

SBの位置が低すぎると、相手FWがパスコースを切りやすくなるとともに、距離が近すぎて相手の頭を越すような浮き球のパスが出せなくなる。仮にパスが出せたとしても相手FWはすぐに二度追いできてしまう。

このように、アーセナルのビルドアップの時の選手の距離と配置は、それぞれに意図があり、それを考慮して最適に作られている。

 

具体的にみていくと、アーセナルは基本、GKと両CB、そして両DMFの5枚でビルドアップする。

 

※GKを含めたビルドアップ

GKを含めたビルドアップの最大の利点は、必ず一枚多い人数でボールを回すことができる点である。なぜなら、仮に相手が全員にマンマークで守備をするとしても相手GKが誰か選手をマークをすることはないからだ。

そのため、GKがビルドアップに参加できれば、十対十一となり攻撃側が必ず有利となる。

 

この中盤の2枚もビルドアップの中心となることに違和感を感じるかもしれない。

なぜなら、後ろからのマークと横からのプレスで挟まれるためとてもリスキーであり、ボールをロストしたらそのまま失点に繋がるからである。

 

ではどうしているのか?

 

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中盤の2枚は、ボールが入っても1タッチか2タッチですぐに捌くのが基本である。相手のマークが密集したエリアでもダイレクトでのパスなら味方の選手に送ることは可能だ。

5枚には常に安全なパスコースが2つ以上あるように配置されているので、特段優れた足元の技術やパスの精度がなくとも、巧みにパスを回すことができるのだ。

5枚でボールを回し、プレスに隙が生まれたところでSBに展開する。

ここで相手SBが釣り出されたら、曖昧なポジションを取るサカやラカゼットにパスを出したり、前にいるWGにパスを出したりすれば良いし、

釣り出されなければ、ドリブルで持ち運ぶことができ、どちらにしても一気にチャンスとなる。

勿論、前線の選手はスピードとドリブルが持ち味であるため、この状況で防ぐのは簡単でない。

 

 

つまり、アーセナルの後ろからのビルドアップは、敢えて、相手チームを引き込み、ラインを押し上げさせることで、前に広大なスペースを作り、その状況でプレスを回避することで、自らカウンターのシュチュエーションを作り上げているのだ。

 

ゴールキックなど自陣深い位置の時点で、既に疑似カウンターを想定してパス回しを行なっているのである。

 

 

ただ、ミドルサードでのビルドアップは、ディフェンシブサードのビルドアップに比べるとあまりデザインされていない。

 

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基本的に、ジャカがLCB脇に降りるかエルネニーがCB間に降りるかなど、後ろ3枚でビルドアップを行う。

このときも、両SBが高い位置を取り、それによりLWGのオーバメヤンが内側にポジションを取る形となる。

ミドルサードのビルドアップで鍵となっていたのはティアニーやルイスはロングパスだ。ルイスのロングフィード力は世界屈指のレベルでありDFラインとの駆け引きも上手く、快速のオーバメヤンが一気に裏を取ることができるからだ。

また、ロングパスが繋がらなくとも相手DF陣はオーバメヤンが怖いのでDFラインを上げづらくなる。相手のブロックの2ラインが広がれば、ライン間でボールを引き出すのが抜群に上手いラカゼットやサカがよりパスを受けやすくなる。[図5参照]

 

 

 

I期のビルドアップは、このような形で行われていたが、II期になると少し変化する。

 

アルテタの指示なのかそれともジャカの判断なのか理由は定かではないが、ジャカがより降りてくるようになったのだ。

 

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f:id:SaTo_yu99:20210124191949j:image 図6

 

前述したように、このディフェンシブサードのビルドアップは、絶妙な距離で選手が配置されていることによって、特別な技術がなくとも上手くボールを回せていた[図4参照]のだが、ジャカがかなり低い位置まで降りてくるのが増えたことで、相手は自分のマークがはっきりし、マンマーク化することができるようになる。

これで、CFがジャカのパスコースを切りながらプレスに行けば、レノは完全にパスコースを失うことになってしまう。[図6参照]

 

この状況でも、CBとDMFに特段優れた足元の技術とキック精度が備わっていれば、プレスを回避できるし、GKのロングパス精度が世界最高レベルであれば、キープ力のあるラカゼットにパスを送ったり、一オーバメヤンやウィリアンの裏へフィードし、一気にチャンスを作り出せるのだが、あいにくアーセナルはそのような選手を揃えていない。

 

このような事からディフェンシブサードでのビルドアップが上手くやりづらくなってきていたのと、同じくして、アーセナルがディフェンシブサードのビルドアップからの疑似カウンターが得意であるということが、各チームに認知され始めるようになってきた。

このとき、アーセナルミドルサードでのビルドアップも得意としていたら、相手チームは前からプレスに行かざるを得ないが、そこまで得意とはしていなかったので、ハイプレスをかけるのではなく、牽制やリトリートするチームが増えてきた事により、ディフェンシブサードでのビルドアップによる疑似カウンターでの得点パターンは、見受けられなくなってしまった。

 

 

ミドルサードでも引き続き、ジャカのDFライン落ちは行われる。

ミドルサードでジャカが降りるのは、I期も同様にやっていて上手くいっていたのではないかと思われるかもしれない。

しかし、I期では、ビルドアップ時にダウンスリーのように一時的にLCBの位置にポジショニングするのであり、ジャカはあくまで中盤の選手としてプレーしていた。

それに対して、II期になると、ビルドアップ時にLSBに近いようなポジショニングをし、ボールが前進しても固定的にSBのポジションに留まることが多くなったのだ。

これはジャカだけでなくて、エルネニーやセバージョスにも、同様のプレーが目立つようになっていった。

 

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また、ジャカ、エルネニー、セバージョスの3人(特にエルネニー)とも、低い位置でボールを受けて捌きたいので、相手がプレスをかけていなくても、CBのすぐ側まで降りてボールを引き出すことが多い。

(両SBが高い位置を取るのでリスク管理という役割もあるのかもしれないが。)[図7参照]

 

※相手が前からくるハイプレスの時ビルドアップでは、逆にエルネニーのポジショニングは気が利いていて良い方向に働く事が多い。

 

f:id:SaTo_yu99:20210125014011j:image 図8

 

これらのことから、元々2枚しないない中盤の2人が低いポジショニングを取る配置となると、前線と後方が分断され、縦にパスが入らないという現象が往々にして見受けられるようになった。[図8参照]

 

このときルイスがいれば、彼はビルドアップを武器とするので、中盤が降りる頻度も減るし、必要のない時に降りてこようとすれば、味方に指示してポジショニングを直させることもできる。

またなんといっても、彼はロングフィードでの一発で相手DFラインの裏を狙い、それによりDFラインを下げさせてライン間にボールを入れやすくすることができるが、マガリャインスやホールディング、ムスタフィはそのようなフィード力を持ち合わせていない。

代わりに彼らは、鋭いくさびの縦パスが非常に得意であるのだが、このような陣形では出しどころが無く、彼らの長所を活かすことはできない。

 

※ダウンスリーのように中盤な選手がDFラインに降りるとどうなるのか。

通常の配置だと、

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4-3-3:2枚の前線の選手がお互い距離を適切に保ちながらアンカーを消してプレス。両WGが両SBをマーク。パスコースがなく、CBでしかボールを回せない。
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4-3-3:2枚の前線の選手が縦関係になり、1人がアンカーをマンマーク、1枚がプレス。パスコースがなく、後ろ4枚でしかボールを回さない。

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4-2-3-1:2枚の前線の選手が2枚の中盤を消しながらプレス。パスコースがない。

 

中盤がDFラインに降りると、

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相手の2枚に対して3枚となり、数的有利に。

尚且つ、SBが高い位置を取ることができる。

それによりWGが内側にポジションを取れ、ライン間でパスを引き出しやすくなる。(相手WGのマークが混乱する。外を気にしすぎると縦はボールをつけられてしまい、中を気にしすぎると高い位置を取るSBにボールが出ると一気に運ばれてしまう。)

・相手の前線2枚がお互い距離を適切に保ちながら中盤を消してプレスをかけてくる。

→3枚で揺さぶり、機を見て縦へくさびのパスが可能に。逆まで展開すれば、相手の前線の脇のスペースにドリブルで持ち運ぶこともできる。

・2枚の前線の選手が縦関係になり、1人がアンカーをマンマーク、1枚がプレスをかけてくる。

→1枚に対して3枚なのでかなり余裕を持ってドリブルで持ち上がることができる。ドリブルで持ち上がることで、他の選手がボールに行くのでマークがズレ、縦へのくさびのパスが可能に。

・2枚の前線の選手が2枚の中盤を消しながらプレスをかけてくる。

→3枚で揺さぶり、機を見て縦へくさびのパスが可能に。後ろ3枚なので中盤の選手に対してより角度が作れる。そのため相手はパスコースを消しつつもボールホルダーへ圧力をかけるのがそもそも難しい。更には中盤の2枚の片方が動いてボールを受ければ相手のパスコースカットは完全に無効化。

 

そもそも、一般的にダウンスリーのように中盤の選手がDFラインに降りるということは、パスコースに角度ができて選択肢を増やせる、それによりSBが高い位置で攻撃参加できる、それによりWGがライン間でボールを受けやすくなる、それにより結果的に中盤にもパスコースができる、というふうにメリットが多く生まれるから採用されているのである。

 

f:id:SaTo_yu99:20210126131649j:image 図9

 

しかし、中盤の選手2枚が低い位置まで降りてきて、SBのポジションを取れば、それは元の4バックとなんら変わりはないどころか、中盤の選手が降りるため、アーセナルの殆どの選手は相手のブロックの外側に配置され、その結果ボールがブロックの内側に入らないという本末転倒の状態になっている。

ひたすらボールがブロックの外を回っていると、当然相手としては非常に守りやすく、これを崩すのはとても難しい。[図9参照]

 

結局、アーセナルがボールを保持はしているものの、決定機は作ることができず、何からのかたちで失点を喫して勝ち点を落としてしまうというお馴染みの展開が増えるようになった。

 

 

では、Ⅲ期でどのように改善されたのか?

 

アルテタは、スミス ロウをトップ下とする4-2-3-1にシステムを変更した。

 

 f:id:SaTo_yu99:20210202143115j:image 図10

 

トップ下を置き、ライン間やサイドに自由に顔を出させると共に、中盤の選手の常時ダウンスリー化を止めて基本は中でボールを引き出させ、状況に応じて一時的に中盤の選手を降ろすことで、ボールがブロックの外を回っていた問題を解決したのだ。[図10参照]

 

更には、ルイスの復帰も大きな影響をもたらした。

前述したように正確なフィードを蹴れるルイスがCBに戻ってきたことで再び、一気に展開したり、裏を狙ったりできるようになったからだ。

 

また、キーパーからデザインされたビルドアップの頻度を大幅に減らし、アバウトに前線に向かって蹴る頻度を増やすようになった。

 

 

※ビルドアップ時の中盤のポジションとスミス ロウによる変化
f:id:SaTo_yu99:20210126150720j:image I期
f:id:SaTo_yu99:20210126144721j:image  II期

f:id:SaTo_yu99:20210128130229j:image Ⅲ期

 

 

・崩し

 

速攻が得意なアーセナルであるが、遅攻に対しては、多彩の崩しの型を持っていない。

 

崩しのメインは、クロスである。

実際、現在までPLでアーセナルのオープンプレーによる得点は16点であるが、そのうち13点はクロスからのゴールである。

 

特にアーセナルは、ティアニー、サカ、オーバメヤンが絡む左サイドでの攻撃を得意としている。

データから見てもわかるように、攻撃が左寄りであることは、明白だ。

 

f:id:SaTo_yu99:20210126154724j:image PL19節までのアーセナルの攻撃サイドの割合

https://www.whoscored.com/Teams/13/Statistics/England-Arsenal

 

ここで特筆すべき選手はサカだ。

元々SHの選手ながら、優れた技術と頭の良さを兼ね備えていることから、LSB、LWB、IH、LWG、RWGと10代ながら、SBより前のポジションは殆どこなせる能力の高さを持っている選手だ。

彼の最大の特徴は、オフザボールに非常に優れていて、ライン間では絶妙なポジションを取り、味方からボールを引き出せることだ。いわゆる捕まえられない選手である。

引き出した後の技術も高く、少々雑なボールでもしっかりとトラップして収めたり、飛び込んできた相手を巧みなトラップで相手をかわしたりすることができる。

また、このような選手には、珍しく、スピードに乗ったドリブルも得意であり、一対一でも積極的に仕掛ける。

 

※サカのオフザボール

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ブロックを形成する相手のライン間にポジションを取り、ボールを引き出すと、

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左足でのワントラップで一気に前を向き、加速する。

 

フィジカルコンタクトや決定力という短所があるものの、今シーズンはかなり彼のところからチャンスを作り出している。

 

※サカの起用法

現段階でサカは、LWBとして攻撃時に中盤に入るのでLWGとIHの間ようなポジションに配置されている。

この微妙なポジションは、オフザボールに優れたサカの能力があるからこそ務まるのであり、彼の能力を良く引き出せるポジションといえる。

実際、中断明け以降PLでのアーセナルの敗戦は11であるが、アストン ヴィラとの2試合を除く9敗は、サカがLWBで起用されていないかスタメンで出場していない試合である。

(近年のアストン ヴィラとアーセナルは相性が悪い。)

また、無得点で終わったドローの2試合のいずれもサカはLWBで起用されていない。

LWBのサカがいかに重要かがわかる数字である。

(IH:攻撃時は良いものの、守備負担が大きくなる。

LWG:相手マークがはっきりするのと、サイドでのプレーがメインとなり、中央でボールに絡んだり、時には逆サイドまで流れたりしにくくなる。

RWG:LWGと同様。右だとカットインがあるものの、ライン間でボールを引き出しても利き足が左のため、前を向くゴール方向へのトラップが難しくなる。

Ⅲ期では、LWBが無いのでRWGでの起用が多く、それなりに上手くいっているので賛否はあると思うが、個人的にはLWB又は、

このような特性を踏まえてトップ下での起用がより彼の良さを引き出ると思うので、ラカゼットとの補完性は未知であるが見てみたい。)

 

そんなサカとティアニーは共に内外を絶妙に使い分けることができるので、彼らのところで上手く崩し、キック精度の高いティアニーやサカからクロス攻撃がメインとなる。

 

※PLでのアーセナルのクロス本数ランキング

1位、サカ→85本 (PL全選手中14位)

2位、ティアニー→80本 (PL全選手中17位)

3位、ウィリアン→71本 (PL全選手中20位)

 

崩しのパターンとしてクロスがメインのアーセナルであるが、前線にヘディングを武器とする選手はいない。

 

ではどのように得点を取っているのか?

 

f:id:SaTo_yu99:20210128021917j:image 図11

 

ニア、中央、ファー、PA角、とクロスに対して、選手の入り方がしっかりデザインされている

 

ティアニーやサカがクロスを上げる体勢に入ると、基本的に、CFのラカゼットがニアへ走り込む。WGのオーバメヤンがプルアウェイの動きで中央にポジションを取り、逆サイドのWGのウィリアンがファーに入り込む。更に、逆サイドのWBのベジェリンがPA角に走り込むので、ボックス内に4人の選手が入っていることとなる。[図11参照]

 

このように、クロスに対してはしっかりと人数をかけつつも、入り方にも工夫がなされている。

 

 

また、からしっかりとプレスをかけて、高い位置でボールを奪い、ショートカウンターの形からの得点も多い。

これはアルテタ就任して以降、重要視されているトランジションの早さをしっかりと実行されている証拠である。

 

 

I期では、これらを上手く体現できていた。

 

 

しかし、II期では、選手の不調も相まってか、これらが上手くいかなくなった。

 

この要因は、大きく分けて3つある。

 

f:id:SaTo_yu99:20210130165319j:image 図12

 

1つ目は、中盤が降りることによる中央の空洞化である。

その弊害として、3列目からの飛び出しやサイドでのパス交換など中盤の選手がフィニッシュワークで絡まなくなり、ブロックを崩すのに、サイドの選手の独力突破や外からのクロス頼みになってしまったのだ。[図12❶参照]

 

しかし、クロス攻撃も上手くいかない

 

なぜなら、前述したようにボールがブロックの内側に入らなくなり、ブロックの外を回ると、相手はスライドが簡単であり、常に視野の中で守備をできるようになるので、ブロックが崩れることはなく、ブロックの外からクロスを上げることになる。[図12❶参照]

 

その結果、I期同様にクロスメインの崩しではあるものの、相手の陣形が整った状態からのクロスとなる。アーセナルの前線にヘディングを武器とする選手はいないので得点が生まれなくなってしまったのだ。

 

また、クロスを上げてもバイタルエリアに人がいないため、ボールを回収して二次攻撃、三次攻撃をすることも難しくもなってしまった。[図12❶参照]


 2つ目は、得意な左サイドでの攻撃の停滞だ。

元々ライン間でボールを引き出すのが得意ではないオーバメヤンが、アーセナルの押し込む展開が増えたこともあって、サイドに留まるようになったからである。

中央でフィニッシャーとしてこそ活きるオーバメヤンにライン間やサイドにポジションを取らせることは決して最適とは言えないのだが、前述したように中央にいてもボールが来ないので自ら流れてボールを受けにいくようなったのだ。

サイドに留まることが増えたことで、結果的に左サイドではかなり3人が重なり、だぶつくシーンも目立つようになった。[図12❷参照]

 

3つ目は、ベジェリンの攻撃参加である。

ベジェリンは元々高い位置で攻撃に絡むのを武器とする選手ではない。

これはI期から多少問題となっていたが、Ⅱ期では押し込む展開が増えたことと中盤が降りてビルドアップするようになったことが相まって、ベジェリンがかなり高い位置にポジションを取って、プレーするようになったのだ。

彼は、クロスやシュートが得意なわけでもなければ、ドリブル突破ができる選手でもないので、右サイドの攻撃も停滞してしまう。

しかも、アルテタの指示なのか、WGのウィリアンやぺぺが外側に張り、ベジェリンが内側にポジションを取る、より高度で難しいインナーラップのかたちを採用していた。[図12❸参照]

 

※SBのオーバーラップとインナーラップ

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オーバーラップ - ボールホルダーの外側を周り、追い越す動き。

基本的な特徴

WGとSBが縦の関係になりやすく、相手選手の視野の中で動きが多くなるので、相手のブロックの中に入り込みにくい。一方で、SBが後ろにポジションを取っているので、ボールを失ったときにDFの人数が担保されていてフィルターとなる事ができる。

SB : 単純に外を回るだけなので、アップダウン系の選手や攻撃があまり得意でない選手に推奨。

大外からのクロスになりやすいので、クロス精度が高いと良い。

WG : SBが外のスペースを使うので、サイドにずっと張ってプレーする選手より、内側にポジションを取って中でコンビネーションなどができる選手が好ましい。また、SBのオーバーラップに対して相手のマークが混乱し、内側のスペースが空くのでサイドとは逆足でカットインもできる選手の方がより好ましい。

チーム : 外からのクロスに対して前線に空中戦の強い選手が揃っていたり、ハーフスペース(相手のCBとSB間でインナーラップの場合SBが走り込むスペース)に走り込むのが得意な中盤の選手がいたりするとより好ましい。

 

f:id:SaTo_yu99:20210202125038j:image

インナーラップ - ボールホルダーの内側を走り、追い越す動き。

基本的な特徴 

WGとSBが横の関係になりやすく、相手選手の視野の外での動きが多くなるので、相手のブロックの中に入り込みやすい。一方で、SBが内側を走り抜けるので、ボールを失った時にDFの人数が少なく、サイドに広大なスペースができてしまう。

SB : WGが外のスペースを使うので、内側にポジションを取って中でコンビネーションできたり、走るコースやタイミングなどオフザボールに優れていたりする攻撃的な選手に推奨。

相手陣内の深くまで入るので、テクニックがあった方が好ましいものの、オーバーラップに比べるとよりゴールに近い位置なのでクロス精度はそこまで重要ではない。

WG : サイドに張った状況が多く、相手SBと一対一もしくは相手WGも含め二対一となることが多いのでドリブルで独力突破できる選手や大外からのクロスが得意な選手が好ましい。

チーム : 後ろからPA内に飛び込める中盤の選手や空いたサイドのスペースを埋めることができる選手がいるとより好ましい。

 

インナーラップの特性を踏まえても、ベジェリンがそのような役割が得意でない選手であるのは明らかである。

 

更には、ベジェリンが内側にポジショニングすることとのWGの補完性も決して良いものではない。

 

ウィリアンは元々ドリブラーの選手であり、縦への突破やクロスを武器としているが、年々その能力は衰えており、代わりに内側でのコンビネーションやライン間でのボールの引き出しを得意とするようになってきている。また、縦にドリブルで突破してクロスを上げたとしても、前述したようにアーセナルの前線に空中戦を得意とする選手はいないので、相手に跳ね返されてしまう。

一方で、ぺぺは独力突破に優れており、左利きでカットインを武器しているが、左足でのプレーに偏っているので縦への突破は苦手である。そのときにベジェリンが内側にいるので、相手DFが内側を抑えるような守り方をすると、中々カットインできず、攻撃が停滞してしまう。

 

 

このように中盤が無意味に降りることで、連動して他の場面や選手にも弊害が起きるようになり、結果、アーセナルの攻撃は単調化し、停滞するようになった。

 

 

では、Ⅲ期どのように改善されたのか?

 

f:id:SaTo_yu99:20210202150444j:image 図12

1つ目の中盤が降りることによる中央の空洞化の問題は、ビルドアップ時にも述べたように中盤の選手がII期よりも高い位置にポジショニングすることで解決した。[図12❶参照]

 

2つ目の左サイドでの攻撃の停滞の問題は、1つ目の中盤の選手により高い位置でプレーさせたことに連動してくるのだが、彼らが中央にいることでボールの動きが活性化するようになったのだ。

そこで、サカを右に、スミス ロウをトップ下に起用し、左右関係なくボールサイドでプレーさせること(特にスミス ロウ)で、ボール回しをより活性化させると共に、オーバメヤンに本来のストライカーとしての役割をさせるためにより内側にポジショニングさせることで、左サイドの攻撃が活性化するようになった。

[図12❷参照](勿論、スミス ロウが中でオーバメヤンが外にいることもある。)

また、ライン間で引き出せる選手がラカゼットとサカしかいなく、彼らも引き出した後に周りのサポートが少なく孤立しがちだったのが、II期までのアーセナルの状況だったが、スミス ロウの起用によって新たにライン間で引き出せる選手が一人増えただけでなく、前線と後方を繋ぐリンクマンとなれる選手がピッチにいることで左サイドだけでなく、アーセナルの攻撃全体が活性化するようになった。

 

スミス ロウの特徴

最大の武器は、サイドに流れて相手のブロックの外でと、ライン間での両方でボールを引き出すことができ、そのときの状況に応じてワンタッチで捌いたり、ドリブルで突破したりと、アーセナルの攻撃のスイッチとなるプレーをできることだ。

本来は、相手にどんどん仕掛けていくドリブラーのタイプであったが、今シーズンはライン間のポジショニングなどのオフザボールの能力とボールを受けた時の状況判断の能力が抜群に上がり、チェルシー戦(Ⅲ期の始まり)で今シーズン初出場して以来、Ⅲ期好調の最大の要因となっている。(マンチェスター・ユナイテッドにブルーノ・フェルナンデスが加入して攻撃がより活性化したような現象に近い。)

また、20歳ながらに、低い位置に降りてきてビルドアップに絡んだりして攻撃のリズムを作りつつもテンポを変えるようなプレーをできるゲームメーカーの側面や、トップ下からゴール前に走り込む二列目からの飛び出しの側面も兼ね備えている非常に万能な選手である。

f:id:SaTo_yu99:20210206104042j:image今シーズンのスミス ロウのプレーエリア

https://www.sofascore.com/player/emile-smith-rowe/867445

このようにデータで見ても、トップ下と中央のポジションながら両サイドをメインに幅広く様々なところでプレーしていることがわかる。

また、アーセナル攻撃の核であるサカとは、ユース時代からともにプレーしている関係であり、コンビネーションは抜群である。

 


3つ目のベジェリンの攻撃参加の問題は、2つ目のサカのRWG起用に連動してくるのだが、サカは前述したようにライン間でボールを受けるのを非常に得意としながらも、ドリブルなど個で打開することもできる選手である。

そのため、当然、サカは内側にポジションを取り、その結果ベジェリンは、低い位置にポジションを取りつつも攻撃時にオーバーラップするというようにⅡ期と比べてより単純になり、自身の武器を活かせる適正な役割をこなせるようになったのだ。[図12❸参照]

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f:id:SaTo_yu99:20210202175511j:image II期の試合でのベジェリンのヒートマップ
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f:id:SaTo_yu99:20210202175503j:image Ⅲ期の試合でのベジェリンのヒートマップ

https://www.whoscored.com/Teams/13/Statistics/England-Arsenal

 

データから見ても、ベジェリンが明らかに外側の低い位置でプレーするようになっていることがわかる。

 

この変化によって、ベジェリンとサカのお互いの武器を活かすことができ、右サイドも攻撃が活性化するようになった。

 

 

このように、中盤のポジションを上げ、サカをRWGに、スミス ロウをトップ下に起用し、ベジェリンに低い位置を取らせるというようにそれぞれの選手の適材適所を考えた配置に修正することで、アルテタはII期で起きていた攻撃面での問題全てを解決したのだ。

 

フィニッシュワーク時の中盤のポジションとスミス ロウによる変化

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f:id:SaTo_yu99:20210206135412j:image
f:id:SaTo_yu99:20210206135409j:image I期

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f:id:SaTo_yu99:20210206135544j:image II期

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f:id:SaTo_yu99:20210206141207j:imageⅢ期

 

 

 

守備戦術

 

前述したようにアルテタは、就任当初まず守備の改革に取り組んだ。

具体的には、トランジションの強化、プレッシングのデザイン、システムを5バックにしてCBの枚数の増加、などである。

また、今シーズンから昨季までブレントフォードでセットプレーをデザインしていた専門のコーチを招聘し、改善を試みた。

その結果、昨シーズンはセットプレーからの失点ワースト3位の15点と大きな失点源だったのが、今シーズンは前半戦終了時点で僅か2点とリーグトップの少なさとなった。

 

 

・プレッシング

 

f:id:SaTo_yu99:20210206144144j:image 図13

 

5-2-3のシステムを採用していたI期とII期では、相手のバックラインに対して3トップでプレッシングを行い、後ろの選手が連動して圧力をかけていた。

前線3枚が剥がされるとWBや中盤が積極的に出てボールを奪いにいき、後ろがそれに連動してマークをスライドし、対応していた。[図13参照]

よくハードワークする両WGは、前線でプレスが剥がされてもスプリントしてプレスバックを行い、より相手に圧力をかける。

 

このような積極的なプレッシングにより、相手チームは後ろからのビルドアップに苦戦していた。

実際、アーセナルは前からの積極的なプレスでボールを奪取し、そのまま得点に直結させるシーンが何度も見受けられた。

 

f:id:SaTo_yu99:20210206144325j:image 図14

 

一方で4-2-3-1に変更したⅢ期では、両WGがサイドに、スミス ロウとラカゼットが中央にポジションを取る4-4-2のような布陣でプレスを行う。

両WGは、相手のSBのパスコースを切りながら牽制し、ラカゼットとスミス ロウのどちらかが相手の中盤の選手1人のパスコースを切りながらプレスをかけ、どちらかが相手の中盤の選手もう1人に付いてパスコースを消して牽制する。[図14参照]

 

f:id:SaTo_yu99:20210206162022j:image 図15

 

ボールがサイドに流れると4-4-1-1の布陣となり、ラカゼットかスミス ロウがトップ下の位置にポジションを取ってボールホルダーのパスコースを消し、WGの選手と挟み込むようにしてボールを奪いにいく。[図15参照]

 

 

・ブロック

 

f:id:SaTo_yu99:20210206162731j:image 図16

 

基本は、5-4-1の布陣でブロックを作る。

CBが3枚と後ろの枚数が揃っているため、縦にくさびのボールをいれられてもCBが積極的にボールホルダーに潰しに行くことができる。

両WGはボールが自分のサイドにあるときは、しっかり牽制をしつつ、相手に自陣深くまで押し込まれるとボックス内までしっかり戻って守備をする。[図16参照]

また、ラカゼットもかなりハードワークできる選手なので、必要に応じて後ろまで下がり、全員でブロックを形成することもあった。

 

ただここで問題が二つ生じる。

一つは前線の選手が下がりすぎるのでカウンターができなくなるとともに攻め続けられること

もう一つは5-2-3というDFが多くてMFが少ないシステムの守備の弱点を補えていないこと、である。

 

1つ目の問題についてであるが、CFや両WGがしっかりと戻ることで守備ブロックがより強固になる一方で、前線の枚数がいなくなりボールを奪ってからの素早いカウンターはできなくなる。

ただ、I期では、全員で守ってもゴールキックにすれば、そこから疑似カウンターができていた[図4参照]ので、そこまで問題にはならなかった。

しかし、II期では、前述した通り、疑似カウンターもできなくなり[図6参照]、ゴールキックも回収されてしまうことが多くなったのでボールを回収できず、二次攻撃、三次攻撃と相手に攻め続けられてしまう状況が増えてしまった

 

f:id:SaTo_yu99:20210206171727j:image 図17

 

続いて2つ目の問題についてである。

そもそも5-2-3の弱点としては、中盤の人数が少ないことと、後ろに人数が多いためラインコントロールが難しいことなどが挙げられるが、攻め続けられることの増えたII期では、特にこの弱点が目立つこととなった。

後ろのラインコントロールが統一されずにオンサイドでシュートを打たれてしまったり、MFの2人が中央のバイタル近辺にいて、誰がボールサイドのフォローに行くのかがはっきりしていないので簡単に崩されてクロスを入れられてしまったりしていた。[図17参照]

 

また上記のように、5バックのメリットとしてはCBが3枚いるので、CBが後ろから積極的にボールにチャレンジできることであったのだが、CBがボールにチャレンジしすぎて釣り出されて(特にサイドに人数をかけて攻撃を行う相手に)、WBのサカやベジェリンとポジションが逆になり、彼らWBが内側の守備をして、CBが外側の守備をしているという場面も目立った。

当然ながら、大外を守るWBと内側を守るCBでは役割が異なるので、WBに内側をカバーさせるのはリスクが伴う。

ここで、釣り出されたCBがボールを奪うか、奪えずともクリアやタッチラインに逃げるなどができれば良いのだが、これを回避されて崩されるシーンがたびたび見受けられた。[図17参照]

 

アーセナル3バックのホールディングとマガリャインスとティアニー

ホールディングは、そもそも対人が強くなく、相手の個人の能力が高いとシンプルに剥がされる。

ガリャインスは、対人も強くてかなり出ていって相手を潰すことができるが、彼が出て行ったスペースのカバーリングがあやふやでデザインされておらず、パスなどで上手く繋がれて剥がされることがある。

(現在のアーセナルは、マガリャインスがDFの主軸となっているが、ディフェンスリーダーの相方としての方がより能力を発揮できるようにも思える。)

ティアニーは、本職がSBであるように元々CBの選手ではない。攻撃の時に可変して高い位置で違いを作れるという面では非常に欠かせない選手であるが、守備面でスペースのカバーリングや対人を武器としている選手ではない。

 

また、幾度となく取り上げている中盤が降りることによる中央の空洞化問題は、守備時にも影響する。

中途半端にボールを失うと、中央にストッパーとなる人がいないので一気に持ち運ばれてカウンターを食らうこととなる。[図9参照]

このとき、両SBはかなり高い位置をとっているので(前述したように右のベジェリンは内側に入っているので特に)、CBが出て行って守備をしないといけなくなり、結果、上記したCBがサイドに釣り出される問題ともリンクして、カウンターから危ないシーンを迎えることも増加してしまった。

 

 

では、Ⅲ期でどのように改善されたのか?

 

f:id:SaTo_yu99:20210214110829j:image  図18

 

これは、前述したようにシステムを4バックにして、

状況に応じてこそ下がるものの、WGやトップ下、CF全員が、ブロックの深い位置まで下がるということは無くなった。

これにより、ボールを回収しやすくなったため二次攻撃、三次攻撃と攻め続けられにくくなるだけでなく、自らのカウンターにも備えられるようになって、1つ目の問題を解決した。[図18参照]

 

また、DFの選手を削ってMFの選手を増やした4-2-3-1のシステムを採用したことで、三列目の選手がスライドしてよりサイドまで出て行ってカバーできるようになったのとともに、4バックなのでCBがそこまで積極的にチャレンジしなくなって(相手のカウンター時など守備の人数が足りていないときも大外を捨ててSBが絞って対応)、2つ目の問題を解決した。[図18参照]

 

※ディフェンシブサードでのWGの守備

元々深くまで戻っていたWGが戻らないことでボールを回収しやすくなり、カウンターにも備えられるようになったのだが、そもそも守備ブロックが脆くなるのではないかと疑問に思うかもしれない。

f:id:SaTo_yu99:20210214110829j:imagef:id:SaTo_yu99:20210214120510j:image

これはアーセナルに限らずであるが、DMFがスライドしてサイドまで出て行って守備をすると、基本的にはもう一人のDMFとトップ下が中央のスペースを埋める。

この時、更に、ボールサイドではないWGがある程度絞ってスペースを埋めるのだが、ここで重要なのは自分のマークとの距離感である。

どういうことかというと、自分(WGの選手)はセカンドボールを拾ったり、カウンターに繋げられたりできるようにある程度前にポジショニングするが、相手がサイドチェンジなどで大きな展開をしてくる場合や、クロスに逆サイドのSBが飛び込んでくる場合には、備えられるような距離にいるということだ。

ボールを奪ったら素早く前に出て行けるが、展開されたときはボールの移動時間でスプリントして戻れる距離ではある絶妙なポジションを取ることで、守備ブロックが脆くなることを防ぐ。

 

 

前線の選手のブロック時のポジショニング

f:id:SaTo_yu99:20210211180149j:image I期、II期
f:id:SaTo_yu99:20210211180152j:image
f:id:SaTo_yu99:20210211180155j:image Ⅲ期

 

 

選手

MVP

ブカヨ・サカ

上記で述べた通り、オフザボールのポジションがずば抜けて上手いが、ドリブルで仕掛けるなどオンザボールでも違いを見せられるアーセナルに欠かせない選手。


印象的な選手

エミール・スミス ロウ 

上記で述べた通り、アーセナル復調最大の立役者。


注目選手

エンズリー・ メイトランド・ナイルズ

エメリ時代から徐々に起用され、アルテタ就任以降はサカと同じく、I期に可変システムで重宝されていた。

現在の本職はSBながらも、ユース時代にやっていたWGや、アルテタ就任当初は偽サイドバックもこなしていたことから中盤のポジションなど、CBとCF以外はどのポジションもこなすことができる能力の高さを持っている。

長所は、そのユーティリティの高さと、オフザボールのポジショニングが良く、ライン間でボールを引き出す上手さ、そしてプレミアでも屈指のレベルのスプリント力である。

それだけではなく、持ち前のスプリントを活かした推進力を武器にサイドや中央など関係なく、ボールを運べる強さがある。

一方、クロスや守備能力はあまり得意であるとはいえないので、起用法は少し悩むところである。

実際、ナイルズ自身もあまりSBやWBでプレーしたくないと表明しており、その関係と練習態度の悪さが重なって、現在はスタメンから遠のいている。(アーセナルはSBの選手が負傷者も出ていて人が足りていないが、中盤やWGには名手が揃っていて、ナイルズといえどもスタメンを確保するのは簡単でない。)

実力とポテンシャルはあるだけに、今後は自身の考えを改めてSBとしてプレーするのか、それともより能力を上げてWGとしてプレーするのか、はたまた他のクラブに移籍するのか、今後の動機に注目である。

 

 

今後の展望

 

現在もまだ本来の順位とは程遠い位置にいるアルテタ率いるアーセナルであるが、試行と修正を繰り返して、確実に進歩していっていることは確かであるので、目先の結果ではなく、長い目で見ていくことが大切である。

 

ただ、リーグでの優勝は難しくなってきており、CL圏内も少し危ういように目標が難しい順位であるが、グループリーグ全勝と圧倒的な強さを見せて決勝トーナメントに勝ち進んだELは、アルテタがトーナメントを得意としていることも相まって、期待ができる。

 

 

選手の起用法について私は、今も上手くいってはいるものの、新たなオプションとして、ラカゼットとサカをよりチームの核として起用しても良いのではないかと思う。

ラカゼットはリヨン時代ストライカーとして名を馳せた選手であるが、アーセナルに加入してオフザボールを磨き、中盤に降りてきてボールを引き出すフォルス9のような技術を向上させた。

更に、ダイアゴナルに走り込むのが得意であるオーバメヤンやマルティネッリ、サカなどの選手がいるものの、ラカゼットを0トップとした起用はあまり見られない。

彼らで3トップを組ませ、ラカゼットが降りてきたスペースにWGがダイアゴナルに走り込むような攻撃のデザインがあっても面白いかと私は思っている。

 

※0トップとは

0トップとは、バルセロナ時代メッシを活かす戦術としてグアルディオラが浸透させたCFが下がってゲームメイクに参加する戦術のことであり、その特性からフォルス9や偽9番とも呼ばれる。

CFが降りることでマークが混乱し、フリーになりやすいのが特徴だ。

フリーにさせまいとCBが寄せてきたらスペースが生まれ、そこにWGがダイアゴナルに走ることで得点チャンスとなる。

偽9番のCF:タイミング良く降り、ボールを捌ける能力。当然、DFを背負ってのプレーが多くなるので、背負ってもプレーできるフィジカルや背負っても失わないテクニックも必要。

(例-グアルディオラ時代のメッシ、リバプールのフィルミーノ、マドリーのベンゼマ、今シーズンのスパーズのケイン)

→ラカゼットは、タイミング良く降り、ボールを捌けるのは勿論、強いフィジカルからポストプレーもでき、さらにはトランジションの早さやプレスバックなど守備でも貢献できる。

偽9番のときのWG:CFが空けたスペースにダイアゴナルに走り込めるオフザボールの技術。IHが二列目から飛び出すパターンもあるが、基本はWGができるのが好ましい。

(例-グアルディオラ時代のペドロ、サンチェス、ビジャ、リバプールのマネ、サラー、マドリー時のロナウド、今シーズンのスパーズのソン)

 

サカについては、彼は将来世界屈指の選手になるポテンシャルを持つ選手である。

アルテタは、誰かを特別扱いしチームの中心とすることを好まない監督ではあるため現実味には少し欠けるが、サカを中心とするチームを作っても面白いのではないかと私は思っている。

 

サカ以外にもアーセナルは、世界でもトップクラスでポテンシャルの高い若手がたくさん在籍している。

 

彼らの今後の成長して、どういう風にレギュラーとなっていくかも今後楽しみである。

 

 

 

 

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プレミアリーグ前半戦総括(1-19節) 〜マンチェスターシティ〜

 

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目次

 

シティの現在の状況 

 

序盤は、一時プレミアリーグ(PL)13位まで順位を落としてしまったものの、徐々に巻き返し、直近では公式戦18試合無敗が続いている。

アストン ヴィラ戦でエースのデ ブライネが4週間から6週間の怪我を負い、攻撃力低下が懸念されたものの、直近のWBA戦では見事に大勝し、拮抗している中でリーグ首位に躍り出た。

 

 

シティの戦術
 

近年のシティは、11人全員が高い能力でパスを繋ぎ、その中でも長短のパスを織り交ぜながらボールを保持して試合を支配する超ポゼッションの元で圧倒的な攻撃力を特徴とするサッカーを行なっている。

そもそもシティは長らくプレミア中堅もしくは下位のチームであったが、アブダビグループの買収によって、巨額な資金力を得て、のし上がってきたチームであり、2016年にジョゼップ グアルディオラが就任して以降、彼が得意とするポゼッションスタイルを中心に、いわゆるダウンスリーや偽サイドバック、0トップなど彼が普及させた様々な戦術が持ち込まれ、チームに浸透していった。

そして、17-18シーズンからPL2連覇達成、リーグカップ(カラバオ)も3連覇と、PL屈指の強豪となり、間違いなくシティの歴史上で最強のチームとなった。

 

そんなシティのサッカーが徐々に変化している。

 

 

 

攻撃戦術

・ビルドアップ

 

 f:id:SaTo_yu99:20210120121745j:image 図1  △フェルナンド=フェルナンジーニョ

元シティ現セビージャのフェルナンドではない

 

最初に、シティのビルドアップにおける前提として

全員に高い足元の能力が備わっており、特にビルドアップに大きく関わるGKとCBは、安定したショートパスと、味方の足元へ超正確なロングパスを送ることができる選手を揃えているまた、アンカーも含めた彼らは、展開力も抜群であり、相手がボールサイドに圧縮してプレスをかけてくれば一気にスペースのある逆のサイドに展開してプレスを回避することができる。

シティは、この大小の三角形をベースとしてパスを繋ぐということを緻密にデザインしており、どのような状況でも基本は三角形を中心としてパスを繋ぐ。[図1参照]

 

シティは、相手や試合の状況に応じて様々な形のビルドアップを使い分けるゆえに、何パターンものビルドアップを持ち合わせており、全てを解説することはできない。

そこで、大きく3つに分けて紹介していく。

 

f:id:SaTo_yu99:20210120121811j:image 図2

 

相手がハイプレスで前から来る場合は、両CBはGKのエデルソンの脇にポジショニングし、この3枚を中心にパスを繋ぐ。(アンカーのフェルナンジーニョもサポートする。)

相手が食いついてきたり、圧縮したプレスを行なってきたり、マークをずらしてボールにプレッシングしたりして、味方にフリーの選手が生まれるとそこは正確なロングパスを送り、一気にチャンスを作り出す。(エデルソンは、両SBやアンカーの選手にパスをつけるだけでなく、中盤でライン間にポジショニングした選手であったり、最終ラインの裏を狙っているWGの選手にも超高精度なパスを送る。)[図2参照]

 

f:id:SaTo_yu99:20210124190345j:image 図3       △:レロイ サネ R-✖️→L-○

相手がミドルプレスで牽制しかしてこない場合は、RSBのウォーカーが降りて3バック化し、LSBのジンチェンコやデルフが内側に入って中盤にポジションを取るいわゆる偽サイドバック化してパスを繋ぐ。[図3参照]

シティのLSBはサイドライン際をアップダウンで駆け抜けるタイプではなく、パスを受けて捌く中盤のようなタイプが多い。(現にジンチェンコとデルフはシティ加入以前は、中盤の選手としてプレーしていた。)

 

ここでの要点は、SBが内側に入ることでそのマークが混乱する事だ。

相手WGが内側に引っ張られれば、WGへのパスコースができると共に相手SBとWGの一対一の状況となる。シティはWGに、一対一のドリブルが得意な選手を起用しているので、このような展開はとても有利な状況である。

相手WGが外側を警戒すれば、偽サイドバック化したSBやIHへくさびのパスを通すことができ、ボールを前進させ、チャンスとなる。

 

※シティの偽サイドバックの変遷

(クリシー、サニャ → デルフ、ジンチェンコ → カンセロ)

サイドバック戦術 - SBが内側にポジションを取り、中盤の選手の一角としてビルドアップする戦術。

現代サッカーでは、SBがワイドに開いて幅を取ることが基本的であるが、SBが中盤化し、WGが幅を取ることで、WGと相手SBを孤立させるWGの突破力を活かすための戦術。

これはグアルディオラバイエルン時代に編み出した戦術であり、実に画期的であったが、選手に求められる能力が多いため、ダウンスリーや0トップなどと比べても偽サイドバックを戦術として採用しているチームは殆ど見当たらない。

SB : SBとしては勿論のこと中盤としてもプレーできる選手。視野の広さと冷静さ(SBは視野が180度で良いが、中盤は360度必要なる)、捌いたりくさびを入れたりできるパス能力、プレスを回避できるテクニック、とマルチタスクをこなさなければならない。

(例 - ラーム、アラバ、ラフィーニャ、キミッヒなど)

WG : 個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある選手。

(例 - リベリーロッベン、D.コスタなど)

f:id:SaTo_yu99:20210203163127j:imageクリシー、サニャ

アンカーが両CBの間に落ちて(ダウンスリー)、両SBのクリシーとサニャが共に内側に入る。

f:id:SaTo_yu99:20210203171002j:imagef:id:SaTo_yu99:20210203171050j:imageデルフ、ジンチェンコ

左SBのデルフやジンチェンコが内側に入り、突出した走力を持っているが中盤としてパスを捌くのが得意でない右SBのウォーカーを3バックの一角とする。攻撃時はウォーカーが3バックの位置から持ち前の走力を活かして攻撃参加し、守備時は対人の強さと抜きん出たスピードで広範囲をカバーする。

f:id:SaTo_yu99:20210203171820j:imagef:id:SaTo_yu99:20210203171823j:imageカンセロ
上記とは逆に右SBのカンセロが内側に入り、左SBが3バックの一角となる。

しかし、今までの偽サイドバックとは違い、中盤に入った状態からIHのように前に出ていき、ハーフスペースを上手く使ったり、サイドに流れてクロスを送り込んだりする。

カンセロ ドリブル成功率 → チーム3位

     チャンスクリエイト率 → チーム2位

(後述にあるデ ブライネ依存の改善策として、カンセロにシティのIHの役割をさせ、デ ブライネの負担を軽減させる。

ロドリを除いた中盤3枚は、流動的で、低い位置でのゲームメイクが得意なギュンドアンや、デ ブライネが3列目に降りはこともあれば、カンセロがライン間にポジションを取ることもある。)

バルセロナ時代のダニエウ・アウヴェスの役割とバイエルン時代のアラバの役割の融合

 

つまり、シティでは、バルセロナ時代とバイエルン時代を組み合わせた偽サイドバックを育て上げようとしているのだ。

 

他にもフェルナンジーニョがCB、ラポルテがLSBに起用されていたときは、フェルナンジーニョが前に出てDMFの位置にポジションを取り、両SBが絞ることで後ろ3枚の形を作る偽センターバックのような型のビルドアップを使っていたこともあった。

 

 

ではなぜ、元々4バックであるフォーメーションを変化させて3バックにするのか。

 

一番の理由は、2トップで守備をする相手に対して1枚多い人数でビルドアップできるからであろう。シンプルに数的有利にたてると言うことだ。

 

しかし、それだけではない。

DF3枚とDMF2枚という陣形は、三角形を作るのに非常に適しているからだ。

 

f:id:SaTo_yu99:20210122232503j:image 図4

 

相手がプレスに来ていたり、牽制したりしている状況では、受け手が角度をつけてボールを引き出すことが非常に重要だ。[図4参照]

なぜなら、受け手がプレスに行く相手選手とボールホルダーの直線上にいると当然ボールは出すことはできず、相手は一人で二人の選手を抑えることができてしまうからだ。

 

※1トップや3トップでのプレスの場合

1トップ、一人では、コースを消す又はプレスに行くのどちらが精一杯であるプレスをはめるのは不可能であり、牽制するのも難しい。

シティのCBは持ち上がることもできるのでコースを消されれば持ち上がるし、プレスにきたらパスを出すだけで簡単に回避できる。

3トップ、

f:id:SaTo_yu99:20210123001556j:image

2CBが広がり、GKエデルソンが前に出ることで後ろ3枚の形を作る。この時、2枚のDMFは距離を狭め、四角形ではなく、角度をつけて台形の形となる。それでもパスコースがない場合は、IHのシルバがバランスを見て、サイドに流れてパスコースを作る。

 

この、2枚のDMFと3枚のCBで三角形をデザインしてボールを回し、WGやIHに縦パスを入れてボールを前進させる型[図4参照]は、ビルドアップに限らず、シティのパス回しにおける全ての場面で使われている。

 

 

勿論、LSBの選手や相手の守備の状況によって偽サイドバック化せず、図5のようなビルドアップするケース(特に、相手がアンカーを消しながらのプレスをできていないとき)もある。

 

f:id:SaTo_yu99:20210120121551j:image 図5

 

相手がリトリートし、ブロックを作る場合は、ライン間でのボールの引き出しが絶妙なIHのシルバやデ ブライネへのくさびのパスであったり、やはりワイドに開いているSBやWGへの正確なロングパスで組み立てを行う。[図5参照]

 

大きく分けるとビルドアップに対する守備はこの3パターンになり、メンバーは少々変化しているものの今シーズンも引き続きこれらのビルドアップの型を適用している。

 

※何故シティのようにGKを含めたビルドアップが流行となっているのか。

近年、GKからの繋ぎがトレンドになっており足元やフィードに長けたGKが重宝されることによって、図1のようなビルドアップは度々見受けられるようになった。それは、プレスが進化してより組織されて行われるようになった事と、すぐにラフなロングボールを蹴らずにしっかりと後ろから繋ぐようになった事が大きな理由であろう。

GKを含めたビルドアップの最大の利点は、必ず一枚多い人数でボールを回すことができる点である。なぜなら、仮に相手が全員にマンマークで守備をするとしても相手GKが誰か選手をマークをすることはないからだ。

だから、GKがビルドアップに参加できれば、十対十一となり攻撃側が必ず有利となる。

これがGKを含めたビルドアップがトレンドとなっている要因である。

そんな中でも、相手のハイプレス下でシティのビルドアップ程落ち着いて淡々とボールを回せるシティは、GKを含めたビルドアップという点においてはやはり頭ひとつ抜けている。寧ろ、プレスをよりかけさせて、引きつけてから展開して回避する場面すら見られるくらいだ。

図3、4ようにエリア外まで出ていき、時折CBの高さまでGKが前に出て行うビルドアップは殆ど見受けられない。それは、いうまでもなくリスキーすぎるからだ。セービングは置いておいて、足元の技術やフィード力で考えると間違いなく世界最高であるエデルソンだからこそできるビルドアップと言って良いだろう。

 

 

・崩し
 

グアルディオラのサッカーのスタイルとしてポゼッションというのは、誰もが最初に思い浮かぶ特徴であろうが、それを可能にする大きな存在はWGである。

 

グアルディオラが率いた過去のチームのWG

バルセロナ時代には、メッシを0トップし、メッシが下がったところに走り込むことができるダイアゴナルな走りが得意なビジャやペドロ、サンチェスを起用していた。

バイエルン時代には、ロッベンとリベリ、控えにコマンやドウグラス コスタとサイドに張り、圧倒的なスピードを持ち合わせたドリブル突破やそのドリブルからカットインシュートを得意とする個で打開できる選手を起用していた。

 

シティでは、バルセロナ時代とバイエルン時代を組み合わせたWGを育て上げ、起用している。

オンザボーラーであるサネとスターリングにオフザボールを教え、ドリブルだけでなく裏抜けや中に入ってコンビネーションもできる選手へと成長させた。

 

これによりグアルディオラの戦術の幅は大きく広がった。

 

シティの攻撃は、選手間の距離が近く、テンポ良くパスを回す。そして、中盤の3枚を中心にライン間に差し込む鋭いくさびのパスやラポルテやフェルナンジーニョを中心に距離を変える大きな展開のロングパスを送ったのをスイッチに一気にギアを上げて攻撃が加速する。

また、中央にボールを入れたら外のWGへ、WGに展開したら中央のCFやIHへという具合に外と中の使い方が非常に巧みである。

 

そんなシティの攻撃を語る上で欠かせないスペースがある。

 

f:id:SaTo_yu99:20210120150240j:image 図6

 

その重要なスペースとは、CBとSB間のポケットのところいわゆるハーフスペースである。[図6参照]

 

※ハーフスペースの重要性について

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そもそもハーフスペースとは、ピッチ基準で考えるとフィールドを縦に五分割したときの外からの2番目のエリアのことであり、人基準で考えると4バックのCB、SB間のスペースのことである。

このスペースの重要性は、簡単に分けると3つある。

1、パスコースと視野の確保がしやすい。

中央にいるよりも角度をつけることでパスコースが確保できる。

そして、仮に中央でボールを引き出しても背負った状態であり、視野の確保が難しいが、角度をつけて半身でボールを受けることでボールとDF、そしてゴールを全て視野に入れることができる。

2、シュートやパスの選択肢が多様になる。

パスコースと視野の確保という点においては一番外のエリアもでも同じことが言える。しかし、一番外のエリアでは、横がタッチラインであるためプレーが限られており、またゴールからも離れているのでDFは余裕を持って対応できる。シュートも難しく、ゴール前へのパスはクロスがメインとなってしまう。

一方でハーフスペースでボールを受けると、プレーエリアが360度に広がるため、プレーに多様性が生まれ、ゴールからの距離も近いのでミドルシュートやスルーパスも出せるようになる。

3、DFがマーク曖昧になる。

現在、多くのチームは4バックを取り入れているが、その場合、ハーフスペースでボールを受けると、MFなのかSBなのかCBなのか誰がボールに対して守備に行くのか非常に曖昧になるので、フリーになりやすかったり、逆にシュートやパスを出されてしまうので相手を一気に引きつけたりしやすい。

 

 

シティはこのスペースを突く上手さは世界最高レベルだ。

 

サイドにボールが入ると、基本的にWG、IH、SBが三角形を作ってボールを回すが、ここからの崩しに多種多様なパターンを持っている。[図6参照]

 

f:id:SaTo_yu99:20210120152002j:image 図7

 

まず、シンプルにハーフスペースに人が走り込む型だ。

デ ブライネが内側をインナーラップするように走り、クロスを送り込むパターンはとてもよく見られるシティの十八番である。

また、ウォーカーが持ち前のスプリント力で後ろからオーバーラップして、クロスを送り込むパターンもある。[図7参照]


f:id:SaTo_yu99:20210120152037j:image 図8

次にボールホルダーが自ら使う型だ。

ドリブルで縦に突破してシンプルにクロスを送り込むパターンやワンツーで抜け出してクロスを送り込むパターンがある。[図8参照]

スターリングやベルナルドも勿論このようなプレーをするのだが、なんといってもこれを得意としていたのはサネであろう。

左利きで左サイドに置かれていたサネは、勿論縦への突破が武器になりそこからのクロスだけでなく、シュートにまで持ち込むこともできた。また、シルバとのコンビは抜群で彼からのスルーパスやワンツーで抜け出すシーンも目立っていた。

 

f:id:SaTo_yu99:20210120153456j:image 図9

 

また、WGはドリブルが得意な選手ばかりであるので、カットインする型もある。

スターリングやサネなんかは、スピードがあり、独力でカットインすることも可能であるが、より脅威となるのは、IHやSBが走り込みである。

これにより相手DFがつられて、スペースが生まれ、よりカットインしやすくなり、プレーの幅も広がることとなる。[図9参照]

 

これらの型[図7、8、9]は得意分野はあるものの、両サイド共通で行われている。

 

f:id:SaTo_yu99:20210120155817j:image 図10

 

最後に、デ ブライネが少し下がり目でボールを受け、高精度のアーリークロスを送り込む型がある。

これは、殆ど右サイドでしか見られないものの、よくある型ではある。[図10参照]

理由は簡単で、彼ほどの高精度なアーリークロスはデ ブライネにしかできないからだ。

 

 

シティは、このようにハーフスペースを使う型を幾つも用意しており、その場の状況に応じて使い分けるのだが、更に驚くべき事がある。

 

それは、この三角関係の特徴として、三角形が回転するように3人の配置が移動し、彼らはどの配置でもクオリティーを落とさずにプレーすることが可能であるということだ。

 

つまりどういうことかというと、外に張ったSBのウォーカーが内側に入ったWGのベルナルドとワンツーで抜け出したり、後ろにポジションを取ったデ ブライネへリターンしてデ ブライネがアーリークロスをあげる事もあれば、SBのウォーカーがインナーラップしたり、デ ブライネがオーバーラップのように外側を走ってクロスを送り込む事もあるということである。

 

これだけ崩しの型を持ってるので、例えば、相手DFが飛び込んできたらワンツーで抜け出したり[図7参照]、味方の走り込みに相手DFが付いていたらカットインをし[図8参照]、ドリブルを恐れて中央を固めたら味方にパスを出したり[図6参照]、と相手DFの動きに合わせてプレーをすることができる。

 

そのため、これらの洗練された攻撃を90分間守り抜くのは、至難の業であるが、これだけではない。

 

 

f:id:SaTo_yu99:20210123113930j:imagef:id:SaTo_yu99:20210120231229j:image

図11

 

ビルドアップで説明したように、アンカーと両CB、特にラポルテとフェルナンジーニョは展開力があり、ロングパス精度が非常に高く、ウォーカーもサイドチェンジは得意である。

 

様々な崩しの型を有しているとはいえ、それでも攻撃が停滞したり、ボールサイドに人を圧縮して守られたりすると、一度、アンカーやCBを経由して一気にサイドを変える。

当然、逆サイドでも同じクオリティーの崩しを行えるので、守る側にとっては的を絞ることもできず、揺さぶられ続けることで守備のスライドも遅れ、結果的にはブロックを崩されてしまう。[図11参照]

 

 

f:id:SaTo_yu99:20210122132312j:image 図12

 

これらを恐れて、相手がブロックを下げすぎてしまったり、プレッシャーをかけなかったりして、ボールホルダーに自由を与えてしまうと、シルバやデ ブライネ、フェルナンジーニョなど中盤の選手からDFとGKの間に落とすようなボールや裏へのスルーパスだったり、ライン間に差し込む鋭いくさびのパスを送り込まれてしまったり、ミドルシュートを打たれたりしてしまう。[図12参照]

 

 

このようにシティは、何段階もフィニッシュまでの型を持っており、相手の出方や試合の状況に応じて最適なプレーを選択し、実行できるので、得点を量産することができるのだ。

 

 

ここで一つの疑問が生じる。

 

ポゼッションを中心としたスタイルのシティであるが、前述した崩しの型を踏まえると、最後のフィニッシュはクロスからというシーンが多いのではないか。

 

この問いへの答えは、データで見れば一目瞭然である。

 

f:id:SaTo_yu99:20210121150041j:image PL18/19シーズンのクロス本数ランキング

 f:id:SaTo_yu99:20210121150046j:image PL19/20シーズンのクロス本数ランキング

https://www.premierleague.com/stats/top/clubs/total_cross?se=210

 

データからもわかる通り、リーグトップのクロス数を誇るシティであるが、だとすると、ヘディングを武器としない3トップを揃えるシティは、どのようにしてゴールネットを揺らしているのか。

 

シティがハーフスペースを突いて中にクロスを送り込む殆どの場合は、鋭いグラウンダーのクロスを利用する。

このクロスに対して入り方が2つあるが、シティはこれを徹底している。

 

f:id:SaTo_yu99:20210123174459j:image図13
 f:id:SaTo_yu99:20210121222627j:image図14

 

1つ目は、CFのアグエロがクロスに対してマイナスで止まり、大外のWGがゴール前に飛び込んで合わせる得点パターンだ。

勿論、マイナスにクロスを送ってアグエロが得点するパターンもある。

カウンター時や最終ラインを下げきらない相手などゴール前にスペースがある場合に使われやすい。[図13参照]

 

2つ目は、WGがクロスに対してマイナスで止まり、CFのアグエロが相手DFとの絶妙な駆け引きからDFの前に入り合わせる得点パターンだ。

勿論、マイナスにクロスを送ってWGが得点するパターンもある。

最終ラインがPA内深くまで下がる相手などゴール前にスペースがない場合に使われやすい。[図14参照]

 

これらのパターンを見てわかる通り、シティはクロスに対してあまり人数をかけず、殆どの場合、CFとWGで完結してしまう。

プレーとポジショニングをしっかりデザインしておくことで人数をかけなくとも点が取れてしまうのだ。

 

そして、ゴール前に人数をかけない分、エリアの外に選手を固める。

そうすることで例えクロスが跳ね返されてもすぐにボールを回収し、二次攻撃、三次攻撃へと繋ぐことができるのだ。

 

 

他にも、

デ ブライネの推進力のあるドリブルからや快速のスターリング、サネからの早いカウンターでの得点パターンデ ブライネを中心にフィールドプレーヤー殆どが打てるミドルシュートでの得点パターンなどもあるが、

これらがシティの攻撃戦術の全容である。

 

 

 

今シーズンからの変化

 

今シーズンからの変化は大きく分けて5つある。

 

f:id:SaTo_yu99:20210204100323j:image 図15

 

1つ目のポイントは、CBとアンカーを経由して一気に展開することが減少したことだ。[図15①参照]

 

これは、昨シーズンから少し気になっていたことだが、一気にロングパスで展開というよりも足元で繋いで展開するシーンが目立つ印象だ。

フェルナンジーニョやラポルテほどではないとしても、ロドリやディアスも精度の高いパスを出すことはできるし、勿論試合でも見受けられるのだが、やはりCBやSBを省略する飛ばしのパスは、2連覇のシーズンと比べると減少してるように感じる。(それでも他チームと比べると圧倒的にロングパスでの展開頻度は高い)

 

ロングパスで一気に展開することのメリットは、相手を揺さぶることで、スライドの遅れからズレを作り、守備ブロックに綻びを生じさせることができるという点であるが、一方で、距離があり、浮き球のパスになる分難しくなり、ボールを失う場面も増えることもある。

逆に、ショートパスを繋いで展開するメリットは、ボールを確実に繋ぎ、ロストの危険を減らすことができるという点であるが、一方で、相手を揺さぶることが難しく、スライドが間に合ってしまう。

 

どちらの展開も一長一短であり、勿論グアルディオラには色々な思考があるのだと思うが、私はシティほど精度の高いロングパスを送れる選手が後ろに揃っているのであれば、前者の方が得策のように思える。

 

 

2つ目のポイントは、WGの変化とそれによる突破力の低下である。[図15②参照]

 

上記のように、サイドバックは、あえてWGを孤立させる役割があり、WGの個人での突破がありきの戦術である。

しかし、その突破力は、明らかに低下している。

 

今シーズン、世界でもトップクラスの突破力を持つサネが退団した一方で、後述にもあるが、スターリングはサイドで張らずに、内側でプレーする機会が増えたり、そもそも0トップとして起用されたりするようになった。

 

代わりとなるWGのフォーデン、マフレズ、トーレスは素晴らしい選手であるが、前者の2人に比べると明らかに突破力は劣る。

勿論、彼らはドリブルも上手であり、特にフォーデンやトーレスは若いので今後そのような選手になっていく可能性もなくはないが、現在はサネやスターリングのように、個の能力だけで相手を圧倒できるテクニックとスピードを兼ね備えた突破力のある選手ではない。

 

実際、サネとスターリングは、試合数あたりのドリブル成功数が2〜3回と非常に多いが、20/21シーズンのフォーデンは1.3回、マフレズが1.5回、トーレスが0.8回、と彼らの半数以下であることがデータから見てもわかる。

https://www.sofascore.com/team/football/manchester-city/17

 

このWGの突破力の低下が、結果的に、シティの攻撃停滞の要因の一つにもなっている。

 

 

3つ目のポイントは、圧倒的なデ ブライネへの依存である。[図15③参照]

 

シルバが衰えてきたことによって、昨シーズン半ばからシルバのポジションである左のIHにギュンドアンの出場機会が増加していき、昨シーズン終わりにシルバが退団したことで、今シーズンからギュンドアンがレギュラーメンバーとして起用されるようになった。

しかし、シルバとギュンドアンのプレースタイルは全く異なる。

 

シルバは、ライン間でボールを受けて捌いたり、スルーパスを送り込んだり、自ら走り込んだり、ドリブルで侵入したりとシティの肝であるハーフスペースの使い方が非常に上手である。

一方、ギュンドアンは、シルバよりもどちらかといえばゲームメーカーの要素が強く、シルバより一つ後ろでバランスをとりながらリズムを作り、機を見てくさびのパスを入れるのが得意な選手である。

 

両サイドどちらからも同じクオリティーで崩すことができたシティであったが、シルバの退団によって、デ ブライネがいないと攻撃が活性化されないという事態に陥っているのだ。

 

f:id:SaTo_yu99:20210123132222j:image 図16

 

この問題は、1つ目のポイントともリンクしてくるのだが、右サイドでデ ブライネが絡んで攻撃の形を作り、その後展開しても、左IHのギュンドアンはデ ブライネやシルバのような特性の選手ではないので、デ ブライネが流れることとなるのだが、展開されるたび、両サイドに流れることは不可能である。すると、デ ブライネがいないので左サイドの攻撃は活性化しない。

そのため、結局デ ブライネがボールサイドに流れるのだが、当然、ボールと同じ速さで移動できるわけないので、デ ブライネが流れてくるまで、攻撃が停滞してしまう。[図16参照]

更に、左右に走り回らなければならないデ ブライネへの負担はとても増している。

 

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f:id:SaTo_yu99:20210123131013j:image
f:id:SaTo_yu99:20210123131008j:image デ ブライネのプレーエリア

https://www.sofascore.com/player/kevin-de-bruyne/70996

 

実際、このようにシーズン毎のヒートマップを見れば、右サイドでのプレーがメインであったデ ブライネが今シーズンは左右満遍なくプレーしていることが際立ってわかる。

 

ではこのとき、左IHのギュンドアンはどうしているのか?

 

彼のポジショニングは2つのパターンに分かれる。

 

f:id:SaTo_yu99:20210123134532j:image 図17

 

1つは、ロドリと並び、2枚のDMFのような形を取るポジショニングに入る配置だ。[図17参照]

バランスを取りながらリズムを作るのが得意なギュンドアンを最も活かせている配置といえる。

またこのとき、デ ブライネは、右シャドーのようなポジショニングをベースとしているが、後ろにギュンドアンとロドリがいるので、トップ下のように比較的自由に動くことができる。

それでも依然として、彼の負担は大きいものの、崩しやフィニッシュの面に比重をかけられるので、多少は守備面が軽減されるはずである。

 

しかし、ギュンドアンが中盤にポジショニングする分、LSBが高い位置を取らなければならず、連動してLWGが内側に入らなければならない。

 

LSBのカンセロは、ドリブルで一枚剥がしてクロスを上げるプレーを武器としておらず、縦に突破したとしても利き足でない左足でクロスを上げることとなってしまう。

一方で、メンディーがLSBで起用される場合、彼は、縦へのドリブルからクロスを上げることが得意であるが、前述したようにそもそもシティの前線の選手には高さがないため、ハーフスペースの深い位置か、グラウンダーのクロスによる得点パターンが主流であり、外からのクロスをヘディングで合わせての得点パターンはあまり期待できない。

また、2つ目のポイントとも繋がってくるのだが、ボールを持った状態からのドリブルを武器としている選手のスターリングが内側にポジションを取っているのでドリブルが仕掛けづらい状況になっている。[図17参照]

 

つまり、ギュンドアンこそ活きるものの、他の選手のポジションが最適とはいえない配置となってしまうのだ。

 

f:id:SaTo_yu99:20210123142225j:image 図18

 

もう1つは、ギュンドアンが一番前で高さを取り、CFと2トップになるような配置だ。[図18参照]

 

このとき、他の選手の配置は、WGがワイドに開くことでカンセロとロドリで2枚の中盤となったり、昨シーズンまでどっしりと中盤の底で構えていたアンカーが降りていわゆるダウンスリーの形を取ったり、と様々であり、それなりに選手の特性を活かして適材適所に配置されている。

 

しかし、バランスを取りながらリズムを作るのが得意なギュンドアンをFWの位置に置くことを、最適というのは無理がある。

また、デ ブライネがビルドアップにも顔を出してリズムを作らなければならないので、彼への負担が非常に増加する。

 

これらのことから、ギュンドアンは良い選手ではあるものの、シティがIHに求める特性と少し違うがわかるのだが、シティの中盤のラインナップを見ると、ピッチでギュンドアン以上のクオリティーを出せる選手はおらず、彼を使うしかないのが現状である。

 

 

4つ目のポイントは、CF、特にアグエロの不在であり、これが今シーズン思うように勝ち点を取れていない最大の理由である。[図16④参照]

 

今シーズン、アグエロは怪我が多くあまり試合に出場できず、出場してもパフォーマンスが上がっていなくて思うようなプレーができていない。

いうまでもなく、アグエロは世界屈指のストライカーであり、彼の代わりを務めることができる選手は殆ど存在しないが、とはいえシティの前線の層は厚く、ジェズスが控えにいるくらいだ。

 

CFの控えがおらず、ユース上がりの選手なんかを使わなければならない事態になっているのならともかく、ブラジル代表でもプレーするジェズスがいるのに、何故、アグエロ不在がシティが勝ち点を取れない一番の理由なのか?

 

アグエロとジェズスの圧倒的な違いは、ストライカー感である。

 

どういうことか?

ストライカーにおいて最も重要なのは、ボールのないところでのDFとの駆け引きである。

勿論、シュートやドリブルの上手さやスピードなんかも重要であるが、スペースがないPAでいかにして相手のマークを剥がしてシュートコースを作り、シュートを打つことができるかが、得点を量産できるかの鍵となる。実際、世界で得点を重ねている選手(レバンドフスキロナウドスアレス、ケイン、アグエロベンゼマ、メッシ等)でメッシを除いた全員がオンザボールからより寧ろオフザボールからの得点が多いのは明らかである。(勿論、世界最高レベルの選手たちなので、オンザボールも一流な選手ばかりであるが、)

 

当然、アグエロもエリア内で相手のマークを外してフィニッシュに持ち込むのが非常に得意だ。

元々オフザボールも得意であったが、どちらかといえば、ドリブルなどの個人技を活かした選手であったのをシティに移籍してきて、グアルディオラの指導のもとで、オフザボールを武器とする選手に成長していったのだ。

 

一方、ジェズスはドリブルを武器とする選手であり、エリア内など狭いスペースでも失わないどころかシュートまで持ち込めるような技術がある。オフザボールはというと、下がってビルドアップの補助をしたり、ライン間でボールを引き出したりするのはアグエロと同等かそれ以上の能力があるものの、DFラインとの駆け引きからの裏抜けや、エリア内で相手のマークを外してフィニッシュに持ち込むのは、まだ未熟の選手である。

 

 

ここで思い出して欲しいのは、シティのフィニッシュの型がクロスであるということだ。

 

f:id:SaTo_yu99:20210123152852j:image 図13
f:id:SaTo_yu99:20210123152856j:image 図14

 

前述したように、アグエロは、相手DFの前に入るために駆け引きからニアへ飛び込むのが絶妙に上手い

いくらPA内を固めていてもここに走り込まれて合わせられたら1人で得点されてしまう。

もし、クロスが入らなくてもアグエロが動けば、DFは釣られる。

すると、ファーにいる選手が空いてくる。[図14参照]

ファーの選手がゴール前に走り込んだら、アグエロは止まってマイナスへの折り返しやこぼれ球に備える。[図13参照]

 

前線に高さがないシティにおいて、このアグエロの動きは、得点に繋がるかどうかの生命線であるのだ。

 

ジェズスは、クロスに対して、ただ待っていることが多く、ニアへの走り込みが殆どない。

高さもないので当然、クロスは彼の前で相手DFに跳ね返されてしまうし、動きがなければ相手DFも釣られることなく、対処できてしまうので、PA内に入った他の選手も活きてこないというのが現状である。

 

更に、拍車をかけるように、シーズン途中にジェズスも怪我で離脱してしまい、WGが主戦場のマフレズやトーレススターリング、ベルナルド、フォーデン等が0トップとして起用せざるを得ない状況となってしまった。

 

※0トップとは、

0トップとは、バルセロナ時代メッシを活かす戦術としてグアルディオラが浸透させたCFが下がってゲームメイクに参加する戦術のことであり、その特性からフォルス9や偽9番とも呼ばれる。

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CFが降りることでマークが混乱し、フリーになりやすいのが特徴だ。

フリーにさせまいとCBが寄せてきたらスペースが生まれ、そこにWGがダイアゴナルに走ることで得点チャンスとなる。

偽9番のCF:タイミング良く降り、ボールを捌ける能力。当然、DFを背負ってのプレーが多くなるので、背負ってもプレーできるフィジカルや背負っても失わないテクニックも必要。

(例-グアルディオラ時代のメッシ、リバプールのフィルミーノ、マドリーのベンゼマ、今シーズンのスパーズのケイン)

偽9番のときのWG:CFが空けたスペースにダイアゴナルに走り込めるオフザボールの技術。IHが二列目から飛び出すパターンもあるが、基本はWGができるのが好ましい。

(例-グアルディオラ時代のペドロ、サンチェス、ビジャ、リバプールのマネ、サラー、マドリー時のロナウド、今シーズンのスパーズのソン)

 

0トップに起用された彼らが偽9番のようなタイプでないことがわかる。(唯一ベルナルドは、タイミング良く降りてボールを上手く捌いたり、背負っても失わないテクニックを兼ね備えているので、彼は適正ではあるが。)

そして、何より彼らは偽9番のWGに不向きである。

全員がオンザボーラーであり、ダイアゴナルに走り込める選手はスターリングくらいしか見当たらない。

 

このように、アグエロの離脱によってクロスからの得点が期待されにくくなり、更には、ジェズスが離脱したことでシティの前線は、最適解とは程遠い役割をこなすこととなってしまった。その結果、圧倒的な破壊力を持った攻撃陣の得点が激減している。

 

 

5つ目のポイントは、圧倒的な攻撃力を特徴とし、大差をつける試合も多かったシティが今シーズンは、非常に現実的で守備的な戦い方をしてるところだ。

 

先制しても2点目、3点目とどんどん取りにいくスタイルのシティであったが、どうもそのような姿勢が見られない。

大量得点のイメージが強いシティであるが、今シーズン2点差以上で勝利した試合は、バーンリー戦とパレス戦のみであり、パレス戦も崩しての得点ではなく、全ての得点がセットプレーからであった。

 

近年のシティの得点数を振り返るとわかるように、

17/18シーズン-総得点106→1試合平均2.8点

18/19シーズン-総得点95→1試合平均2.5点

19/20シーズン-総得点102→1試合平均2.7点

と驚異的な得点力を見せつけてきた。

 

しかし、今シーズンのシティは、

20/21シーズン-前半戦得点36→1試合平均1.8点

と大幅に得点が減少している。

単純に倍にしてもシーズン終了時点で近年の総得点の三分の一も得点が減少していることになる。

(今シーズンのPLの1試合平均得点は過去90年で見ても最多記録であるほどのゴールラッシュのシーズンであるので、ほとんどのクラブは増加している。)

 

また、ボール支配率でみても

17/18シーズン-平均支配率72%

18/19シーズン-平均支配率68%

19/20シーズン-平均支配率67%

と圧倒的なボール支配を見せていたものの、

20/21シーズン-平均支配率63%

と減少している。     

 

https://www.sofascore.com/team/football/manchester-city/17

 

勿論、2つ目のポイントのシルバ退団によるデ ブライネへの依存や3つ目のポイントのアグエロの不在が関係しているのは、確かなのだが、敢えて守備的な戦い方をしているようにも見える。

PLのリバプール戦やユナイテッド戦は、後半途中くらいから勝ち点1取れれば良い、みたい感じにも見受けられたし、前半の割と早いうちに先制点を取りって勝利はしたもののフラム戦やシェフィールドU戦なんかも更に3点目4点目なんかを取りにいくような姿勢にはあまり見えなかった。

 

 

何故なのか?守備戦術を紐解いていくと答えが見えてくる。

 

 

 

守備戦術

 ・プレッシング

 

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シティのサッカーは、何度も述べてきたようにボールを保持して試合を支配する超ポゼッションの元での圧倒的な攻撃力を武器としている。

それゆえ、相手にボールを持たせず、なるべく自分たちがボールを保持できるように、前からハイプレスをかけるのが特徴である。[図19参照]

 

f:id:SaTo_yu99:20210123182857j:image 図20

f:id:SaTo_yu99:20210123184058j:image 図21

 

シティのプレスは、IHのシルバが一列前に出るのと連動してアンカーのフェルナンジーニョもプレスに参加する4-2-4となる陣形を取り、DF陣以外はほぼマンマークのような形で守備を行うのが基本である。

マンマークであるため、誰にプレスに行くのかがはっきりしており、自分のマーカーにボールが渡るとスプリントしてボールを奪いに行き、相手チームに少しでもボールを保持させないようにする。[図20参照]

GKにボールが戻されたときのみ、シルバかアグエロが自分のマークを外して、自分のマーカーのパスコースを切りながらボールを奪いに行く。

 

特に、SBにボールが入ったときを奪いどころとし、一気に陣形を圧縮する形でボールを回収しに行く。この時、逆サイドのWGは自分のマーカーを捨てて内側に絞ることでマークが受け渡され、アンカーのフェルナンジーニョがフィルターとしてボールを回収できるようなポジショニングを取る。[図21参照]

 

このようなハイプレスを剥がすのは、DF陣の足元の技術に相当自信がないと後ろからショートパスで繋ぐビルドアップは困難である。

プレスによる圧力からのボールロストにより、そのまま失点に直結しかねないからだ。

現にシティが、このハイプレスからボールを奪取してそのまま得点を取るというシーンももしばしば見受けられる。

 

また、攻撃時も近い距離でパスを繋いでいる[図6参照]ため、ボールをロストしてもすぐに囲い込み、再びボールを回収しやすいのだ。

 

ボールを保持することで守備をすること自体を減らす、つまり攻撃は最大の防御という言葉を体現しているのが、シティといえる。

 

しかし、このような前からのマンマークのようなハイプレスには当然、弱点もある。

それは、プレスをパスワークで綺麗に剥がされた場合や、綺麗に剥がされなくとも一対一の対人守備で抜かれてしまったり、セカンドボールが回収できなかったりして、マンマークが1人剥がされてしまった場合である。

1枚剥がされてしまうと他の選手がカバーリングに入るので、どんどんマークがずれていき、疑似カウンターのようなって一気にピンチを迎えてしまう。

 

また、シティのDF陣に、広大なスペースがある中で相手がスピードに乗ってドリブルを仕掛けてくるような対人守備を得意としている選手はウォーカーしかいない。(今シーズンは夏に加入したアケもいるものの、怪我に苦しみなかなか出場できていない。)

なぜなら、シティは基本的に自分たちのボール保持を前提おり、ボールを保持することは守備をしないことである、という概念が根幹にあるので、対人守備の強い選手よりも足元の技術に長けており、パスの精度が高い選手を揃えているからだ。

 

 

しかし、前述したように今シーズンのシティは、このような概念を持ちつつも、守備的な意識もあるようなサッカーを行なっている。

 

それは些細であるが、プレッシングから垣間見ることができる。

 

f:id:SaTo_yu99:20210123192508j:image 図22

 

今シーズンのシティのプレスは、CFのジェズスが中盤に下がり、デ ブライネと相手の中盤の選手をマークする4-4-2となる陣形を取り、相手CBとGKに敢えてボールを持たせるようにする。

両WGがボールホルダーに対して、SBのパスコースを切りながら牽制するだけで、積極的にボールを奪いにはいかない。[図22参照]

 

このプレスは、ボールを積極的に奪いに行くプレスとは違い、その分プレスが剥がされやすくなるが、後ろに枚数を残しているため、広大なスペースが空いて一気にピンチとなることは避けることができる。

 

 

つまり、一気にピンチとなる恐れはあるものの、前でのプレスでボールを奪いきり、常に相手の陣内で戦うスタイルから、

ある程度リスクを管理しながらプレスをかけ、その分剥がされても大きなピンチとはならずに済むより現実的なスタイルへと変化していったということだ。

 

 

・ブロック
 

f:id:SaTo_yu99:20210123195200j:image 図23

 

続いて、シティのブロックの形成のあり方についてだが、基本的に、WGは相手SBに付いていくので相手SBが高い位置を取れば、深いところまで戻り、4-1-4-1のようなブロックを形成するか、どちらかのIHが前に出て4-4-2のブロックを形成する。

 

 

また、ブロックとは若干離れるものの、シティらしからぬ3列目に守備的な中盤の選手を2人並べるいわゆるバスを停めるような陣形や、相手の攻撃に合わせたフォーメーション、1人の選手をマンマークするような采配も見られる。

 

フェルナンジーニョとロドリを並べたバスを停める戦術は、レスター戦やユナイテッド戦で采配された。

 

※バスを停めるとは

4バックの前に守備的な3列目な選手を2人置く事で、バイタルエリアとハーフスペースを埋め、ゴール前のスペースを消すことや、カウンターのフィルターとなることを主な目的とした戦術のことである。

ブロックを形成し、リトリートして守るのに適した超守備的な戦術であり、守備戦術のスペシャリストであるモウリーニョが好んで用いている。

 

どちらの試合も余り機能していなかったものの、恐らく、ブロックを固め、カウンターの得意とする2チームに対しての対策であろう。

今までは、このような相手に対して圧倒的な攻撃力で攻め続け、相手に攻撃をさせずに点を取りにいく姿勢であったシティが、行うはずのない戦術である。

 

相手に合わせた戦術は、特にアーセナル戦で采配された。

 

アーセナル戦の戦術とは

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アーセナルの前からくるハイプレスと中盤が2枚と少ない事を逆手に取り、CBをディアスの一枚にする大胆な戦術を取った。

シティの後ろ3枚に対して、アーセナルは前線3枚がサイドを切りながらプレスに行くので噛み合った形となり、シティが不利となっている状況に見える。

しかし、グアルディオラアーセナルの中盤2枚に対してシティは中盤を3枚にし、ベルナルドが自由に降りて行けるようにデザインした。アーセナルは中盤が2枚のため1人がベルナルドに付いていくともう1人が広大なスペースをカバーする状況となってしまうため、安易に付いて行くことはできず、ベルナルドがフリーでボールを受けて、そのまま前に運べる状況を作り出したのだ。

これにより、アーセナルの前線のプレスは完全に無効化された。

また、カンセロが微妙な位置を取ることでアーセナルLWBが付かなければならないこととなり、マフレズが外に張ることで相手のLCBを引き出すことで、アーセナルのDFラインは完全にバラバラとなった。

更にドリブルの得意なマフレズが広大なスペースが前にある中で一対一を仕掛けられる状況を作り出すこともでき、バラバラのラインの裏をアグエロスターリングが狙うことでアーセナルにとっては大変厳しい戦いとなってしまった。

守備時は、そのままカンセロがマンマーク気味に付くことで、アーセナルの攻撃の肝であるLWBのサカを完全に封じることに成功した。

 

今までは圧倒的な攻撃力で自分たちのサッカーを行なっていたグアルディオラがこのように相手チームに合わせた戦術を取るのは非常に珍しく、前述したシティが現実的で守備的な戦い方をしていることにリンクしていると言える。

 

 

シティの要点

ストロングポイント

リスク管理をより整備したことで守備がとても安定している。

また、あまりセットプレーを得意としていないシティであったが、今シーズンはセットプレーからのゴールが全体の得点の3割近くを占める。

昨シーズンのように大量得点での勝利を目指すサッカーよりも、今シーズンの毎試合確実に勝ち点3を獲得するという堅実なサッカーは、今後も続く厳しい日程のことや一発勝負のトーナメントのことを考えるとより効果的と言えるだろう。

 

ウィークポイント

前述したようにシティのDF陣は、対人守備に強い選手が殆どおらず(ウォーカー、アケを除く)、今シーズンも昨シーズン同様にカウンターをベースとし、個人技で打開してくるチームや選手にやられがちである。(今のところ直接失点に絡む場面はなく、実際リーグ最少失点のコンビであるが、ディアスやストーンズらCBは、前述したようにサイドに釣り出された状態での対人守備を得意としてない。)

また、今シーズンから相手にブロックを形成された状態での遅攻も破壊力落ちてる。

ここで更に、アストンヴィラ戦で負傷したデ ブライネがしばらく戦線離脱することとなり、少し厳しい状況になってきている。

 

 

選手

MVP

ケヴィン・デ ブライネ

上記で述べた通り、攻撃時の圧倒的な存在感。

 

印象的な選手

イルカイ・ギュンドアン

上記で述べたように、シティの求めるIHの特性とは少し異なるものの、積極的にボックス付近に顔を出し7ゴールと前半戦のシティで最多得点を挙げている。

今後、課題となっているデ ブライネ依存を軽減できるような左IHの選手となれるのか、それとも現在のようによりゴール付近でボールに絡んでゴールを取れる左IHの選手となるのか、どちらにせよ、ギュンドアンの活躍が今後のシティの鍵となる。

 

注目選手

リアム・デラップ

シティには、珍しく大柄なポストプレイヤータイプのCFで、アグエロやジェズスが負傷したということも相まって今シーズン17歳ながらもトップチームデビューを果たした。

恵まれた体格を活かすのは勿論のこと、その身体の使い方も非常に上手く、前線で孤立していても起点となってボールをキープすることができるだけでなく、降りてきてライン間でボールを引き出す能力にも長けている。

ボールを引き出した後も、時間を作るキープや前を向いてからのドリブルなど豊富な選択肢を持っている。

また、クロスに対して高さで勝負できるので、前線にヘディングを武器とする選手がいないシティに新たな選択肢を作ることができる選手である。

一方、身体能力で勝負できる選手にありがちなクロスに対しての入り方や、ドリブルが得意であるが故の球離れの悪さは、まだまだ未熟であり、シュート精度にも若干ムラがあるので、今後シティで活躍していくためにはこれらの成長が鍵となる。

 

 

今後の展望

 

昨年末新たに、2年契約を延長したものの、恐らくグアルディオラは長期政権を築くような監督ではない。(23年まで続ければ7年でそこそこの長期政権になるが。)

グアルディオラバルセロナ時代とバイエルン時代で確立した戦術を組み合わせた戦術の集大成を築き、自身の圧倒的ポゼッションという信念を変えた今、残された2年で、未だに結果を残せていないCLを全力で取りに行くだろう。

より守備的となったシティが、最も重視しているであろうCL(CLはトーナメントなのでより現実的で守備的な戦い方も必要となる)を取りに行きつつ、リーグ戦と同時並行できるかが鍵となる。

ギュンドアン起用の最適解を見つけ出し、アグエロの穴をどう埋めるかが今後のシティの見どころであり、これらの問題が解決されたとき、攻撃と守備が両立した新たなシティが見られるだろう。

 

 

 

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プレミアリーグ前半戦総括(1-19節) 〜リバプールFC〜

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目次

リバプールの現在状況

 

リーグ当初は、負傷者の続出やCOVID-19の影響などで思うように選手を起用できなかったものの、ギリギリの試合でもディフェンディングチャンピオンらしくしっかりと勝ち点を積み重ね、首位をキープしていたが、前半戦折り返し間際に5試合未勝利で、チャンピオンズリーグ(CL)圏外の5位、首位との勝ち点差は7と少しばかり不安の残るかたちで折り返すこととなった。

ファン ダイクとジョー ゴメスのCBコンビの復帰時期がまだまだ先であることで守備面が気がかりであるが、直近4試合無得点と攻撃面にも懸念が高まっている。

 

 

リバプールの戦術

 

近年のリバプールは、トランジションに重きをおき、運動量をベースとしたインテンシティの高いプレッシングを特徴とするサッカーを行なっている。

 

このサッカーは、リバプールの伝統で長らく受け継がれてきたものでは無く、2015年にユルゲン クロップ監督が就任して以降、彼によって徐々に植え付けられていったものである。

そして、2年後の17-18シーズンにはCL決勝に進出、翌年に優勝、更に翌年にはクラブ30年振りとなるリーグ制覇、と錚々たる歴史を持つリバプールのなかでも史上最強とも呼ばれるチームを作った。

 

そんなリバプールのサッカーが今シーズンから大きく変化している。

 

 

攻撃戦術

・ビルドアップ

 

f:id:SaTo_yu99:20210106162435j:image 図1 

   f:id:SaTo_yu99:20210106162446j:image  図2

 

まず、昨シーズンまでリバプールのビルドアップについてであるが、基本的にCB2枚で行い、両SBがそこまで高い位置を取らずに補助する形で行われていた。[図1参照]

 

しかし、今シーズンのリバプールのビルドアップは、3枚の中盤のうちの1枚(場合によっては2枚)をDFラインまで下ろしてCB2枚と中盤の計3枚(もしくは4枚)で行われている。[図2参照]

 

この些細なビルドアップの変化は、リバプールのサッカー自体を変革した。

 

ここからは、具体的に昨シーズンまでのリバプールのサッカーを掘り下げていく。

 

f:id:SaTo_yu99:20210106170844j:image 図3

 

リバプールは、ビルドアップにショートパスだけで無く、頻繁に両WGや両SBへのロングボールを使う。

彼らは、ロングボールを駆使して一気にチャンスを作ることもあれば、サイドtoサイドでボールを展開して相手の守備のスライドが遅れたところにクサビのパスを差し込んでチャンスを作ることもできる。

これにより、ハイプレスをかけるチームが相手であれ、ブロックを形成して守るチームが相手であれ、ロングボールで展開することで多少なりとも守備陣形にズレを生む事ができる。

なぜなら、ディフェンダーは当然のことながらゴールに近い中央やボールがあるボールサイドへ細心の注意を払い、逆サイド(ウィークサイド)は二の次なるからだ。

 

リバプールは、このロングボールを用いた展開力が圧倒的に優れているチームである。

 

リバプールの最大の武器は、周知の事実の通り、両WGが世界ナンバーワンの破壊力を持つ事であるが、この2人の特筆すべきところはオンザボール(ドリブルでの仕掛け)だけでなく、オフザボールも一流であるところだ。

 

勿論、ディフェンダーはマネやサラーのドリブルを警戒するが、裏へ抜け出すことも得意であり、状況に応じて足元のスペースと裏のスペースを使い分けるため、対処するのは困難だ。

 

大きな展開から足元で受ければ、WGはドリブルでカットインする。

この時、IHはハーフスペースに走り込みやゴール前への飛び出し、SBはオーバーラップや低い位置からのアーリークロスなど各ポジションに応じて多彩なパターンを持つため、これを90分間凌ぎ続けることは容易でない。

 

逆に足元ばかりを気にしすぎると、その爆発的なスプリント力を活かして、相手の最終ラインとの駆け引きからであったり、フィルミーノはよく降りてボールを引き出すのでその空いたスペースへダイアゴナルに走り込んだりと、一気にゴール前へ抜け出して得点に繋げてしまう。[図3参照]

 

 

では、何故このようなビルドアップから攻撃が成り立つのだろうか?また、何故世界王者であるリバプールの戦術を模範として取り入れるチームが殆ど出てこないのか?

 

理由は大きく分けて3つある。

まず、上記のようにWGがオフザボール時、オンザボール時、共に高いレベルでプレー出来ること

次に、そのWGにCBとSBがDF選手とは思えないくらい精度の高いロングボールを蹴る事が出来ること

そして、最初に述べたようにリバプールの代名詞であるトランジションに重きをおき、運動量をベースとしたインテンシティの高いプレッシングを特徴とするサッカーをすること、である。

 

CBが精度の高いロングボールを蹴る事が出来ることについてであるが、CBのファン ダイクとマティプはサイドチェンジのフィードやライン間への縦パス、相手DF裏へのロングボールなど多彩なパスを高精度で送る事ができ、前線にいる選手の動きを見逃さない視野の広さがある。彼らのこの能力は世界でもトップクラスである。

また、2人共に足元の能力も十分に兼ね備えているため、ミスが少なく、プレッシャーをものともせずにパスを繋ぐことができる。

 

怪我がちのマティプの代わりとして度々出場するジョー ゴメスのパス精度はこの2人に比べると劣るとはいえ、デビュー当時からはかなりの成長を見せており、プレミアリーグ(PL)のCBの中でパスの精度は比較的良い方といえるだろう。

 

また、アリソンもGK界屈指の正確なフィードを蹴る事ができるので、相手チームのハイプレスにより出しどころが見当たらない時や奪ってからのロングカウンターの時など繋ぎの部分でも大きな助けとなっている。

 

DFではないが、アンカーのファビーニョも低い位置ではシンプルに捌き、高い位置では鋭い縦パスや相手の背後に落とすボール、正確なフィードを織り交ぜたミドルパスを繰り出すことができる。

 

f:id:SaTo_yu99:20210109162715j:image 図3

 

このような彼らの能力からリバプールは、基本的にCBの2人を中心でビルドアップする事ができるのだ。

勿論、SBやアンカーがビルドアップの補助はするものの、両IHは相手のブロックの中や前にいて、ビルドアップの補助は基本行わない。[図3参照]

 

ここで重要となるのは、0トップのフィルミーノだ。

ビルドアップのパス回しが上手く行っていないときは、彼が中盤まで下がってたり、ライン間に絶妙なポジションを取ったりしてボールを引き出す仕事をする。

CFが降りてくるためマークは当然混乱し、また、彼もオフザボールのポジショニングが抜群なので、フリーでボールを受けれるという仕組みだ。

 

※0トップとは、

0トップとは、バルセロナ時代メッシを活かす戦術としてグアルディオラが浸透させたCFが下がってゲームメイクに参加する戦術のことであり、その特性からフォルス9や偽9番とも呼ばれる。 

CFが降りることでマークが混乱し、フリーになりやすいのが特徴だ。

ライン間でフリーになれれば、パスやドリブルなど出来ることの選択肢は多くなる。

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フリーにさせまいとCBが寄せてきたらスペースが生まれ、そこにWGがダイアゴナルに走ることで得点チャンスとなる。

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偽9番のCF:タイミング良く降り、ボールを捌ける能力。当然、DFを背負ってのプレーが多くなるので、背負ってもプレーできるフィジカルや背負っても失わないテクニックも必要。

偽9番のときのWG:CFが空けたスペースにダイアゴナルに走り込めるオフザボールの技術。(IHが二列目から飛び出すパターンもあるが、基本はWGができるのが好ましい。

 

フィルミーノは、フィジカルとテクニックに優れているので、スペースが狭い中盤でボールを受けてもボールを上手く捌ける。更に、トラップしてターンするのか、ドリブルで持ち運ぶのか、ダイレクトで味方に落とすのか、など瞬時に判断できる状況判断力も優れているので、偽9番に最適な選手だ。

 

このように、フィルミーノのような選手が中盤で動き回って、ボールを自由に引き出し、パス回しを活性化されることを、相手は防がなければならないのだが、かと言って、相手CBが付いていけば、前述したようにマネとサラーが活きてくるので、相手にとってはとても厄介だ。

 

※ 殆どのチームがビルドアップを2枚で行わないのは?

第一に2枚で組み立てるのはそもそも困難であるから、第二にリスキーであるからだ。

1トップ(3トップ)のチームの場合は、相手CFがプレッシャーをかけ、相手両ワイドが中盤を見ながらSBに付いて、相手MFが中のパスコースを消すというのがセオリーであるが、この時、ボールホルダーのCBにある安全なパスコースは相方のCBとGKだけである。

2トップのチームの場合は、2枚のCFが中盤(主にアンカー)を消しながらプレッシャーをかけ、相手両ワイドが中盤を見ながらSBに付いて、相手MFが中のパスコースを消すというのがセオリーであるが、この時、ボールホルダーにある安全なパスコースはGKのみである。

(勿論、守備の仕方はチームによってそれぞれの決まり事があり、各チーム様々なので、これはあくまで例である。)

このように、そもそもビルドアップが成り立たない状況に陥る事が多いため、3枚や4枚で組み立てる事が一般的である。

二つ目のリスキーというのは、ミスがより失点に直結しやすくなるということである。

後ろの枚数が少ないということはその分パスコースが少ないということであり、そんな難しい状況下でのビルドアップであるからミスが起こりやすくなるのは必然である。その状況下でのボールロストは、そのまま一気に失点に繋がるような危険な状況になりかねないということだ。

 

また、SBのロバートソンとアーノルドもクロスは勿論、サイドチェンジのフィードやライン間への縦パス、相手DF裏へのロングボールなど多彩なパスを世界最高レベルで送る事が出来る。

彼らが、ビルドアップの時点からロングボールで前線の選手へという状況はあまり多く無いが、それでもハイプレッシャーによりハメられてしまった時や相手チームが深くまで攻め込んでいてボールを奪った時などには、彼らの1つのキックだけでピンチから瞬く間にチャンスへと変わるシーンを幾度となく見てきた。

彼らは、逆サイドの選手という関係性であるにも関わらず、お互いのことをとても意識しており、頻繁に彼ら間でのサイド to サイドの展開が見られる。

 

 

ここからは、ビルドアップの特徴を探っていこう。

 

ビルドアップにショートパスだけでなく、頻繁にロングボールを使うチームが少ないのは、そもそも高いキック精度のCBがいない事、そして仮にいたとしても失うリスクが高すぎる事が要因だ。

 

当然、リバプールにはCBが精度の高いロングボールを蹴る事が出来るので高いキック精度のCBがいないという点について問題はない。

 

ただ、いくら精度の高いフィードを蹴る事が出来るとはいえ、ショートパスでビルドアップするのに比べたら距離があり、パスも浮き球であるので断然ボールを失うリスクも高くなる。

 

 

しかし、これこそがリバプールの狙いなのだ。

どう言う事なのか?

 

前述したように、リバプールトランジションを最も重視している

 

 

トランジションの重要性

そもそも、攻守の切り替わりの瞬間というのがとても重要であるというスポーツは多いが、サッカーも例外ではなく、最も重要であると言っても過言では無い。

サッカーというスポーツは、ボールを保持している(攻)場面とボールを保持していない(守)場面の2つの局面があり、局面によって選手のやることはまるで違う。

そのため、守備から攻撃へと切り替わる瞬間(いわゆるポジティブトランジション)は、相手チームの意識や身体の矢印の方向は前に向いている事が多く、攻撃から守備へと切り替わる瞬間(いわゆるネガティブトランジション)は、相手チームの意識や身体の矢印の方向は後ろに向いている事が多い。

現代サッカーは、攻撃の戦術にバリエーションが増えていっている一方で、守備の戦術というのがとても進化しており、陣形が整った守備を崩すことが容易でなくなってきたのと共に、選手のアスリート化が進んでプレースピードが上がったため、ポジティブトランジションから早い攻撃により、守備の陣形が整う前にフィニッシュまで完結する事が得点への近道となった。

実際、全得点50%以上がトランジションからの得点というデータもある。

 

これは組み立てる際の根本に、ロングボールが繋がるに越したことはないが、失ったとしてもトランジションの状況になるので別に良いという考えがある。

 

・崩し

 

f:id:SaTo_yu99:20210109162715j:image 図3

 

ボールを失い、相手チームに渡ると、ボールホルダーに対して前線から近くの選手が群がるように激しく連続してプレスに行く。(ゲーゲンプレス・カウンタープレス)

この時、IHのワイナルドュムやヘンダーソン、0トップのフィルミーノのポジショニングは重要だ。

彼らは基本的にビルドアップに関わらずに割と高い位置を取って、いち早くセカンドボールに反応できるようなポジションを取るのと同時に、万が一セカンドボールを回収できなくともネガティブトランジション時、すぐにマネやサラーと連動してプレスに行くことができるポジションを取っているのだ。

 

つまり、ロングボールを蹴ることで自主的にトランジションの局面を作り出し、リバプールの特徴であり長所であるトランジションに重きをおき、運動量をベースとしたインテンシティの高いプレッシングを最大限に活かせるようにしているのだ。

 

また、ボールが繋がれば、IHはすでに高い位置にいるのでチャンスとなる。

相手が前がかりにプレッシングに来ており数的有利な場合は、マネやサラーのスピードのあるドリブルからカウンター気味に攻撃し、チャンスとなる。

 

相手がブロックを作った場合は、クロスを中心とした多彩なパターンからチャンスを作る。

このとき特徴的なのは、中の枚数が多いという事だ。常に3枚或いは4枚クロスに対して準備している。

まず、WGにボールが渡るとIHは内側をインナーラップするように走るのが基本である。

 

f:id:SaTo_yu99:20210116155837j:image 図4

 

IHのランニングによって、ハーフスペースの深い位置を突ければ、クロスなどから得点チャンスとなる。[図4参照]

 

f:id:SaTo_yu99:20210116161426j:image 図5

 

IHのランニングに相手DFが引きつけられたら、サラーやマネお得意のカットインドリブルができ、そこからのパスやシュートで得点チャンスとなる。[図5参照]

 

f:id:SaTo_yu99:20210116161707j:image 図6

 

また、特に右サイド攻撃にありがちであるサラーがボールを後ろのアーノルドに下げれることで、彼からの高精度なアーリークロスによって得点チャンスとなる。[図6参照]

 

リバプールのフィニッシュパターンはこれら以外にもあり、瞬時に使い分けるので防ぐのは簡単では無い。

 

 

他にも、

奪ってからの素早いショートカウンターや、

持ち前の運動量から一気に前に人が出ていく迫力のあるロングカウンター

ロバートソンの深い位置までえぐったオーバーラップからのクロス

セットプレーからなど、たくさんの崩し(得点パターン)を持っており、様々な形から点を取ることができるのがリバプールの強みである。

 

そして、これらが昨シーズンまでのリバプールの攻撃の戦術の全容である。

 

 

 

 

今シーズンからの変化

 

大きく分けて変化した事は3つある。

 

f:id:SaTo_yu99:20210109173754j:image 図1   

 f:id:SaTo_yu99:20210109173801j:image 図2

 

1つ目のポイントは、ビルドアップ時に、中盤の選手が1枚若しくは2枚下がってくるようになり、それに連動してSBの選手が相当高い位置を取るようになったことだ。[図2①参照]

 

今シーズンは怪我人の続出により、ヘンダーソンがアンカーを務め、代わりにミルナーやジョーンズがIHに起用されることがメインとなったが、ミルナーやワイナルドュムとヘンダーソンは昨シーズンのようなポジションを取らずに、CB横に流れてビルドアップを助けるようなったのだ。(勿論、相手や試合の状況に応じてうまくいかないときは中盤が下がってビルドアップを補助する事はあったが、一時的なものであり、このやり方を型として採用しているようではなかった。)

 

また、ジョーンズもサイドに流れてボールを受けることを好むため、MFの選手が中央にいることが減り、ボールが中に入らず外回りになっている時もあり、昨シーズンと比べると明らかに中盤が後ろ重心になっている。[図2①参照]

 

 

2つ目のポイントは、基本のポジショニングがサイドであったWGが最初から中にポジションを取るので2トップのような初期配置になっていることだ。[図2②参照]

 

①で述べたようにMFの選手が降りてくるので、それに連動してSBがWGのような高い位置を取る。それに連動してWGが内側に入るといった流れだ。

確かに昨シーズンも0トップのフィルミーノが中盤まで降りていき、2トップのような陣形になる事はしばしば見受けられたのだが、これは一時的な状況であり、あくまでマネとサラーはWGとしてプレーしていた。(勿論、バイタルエリアペナルティーエリア内ではポジショニングが不規則に変わるし、彼らはヘディングでの得点もできるので中央にいることも多かった。)

 

彼らがより内側でプレーすることで、破壊力抜群のドリブルの仕掛けや相手DFラインへの裏抜けが減少しており、長所を最大限に活かしきれておらず、試合によっては攻撃の単調化に繋がっている。

 

また、アーリークロスが武器であるアーノルドは、少し低い位置にポジションを取ることを好むので、高い位置で幅を取るWGのような役割は彼の長所も最大限に活かしきれていない。(クロップはアーノルドをここまで成長させてきており、彼もまだ22歳であるので、今後高い位置で幅を取る役割もこなせるように育てている可能性も十分にあるが、現段階ではアーノルドの最適解を見出せていない。)

実際、アーノルドは高い位置で幅を取らなければならない状況でも低い位置にポジショニングしていて、降りてきたヘンダーソンがもっと前に行くように指示してるのを何度か見かける場面もあったくらいだ。

 

 

これらのことから、リバプールの特徴である精度の高いロングボールを駆使したビルドアップからショートパスをベースとしたビルドアップへと明らかにに変化していることがわかる。

 

 

それに伴い、フォーメーションにも変化が見られるようになった。

昨シーズンは殆どの試合にリバプールのシステムの象徴である4-3-3を起用していたのだが、今シーズンは度々4-2-3-1の起用も行なっている。

これはチアゴの加入も影響しているだろうが、三列目の人数を増やし、4-3-3よりも後ろ重心にすることで、ボール保持をより活性化させるためとも言える。

 

このようにフォーメーションからもリバプールのポゼッション化が進んでいることが読み取れる。

 

 

3つ目のポイントは、DF陣に怪我人が続出したということだ。特にビルドアップの要であり、昨シーズンフル稼働したファン ダイクがエバートン戦で相手選手との接触により長期離脱を強いられたことは、守備への影響は勿論なこと、攻撃面にも影響を及ぼしている。

また、相方のマティプが怪我がちである事は相変わらずで離脱と復帰を繰り返している。

更に拍車をかけるように、代表のトレーニング中に負傷したジョー ゴメスも今シーズン絶望の可能性すらあり、CBの枚数が不足している事は明白である。

 

このような事態からアンカーのファビーニョを常時CBとして換算し、もう一枚をマティプか、今シーズンまでトップチームで試合経験がなかったウィリアムズとフィリップスもしくは、中盤のヘンダーソン落としての起用をして、なんとかやり繰りしている。[図2③参照]

 

この3つ目のポイントであるDF陣に怪我人が続出したことが、リバプールがビルドアップを変化せざるを得なくなったきっかけであると思う人もいるかもしれない。

なぜなら、私も再三述べているようにリバプールのビルドアップの最大の起点は、CBにあるからだ。

 

これは、多少なりともの原因になるかもしれないが、ビルドアップ変化の根本には別の理由がある。

と言うのも、ファン ダイクやジョー ゴメス、マティプが戦線を離れる前のPL序盤の頃から中盤が降りてきてビルドアップを補助する型を常時のスタイルとして行なっていたのだ。

もっと言えば、私は昨シーズン終盤から多少の変化による違和感を感じていたのだが、それが確信に変わった試合が、20-21シーズン最初の試合のコミュニティシールド決勝のアーセナル戦である。

 

つまり、クロップは20-21シーズンに向けてビルドアップの変化を用意していたのだ。

 

 

 

では何故、今まで上手くいっていたビルドアップを辞め、黄金期を築いたサッカーを変えたのだろうか?

 

これには様々な見解があるかもしれないが、私が思う最大の理由は、COVID-19による試合の中断とそれによって起こった20-21シーズンの超過密日程の影響により、リバプールの特徴のサッカーが困難になったからであると考えている。

 

※ 20-21シーズンの超過密日程とは

再三述べているように、リバプールのサッカーはとにかくインテンシティ高く走り回るため、これらが高いレベルで行える運動量豊富な選手を多く揃えている。

それでもこのサッカーをシーズン通して続けるのは至難の業であるが、19-20シーズンは、前線と中盤に巧みにターンオーバーを挟みながら上手くシーズンを乗り切り、リーグ優勝に至った。

PLは、世界の中で最もフィジカル的なサッカーであるため、その分疲労度も高い。

加えて、リーグカップ(カラバオカップ)の他にFAカップもあり、年末のウィンターブレイクも無いので、他のリーグより、日程的にも身体的にも厳しいはずだ。

このような状況下のため、クロップは日程面に関して、度々、リーグや放送局に苦言を呈していたのだが、COVID-19の影響によりその過密さは更に加速したのだ。

また、そのために少しでも選手への負担が軽減されるようにとヨーロッパの殆どリーグが交代枠5枚制を採用しているが、PLの交代枠は未だに3枚のままであり、これもPLの厳しさを加速させている。

また、リーグ戦の過密日程よりも更に過酷になったのがヨーロッパの大会である。

CLとELのグループステージは、通常、約2週間に1試合の間隔で行われるのだが、今シーズンは半分の約1週間に1試合の間隔になっている。

 

 

これらの超過密日程となった20-21シーズンの環境の中でどう戦っていくのか、チームによって様々な方法があると思うが、一般的に考えると、

ローテーションをより活用して選手の試合数を減らし休ませながらシーズンを戦う、又は、選手の疲労や負傷者が出ることはある程度承知の上で通常通り戦う方法がある。

これらはピッチ外での手段であるが、ピッチ内において試合中に選手たちのインテンシティを低くするという方法もある。

 

クロップはここに目をつけたのだ。

 

つまり、この超過密日程下でリバプールトランジションに重きをおき、運動量をベースとしたインテンシティの高いプレッシングを特徴とするスタイルを貫くのは得策でないと予め考えており、より疲労が少なくなるボール保持を重視としたサッカーに切り替えたのではないかと私は思う。

 

 

他にも、対世界王者相手として引いて守り、カウンターをベースにするチームや完全にブロックを形成し、勝ち点1を取れれば良しとするようなチームが増えてきてボールを持たされる展開が必然的に増えた事や、

そんな中でもセットプレーであったり持ち前の勝負強さから勝ち点1の試合を勝ち点3にしていたものの、CLでアトレティコ・マドリード相手に惨敗したため、今夏のチアゴの補強からも推論されるように引いて守りを固める相手への攻略としてもう一段階進歩が必要になった事

などの色々な理由や事情があるだろうが、

とにかくリバプールの攻撃は、ポゼッションスタイルへと近づいていっている。

 

実際なんと、20/21シーズン19節終了の時点で、平均ボール支配率65%、パス本数と共にリーグトップである。

 

対して、リバプールのカウンターでの得点は、

19/20シーズン-10点                                         

20/21シーズン-3点(大量得点のパレス戦で2点)

と減少している。

 

※チアゴの補強

クロップやエドワーズを中心としたリバプールの補強に携わる上層部は、補強戦略として、基本的には将来有望の若手しか獲得しないということを明言しているが、そんな中、29歳とサッカー選手としてはベテランの域に差し掛かっているチアゴを今夏に獲得した。

しかもチアゴは、インテンシティの高さを求めるリバプールの中盤像とは、かけ離れている選手である。

何故、そんな選手をリバプールは補強したのか。

前述したように、それは恐らく、世界王者であるリバプールに対してアトレティコ・Mのようにブロックを固めて守るチームが今後どんどん増加していくと推測されたからだろう。

つまり、今後はリバプールがボールを長く保持する展開の試合が増え、トランジションの早さを活かす状況が減ってくるということだ。

勿論、だからといって、リバプールらしいトランジションの早さやインテンシティの高さがいらなくなるということは全く無いのだが、そういう選手とは別にリトリートする相手を崩すピースとして、長短のパス、特にライン間に差し込む鋭いくさびのパスや相手の裏を描くスルーパスに抜群に優れているいわばテクニック系の選手であるチアゴを補強したのだ。

テクニック系といっても昨シーズンの世界王者のバイエルンでプレーしていただけあり、スペースを埋める守りやカバーリング、読みの効いたインターセプトなどポジショニングの良さや頭脳を使ったプレーが得意で、守備面でも貢献できる選手である。

 

 

勿論、中盤が降りてきて最終ラインのビルドアップを補助することによって相手の陣形が崩れたり、縦へのパスが入りやすくなったりと良くなる事も多々あるのだが、

選手配置の最適解を導けていないまま、相手や試合に応じて使い分けることができていないのが、リバプールの攻撃の停滞であり、リバプールらしさが失われている要因である。

 

 

 

 

守備戦術

 

リバプールは、トランジションに重きをおき、運動量をベースとしたインテンシティの高いプレッシングを行うサッカーと、攻撃戦術で幾度となく述べてきたが、これは守備の戦術であり、激しく攻守が入れ替わるので、攻守の戦術は表裏一体なのである。

 

攻撃の戦術に関しては今シーズンからの変化が見られたが、守備の戦術に関しては昨シーズンとの変わりは殆どない。

 

では、まずリバプールのプレッシングについて掘り下げていく。

 

・プレッシング

 

f:id:SaTo_yu99:20210113010741j:image 図7

 

リバプールの守備は、攻撃戦術でも述べたようにボールホルダーに対して前線から近くの選手が群がるように激しく連続してプレスに行く。(ゲーゲンプレス・カウンタープレス)

そのため、選手の間の距離が近く、ボールサイドやボール近辺に選手が密集しているのが特徴的である。

そして、縦パスが入ったり、サイドに追い込んだりした時に、畳み掛けてプレッシングに行く。

このとき、MFやSBが出て行ってボールを奪いに行くのと同時にFWがプレスバックして囲い込んでボール奪取するのだ。[図7参照]

特にフィルミーノやマネは、ボールホルダーに対して追いかけて牽制をするいわゆるアリバイ守備ではなく、しっかりとボール奪取をできる選手である。

 

ここからは具体的にリバプールのプレッシングの原則について説明する。

 

 f:id:SaTo_yu99:20210113011323j:image 図8  (アンカーのパターン)

 f:id:SaTo_yu99:20210113171426j:image 図9  (DMF2枚のパターン)

    f:id:SaTo_yu99:20210113011331j:image  図10 (ダウンスリーのパターン)

 

リバプールのプレスにおいて一番鍵となるのはFW陣である。

 

FWには、第一防波堤として、相手に自由にボールを蹴らせないようコースを限定しながらのプレスと中盤と連動して後ろから挟み込むプレスバックが求められる。

まず鉄則として、ビルドアップの時は、相手CBやGKにボールを持たさせる。WGのマネとサラーは相手SBのコースを切りながらボールホルダーにプレスに行き、STのフィルミーノが相手MFを見ながら相手CBに圧力をかける。[図8、9、10④参照]

 

MFには、積極的プレッシングに行ったり、セカンドボールを回収したりとピッチを縦横無尽に走り回れる高い運動量と、球際やコンタクトで負けないずにボール奪取できる高いインテンシティが求められる。

IHは、相手の中盤の選手のかなり近い位置にポジショニングし、彼らにボールが入ったら、前を向かせないのを前提にしてインテンシティ高くボール奪取に行く。状況によってFW陣がプレスに行くことが間に合わないときは、IHのどちらかが出ていって積極的にプレスを行う。

また、アンカーは、サイドにボールが入った時も中央でどっしりと構えているというよりも、ボールサイドに流れていってボールを回収する。(ボールサイドのIHとアンカーがサイドに流れてボールホルダー近辺を囲い、逆のIHが中央のスペースをカバーする。) [図8、9、10⑤参照]

 

DFには、相手がハイプレスに押されてロングボールを蹴ったときに跳ね返すことができる高さ、ハイラインの裏をカバーできる速さ、そして少ない人数でも守りきれる対人の強さとDFに必要な能力の全てが求められる。

リバプールは、FWがかなり高い位置からハイプレスをかけるため、それに連動して基本的に最終ラインはとても高く、状況に応じて、SBが高い位置まで出て行ってプレスをかける。

このとき、GKのアリソンがかなり前まで出てきていて裏へのボールをケアする。[図8、9、10⑥参照]

 

※相手に応じた細かいプレスの違い

相手がアンカー起用の場合は、STのフィルミーノが相手アンカーを消しながら、相手CBに圧力をかける。当然、両WGはサイドのコースを消しながらプレスをハメに行き、IHが相手IHを牽制しながら連動する。[図8④参照]

相手がセンターに2枚のDMF起用の場合は、フィルミーノが両方を見ながらも、相手CBに圧力をかけると同時に、IHの片方もしくは両方がかなり高い位置で相手DMFを牽制している。当然、両WGはサイドのコースを消しながらプレスをハメに行く。

[図9④参照]

相手が中盤を最終ラインに落としてビルドアップ補助する場合や元々5バックの場合は、3トップが各々対峙する相手を見ながらプレスに行く。中盤とボールサイドのSBは、相手中盤と高い位置を取ったSBを牽制する。この時も両WGはサイドのコースを消しながらプレスをハメに行く。[図10④参照]

 

 

・ブロック

 

そもそも、リバプールは前からのプレッシングの守備がメインであり、そこで奪いきれることが多く、奪いきれないとカウンターを喰らうので、あまり押し込まれた状態が長く続く展開にはならないというのが前提にあるが、

押し込まれたときのブロックは、基本4-3-3の形を維持したままの型であるが、WGがあまり深い位置まで戻らないので、運動量の高い中盤の3枚がスライドして守備を行う。

また、時折試合の状況によって4-4-2のブロックを組むシーンも見られる。

 

 

前述したように、守備において昨シーズンとの比較で大きく変化した点はないが、ファビーニョがCBに下がったことによる弊害は少なからずある。

 

 

彼が下がったこともあり、中盤の代わりに起用される選手はリバプールらしさを兼ね備えたミルナーチェンバレンだけでなく、ジョーンズやチアゴ、南野なんかも使われることも増えた。

後者は、攻撃時にアクセントとなりリズムを作り出すことができる選手であり、一言ではとても言い表すことはできないのだが、いわゆるテクニック系の選手である。

勿論、彼らは、いわゆるテクニック系と言われる選手にありがちなハードワークができないというのは全く無いどころか寧ろ良くハードワークできるのだが、昨シーズンまでの中盤と比べるとやはりここぞといったところでのボール奪取力や球際のインテンシティには今ひとつ欠けてしまうところは否めない。

 

また、かなりハイラインのリバプールは、ファン ダイクやジョー ゴメスのようにスピードのあるCBが不可欠であった。

しかし、彼らが離脱に追いやられたため、スピードのあるCBがいなくなり、ハイラインの裏を簡単に狙われるというシーンはかなり増えている。

 

 

今シーズンのリバプールの要点

ストロングポイント

前述したように、中盤が下がってのビルドアップ補助がリバプールらしい攻撃に繋がっていなかったのだが、レスター戦やウルブズ戦、スパーズ戦、ユナイテッド戦などでは、特に、両WGが内側と外側にポジションを取り分け、ダイナミックな展開や素早いカウンターが見受けられることも多くあったので、勿論、完全に彼らのスタイルが変化したわけではなく、隙があればこのような攻撃を狙っている。

特に、相手の前がかりの攻撃やハイプレスでリバプールの前線にスペースがあると、彼らの得意なゴールのかたちを存分に発揮することができる。

 

ウィークポイント

引いてブロックを固め、勝ち点1でも良しとするウェストハム戦やシェフィールド戦のようなギリギリの試合や、決定機の数的に負けていてもおかしくなかったスパーズ戦なども、結局ゴールを決め、勝ち点をもぎ取る勝負強さがリバプールらしさであり、王者の風格であったのだが、シーズンが進むにつれてブライトン戦やフラム戦、WBA戦、ニューカッスル戦などのそのような試合に勝ちきれなくなってきている。

また、アーノルドの対人の弱さと、ジョー ゴメスのポジショニングの悪さにより、リバプールの右サイドの守備は大きな弱点となっており、不運もあったものの7失点と大敗を喫したアストンヴィラ戦なんかは徹底的に右サイドを狙われていた。

さらに、守備陣に負傷者が続出したことで、ラインコントロールのミスでDFラインの裏を簡単に突かれるシーンやCBが出ていってのカバーリングなど広大なスペースを網羅する守備が疎かになっている。

 

 

リバプールの選手

MVP

ジョーダン・ヘンダーソン

キャプテンシーの高さは言わずもがな、負傷者の関係でDMFやCBなど不慣れなポジションも本職かのようにこなしている。また、持ち前の展開力と足元の技術を活かし、中盤の選手がいたずらに下がってくる頻度を減らしている。

 

印象的な選手

ディオゴ・ジョタ

ジョタの主な武器は、プレスやプレスバックなど守備面でのハードワーク、バランス感覚に優れたスピードのあるドリブル、自分だけでなく味方も活かせるオフザボール、であり、WGとCFどちらもこなさことができる。

彼のこのような武器は、特殊な能力が求められるリバプールの前線の特徴と一致しており、リバプールが獲得に乗り出したのは当然だろう。

とはいえ、世界最高の3トップに変わってというよりかは、バックアッパーとしてターンオーバーなどでの活躍が期待されていた。

しかし、4-2-3-1を採用したり、リバプールの事情により、意外にも試合に出る機会は多く、負傷離脱するまでの公式戦19試合で17試合に出場している。

更に、印象的なのは何と言っても、12月に離脱をしたにも関わらず、リバプールでサラーに次いで9得点挙げており、貴重な決勝点もいくつも取っている。

得点面よりも他のジョタの長所を期待しての獲得であっただけに得点面での大きな貢献は、上々の出来と言えるだろう。

 

注目選手

リース・ウィリアムズ

長身を活かしたヘディングを武器とするユース上がりの選手で、今シーズンDF陣に怪我人が続出したことで出番が回ってきた。

中盤の選手のファビーニョヘンダーソンよりCBとしての序列は低いものの、19歳ながらCLやスパーズ戦、FAカップのユナイテッド戦で起用されているいるので、ある程度はクロップの信頼を得ており、今後彼の元で大きく成長していく可能性を十分に秘めていると言えるだろう。

ユース時代は、正確なロングフィードや鋭いくさびのパスなどリバプールのCBらしい精度の高いパス能力が光っていたものの、トップチームでは遠慮からか近くのCBや降りてきた中盤の選手にすぐパスをつけるシーンが目立つ。

また、ゴールに背を向けてボールが受ける時など相手FWにスペースや余裕がないときは、インターセプトやタックルなど相手の前で跳ね返せる能力が高い。

しかし、サイドに釣り出されたり、DFラインの裏に走られたりして、相手にスペースなどの余裕がある状態での対人守備やハイラインのラインコントロールはあまり得意ではない印象だ。

19歳とまだ若いので、今後身体が出来上がっていったとき、リバプールのCBとして重要である少人数でも守れる能力を兼ね備えられるかがリバプールでやっていく上での鍵となる。

 

 

今後の展望

 

リバプールが、リトリートしてブロックを作り守る相手に非常に苦労してことから、今後はより一層、そのような戦い方を選ぶチームが増えてくる中で、CL決勝トーナメントも始まり、益々悪戦苦闘する試合が多くなるだろう。

とはいえ、今シーズンのPLは、いつもにも増して激戦であり、どのチームも実力が拮抗しているので勝ち点90点台での優勝争いにはならないはずだ。

勿論、優勝争いには参戦していくだろうし、少なくともトップ4には入っていくだろう。

クロップがシーズン途中で大幅に戦術を変更するとは思えないので、今後細かな修正をどうしていくかが見どころとなる。

 

 

 

 

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マンチェスターユナイテッド vs クリスタルパレス PL 第1節  〜試合の考察とユナイテッドの課題〜

まず試合の第一の印象としては、ユナイテッドのコンディションがあまりに上がっていないである。

チームとしてパスの連携や守備の連動が上手くいっておらず、トランジションもかなり緩かった。

特にポグバやリンデロフは、万全な状態とは程遠いように感じた。

これに関してはチームでの練習期間が例年に比べて圧倒的に短いままシーズンが開幕したのと、それと同時にオフが短かったことで昨シーズンの過密日程による疲労が完全に回復していないことが少なからず影響しているはずだ。

スールシャール監督もコンディションが整い、チームとして上手くいくようになるまで1ヶ月程かかるという趣旨の発言をしている。

 

 

ただ一方で、私はパレスが良かったようにも感じた。走力、集中力が最後まで続く守備的な4-4-2、これがパレスに落とし込まれてて驚いた。
このフォーメーションの特徴は、FW、MF、DFがスリーラインで揃ってて且つコンパクトにして、サイドをスライドでカバーする戦術である。
去年もパレスと言えば守備的というイメージは変わらないと思うが、ミリボイエビッチをアンカーに置き、ザハが左サイドの4-1-4-1がベースだった。アンカーが増えて守備の人数かけられるからそっちの方が引いて守るには良いと思うかもしれない。

しかし1トップであるとCBへのプレスが難しく、コースカットだけになってしまうことが多い。両ウイングが連動して出て行くと中盤足りなくなってスライド間に合わない時が来る。

だから1トップである程度引くチームだとCBからどんどんボランチorアンカーにパス入るようになって結果的に崩されるパターンが多い。
ユナイテッドはブルーノフェルナンデス加入後この相手には勝てるようになってきていた。


しかし、今回のパレスはFW2枚が牽制程度でプレスに来なくてダブルボランチのパスコースをカットする、サイドハーフも絞って中固めてサイドにボールが出たら全員でスライドが徹底されてたんでブロックの外をずっとボールが回っている場面が非常に多かった。[図1、図2①参照]

f:id:SaTo_yu99:20201016155559j:image 図1   f:id:SaTo_yu99:20201016155616j:image 図2

中堅クラスのチームの場合これが上手く行っても0-0、若しくはどっかで失点して0-1とかのパターンになる事も多い。
実際、昨シーズンまで4-1-4-1でザハがサイドにいたので、前線1枚のアイェウにボールが渡っても直ぐ回収されてしまい、結果的にまた失うという繰り返しでパレスは中々点が取れてなかった。

 

だが、今シーズンはアイェウとザハが前に2枚残っていて、彼らはサイドに流れて仕掛ける事もでき、後ろからシュラップorエゼとタウンゼントが来るってこと考えると選手の特徴を活かしたパレスに合った合理的な戦い方であると感じた。

これらをホジソンが意図して行なっているのかどうかはわからないが、個人的には極めていけばアトレティコのようなチームになり得るのでは無いかと思う。

 

また、ラッシュフォードとショーの位置関係も良いものではなかった。

彼らの位置関係の問題はこの試合に限ったことではない。ビルドアップの時や押し込んだ状態でも尚、ラッシュフォードとショーが縦に2人並んでしまっているのだ。これはユナイテッドの試合を観ていれば、度々ある事だ。引いてブロックを固める相手にこの状況ではラッシュフォードにボールが渡った時、相手SBと戻ってくるSHと2対1の状況になってしまう。

そのためラッシュフォードの独力突破に頼る事になってしまってるというのが現状だ。

無論、彼のドリブル突破は魅力的であり、名だたるディフェンダーを何度も無力化にしてきたが、2人相手にそう何回も抜ききることは容易ではない。しかも今回の相手は引いてブロックを作り守っているため、なかなか相手選手が飛び込んでくることも無く、ブロックの内側のスペースは狭いため、この条件下で1試合に何度も突破することはかなり難しい。

その時、ショーは後ろにいるだけなので相手にとっては何の脅威にもなっておらず、結局ラッシュフォードも後ろに下げるしか出来ないので、ボールを支配していても相手を脅かす状況が作れなかったのだ。

[図2②参照]

 

しかし、逆サイドはさらに酷い状態だった。フォスメンサーの1stチョイスについてはワンビサカがコロナ関係でコンディション含めて厳しかったから仕方ないだろう。だから、右WGにダニエルジェームズを起用した。

普段先発のグリーンウッドは基本的に中央でのボールを受けたりプレーする事が多く、その方が彼の得意なシュートも活きてくる。また時折、逆サイドまで流れてプレーすることもある。だから右SBは高い位置を取らなくてはならない。そもそもこの役割をワンビサカにやらせて良いのかという問題はあるが、フォスメンサーであると更に難しいとスールシャールは考えたから、サイドに張って仕掛けられるジェームズを起用したのだろう。

だが、この起用は全く機能しなかった。ジェームズのドリブルは、サイドに張った状態から自身の前に広大なスペースがあってこそ並外れたスピードを活かせるのでとても脅威になるのであり、引いて守るスペースが無い相手には彼の特徴は出しにくい。[図2③参照]

勿論、左サイドと同様にWGとSBが縦関係になる事で崩せないという状況もできていた。

流石にスールシャールもハーフタイムでジェームズを下げたが、パレスがブロックを作り引いて守る相手であるということは対戦前から予想できたはずだ。

このような所がスールシャールが準備力、相手に対する戦術が無く、選手任せと言われてしまう要因であり、相手によってやり方を変える事ができずに勝ち点を落としてしまう試合が多い原因である。

 

 

ではどうすれば良かったのか?個人的な考察ではあるが、説明していこうと思う。

フォーメーションや根底の戦術、選手の意識やポジショニングをこの試合だけで変えることは現実からかけ離れるので、今回の考察は昨シーズンを踏まえつつ考えるとする。よって並びはいつも通りの4-2-3-1だ。

 

メンバーからいくと、私はリンデロフでは無く、スピードがあるバイリーを起用する。ザハ、アイェウ、エゼ等のスピードに付いていけるというのが主な理由だが、ユナイテッドのCBであるリンデロフ、マグワイア彼ら両方ともスピードに欠けるため、バックラインが上がりきらなかったり、1人前に出て行った後のカバーだったり、サイドにつり出されてスピード勝負になった時だったり、とどうしてもスピード要素が必要になってくるので、基本的に1stチョイスはバイリー、マグワイアのコンビが良いと思う。

特に今回の試合はパレスの前線にヘディングの得意な選手がいるわけでは無いため、バイリーのCBにしては空中戦がそこまで強くないという弱点や、前からハイプレスで来るわけでもないので足元の技術がそこまで高くないという弱点も出にくかったはずだ。

 

次に右SBであるが、ワンビサカを起用できないと考えると、ダロト又はブランドンウィリアムズを起用する。

確かにフォスメンサーは身体能力に優れていて守備の強度が高い良い選手ではあるが、今回のように相手が引いて守ってくる事が予想される試合で、高い位置を取り、相手を交わして精度の高いクロスを上げたり、その状況やWGのポゼッションに合わせてオーバーラップとインナーラップを使い分けたりと攻撃で違いを見せれる選手ではない事は明らかである。

そのため、攻撃的なSBを選択した。クロス精度の高いダロトと、内外走り分けられるウィリアムズと特徴は2人で異なるので、どちらを使うかは迷いどころだ。彼らのコンディションにもよるが、ブロックを作って中を固める相手に対して、ユナイテッドの攻撃陣はヘディングがとても強い選手がいないということを考慮すると、ウィリアムズを起用するだろう。

 

これに連動して右WGは基本のグリーンウッドに戻して使う。

 

ダブルボランチに関して、マクトミネイでも非常に良いのだが、この試合はある程度両SBが攻撃参加し高い位置を取ることが想定されるので、よりバランスを取れてカウンターの芽をつぐむことができるマティッチを先発で起用する。

他のところは特にいじらずにいつも通りのスカッドで挑むだろう。

 

f:id:SaTo_yu99:20201014182200j:image 図3    f:id:SaTo_yu99:20201016155616j:image 図2

 

このように引いてブロックを作り守る相手にはライン間でのクサビとサイドチェンジ等での揺さぶりが効果的である。

ハーフタイム、前半の内容を踏まえると、私ならやり方を変えるだろう。(0-1でリードされてることも踏まえて)

 

選手は交代させないまま、攻撃時可変3-4-3になるような形を取らせる。[図3参照]

 

まず、課題であったダブルボランチ2枚が2トップに抑えられているという点であるが[図2①参照]、これはマティッチにアンカーのポジションを取らせて、2トップの間で受けれるような形にする。

このようにすると、2トップのプレッシングが前半と同様であれば、マティッチが間で受けてボールを持ち運んだり、展開したりすることができる。

マティッチを見るために両FWが絞ったら、ラッシュフォードやグリーンウッドがライン間でボールを受ける事ができるし、相手FWの1枚がマティッチに付いたらバイリーやマグワイアが持ち運ぶことができる。

また、中を固めスライドで守備をする相手にはロングボールで展開して揺さぶり、それを繰り返すことでスライドのズレを作ることが効果的であるが、ユナイテッドのCBに正確なフィードを蹴ることができる選手はいない。

そのためにポグバをディフェンスラインに落としてビルドアップに参加させる。彼は世界トップクラスのロングキック精度を持ちあわせており、大外に張らせたSBのショーやウィリアムズの足元にボールを送ることは難しくないはずだ。更には、ラッシュフォードやグリーンウッドの裏を一気に狙っても面白いかもしれない。

以上により、ダブルボランチの1枚をアンカーに、1枚をバックラインにすることは、一石二鳥なのだ。これは状況によって、マティッチとポグバが逆になっても言えることだろう。

 

この時、ブルーノをフリーマン化させて自由な所に顔を出させることで、より良いアクセントとなるはずだ。なぜなら、彼は頭が良く、その時その瞬間の最適なポジションを取ることにとても優れているからだ。

図3で、彼は中盤にいるが、サイドで張ったり、ライン間でボールを受けたり、降りてきてビルドアップに参加したりと状況や相手によって様々な場所や局面でチームを助けることができる。

 

次に、両サイドのWGとSBの位置関係についてであるが[図2②、③参照]、これは両SBに高い位置を取らせて、WGが中に入ってシャドーのような形にする。

このようにすると、ライン間でボールを受ける選手がいて、相手の守る4-4のブロックの中にボールを送り込むことができるようになる。

こうして、SBが幅を取ることで、ラッシュフォードやグリーンウッドはよりゴールの近くでドリブルが仕掛けられるようになり、彼らの良さをより活かせるようになるのだ。たとえ前を向けなくともブルーノやポグバにボールを落とすことで次に繋がる展開を作ることができるようになる。

サイドにボールが入ったときもSB、WGとブルーノ又はポグバでトライアングルを作り、ボールを動かせば、彼らの類い希なるアイデアとそれに伴う技術で、面白く意外性のある崩しを見ることができる。

また、状況によって、WGが幅をとっていてそこにボールが出た時には、ショーやウィリアムズが内側を取り、インナーラップをしなければならない。これによりラッシュフォードやグリーンウッドのカットインをより活きるようになるだろう。

 

ただ、実際問題として、ラッシュフォードのオフザボールがあまり上手くないという難点がある。

普段のWGの時でさえ、味方と被ってしまいスペースを消してしまったり、ボールを引き出せなかったり、たとえ引き出せたとしても相手の視野の中や後ろを向いた状態が多くて良い体勢でボールを受けることができなかったりと、ポジショニングが的確でないことが度々ある。

CFを任されている時には、ポジショニングが悪く、ボールに触らないため試合から消えてしまっていることもあった。

確かに、彼はまだ若く、ポテンシャルや才能は間違いないので、この部分はこれから改善されると信じているが、今この試合においていうと、普段よりもオフザボールのポジショニングが重要になってくるシャドーで使うのは厳しいのかもしれない。試合の経過を見てだが、ラッシュフォードがあまり機能しなかった場合、私は直ぐに交代枠を使う。

彼の場所に今夏加わったファン・デ・ベークを投入するだろう。ファン・デ・ベークのシャドーのイメージはあまり無いかもしれないが、アヤックスの時の彼は、トップ下で自由に動き、ライン間にボールを引き出す動きが上手だったので、これらをユナイテッドでも見せてくれるだろうと期待しての起用ようである。

更には、ブルーノと状況に応じてポジションを入れ替える事で、彼の最大の特徴である後ろからゴール前への飛び出しも活かすことができるはずだ。

オフザボールが良く、ライン間でボールを引き出すということに関していうとユナイテッドにはもう1人得意な選手がいる。

ファン・マタだ。彼は、よく右サイドで使われているが、サイドに張らずに自由に動きながら中でのプレーを得意としているため、途中でグリーンウッドと交代させることで流れを変えてくれるかもしれない。

 

以上が試合を見ている中で感じた個人的な考察である。

私は、決してスールシャール監督解任派ではないが、開幕戦からあまりにも戦術的な準備や修正が見えなかったため、1サポーターとして不安である。

前述したように、確かに選手のコンディションが上がっていないという実態はあった。今後、選手のコンディションが上がっていったとき、ユナイテッドがどのように昨シーズン終盤の勢いを取り戻し、新たに新加入選手を加えて、どこのように優勝争いをしていくのか、不安と期待に胸を膨らませながら見ていきたい。



2020  9/24